表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

755/847

誰も居ない教室※

「しっかし、ここまでガランとしているとなんか変な感じだな」


 お昼ご飯を食べた後、腹ごなしというよりも単に興味本位からだろう。

 元春達に誘われやってきたのは三年の教室がある校舎三階だ。

 元春・関口君・水野君の三人は途中で買った箱のジュースを片手にシーンと静まり返った三年生の教室を覗き込みながら。


「油断して変なこととかしてるヤツとかいんじゃね」


「「マジで!?」」


 さすがにそんなことは無いんじゃと、僕は野次馬根性むき出しの三人に呆れ顔を向けるのだが、廊下を進んでいくと人の気配がひっかかる。


「向こうの教室に誰か居るみたい」


「お前ら静かにっ!!」


 僕がその気配について伝えると、三人は母さんに鍛えられたスニークアクションで廊下を素早く移動。

 僕は『みんなが期待するようなことはないんじゃ』と、ゆっくりとその後を追いかけていくと、先にその教室を覗き込んだ三人が「なんだ男かよ」とガッカリとした声で呟いて、そのまま教室を通り過ぎようとしたところ。


「松平」


 不意にかけられた声に振り向けば、そこにいたのはさっきまで教室の中にいた男子生徒で、


「なんだ知り合いか?」


「うんにゃ」


「ふざけるな!! お前の所為で僕は――」


「おいおい、(やっこ)さんメッチャ怒ってんぞ」


「やっぱ、なにかやらかしたんじゃ……」


「知らねーよ。

 俺、三年の先輩に伝手とかあんまねーし」


 たしかに、元春の知り合いの三年男子といえば写真部か新聞部の先輩くらいなものなのだけど……、

 ただ元春は一つ見落としていることがある。


「ねえ、みんな。

 彼、同級生だから」


 そして、僕には彼の顔に見覚えがあった。


「あの、風紀委員の方ですよね。何かやらかしましたか」


 そう、その男子生徒は元春が日々お世話になっている風紀委員の一員で――、

 ここで元春がまたいらない鋭さを発揮する。


「もしかして、フラれ男か?」


 あからさまな狼狽と怒り。

 その反応から見るに、たしかに彼が宮元先輩に告白したという人物なのだろう。


「事情はわかった。

 だけど、なんで元春の所為になるんだ?」


「そうだよね。例の話は聞いているけど元春とは関係ないでしょ」


 これは関口君と水野君の言うように、彼の告白がうまくいかなかったことに関しては、少なくとも元春がなにかやらかしたということは無いと思うのだが、彼が曰く。


「先輩がおかしくなったのはお前の所為だろう」


「えっ、もしかして、宮元先輩が俺に惚れてるとか?」


「「ないない」」


「なんだよ。ちっとくらい夢を見てもいいんじゃねーかよ」


 なにがどうしたらそういう結論になるのだろう。

 正直、宮本先輩が元春に好意を抱いているというのは、あまり想像できない話であってだ。


「んで、お前はどうしたいんだ」


「……」


「「「なんもねーのかよ」」」


 言葉に詰まる風紀委員の彼にコントのようなツッコミを入れる三人。

 しかし、ここでまた元春が余計な鋭さを見せる。


「てゆうか、お前はなんでこんなとこにいんだよ」


 言われてみれば確かに、三年の教室に二年生の彼がいるのは不自然だ。


「まさか先輩の机でやらかしてたとか?」


 いやいや、そんなことはないだろうと、視線を向ける僕たちに風紀委員の彼はどこか気まずげに視線を逸らす。


「ふぁっ、マジか!?」


「ち、違う。俺は先輩と同じ場所で同じ景色が見たかっただけだ」


「はい。証言いただきました」


「だから違うと言っているだろ」


 と、誂っているというか何というか、いかにも三人らしいやり取りに風紀委員の彼が怒り出し、掴み合いの揉め事に発展仕掛けたそこへ「なにをやっているんです」と近づいてくる一人の女生徒。


