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万屋改装

 カプサイシンという灼熱地獄から無事に(?)生還を果たしたフレアさん達は、簡単な治療と魔法薬を補充をした後、万屋印のアイテムを手に邪龍退治に旅立っていった。

 相手が封印対象になるような龍種ということで、心配ではあるのだが、こればかりはフレアさんを信じるしかないだろう。

 ということで、せっかくだからこのタイミングにと万屋のリフォームをすることにする。

 いや、何の脈絡もなくなんでそんな話になるんだよ――もし、ここに元春がいたらこんなツッコミを入れてくれたんだろうけど、残念ながら元春は部活の夏合宿により欠席中。

 とまあ、残念な友人のツッコミ気質はさておき、どうしてこのタイミングで万屋を改装するのかというと、単純にフレアさんがいない今なら魔王様が万屋の外をウロウロしても問題ないからという理由からの計画だったりする。

 そんなこんなで、タイミングよく魔王様――とマリィさんがご来店してくれたので、さっそく万屋改装の会議を始めるとにしよう。


「成程、虎助の話は理解しました。またエルフが来た時に何の備えもなしにマオを前面に出す訳にも行かないですからね。それで万屋を新しく立て直すということでいいですの?」


「いえ、今の万屋の雰囲気が好きなので、万屋を少し前に押し出してカウンターや休憩室部分を増築する形を考えてます」


 簡単な説明からのマリィさんの切り返しに、僕は簡単にではあるが完成後の図面を魔法窓(ウィンドウ)にて表示する。

 イメージはうなぎの寝床なんていわれる京の町家のような長細い建物。

 元ある万屋を入り口兼店舗スペースに、カウンター席と休憩室を新たに作りつける設計だ。


(わたしく)としては、寛ぎスペースからエクスカリバーを鑑賞できるような仕組みにしていただければ特に要望は無いのです」


 まあ、マリィさんならそういうだろう。

 しかし、今回の改築は、主に魔王様の精神的な安全確保という目的が一番にあって、


「魔王様は何かリクエストはありますか?」


 返す刀で水を向けるのだが、魔王様はふるふると首を振るばかり、


「休憩室は新築になるので、内装とか家具とかいろいろ改造出来るんですけど――」


 ならばと追加で具体的な話をしたところようやくポツリこんな要望をしてくれる。


「……畳と掘りごたつはそのままがいい」


「ですわね」


 深い森の中で野生児のような暮らしをしていた魔王様は勿論、古城で絶賛軟禁中であるマリィさんも靴を脱ぎ捨て足を放り出す和室のシステムが気に入っているみたいである。


「となると、休憩室は和室のままですね。でもせっかく新築するのですから、のっぺりとした畳の間だけにするのも味気ないですね。どんな和室にしましょうか?」


「どんな――、とはどういうことでしょう?」


 僕の問い掛けに二人が揃って首を傾ける。

 その姉妹のような可愛らしい仕草に、一瞬、何を言っているのかとも思いもしたが、少し考えてハッとする。

 考えてもみればマリィさん達はただ畳が敷いてあるだけのノーマルな和室しか知らないんだ。

 その事実に気付いた僕は魔法窓(ウィンドウ)からインターネットを開き、『和モダン』や『茶室風』、あと『高級旅館』などのキーワードを打ち込んで画像検索。

 様々にアレンジされた和室の画像を呼び出して、


「取り敢えず、この中からイメージに合うものを選んでみてくれますか?」


「あの、虎助――、和室とはこんなにも種類があるものですの?」


「ええ、昔は和室と言えば本当に畳だけの部屋ばかりだったみたいですけど、最近はいろいろと種類があるみたいでして――」


 愕然とするマリィさんに現代のカオスな和風建築事情を簡単に解説。

 ソニアと回線を繋いで、店舗部分に施す魔法式の打ち合わせだったり、使う資材の選定、改装に伴う商品の運び出しを行っている間にもマリィさん達に新たに造る和室のイメージを固めてもらい数時間――、

 結局、カウンターのすぐ後ろを僕もくつろげるようにと和風モダンな板の間に、奥まったスペースを畳敷きの小上がりに改装増築することと相成った。

 因みに和室の最奥に作るテレビを置くスペースの隣に、魔王様からの要望とは別に掘りごたつを作り、パソコンスペースを設けることとした。

 正直、万屋には地球でいうところのエアコンのような魔具が完備されていることから、こたつを設置する必要はないのだが、その辺りは好みの問題で、特にエアコン魔具が導入される前からのお客様である魔王様やマリィさんにとってはこたつという存在は特別なものなのかもしれない。

 でも、マリィさんはともかく、魔王様までインテリアこだわるのはちょっと意外だった。いや、思えば服作りの時なんかにも結構真剣に選んでいたし、案外そういうのを選ぶのが好きなのかもしれないな。

 そして、思っていたよりも時間がかかってしまった内装の選定を終えたところでその日は解散。

 翌日、僕がアヴァロン=エラにやってくると、既に万屋の移動も休憩室の建設工事もほぼ完了していた。

 どうも客足が途絶えた深夜の時間帯を見計らって、ソニア(オーナー)がアヴァロン=エラの看板巨人であるモルドレッドを動かしてくれたみたいだ。

 ベヒーモとの戦いですら温存した巨人兵をここで投入するのか?と呆れないでもないのだが、工事の間、万屋を押し出すことで、アヴァロン=エラの重要区画である工房と外界とを分ける石壁に隙間が生じるということで、その時間を少しでも減らそうという判断があったみたいである。

