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戦い終わって

 今週は二話投稿です。

 最近、ものっそいパソコンが重いです。

 調べてみたらバックグラウンドでアップデートしてるみたいなんですけど、失敗を繰り返してるみたいで、何かいい解決方法はないですかね。

「あー、もう悔しい!!」


 戦い終わった荒野にティマさんの声が響く。


「フフッ、まあ、貴女も筋がいい方ですので、ここで修行をすれば、今の(・・)私くらいは超えられるのではないかしら」


「どういうこと?」


 勝負に勝って鼻高々、マリィさんのアドバイスにティマさんがキッと厳しい視線を飛ばしながらも聞き返す。

 やはり魔導師としては(いや、魔導師に限定したことではないか)自分が強くなれるかもしれないという話は聞き逃せないのだろう。敵(?)であるマリィさんの言葉にティマさんが刺々しい態度ながらも疑問符を浮かべる。

 そんなティマさんに、僕が(・・)魔素が濃すぎるこのアヴァロン=エラの世界特性を教えてあげると、ティマさんは驚きながらも納得したように頷いて、


「フレアがべらぼうに強いのもここで修行をしたからね」


 いえ、それはたぶん関係ないです。


「それよりも貴方達、黒雲龍とやらの討伐はよろしいんですの?」


「ああ、わかっているさ。虎助からドラゴンキラーを受け取ったらすぐに自分の世界に戻るつもりだ」


 一人思考の海にダイブしていくティマさんの意識を引き戻そうとしたマリィさんの言葉にフレアさんが髪をかき上げ真面目な顔をする。そして、


「それなのですが、マリィさん――でしたよね。力をお貸ししてもらう訳にはいきませんか」


 熱く拳を握るフレアさんにの傍ら、ポーリさんがおずおずとマリィさんに話しかけるのだが、


「残念ですけど(わたくし)が貴方達の世界へ行くことは出来ませんの。そうでしたわよね。虎助」


「はい。ここのゲートは移動元に帰る機能しか持っていませんから」


 たぶん助っ人にいけないというよりも黒雲龍と戦えないことが残念なのだろう。マリィさんの確認に僕は苦笑しながらも補足を入れる。

 現状、アヴァロン=エラに迷い込んできた(・・・・・・・)何者も、この世界に迷い込んできたその過程で記録された地点にしか戻ることが出来ないのだ。

 そんなゲートの仕様にポーラさんが「そうですか」と残念そうに肩を落とす。

 一方、ティマさんとフレアさんは相も変わらずといったご様子で、


「そんな女の力を借りなくても私達でも倒せるわ」


「俺達がやらなければ誰がやるというのだ」


「私も私達パーティの力は信じています。ただ、今回の戦いは失敗は許されない戦いですから」


 まあ、ドラゴンキラーが手に入ったところで、あくまでフレアさんが強くなるだけだから、万が一、黒雲龍の攻撃がティマさん達サポートメンバーに向かった場合の対抗策としては少し弱いのだろう。

 だったら、


「えと――、使い捨てのマジックアイテムといいますか、これなんですが、ヴリトラ対策に使えませんか。理性のない龍種ならこれでなんとか抑えられるかと思うんですが」


 言って取り出したのはクリアグリーンの殻に覆われた赤い球体。一見すると宝石やオーブのようにも見えるそれは、以前、フォレストワイバーンを灼熱地獄へと突き落とした唐辛子爆弾だ。

