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友人宅で出張買取

 それは休み明けの空気も落ち着いたある日の放課後――、

 僕は前々から約束していた出張買取の為、友人宅へやってきていた。


「虎助が鑑定するのかよ」


「お小遣い稼ぎくらいの品なら僕でも鑑定できるから、

 それにあんまり高いものだと勝手に売れないでしょ」


「たしかに」


 というわけで、さっそく関口君の家の脇にでんと立つ大きな蔵の中を調べようと、作業場を抜け、急な階段を階段を登り、屋根裏部屋に入ったところで関口君が聞いてくるのは、


「それでどんなんが高く売れる感じなんだ?」


「無難に古銭なんかが適当な値段で売れるけど、古い家具とか農具とかあれば引き取るよ」


「そんなのも売れるのか?」


「DYIに使ったり、インテリアにしたりって需要があるみたい」


 ちなみに、このインテリアにするという話は嘘ではないのだが、

 本当の目的は、古い農機具で、長く使われた道具というものは、魔法生物とまではいかないものの、付喪神よろしく古い道具になにかしらの力が宿ることがあるらしく。

 古くからの農家である関口家の蔵になら、土や植物などの属性が宿っている農具を手に入れられるかもしれないのだ。

 まあ、それ以外にも、古い道具からなら、もしかして玲さんが地球へと帰還するのに必要な、地球の位置情報が得られるかもしれないという目論見もあってだ。


「この鍬はいいね」


 すっかりサビてしまってはいるものの、あえて堂々と〈金龍の眼〉を使って鑑定をしてみたところ、結構な土の力を取り込んでいるようなので、鋳溶かして魔法金属に仕立てて上げれば地面系の魔法攻撃に強い盾なんかが作れるんじゃないだろうか。

 そんな感じでまずは目立つ農具なんかを定価とほぼ同じ値段で買い取って、続けて小さめのタンスなどを調べていると。


「虎助、これはどうだ?」


 水野君が蔵の奥から持ってきたのは古銭がいっぱい入った木の箱だった。


「寛永通宝だね。

 母銭だと物凄く高いらしいけど、それ以外だとグラム何円の世界になるよ」


「母銭?」


「いまでいうところの原盤みたいに元の形の見本になるものだね」


 こんなこともあろうかと、ひそかに不可視モードの魔法窓を開いて、いつくかの古銭ショップから情報を引き出していたのだ。

 そのページの情報によると――、


「高く売りたいなら寛永通宝じゃないのを探した方がいいんじゃないかな」


「おっしゃ」


 僕の言葉で三人が手分けして箱の中の古銭をチェック。

 その結果、大世通宝と慶長通宝という古銭がそれぞれ一枚づつ見つかったみたいだ。

 並べられた古銭を僕がインターネットの画像や取引価格などから調べたところ。


「この二枚は駅前のコインショップにでも持っていってみて、そっちの方が高く売れるだろうから、とはいっても千円とか二千円とかだろうけど」


「オッケーオッケー、十分だっての」


「そういうの俺もどっかで見たと思うから調べてみっかな」


 値打ちものの古銭をキープして蔵の中の捜索を再開するも、その後は僕が売り買いできるような手頃な品が見つからず。


「ロクなもんがねーな」


「うっせぇよ」


「この辺のデッケー壺とかは高く売れないの?

 大掃除の時とか、めっちゃ邪魔なんだけど」


「うーん、壺の鑑定はさすがに僕の手に余るね。

 ただ、高いものかそうじゃないのかは壺の裏を見るといいみたい」


「ああ、底がザラザラのヤツが高いってのとか聞きいたことがあるかも」


「いや、僕が言ってるのはそういう本格的なのじゃなくて、新しく作られた陶器はそこに製造元なんかのシールが貼ってあったりするみたいだから」


 こちらは前に義父さんから聞いた話で、意外に歴史的な建物にある陶器なんかでも、そういったシールが貼ってあるものが見つかることがあるのだと、そんな話をしながら関口君が注目した大きな壺を興味津々の三人がひっくり返してみたところ、そこにはキラキラと光る製造年月日が印字されたシールが貼ってあり。


「「うん、知ってた」」


「やっぱ、そう簡単にいかないわな」


「それでもモノによっては何十万にもなる壺があるって聞いたけど」


 これも前もって仕入れておいた知識なのだが、それが模造品や量産品の類でも、作られた工房や年代によっては高値がつくものもあるらしく、慎重にやったとはいえ、二人がかりでひっくり返さなければならないくらいの大きさの壺となると、それなりに価値があるんじゃないかと、そんな説明を添える僕に、関口君が一瞬売却を考えるも、

 しかし結局、これだけ大きな品を勝手に売ってしまうのは不味いと思いとどまってくれたみたいだ。

 その後、提灯や細工箱など幾つかの小物を発見し、だいたい二万円くらいの買取金額になったところで一区切り。


「水野君家にもいかないとだから、そろそろ精算しちゃう?」


「そだな」


 配送用のダンボールを用意して、その中に買い取る品をすべて入れ、魔女のみなさんが運営する運送屋に協力依頼を出した後、すぐ近くの水野君の家に歩いて向かうと、案内されたのはガレージの脇に置かれた物置で、


「インテリアっていうならこういうのはどうだ」


「ランタンにガラスのブイか、悪くないね」


 まず見せられたのはガラスのブイだった。

 それを鑑定したところ、うっすらとではあるが海の魔力が宿っているのが発覚。


「つか、なんでこんなんがあるんだよ。お前んチも農家じゃん」


「若い頃、サーファーだった爺様が集めたものだな」


「ああ、なんとなくそんな雰囲気はあるわ」


 僕達は水野君のおじいさんを思い浮かべて納得?


