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突入作戦02

 さて、無事に|サンドサーペントの亜種《蛇王ジルコッツァ》を倒したところで、闘技場の裏側(バックヤード)に回るとしよう。


『アビー様、どちらの入り口から裏に回りましょうか?』


「う~ん、内部の構造からして、どっちから入っても距離は変わらないけど、

 この場合、二組にわかれて挟み撃ちにした方がいいかもね」


『えっ、それってまさか――』


「どうしてそうなったのかはわからないんだけど、

 魔獣が一匹、檻から出ちゃってるみたいなんだよ」


 この地下施設にセリーヌさんが放ったネズレムの数は十匹。

 僕達も常にすべての状況を把握できているという訳でもないので、どうしてその魔獣が檻の外に出てしまっているのかはよくわからないのだが、次の対戦相手として運ばれていた魔獣が檻から逃げ出し、世話係や先頭奴隷に次々と襲いかかっているみたいなのだ。


 とまあ、バックヤードがそんな状況だからと、獣戦士(僕達)と白盾の乙女のみなさんは二手にわかれて、柵付きの大きな入口から闘技場の裏手へと回り。


『ねぇ、これ気付かれてない?』


『っすね』


「たぶん臭いじゃないかな。ボク達の方にはあんまり反応してないみたいだから」


『『『『……』』』』


 ちなみに、逃げ出した魔獣は二首ライオンという大型の魔獣である。

 その五感はどれも鋭いことが予想されるが、少し迷いながらも進んだ方向から察するに白盾の乙女のみなさんに強く反応していることが伺え。

 それが臭いなのか何なのかはこの時点では明確には出来ないが、


『どうしましょう。我々がまず囮になりましょうか』


『それより、フラッシュバンを投げ込んだ方が手っ取り早いんじゃないっすか』


「いや、相手は動物だからね。周りの魔獣が暴れるかもしれないし、出来れば無しの方向で」


『そうですね。魔獣を捕えている檻は簡単に壊されるようなものではないと思いますが、そうなる危険がある以上、避けるべきかと』


 人と人、人と魔獣、そして魔獣同士の戦いを貴族などに見せて商売をしているだけに、この闘技場はかなり丈夫に作られている。

 しかし、それでもこの二首ライオンは檻の外に出てしまっている訳で、

 万が一のことを考えるなら、他の魔獣に下手な刺激は与えられないと通信越しの相談はまとまり。


「とりあえず、そっちは隠れた状態だと不利になるかもだから、もうそのまま進んで、こっちは隙をみて援護するから」


『わかりました』


 大雑把に作戦を決めたところで、白盾の乙女のみなさんが、剣闘士が使う武器やパワードスーツのようなゴーレムがずらりと並ぶ通路を抜けて、その先に待ち構える二首ライオンの前にゆっくりと姿を現す。

 すると、二首ライオンは唸り声で威嚇しながらもタイミングを見計らい、彼女達に襲いかかり。

 その攻撃を大盾を構えたエレオノールさんが受け止めたところ、ブレスを吐こうとしてか、二首ライオンが大きく息を吸い込むのだが、これに素早く反応したのはココさんだ。

 彼女はぬるりと二首ライオンの股下に入り込むと、そのままお腹を蹴り上げ。


「来るぞ」


 続いて、がら空きになった腹を斬りつけ、その脇を駆け抜けたアヤさんの言葉にリーサさんが準備していた風の魔法を発動。


 それはブレスというよりも空気を飛ばす技のようなものか、偶然にもお互いに似たような攻撃を選択していた両者の攻撃がぶつかり合って炸裂。


 白盾の乙女のメンバーも含め、二首ライオンまでが大きく吹き飛ばされ。

 このタイミングで飛び込んだ獣戦士が、体勢を崩した二首ライオンの脇腹にナイフを突き立てる。


 すると、これが思いの外、深くまで刺さったのか、二首ライオンは絶叫すると踵を返して走り出し。

 そのまま逃げ出すのかと思いきや、脇腹にナイフを突き立てる獣戦士ごと体を壁に擦り付け、引き剥がそうとする。


「無茶をするね」


 しかし、そこは魔法金属製の全身鎧を身にまとう獣戦士である。

 少々(?)壁に押し付けられたところでダメージなんてものがある筈もなく。

 むしろ、横に切る手間が省けたとばかりに壁に押し付けられる勢いを利用して、ナイフを滑らせ脇腹から太ももにかけて大きく切り裂くと――、


『GURUAaaaaaa――っ!?』


 二首ライオンは絶叫。

 一方の獣戦士はその体を柱に強打し七転八倒。

 ゴロゴロの転がる中で戦場に復帰した白盾の乙女の前衛陣の姿を見て、


「首を狙うんだ」


『承知』


 今度こそ逃げ出した二首ライオンの進路に回り込んだアヤさんが豪快な逆袈裟で片方の首を撥ね飛ばし。

 それでも尚も逃げようとする二首ライオンにココさんが「逃さないっすよ」とその靴にプログラムされた魔法式を発動。

 強力無比なドロップキックを食らわすと、エレオノールさんがアビスモールの牙から作った盾の能力を使って二首ライオンの足元を軽く崩して逃亡を阻止すると、最後は壁に押し付けられながらも立ち直った獣戦士がもう一方の首を刈り取って決着。


