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果物試食会

 その日の放課後――、

 和室にある掘りごたつの上にドンと置かれた大皿に盛られていたのは大量のフルーツだった。


 さて、このフルーツが何なのかと言えばカイロス領の近隣にある魔の森でとれた果物だ。

 今日はその試食会。

 この試食会で特産になりそうだと判断された果物があれば、その木をガルダシアに移植して増やそうという計画だ。


「リンゴとキウイは普通だな。

 ちょっち種が多い感じだけど」


「このバナナ――、

 いや、アケビは色がかなり独特だね」


「で、こっちのグレープフルーツっぽいやつには中身がまったく違うのが混ざってるみたいね」


 ほとんどは地球の果実とあまり変わらないのだが、中には似ているけどまったく別物という果物が合ったりして、そんな見た目の品評がありながらも試食開始。

 ちなみに、今回はマリィさんの地域で普通に出回っている果物だということで、毒見は不要とみんなそれぞれ好きな果物に手を伸ばす。


「見たことあるヤツはほとんどそのままの味だな」


「むしろ、ものによっては美味しいまでもあるんじゃない」


 リンゴは酸味が強いけど、グレープフルーツみたいな果実は苦味が少なくて、個人的にはこっちの方が好みである。


「ただ、それはあくまで魔の森で取れたものになりますので、ガルダシアの土地で育てた時に味が落ちると考えた方がいいと思いますの」


「そういやそういう設定があったんだっけ」


「いや、あんた設定って……」


 これらフルーツはあくまで魔素が濃い森の中で見つかる特別なフルーツだ。

 一般的な土地で育てた場合は、味が落ちるという問題があって、

 そのような事情から、マリィさんが暮らす世界ではあまり果物が育てられていないという。


「ふ~ん。

 ま、それはそれとして、次はこの青いちっちゃいきゅうりみてーなのを試してみっか。

 これってそのまま食ってもいいん?」


「プチトマトのように食べていただければよろしいかと」


「じゃ、わたしはこっちの剥くのに失敗したはっさくみたいなのを食べてみる」


 たまに見かける実が細長いブドウのようなフルーツを食べようとする元春の一方、玲さんが手に取ったのは切り口が芋のようになっている柑橘類。

 ちなみに、そのお味の方は――、


「さっぱりとしたバナナ?

 いや、焼き芋とかに近いのかな」


「……ねっとり冷えてる」


「このきゅうりみたいなのはなんてーの、駄菓子屋で売ってる棒ゼリーを皮ごと食うみたいな感じだな」


 玲さんと魔王様が食べた柑橘類がバナナというか芋のような食感で、元春が食べた長細いブドウみたいな果実はかなり独特の味をしているようだ。


「そういや、これって全部木になってるの?」


「ですわね」


 野菜とか蔓性の植物なら、割りと簡単に移植できるが、こちらはそれなりに大きな木に生っている果物みたいだ。


「じゃあ、このきゅうりみてーなのはどうやって木に生ってるん?」


「みかんの房がありますわよね。あのようなものが木からぶら下がっているそうですの」


 それはまたなんとも不思議な生態だと、大皿に乗ったフルーツを一通り味見したところで、


「では、そろそろ最後にもう一つ、を用意しますね」


「なんだよ。メインディッシュ的なもんがあんのか?」


「いや、これ先に盛り付けちゃうと溶けちゃうかもしれなかったから後回しにしてたんだ」


 そう言い残し、キッチンへ引っ込んだ僕が持ってきたのはソフトボールのようなクリーム色の果物だ。

 その実を大きなスプーンで掬い取り、小さな皿に取り分けていると、その様子をじっと見ていた元春が、


「なあ、それっておっぱいアイスじゃ――」


「ちゃんと木になってたフルーツだよ」


 形からして元春が食いつくかとは思っていたけど、

 実はこれ、前にマリィさんが言っていた、魔鏡から行ける雪で埋もれた世界で発見された氷菓の実という果物で、その味や食感はバベルの翻訳そのままのものなのだ。

 いや、この実が植物であることを考えると氷菓を名乗っていいのかという疑問は残るのだが、そんな細かい分類はどうでもよく。


「種がありますので気をつけてください」


 一応、目立つ種は中身を掬い取る時に気をつけていたのだが、全部の種を避けることは難しかっただろうと注意を入れる。

 ベル君のスキャンによると、もしも種を食べても特段健康には問題がないようだけど、気付かずにガリッと噛んでしまうとあまり気分がよくないからね。

 そうして、みんなに取り分けたところで、いざ実食。


「バニラっていうよりもキャラメルっぽい味?」


「ダッツ超えたかもしれん」


 元春もそう断言できる程、そのアイスを食べているところを見たことがないんだけど、確かにこの氷菓の実は高級アイスクリームを思わせる味だ。


「もう、これでいいんじゃね」


「味で判断するならそうですわね。

 しかし、木を育てる方法と果実の保管に難がありますの」


 実は――というよりも、先に触れたように――この氷果はアイスのような見た目の通り、常温のままほうっておくと薄皮の中身である果肉の部分がドロドロに溶けてしまうのだ。

 加えて、元となる氷菓の木が育っていた場所の周辺環境の問題もあって、普通の土地で育ててもこの味が出せるかはわからないとなると、いくら美味しいと言ってもこれをメインに育てる訳にもいかず。