「でもコレ、買い取ってもいいの?

 おじいさんがあつめてたんじゃないの」


「平気平気、お気に入りは部屋の方に飾ってあるから、それに許可も取ってあるし」


 そういうことならと、ガラスのブイを中心に状態のいいものを買取品として確保。


「流木とかはいらねぇの?」


「木材はダブついてるから――」


 素材としては悪くないと思うのだが需要の数があんまりないからと、雰囲気のある流木だけを鑑定していると、ふと気になるものを発見する。


「あれ、これアレじゃない。竜涎香」


「竜涎香?」


「クジラのお腹の中で作られる結石になるのかな?

 お香みたいに使えるもので、たしか高いのだと百万円を超える価値になるじゃなかったっけ」


「マジで」


「本物だったらだけどね」


 とはいうものの、実はすでに〈金龍の眼〉で本物だってことはわかっている。


 ただ、問題はこれをどうするのかであるかだが、

 面白そうな素材だけにウチで引き取ってもいいけど、最初にあまり高いものは勝手に売れないと言った手前、僕が引き取るのは不自然になるから――、


「知り合いに香水とか作ってる人がいるから、連絡してもいい?」


「う、うん。任せるよ」


 魔女のみなさんに頼ることにしよう。

 しかし、その前にしっかり売り物になるんだとアピールしておいた方がいいということで、


「連絡をする前にコレちょっと針で刺してみてもいい?」


「えっと、どういうこと?」


「実はこれ、石とか骨に見えるけど、実際はロウのようなものらしいんだよ。

 だから、熱くした針で刺すと簡単に穴が開くみたいでね」


 この判別方法はつい今しがたインターネットで調べたものだ。

 これをすれば本物である可能性が高くなると僕が言うと、水野君から一も二もなく「やってくれ」とのゴーサインが出て、

 場所を水野家のキッチンに移し、コンロで温めた鉄串を刺してみると、当然のごとく熱した鉄串はスッと竜涎香に突き刺さり。


「おお、マジでか」


「俺にも、俺にもやらせてくれ」


「待ってまって、本物だったら勿体ないから」


 大興奮の三人だったが、そこに『まったく台所でなにを騒いでいるの』と水野君のお母さんが来てしまえば、愉快な友人達としては足を引っ張りたくなるもので。


「お母様、こちら竜涎香になります」


「ちょっ、元春――」


 唐突な元春の告白に焦った様な声を上げる水野君だ。


「実はこの塊が百万円になるかもなんすよ」


「ひゃっ、百万――」


 一方、水野君のお母さんはその値段に吃驚仰天。


「実はこれをお宅の息子さんが密かに売り払おうと――」


「どういうことなの?」


 そして、すべてが明るみになった結果、水野家では急遽家族会議が開かれる運びになったようなので、


「くくく、一人だけいい想いはさせねーぞ」


「俺たち友達だもんな」


 とりあえず、魔女のお店で売ってもらえるようにと繋ぎをつけた後、

 僕は悪い顔をする友人二人に手伝ってもらって、他の戦利品を持ち帰ることになるのだった。



 ◆おまけ


「それで、その竜涎香はいかがいたしましたの」


「魔女のみなさんと半分にわけました」


「てことは、こっちでも回収してるんだ。どんな匂いなの?」


「表現としては微妙ですが、酔っぱらいの甘い匂いって感じですか」


「それだけ聞くと、あまり良い香りには思えませんわね」


ちな(ちなみに)、それってなんに使うんだ」


「普通に香水とかにするみたいだね。

 魔女のみなさんは魔法の香水として売りに出すそうだよ」


「魔法の香水って、惚れ薬的な?」


「当たらずとも遠からずってところかな。

 幾つかの花のフレーバーと体力回復系の魔法薬を混ぜることで、軽い精神の高揚効果があるみたいだから」


「ちょっ、それってこっちでも作れんのか?」


「僕達が受け取った竜涎香はもう使っちゃったから無理だよ」


「ウン十万っていうその塊、もう使っちまったのかよ」


「うん、オーナー(ソニア)水野君家で買い取ってきたガラスのブイと組み合わせて、こんなのを作ってくれたんだ」


「ガラスのランプですの?」


「この形、まさか三つの願いを叶えてやるとかそういうのじゃないよね」


「さすが玲さん、正解です」


「マジかよ」


「まあ、実際にはこのランプには煙のクジラが閉じ込められてて、一日に三回、呼び出して戦わせることが出来るってアイテムみたいだけど」


「召喚系統の魔導器になりますの。なかなか強力な魔導器ではありませんの」


「とはいっても、素材が地球産のものですし、呼び出せるクジラのサイズがこれくらいでして」


「あら、可愛い」


「ご覧の通りの手の平サイズのクジラですから、大したことは出来ないんです」

◆アイテム説明


 魔法のランプ……ガラス製のランプ。中には竜涎香の煙が閉じ込められていて、一日に三度、魔力を込めながら擦ることによって煙のクジラを呼び出すことができ、一緒に戦うことができる。

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