「おっ、メガネコ新委員長様じゃん。ちょうどいいところに来てくれた。こいつ捕まえてくれ」


「はぁ、松平に――町村君? アンタが町村君を捕まえろってどういうことさ」


 彼女は大久保兼子。同学年の風紀委員の一人である。

 ちなみに、メガネコというのは彼女のアダ名であるが、彼女自身はメガネをかけておらず、どうしてそのアダ名になっているのか僕は知らない。


「そりゃ、住居不法侵入。あと猥褻物陳列罪?」


「わ、猥褻?」


「そんな訳があるか、コイツがまた馬鹿なことを言ってるんだ。騙されるな大久保」


 再び揉み合いになる元春と風紀委員の彼こと町村君。

 大久保さんはそんな突然の状況に少し呆然とした後、外野で見守る僕に気付いて聞いてくる。


「間宮君、これどういう状況よ」


 これに僕がここまでの流れをできるだけ客観的になるように話したところ、大久保さんは『はぁ』と丸めたプリントの束で元春達と町村君の頭を叩き。


「まったく、なにをやっているのよ君達は――」


「君達って僕を巻き込むな。僕はなにもしていない」


「勝手に三年生の教室に入ってなにもしていないはないでしょ」


「それはコイツ等が勝手に言ってることだ」


 この辺の主張は信頼関係が物を言う。

 だから、僕の証言はともかく、元春達と町村君との証言でどちらが信用できるかといえば、普通なら風紀委員に所属する町村君に軍配が上がるだろうが、いまは状況が少し違う。

 そう、例の告白騒動が原因で風紀委員の中で町村君の信用は著しく低下しているようで、それに加えてもう一つ。


『ち、違う。俺は先輩と同じ場所で同じ景色を見たかっただけだ』


「証言取ったって言っただろ」


「ヤバい。超有能」


 それは『こんなこともあろうかと――』というよりも、単に面白そうだったからというのが実際のところだろう。

 関口君が携帯電話で録音していたメッセージがあったのだ。


「これで俺達の方が真っ当だって証明出来たっしょ。Q.E.D.」


 結果的に『ぐうの音も出ない――』とまではいかないものの、元春達の証言が間違ってはいないということが示されて――、

 しかし、元春に自信満々に論破されてしまうのは頭にくるものがあるのだろう。

 村本君は諦め悪くも「そんな証拠が認められるか」と元春達に掴みかかろうとするのだが、


「町村君」


 親しい女子に強めの口調で止められてはさすがに強気には出られない。

 いったんは矛を収めるものの、ここで終わらせないのが元春クオリティ。


「起こられた~」


 小学生のような煽りにまた町村君がヒートアップ。

 最終的に元春達も含めて風紀委員の御用になったのは言うまでもないだろう。


   ◆


 放課後のまったりとした空気の中、いつものように学校であったことを話題の種にと提供したところ、これにマリィさんが呆れたような声のトーンで聞いてくる。


「それで元春とお馬鹿な仲間達はお説教をされていると?」


「煽っただけですから居残りはなしみたいですよ」


「じゃあ、今日はどうしたの?」


「部活ですね。卒業を前に悪事を暴くとかいって新聞部の方に行くって言ってました」


「なにそれ?」


「卒業に向けた告白阻止だそうです」


 テストが終わり進路が決まると、最後に告白しようとする人が増えるから、その前に釘を刺しておきたいとのことである。


「なんか変なことばっかりしてるけど、その部活もよく廃部とかにならないわね」


「元春が所属する写真部も協力関係にある新聞部も真面目にするところはしっかりやっていますから」


 そう言って、僕が見せるのは写真部が撮影した日常の学校風景や新聞部が作る硬めの紙面だ。


「これって元春が撮ったやつ?」


「元春が撮ったのはこの辺ですね」


「なんていうか普通にいい写真じゃない」


「本当に変なことをしないなら、いい写真を撮るんですよ。

 それに、写真部は体育祭や文化祭とか行事の際に映像を提供したりもしてますから」


「まったく質が悪いというかなんというか」


 写真毎に一人一人、本人の了承をとって写真を自由にダウンロードが出来るようにしたりとか、一般の生徒にもしっかりと需要がある活動も元春達はしているのだ。


「しかし、例の男子は聞いていたよりもヤバい感じじゃない」


「純粋とも言えなくはないんですけどね」


「それでも自分の席に座られるとか気持ち悪いでしょ。

 なにをしていたかもわからないし」


「なにをしていたとは?」


「そりゃあれでしょ。

 さり気なく自分の名前を書いておいたり、おまじないを試したりとか」


 ああ――、そういう方向性ですか。

 玲さんが意外と純粋でよかった。

 そして、それを受けたマリィさんもまた別の意味で純粋で。


「契約の魔法ということですの」


「そういうのじゃなくて――、

 って、そういうのって出来たりするの?」


「契約の魔法は同意があってこそのものですから難しいと思いますよ」


 玲さんも魔法という技術を学んでいることで、もしかしたら出来るかもしれないという考えが頭をよぎったのだろうが、契約というのはあくまで両者の同意があった場合に成立するものであり。


「効果があるとすれば精神系のトラップとかですか」


「それって座った相手を洗脳するとか?」


「そこまで強力な効果はありませんよ。

 そうですねローグライク系のゲームに踏むと混乱する罠とかがありますよね。

 あんな感じで相手の気分を高揚させたりとかはできそうですが」


 ほとんど意味がないけど、先輩の気分を高めるのには使える可能性はなくはない。

 ただ、もうほぼ自由登校になった先輩にそういう付与魔法をかけるのは難しく。


「結局どうなってるの?」


「僕も部外者ですから詳しいことまではわからないですね」


 一度は元春がその関与を疑われたものの、基本的に僕たちは部外者なのだ。


「一応、共通テストはそれなりに上手くいったみたいですけど、まだ本試験が残っていますし、とはいえ、風紀委員のみなさんもその辺、気をつけてくれているので大丈夫だと思いますけど」


「ねぇ、それってフラグにしか聞こえないんだけど……」

 ◆作者の為の備忘録※


 宮本理恵……元風紀委員の三年生。元春のライバル的な存在?


 花園修司……風紀委員の二年生。虎助達と交流がある。


 町村貴文……風紀委員の二年生。受験間近の理恵に告白をしてしまった。


◆実は町村はかなり前に登場しているキャラクターだったりします。

 次回投稿は水曜日の予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
↓↓↓クリックしていただけるとありがたいです↓↓↓ 小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