突入作戦アフター
◆眼の調子もだいぶ戻ってきました。
来週からは週二更新でいけそうです。
それはアビーさんの出身国で突入作戦があった翌々日のこと、
僕は毎朝の訓練の後、フレアさん達の対応をしていた。
「こんな早くに呼び出してしまってすみません」
「構わまいさ。こっちもいい修行ができた。
それよりもどうした? 虎助がこんな早くに呼び出しをするなんて珍しいじゃないか」
「実は例の件がほぼ片付きましたので、その報告と、
みなさんに幾つか確認していただきたいことがあってですね」
そう、昨日の突入作戦で捕えた人達をざっと調べたところ、早めにお知らせした方がいい情報が出てきたので、こうして朝早くからご足労願うことになったのだ。
ちなみに、その内容であるが――、
「例の施設への突入は特に被害もなく終わりました」
「あら、よかったじゃない」
「はい。それはよかったんですけど、実はその作戦で捕らえた人の中にルベリオンの貴族や教会関係者がいましたようで、現地で指揮を取っていたアビーさんの妹君から、ルベリオン王国の内情に詳しい人がいましたら、面通しをしてもらいたいというお願いがありまして」
と、これに対する反応はそれぞれだった。
フレアさんとティマさんはやれやれと言わんばかりのリアクションで、
メルさんはいつも通りの無反応。
そして、ポーリさんは眉間を揉むようにして、
「ええと、その教会関係者というのはどなたになるのでしょうか」
「教会関係者はナルザールいう方とその補佐役が二名だとのことです」
正確には、そのお三方に加えて複数の護衛がいたというが、こちらは教会所属といえど、立場的にあえて照合するまでもないと除外されたみたいだ。
ちなみに、問題のナルザールという人物の名前を聞いたポーリさんのリアションだが、これぞまさに天を仰ぐといったものであって、
そんなポーリさんの反応から、この人物がもともと問題のある人であることが伺える。
と、ショック状態のポーリさんの一方、フレアさん達はマイペースといったご様子で、
「まあ、教会の馬鹿はポーリに任せるとして、ルベリオンの貴族ってのは?」
「こちらはメミラ伯爵にミオスボ子爵、ラスカ男爵以下、数名の貴族子息だそうです」
僕が顔写真付きのリストをフリックしたところ、ポーリさんを除く三人は、手元に寄越された魔法窓を反転させて、そのリストに目を通し。
「フレア、メル――、
この人たち誰だかわかる?」
「すまない。
誰一人として見覚えがないな」
「この人は剣を置きに言った時にお城で見た気がする。
だけど名前は知らない」
ルベリオンで勇者と呼ばれるようになったフレアさんなら、伯爵くらいは知り合いなのかと思っていたが、どうやらそうではなかったようだ。
ただ、メルさんは鉱山の中にあった遺跡でロゼッタ姫との再会後に、ヴリトラの邪気にあてられ、暴走してしまった近衛兵長から回収した、龍牙剣の替え玉となる剣をお城に届けに行った際に、このメミラ伯爵を名乗る人物を見たことがあるというが、それが実際に伯爵位にある人物なのかがわからないそうで。
「ロゼッタ姫に確認をしていただくことはできますか」
「仕方ないわね。
じゃあ、このデータはこっちで預かっていくわね」
最終的に相手がルベリオン王国の貴族というならロゼッタ姫に確認してもらうのが手っ取り早いと、ティマさんと剣と魔法の世界に生きる人とするにはちょっと違和感のあるデータのやり取りをしていると、ここでようやくポーリさんの意識が現実に復帰したみたいだ。
僕はポーリさんの正気を確かめた上で、ナルザールを始めとした教会関係者のデータを彼女の眼の前に並べ。
「それでポーリさん、この方の処遇はどうすればいいと思います」
「私個人としましては、魔獣の餌にしてしまっても構わないと思うのですが――」