 これさえあれば、たとえ相手が強大な龍だとしても、攻撃にも緊急避難にも使えるのではと差し出すのだが、


「こんなちゃっちいマジックアイテムで黒雲龍を倒せるっていうの。馬鹿にしないでよね」


「たしかこれはディロックというアイテムだったな。何か特別な魔法が封じられているというのか」


 その効果を知らないティマさんとしてはただのマジックアイテム一つでしかないのだろう。こんなものでヴリトラが倒せるとは思っていないようだ。

 そして、一度ディロックの直撃を受けた事のあるフレアさんは、それに込められた魔法が強力なのではと疑うのだが、


「あの、魔力とか流さないでくださいね。危険ですから」


「魔法を封じてあるアイテムですか。聞く限りはそれほど危険なアイテムとは思えないのですが」


 フレアさんが口にした特徴からディロックに関するおぼろげな概要を掴んだのだろう。僕の慌てようを見てポーラさんが訝しげな顔をする。

 しかし、こればかりは実際にその威力を目の当たりにした者でなければその理解は難しい。


「だったら体験してみますか。至近距離での直撃を受けると最悪失明ということにもなりかねませんので目の保護は欠かせませんけど、それ以外は安全ですので」


「失明っ!! これはそれほどまでに危険なアイテムなのですか!?」


 実際に試してみてはどうかと作業用のゴーグルを取り出す僕にポーリさんが驚きの声を上げる。


「まあ、失明うんぬんの話は悪い条件が重なってしまった場合の話ですよ。

 でも、前にこれを食らったワイバーンがのたうち回って涙を流すくらいですからね。強力なものには変わりないと思いますよ」


 一例としてあげたその効果にティマさんが喉を詰まらせる。

 なんでも龍を泣かすという行為は、それだけで偉業と讃えられるものになるのだという。

 加えて龍の涙は特別な魔法金属の合成に使われる素材らしく、手に入れられれば一生遊んで暮らせるような富が得られるのだそうだ。

 ふむ、龍の素材はどんなものでも貴重なものだという話は聞いてはいたけど、まさか、涙にまで価値があるとは思わなかった。しかし、特別な魔法金属ってどんなものなんだろう?今度、ドラゴンが迷い込んできた時に試してみようかな。いや、ソニアに聞いた方が早いかな。

 僕は心の中でそんなことを呟きながらも、


「じゃあ、取り敢えずもう少し建物から離れましょうか。出来たばかりのキャンプ地に被害を及ぼす訳にはいきませんから」


 フレアさん達を連れてマリィさんとティマさんが対決していた平地からまた少し移動、万屋からもゲートからもキャンプ施設からも随分と離れた平地に陣取ると、さっそく実験の準備を始めるのだが、


「ここまでしないといけないのか?」


 魔法戦を行っていた地点から更に離れての実験と、さすがにここまで大仰な対応になってしまうと不安になってしまうのだろう。訊ねてくるフレアさんに、


「不安でしたら代わりに僕が実験台になっても構いませんが」


 唐辛子爆弾が敵に奪われた時なんかのことを考えると、僕も一度体験しておいた方がいいのかもしれないな。代わりに実験台になりましょうかと名乗り出るのだが、


「いや、これは俺達の世界に関わる問題だからな。他人任せにはできない」


「フレアがやるなら私もやるわ」


 フレアさんは自分達の都合だからときっぱり断り、ティマさんもフレアさんがそうするならと僕から保護メガネをひったくる。

 ああ、美しきかなパーティ愛。あくまで催涙スプレーの上位互換を試すだけなんだけど、異世界の人からしてみたら未知のマジックアイテムでしか無いからね。

 僕は二人のリアクションにくだらない妄言を思い浮かべながらも、フレアさん達の準備を確実に済ませ、およそ五十メートル。被験者であるフレアさんとの間に距離を置いて、


「ポーリさんはこっち側なんですか?」


 強制するつもりはないのだが、ここは全員が体験する流れなのでは?一人こちら側に残ったポーリさんに聞いてみると、


「私はチームの回復役ですから、もしもの時には私が二人を回復させませんといけないので、それに唐辛子爆弾の威力を客観的に見る人物がいなくてはいけないでしょう」


 どうもポーリさんは二人を生贄に自分は見学の立場に回るらしい。

 上手く逃れたなあ。意外としたたかなポーリさんの行動に僕はそんな感想を抱くが、仲間である二人が気付いていないなら部外者でも僕が言うことでもないかとひとり口を閉ざす。


「じゃあマリィさん。煙がこっちに来ないようにお願いします」


 僕のお願いをにマリィさんが継続的に微風を発生させる風の魔法を唱えてくれる。

 そして、もしもの時の為にと〈聖盾(アイギス)〉を使えるようにセットした魔法窓(ウィンドウ)を手元に浮かべ、


「いきますよ――」


 手を振って遠くで緊張する二人に合図を送り、唐辛子爆弾に魔力を込めて投擲。

 三秒の後、バシュッと静かな炸裂音と共に赤い煙が二人を包み込む。

 そして、それから十秒ほどの余裕を見て送る合図にマリィさんが微風の魔法を強風へとグレードアップ。

 ドス赤い煙が吹き流されたその場に残っていたのはのた打ち回る二人の男女だった。

 作業用ゴーグルを装備していれば少しは耐えられるのでは?なんて安易に考えていたのだけれど、どうも口や鼻から取り込まれた唐辛子成分が粘膜を焼いて二人を悶絶状態に追い込んでしまったみたいだ。

 しかも、一度咳き込むと際限なく藻掻き苦しんでしまうようで、苦しみに転げ回っている内にもゴーグルも外れてしまったようだ。今は「目がぁぁぁ」とお約束なリアクションでバタバタと地面の上を転げ回っている。