 と、そんな深夜の活動報告に目を通していたところ、マリィさんがやって来て、


「昨日の今日でもう完成しましたの!?」


「はい。エレイン君達は交代で頑張ってくれましたから」


「しかし、材料から何からとよく用意が出来ましたわね」


 因みに元あった万屋の改修や、この新しく増築する部分に使っている木材は、地球の魔女さん達からいただいた間伐材ではなく、ついこの間、デュラハン状態で元の世界へと送り返した、名前も知らないエルフの青年が召喚(?)した大樹を使っているみたいだ。

 なんでもあの樹はゲームなんかで有名な世界樹だそうで、せっかくだから重要施設であるこの万屋に使おうとソニア(オーナー)が放出してくれたらしい。


「あのエルフがこの世界にやって来て唯一よかった点は貴重な木材が大量に手に入れられたことですかね」


「世界樹なんてそうそう手に入るものではありませんからね。後で(わたくし)にも融通してもらっても構いませんの?」


「大丈夫ですよ。彼を拘束した際に種も手に入れられたみたいですから、いまマールさんに相談して培養できないかとか画策しているんですよ」


 どうもこのアヴァロン=エラで植物を育てるには、植物そのものが持つ魔素への高い抵抗値と魔法による干渉が鍵になるらしいのだ。

 現在、その辺りの条件を植物の精霊であるマールさんに研究してもらっているところだという。


「世界樹の大量生産なんて、場所が場所なら争いの種になりかねない話ですわね」


「この世界の魔素があってこそ出来る計画なんですけどね」


 そもそも世界樹という植物は、パワースポットのような魔素の濃い地域でしかまともに発芽しない植物なのだそうだ。

 あのエルフは、そんな世界樹の特徴を利用して魔法の武器として使っていたみたいだ。

 ソニア曰く、あのエルフも、自分が使った世界樹の種がこれだけ巨大に成長するとはと内心で驚いていたのではないかという。

 そんな世界樹にまつわるアレコレを、店の前のベンチに座り、話している間に内装工事も無事に完了したようだ。


「取り敢えず完成している店の出来を確かめてみませんか」


「そうですわね」


 レディーファーストではないけれど、マリィさんを先頭に万屋の中へと足を踏み入れると、


「見事に何もありませんわね」


「さすがに商品を入れたままでは移動や改装は難しいですからね。全部、工房の方に避難させました」


 万屋を移動する際にできるだけ建物の重量を軽くするべく、店内の商品を全て工房側にある最寄りの建物に避難させておいたのだ。


「さて、エクスカリバーですがどこに置くのがいいですかね」


 エクスカリバーはこの店の目玉商品である。まずはエクスカリバーをどこに配置するか決めてからでないと店内のレイアウトは決められない。そんな訳で、エクスカリバーに並々ならぬ情熱を燃やすマリィさんの指導でかの剣を展示する位置を決めてもらうことにする。


「そうですね。やっぱり和室から見やすい場所がいいですわ」


 マリィさんはカウンターの奥、以前よりも二倍くらいの広さになった小上がりの畳スペースまで歩いていき、改装前の定位置であった掘り下げ式テーブルに腰掛けると、ガランとした店内を見回して、


「今回はそちらの開口部が虎助の定位置になりますのよね。でしたらやはりカウンターの目の前が一番ですか」


 上がり框を工房へと繋がる通路側に持っていった事により、そして小上がりの座敷を作ったことにより、全体的に一段高くなったカウンター後ろのスペースを念頭に、マリィさんはエクスカリバーを設置する位置を調節、ミスリル製の台座を工房側から持ってきてくれたベル君に指示を出し、石畳風になったタイル敷きになった店舗スペースにセットする。

 そして、土の魔導器が使えるエレイン君にその台座を基礎と融合してもらっている間に、僕が持ってきたエクスカリバーを完成した台座に突き刺すのだが、


「何か違和感がありますね」


「確かに、周りに物が無いとまるで神殿みたいな雰囲気ですの」


 いや、そういう事を言っているんじゃないんですけど――、

 マリィさんの妄言に僕は心の声でツッコミを入れながらも、違和感があるのは周りに何もない所為じゃないかと魔法薬や細々としたマジックアイテムと携帯口糧などを中心とした食材を並べる木製ラック、魔王様謹製の大量の魔剣を突き刺すアメリカンテイストなブリキのゴミ箱、そして、店の両サイドにしつらえてもらった展示スペースに、魔具や魔導器、防具にサバイバルツールと、前からある商品に加えて新しく店頭に並ぶことになった商品を配置していき、


「う~ん。こんな感じですか」


「そうですね。なんというますか、細かいことを言えば納得できない部分はあるのですが――、今日のところはこのくらいにしておきましょう」


 ふむ、違和感を感じているのは僕だけでは無いらしい?

 まあ、まだ改装したばかりだから店内の景色になれないっていう理由もあるんじゃないかな。

 ともかく、マリィさんの言う通り、細かいところは後で直すとして、お客様を迎える準備をしないと――、

 そんなタイミングを見計らったかのように光の柱が立ち上がる。


「おっと、客様第一号が来ちゃいましたね」


 厳密に言えばお客様第一号はマリィさんではあるが、そこはもう身内みたいなものだからあまり気にしなくてもいいだろう。

 余計な考えながらもカウンター側に移動、お釣りやら何やらの準備をするべく、僕がカウンターの引き出しを開けようとしたその時だった。聞き慣れた警報音が店内に鳴り響く。

 その警報が示すのは敵の襲来。

 どうやら改装第一号のお客様は、客は客でも招かれざる客の方だったみたいだ。

 ◆ちょっとした補足


 万屋の建物は築50年以上の元青果店という設定です。

 そにあ(ソニア地球ボディ)が亜空間マウスでパックンチョして、こっちに持ってきたことになっています。

 一夜にして消えてしまった店としてご近所で噂になっているようです。

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