『このレベルの魔獣と二連戦はキツイっす』


「それで檻の中の魔獣の処理なんだけど」


『私は手伝うわ。いまの戦いではあんまり活躍できなかったし』


 両首を切られ、ようやく動かなくなった二首ライオンを横に大の字になるココさんの一方、他のみなさんから一歩遅れて戦線復帰したリーサさんは、獣戦士を介して届けられたアビーさんの声にどこか申し訳なさそうにするのだが、あの状況で紙装甲のリーサさんがすぐに現場復帰できないのは仕方のないことは、同じような戦闘スタイルのアビーさん達にはよくわかっている。

 とはいえ、手伝い自体はありがたいと獣戦士とリーサさん、そして、体力には自信があるとすぐに立ち上がってくれたエレオノールさんとで檻の中の魔獣を処理していくことになるのだが、


『なんか申し訳ないですね』


『仕方ないと割り切るしかないんじゃない。私達がやらなくても誰かがやることなんだから』


 エレオノールさんの言うように、檻の中の相手を一方的に殺してしまうのには少し罪悪感を感じざるを得ないが、この闘技場で使い潰されるような魔獣を生かしておいても害にしかならないと、檻の中の魔獣をすべて殺処分。

 希少な魔獣はまるごと、それ以外は必要な部位だけをマジックバッグの中に入れるという作業を繰り返し。


『そういえば二首ライオンの処分はどうするの?』


「毛皮は惜しいけど、ここの惨状を見るとあんまり解体したくないかな」


『ですねぇ』


 先にも触れたように闘技場バックヤードには魔獣のみならず、魔獣の世話係や人間の剣闘士もいた筈なのだ。

 にも関わらず、生き残っていたのが檻に入れられた魔獣だけしかいないとなれば、残りがどうなったのかなど言うまでもなく。

 それでなくともこのバックヤードには食べ残し(・・・・)などの痕跡がいろいろと残っているのだ。

 二首ライオンの腹を割いたら何が出てくるなんてことは誰にでもわかることで、

 最終的にすぐに回収ができる二つの首だけをマジックバッグの中に入れたところで、エレオノールさんが気にしたのはバックヤードに至る通路に置かれていた幾つかのマジックアイテム。


『通路にあったゴーレムや魔剣らしき武具の類はどうしましょう?』


「えっと、どうしよう」


「念の為、回収しておいた方がいいんじゃないですか、下手に残しておくと危ないものもありそうですし」


 こちらは魔獣の管理や人間の剣闘士に使わせるものになるかな。

 あえて闘技場で使っているということは、オークションなどでは売れないような曰く付きの一品になるだろう。

 この後、処理に回る兵士達の安全を確保する為にもこちらで回収した方がいいんじゃないかと、セリーヌさんの了解を取ろうと通信回線を繋いだところ。

 タイミングが良かったのか悪かったのか、セリーヌさんは慌てた様子で――、


『お姉様?

 ちょうどよかった。追加任務です』


「えっ、もう撤収じゃないの?」


『駄目に決まっています』


 セリーヌさんからお叱りの言葉と共に新しい仕事を任される僕達。


 ちなみに、その新しい任務の内容だが、どうやらオールード家の担当でないエリアから、一部の護衛を連れた貴族らしき男達が隠し(従業員)通路を使って闘技場のゲート方面に逃げているらしく、こちらに対応して欲しいとのことである。


 ただ、僕達が相手の姿を監視カメラ(ネズレム)で把握しているということはいえないので、

 まずはアリバイ作りの為に闘技場に来る前にわかれた兵達と合流。

 セリーヌさんから任された新しい任務の内容を確認すると、彼等と相談して、その男達が逃げてくると(おぼ)しき幾つかのルートを分担して封鎖する――という体で男達の逃走ルートに先回り。


 すると、すぐにセリーヌさんが言っていた男達がやって来て、


『来たっす』


「全弾発射するよ」


 挨拶代わりの状態異常の魔弾を連打。

 これは魔法障壁で対抗されるが、それでも万屋謹製の魔法銃の攻撃をすべて防ぐのは難しいようだ。

 幾つかの魔弾が障壁を貫通して、これで制圧完了かと思いきや。


『効くかよ』


『状態耐性持ちか』


 さすが貴族の護衛を任されるくらいの手練というだけあってか、何かしらの耐性を備えているのか、それともアイテムを使ったか、状態異常の魔弾にもひるまず一人の戦士が突っ込んでくる。


