突入作戦01
◆また目をやっちまいました。
少しの間、ストックを削って週一更新になりそうです。
現在時刻は午後七時――、
ベルタ王国国境付近ではそろそろ突入作戦が始まる頃合いだ。
現在アヴァロン=エラの作戦本部となっている工房にいま居るのは、僕とアビーさんとサイネリアさんだけである。
作戦の内容が内容だけに人死が出てしまう可能性が高いことから、元春と玲さんが不参加で魔王様はいつも通りゲーム中――、
マリィさんは突入作戦の始まりが現地で日が沈んだ少し後ということで、作戦の終わりがどれくらいになるのかわからないからと後ろ髪ひかれながらも帰っていった。
ただ、エルマさんの救出作戦の時と同様にライブ中継はするので、マリィさんには通信越しにて夜更かししない程度にお付き合い願いたい。
さて、そんな万屋側の一方で、現地の様子であるが、こちらはオールード公爵家が出した手勢と白盾の乙女を始めとした幾人かの冒険者、そして、アビーさんが作った獣戦士と銀騎士が、隠し砦から少し離れた崖沿いに掘られたトンネルの前に集結して、全体の指揮を取る将軍からの合図を今か今かと待ちわびていた。
ちなみに、このトンネルは、一ヶ月以上前から問題の地下施設に潜入しているスパイによってもたらされた――正確には先に放ったネズレムによって情報を手に入れていたのだが――、遺跡の中には一部崩れている場所があるとの報告から、セリーヌさん自らが領内の土魔法の使い手を掻き集め、突貫工事で作ったものである。
そんなトンネルを少し入った場所にあるちょっとした作戦指揮のスペースでセリーヌさんとはお別れだ。
彼女はこのトンネルの入口に陣取り、通信系の魔法を使える魔法使いを介して各所と情報を交換し、銀騎士を通じて領から派遣されたこの一隊の指揮を取るというということになっているのだ。
ただ実際は、好き勝手な動きをしかねないアビーさんや勝手しそうな他領の兵士の動きを、施設内のネズレムから送られてくる情報を元に上手く誘導するという役割が本命であって。
「思ったよりもしっかりした作りのトンネルだね」
『魔導士達が頑張ってくれましたから』
二人並んでも余裕で通れるトンネルを数キロに渡り、突貫工事で作るとなると、相当な苦労があったことが忍ばれる。
そんなトンネルを早足に十五分ほど進むと岩で塞がれた行き止まりに辿り着く。
この岩は土の魔法で作られたハリボテで、重し代わりに入れられた水を抜けば簡単にどかせるようになっているのだが、この岩をどかす前に、まずは壁の向こうの気配のチェックしなければならない。
何故なら、この岩の向こうは遺跡の端の崩れかけた一角になっており、組織のチンピラが度々サボりに使っている場所になっているからだ。
白盾の乙女のココさんを始めとした冒険者が壁の向こうの気配を伺う中、突入の準備を始める兵士達。
そうして、壁の向こうに誰も居ないことを確認したところで、岩の中の水を抜き、冒険者と兵の一部が崩れかけた部屋の中に足を踏み入れると、そこには酒瓶やら食べ物カスが散らばっており、兵士達は鼻をつく異臭に顔をしかめながらも、セリーヌさんからの連絡を待つことに――、
すると数分後、この部屋につながる通路の先から、なにやら騒がしい声が聞こえてきて、
『始まりましたか』
『音が近づいてきているっすがどうするっす?』
『セリーヌ様――『みなさん、突撃の合図が下りました』』
部屋の外を伺うココさん達にエレオノールさんが銀騎士越しにセリーヌさんの指示を仰ごうと声をかけたところ、これに被さるようにセリーヌさんからの突撃指令が下り。
微妙に締まらない作戦開始になってしまったがご命令とあらば動かなければならない。
『じゃあ、手筈通りにいくっすよ』
まずはココさんともう一人の冒険者が頷き合って通路の先にフラッシュバンを投げ込む。
すると、入り口の近くに陣取る兵士や冒険者が耳を塞ぎ。
数秒後――、
耳を劈く音と光が通路の先から溢れ出し、すぐに悲鳴が聞こえてくる。
次に動いたのは先に準備を済ませていた兵士達だった。
彼等はフラッシュバンで動けなくなった者達に近づくと、あらかじめ用意してあった特殊な手枷で倒れた者達を捕えていく。
そうして、部屋の前の通路を確保すると、その先でも人の気配を感じる度にフラッシュバンを使っての制圧を繰り返し、近隣のエリアを掌握すると、捕縛者の運び出しを行い、さらに施設の奥へと歩を進め。