 と、そんな二人の有様を遠巻きに見てしまったポーラさんが呻くようにこう独りごちる。


「こ、これはなんと言いますか凄まじいアイテムですね。まさかどんな攻撃を前にしても怯まないフレア様がここまで苦しむことになるとは思いませんでした。これならば本当に黒雲龍をも撃退できるのかもしれません」


 他方、マリィさんはといえば、転げ回る二人を前に興奮したように僕の方を叩いてきて、


「虎助、この唐辛子爆弾もディロックと同様に万屋で売り出しますのよね。可能ならその前に(わたくし)にも融通してくださると助かりますの」


 購入理由は前にディロックを大量購入した時のように自衛の手段を確保する為ってところかな。


「でも、あんまりはしゃぐと危ないですよ。吹き飛ばしたとしても目に見えない微粒子が残ってたりしますから」


 一応、空気中の辛味成分はマリィさんの風で洗い流したものの、土などに付着した成分まで吹き飛ばした訳ではない。転びでもしてしたらフレアさん達の仲間入りってことにもなりかねないのだ。

 そんな注意をする僕の傍ら、エレイン君がディーネさんが住まう井戸の水を使い、土の浄化をしようとするのだが、


「アヅイ――」


「たひゅけて――」


 ついでのように水をぶっ掛けられたフレアさんとティマさんが、当社比にして三倍くらい勢いで激しくうち回る。

 そういえば、激辛料理を食べる時なんかには水を飲むと逆に刺激が増しちゃうんだっけ。

 たしか牛乳を一緒に飲めば辛さを和らげられるなんて話を聞いたことがあるけど……、転げ回る二人に牛乳なんてぶっかけたら、今度は臭いという意味で酷いことになりかねない。

 前に生首エルフにしてあげたようにポーションを大量投入してもいいけど、服に付いてしまった唐辛子成分がどう影響するかわからないか。

 ――となると、これしかないかな。

 僕が〈浄化(リフレッシュ)〉の魔法を唱えると、

 ――こっちは大丈夫みたいだね。

 焼けた鉄板の上に乗せられた海老のように跳ね回っていた二人が脱力したように動かなくなる。

 そして、ポーラさんが回復魔法をかけてくれたところでようやく落ち着いてきたようで、どこか遠くを見ながらもただただ座り込むだけの二人に声をかける。


「どうでしょう。もともと僕の世界にある防犯グッズを魔法で改造しただけなんですけど、これなら龍にも効果があるんじゃないでしょうか」


「…………そうだな。うむ――、俺はいいと思うんだが」


「……え、ええ、これならたぶん黒雲龍にも効果があるんじゃないかしら」


「後は弱ったところでこれを使えば――」


 そして僕はパチンと腰に装備していた解体用ナイフを鞘ごとポーリさんに受け渡す。

 と、それを受け取ったポーリさんは、鞘の隙間からほんの数センチだけ刀身を覗かせると目に魔力光を灯して、


「こ、これがドラゴンキラーですか」


「ありものですみませんが切れ味は保証しますよ」


 武器としては若干物足りないかもしれないが、これを使ってエレイン君達は龍の骨やら鱗やらを加工しているのだから問題ないと思う。

 ついさっきまでの二人のように転げ回る龍が相手なら十分にその威力を発揮してくれるのではないだろうか。


「といいいますか。虎助が使っていたそのナイフがドラゴンキラーでしたの?もしや万屋で売っている全ての解体用ナイフに対龍属性が付与されているとかいいませんよね」


「いえ、これは僕専用――といいますか、万屋の店員に配られるナイフですから、お店で売っているナイフとはまた違いますよ」


 ただ迷い込んでくる龍の素材なんかを片付ける手伝いとして、僕も龍素材が解体できるようなナイフが必要だったと言うだけだ。


「成程……。取り敢えず、そのナイフを私にも融通してもらえますか」


 取り敢えずって――ちゃっかりしてるなあ。

 調子のいいマリィさんのお願いに僕はそんな事を思いながらも、魔法窓(ウィンドウ)を開いて、万屋にいるベル君に、フレアさんに渡す唐辛子爆弾、そして、マリィさんが欲しがる解体用ナイフの注文を出すのだった。

 ◆ちょっとした補足・種族特攻の武器について


 今回、ちょっと出てきたドラゴンキラーですが、弱点の属性をつくものではなく、最近めっきり話題に上がらなくなってしまった、魔剣などに付与される呪いに近いもので、特定の種族に対して威力を発揮するのと引き換えに何かしらの欠陥を抱える武器という設定です。

 因みに今回虎助が渡した『解体用』のナイフは解体対象の血を吸い上げるというデメリット(龍の血は高級素材)を付与することによって、どんなに硬いものでも切り裂く切れ味を発揮するとなっております。(よって、非生物の解体には使えない)

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