「とりあえず、こちらは種を回収して、農園で何度か実験をしてみますか」


「お願いしますの」


 氷菓の実は、まず世界樹農園に環境を整備して育ててみて、育成状況などを把握した後、マリィさんのところでも育ててみようということになって、ここで種を見つけた玲さんが言うのは――、


「なんかこの種、コーヒー豆みたいじゃない」


「おっ、じゃあ、この実ってばアイスだけじゃなくてコーヒーまで作れんのか」


 成程、そういうことになると、この氷菓の実の評価も変わってくるか。

 しかし、形はコーヒー豆にそっくりな形をしているけど、これを焙煎したところで、そのままコーヒーになるのかはわからない。


「後で試してみましょうか」


 とりあえず、種自体はそれなりの量があるので、いろいろと実験してみるのもいいだろう――と避けた種を確保して、改めて食べた果物の総評に移る。


「リンゴとこのバナナっぽいので試してみたらいいんじゃない。リンゴは別の種類で実績があるみたいだし、失敗はないでしょ」


「とはいえ、他でも売りに出しているとなりますと」


「面倒事になるってか」


 マリィさんが言うには、こうした果物を作っているのは一部の貴族だという。

 そこにはもしかすると既得権益のようなものがあるのかもしれない。


「だったら、こっちのブドウみたいなヤツとかはどうなん?」


「輸送がしっかりできれば問題ないとは思いますの」


 たしかに、このブドウみたいな謎の果物は皮が薄くて運ぶのが大変そうだ。


「う~ん、運び方っすか……、

 そうだ。これってレーズンみたいにできねーの?」


 今回は生の果物にこだわったけど、元春の言うようにドライフルーツに加工するのも悪くはない。

 ということで元春のリクエストに応え、棒ゼリーのような味がするというブドウのような果物を錬金釜に入れ、乾燥してみるのだが、実際に出来上がったものを見て元春が言ったのは以下のような感想だった。


「なんていうかコレ、夏に運動公園の方に行ったりするとアスファルトのところで干からびてる――」


「やめて」


 この共感は根っからの都会暮らしの玲さんには伝わらないと思ったのだが、意外にも通じたみたいだ。

 そして、一度そう意識してしまえばもうそれにしか見えなくなってしまったのか、玲さんは完全に拒否の構えで、


 ただ、他のみんなは特に問題はないと味見をしたところ。


「成程、このような味になりますのね?」


「なんつーか、食感が独特だな」


「……解けかけのグミ?」


「そのリアクションはあんまり美味しくない?」


「そうですね。

 レーズンは大丈夫でもプルーンは苦手って人、居るじゃないですか。

 あれに近い感覚かと」


「ああ、そういう――」


 好きな人は好きと表現すべきか。

 試しに作ったドライフルーツに対するマリィさんと元春のリアクションに玲さんが聞いた後、僕の説明で玲さんも覚悟を決めたのか、恐る恐るそれを口に入れ。


「生が美味しかっただけに残念さが際立つわね」


「たしかに、これなら城で作っている干し芋の方が上ですわね」


「えっ、マリィちゃんとこってそういうのも作ってたん?」


 というか、個人的には干し芋をドライフルーツに入れていいのかというと、僕個人としてはまた別枠だと思うのだが、


「メイドさんが乗り気で結構前から作ってるよ。

 ほら、そこに置いてあるのもメイドさんが作ってくれた干し芋なんだけど」


「ちょ、それってトワさんも作ってたりするん!?」


 僕が駄菓子なんかを入れている大きな木皿を手にとって見せると、元春は驚いたような声を上げ。


「あれ、この話、前にもしなかったっけ?」


「いやいや、聞いてねーって」


 続く僕の言葉にその木皿を引ったくり。


「だけど、干し芋があるっていうなら、こっちよりそっちの方がいいんじゃない。

 ほら、さつまいもってわりと簡単に作れるし」


 たしかに、これは玲さんの言う通りなのだが。


「地球産の作物を流通させるのはどうかと――」


 そう、ガルダシア城で育てているさつまいもは、僕が近所のスーパーで買ってきたさつまいもを種芋にして増やしたものなのだ。

 それを大々的に広めるのは後々のことを考えると問題がありそうで、


「だったらこっちで作れるんじゃない」


 と、そんな僕の意見を聞いて玲さんが手に取ったのはどこか芋っぽい食感の柑橘類だった。


「たしかに、これなら干し芋みたいなものが作れるかもですね」


 と、玲さんの案を採用して、お試しに錬金釜を使って干し芋もどきを作ってみたところ、これが好評で。


「これ美味いんじゃね」


「……ん、いい味」


「では、とりあえずリンゴとこの柑橘類と氷菓の実で行くということで」


「ですわね。当面はその計画で進めますの」

◆次回投稿は水曜日の予定です。

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