 だがしかし、完全に状態異常を無効化できるという訳ではないようだ。

 明らかに動きが悪くなったその男にアヤさんが真っ先に飛び込んで、


『その程度の実力で抜けられると思うな』


 魔法が効かないなら物理で止めると、こういう時の為にと万屋でおぼえてきた〈峰打ち(ブロウコート)〉の魔法剣で相手の男をその軽鎧ごと叩き伏せる。


 すると、男はやられながらもニヤリと笑い。


『だろうな。けどな――』


『行けヒルデガルダ!! 僕達を助けるんだ』


 その後方からムカデと婦人服用のマネキンが混ざったようなアヴァンギャルドな人形が飛び出してきて、男を叩き伏せたアヤさんに襲いかかるも、アヤさんの〈峰打ち(ブロウコート)〉はまだ効果を失っていない。

 アヤさんは全身から生える刃のような足を回転させながら飛びかかってくる人形の攻撃を咄嗟に防ぎ、電動ノコギリのようなその攻撃に〈峰打ち(ブロウコート)〉が削られる前にと、気合一発、人形を思いっきり弾き飛ばす。


 すると、自分の方へと飛ばされてきた人形にココさんが、


『うわっ、気持ち悪っ、なんすかコイツ』


「ヴァルゴスケルツォ。

 ハンス・エグジルが作ったキリングドールの一体さ」


 思わずといった様子で漏らしたココさんの声に答えたのはアビーさんだった。


『なんなんすかそれ?』


『アンタ、オークションの目録を読まなかったの?』


 気の抜けたココさんのリアクションに呆れたようにするのはリーサさん。


『暗殺者にしてドールメーカーだった男が作り出した人形でしたか』


『ククク、その通り、我がヒルデガルダこそまさに至高の芸術。さあ、その身に刻むがいい、最高最悪の殺戮者の旋律を――』


 続く、エレオノールさんが零した言葉に、ゆらりと立ち上がり、手を広げて人形の自慢を始める貴族らしき青年だ。


 しかし、ヒルデガルダというらしいその人形の攻撃は手数こそ凄まじいものの、その一つ一つの攻撃は軽いもののようで。


『普通に勝てなくはない相手っすよね』


『ええ――、このまま押し込むことも出来ますが、

 アビー様、これは壊してしまっても構いませんか?』


「うん。ぜんぜん平気」


 そう、先にも少し触れたが、オークションに出品されるものはチェック済み。

 重要な資料などはデータを取ったものの、実物が欲しいというものは一つもなく。

 アビーさん達は闘技場に押し入ることを選んだ訳で――、


 つまり、このヒルデガルダもアビーさんとサイネリアさんのお眼鏡には叶わい程度のゴーレムでしかなかったのだ。


 などとやっている間にも、しっかり盾を構えたエレオノールさんはその盾から火花を散らしながらもヒルデガルダ壁際に押し込んでおり。


『このまま押し潰します。リーサさん、エンチャントを』


『わかってる。〈反射盾(カウンターシールド)〉いくわよ」


 リーサさんが魔法を発動した瞬間、押し込まれながらも止めどなく斬撃を放っていたヒルデガルダの刃のような無数の足が発生した魔力障壁によって破断。


 攻め手を失ったヒルデガルダにエレオノールさんがシールドバッシュを連打。

 二度三度と強烈な打撃を浴びせれば、もうヒルデガルダはまともに動けない。


 結果、ヒルデガルダは糸が切れた操り人形のようにその場に倒れ込み。


『ば、馬鹿な。僕のヒルデガルダはハンス=エグジルの最高傑作だぞ』


 ショックを受けるのは、さっき自慢気にヒルデガルダのことを語っていた青年だ。

 ただ、白盾の乙女のメンバーとしては――、


『そんなこと言われても、それアンティークの人形っすよね』


『貴様、なにを言っている』


『いやあ、この獣戦士の出来を見れば一目瞭然じゃないっすか』


 魔導技術は日進月歩。

 特に各世界から技術が集まる万屋で作られたゴーレムが、たとえ天才とはいえ、百年前に作られたとされる人形に劣るとは思えない。

 それでなくとも、獣戦士の製作に携わったアビーさんは、同じ世界で天才と呼ばれているのだ。

 青年が呆然とする眼の前の光景は当たり前のことともいえ、白盾の乙女のみなさんは冷静に。


『とりあえず、みんな捕まえてしまいましょう』


『了解っす』


「じゃあ、こっちは私達が回収しておくね」

◆眼科通いの為、しばらく週一です。

 申し訳ありません。

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