ポーリさんの口から聖職者とは思えない発言が飛び出すも、さすがに周辺地域で一大宗教と名高い教会の高僧相手にそんな選択肢を取れる筈もなく。
「信頼のおける人物へ一筆したためることも考えたのですが、それでは各方面に迷惑をかけることにもなりません」
偶然と言ってしまえばそれまでなのかもしれないが、ここでポーリさんの名前を使ってしまえば、今回の組織壊滅に尽力したベルタ王国が、現在教会から逃亡中のポーリさんを囲っていたという風にも取られかねないと、この案は却下。
「ベルタ王国側がそのまま教会へ報告したらどうなりますか」
「それは報告を受け取る人間によって、いかようにも変わって来るでしょう」
まっとうな人に報告が入れば、正式な引き渡しの上で厳正なる処分が行われるだろうが、逆に今回捕まったナルザールのような関係者に伝われば無罪放免にしろという圧がかかるか、ベルタ王国側が難癖つけられるような事態にもなりかねず。
場合によっては真っ当な人間でも、教会の権威や体裁を慮った結果、引き渡しの前に密かに処分してしまおうという過激な輩も出るやもしれないということで、
「司祭が自らが悔い改めるような人間であればよかったのですが」
ポーリさんの憂い顔を見るまでもなく、ナルザールという人物は自らの行いを反省するような人物ではないのだろう。
「しかし、まさか聖職者までもがあんな後ろ暗い場所に出入りしていたとはな」
「事前の調査では見かけなかったとのことなので、頻繁にということではないと思うんですけど」
少なくとも、セリーヌさんがネズレムを送り込んでからの二ヶ月間に聖職者が訪れたことはなかった。
「けど、ただそこに居ただけなら、そこまで問題にならなくない?」
たしかに、ティマさんが言うように、そこに居て何もしていないのだとしたら、聖職者である以上、多少の誹りは受けるのかもしれないが、お咎めなしという可能性もない訳ではない。
ただ、それはこのナルザールという神父が、捕まった施設の中で何もしていなかったらという前提の話であり。
「それが、その人達ですがオークションに参加して見目麗しい少年奴隷を四人ほど手に入れて、別室でお楽しみになっていたようで」
それを聞いて、あからさまな嫌悪感を醸し出す女性陣。
しかし、その一方でフレアさんは言われたことが理解できなかったようだ。
「待ってくれ虎助、そのナルザールという神父は男なのだろう。楽しむというのはどういうことなんだ」
うん、フレアさんのこの反応――、
これは真実を伝えてもいいのだろうか。
僕がどうしたものかと答えあぐねていると、ここでティマさんが慌てたように割って入り。
「ね、ねぇフレア、貴族が無意味に街の人をいたぶることがあるじゃない。
この神父がやったことは、ああいうのと同じなんじゃないのかしら」
「む、それは許せないな」
これは風評被害――にはならないか。
実際ティマさんが言っていることは間違ってもいなく。
「虎助様、例の施設にはネズミのゴーレムを配置していたと聞いているのですが、その現場の記録などは残っていないのでしょうか」
「犯罪証拠ですね。
そっちはしっかり残していますよ」
こんなこともあろうかと――ではないのだが、捕まえた人物がどういう人物なのかを調べる過程で、ナルザールがあの施設でしたことはすべてデータとしてまとめてあって、
とはいえそれも、まったく面白くない状況ということで、犯行現場が長々と映っているということは無いのだが、言い逃れできないくらいにはしっかりと証拠が残っており。
「成程、そのようなものがあるのでしたら上手く誘導できるかもしれませんね。
しかし、そうなりますと時間が鍵になりそうですね」
「蒼空でも用意しましょうか」
「いえ、そちらは――」
「メモリーダストの運搬くらいなら、私の召喚魔法でどうにかなるから大丈夫」
「そうですか、だったらすぐに出来るだけ多くのメモリーダストを用意しますね」
「お願いします」