『この通路の先は我々の担当ですね。そちらの制圧は任せても』
『無論です』
目的の闘技場へと進む分かれ道まで辿り着くと、領兵を預かる隊長に断りを入れて通路を急ぐ。
そうして、メンバーが獣戦士と白盾の乙女だけになったタイミングでココさんが『はぁ』とため息を吐き出し。
『ようやく楽に出来るっすよ』
『ココさん。任務中ですよ』
『わかっているっす。
けど、ああいうお硬い人達とのやり取りは疲れるんすよ』
このココさんの言葉はエレオノールさん達も思うところがあるようで、苦笑をしたり、うんうんと頷いたり、それぞれの反応を見せながら走っていると、半開きになった大きな扉が通路の奥に見えてきて、
『私達は獣戦士の後についてけばいいのよね』
「はい。そのまま闘技場に入って戦っている二匹の魔獣を討伐し、そのまま裏に回ってバックヤードを制圧するという流れになりますね」
『うぇ、闘技場の中に魔獣がいるんすか』
そう、ネズレムの視界から、闘技場の観客はすでにいなくなっているが、見世物になっていた魔獣は戦いを続けていることが確認できている。
『決着がついてから突入じゃ駄目なの?』
「素材が勿体ないから却下だよ」
「これ重要」
リーサさんの確認に対する二人の反応に苦笑するのはエレオノールさんだ。
『それで、いま戦っているのはどんな魔獣なのです?』
「運営の紹介によると蛇王ジアコッツァと進撃のスカーレットホーンとのことなんですけど、これはサンドサーペントの変種とフレイムブルホーンの大きいヤツですね」
前述の大仰な二つ名は運営側がつけた名前だろう。
実際は意外と地味な名前の大型の魔獣で、
「素材としてはどっちも悪くはないんじゃない」
「特にサンドサーペントの変種が気になるね。
通常種には見られない足があるみたいだから、どんな体の構造になっているのか調べないと」
そんな欲求に駆られてか、先頭を走っていた獣戦士が速度を上げて闘技場に突入。
すると、そこは闘技場というよりも映画館というイメージの場所で、段々になっている客席の先に立派な鉄格子で隔離されたバトルフィールドがあって、件の組織はここで人や魔獣を戦わせるようだが、
「一歩間に合わなかったか」
「みたいだ――」
「みなさん獣戦士の後ろに回って!!」
アビーさんとサイネリアさんの会話に割り込むように僕が声を張り上げた瞬間、鉄格子の向こうにいた大蛇が大きく開けた口から毒液が飛ぶ。
それを間一髪、手を広げた獣戦士が受け止め。
『結界があるんじゃなかったの?』
『魔力を込める者がいなくては効果を発揮できないのではないか』
これはアヤさんの予想で合ってるんじゃないかな。
「ゴーレムじゃなかったらやられちゃってたね」
獣戦士は浄化の魔法を発動。
銀のボディにぺっとりついたやや黄色みがかった毒液を綺麗にすると。
「まずは檻の中に入らないと――」
マジックバッグから取り出した風のディロックで檻の一部を破壊し、その中に入ると、追いかけてきた白盾の乙女のメンバーに向けて一言。
「まずは気になる足から採取して行こう」
アビーさんとサイネリアさんが操る獣戦士がその爪で――、
白盾の乙女のみなさんはそれぞれの武器で――、
サンドサーペントの胴体にくっつく不格好な四本の足を切り裂き、マジックバッグに回収していく。
ちなみに、今回の任務にあたり、獣戦士および白盾の乙女のメンバーには、素材を多く確保してもらうべく空間系の力を持つ魔獣の革を使ったものを貸し出しているから、大きなサンドサーペントの足の収納も簡単で、
これで一つ、攻撃手段を奪えたのかと思いきや、切られたそこからすぐに新しい足がすぐに生えてくる。
『うっわぁ、もう復活したの』
「凄い再生力」
「これがずっと続くなら素材が取り放題になるんだけど」
「必要以上にエネルギーを消費させちゃうと全体的な素材の質が落ちるかもしれないから、残念だけど取り放題は出来ないね」
少なくとも素材が含む魔素の濃度はかなり下がることが予想されるので、ここは足を狙わず倒すしか無いと、アビーさんとサイネリアさんがそれぞれ攻撃と移動を分担して首を取りに行くのだが、サンドサーペントも二つ名を持つくらい闘技場での戦いを勝ち抜いてきた猛者である。
「ここっ!!」
性能にあかせた獣戦士の攻撃は軽く透かされて、反撃の尻尾攻撃を受けてしまうが、この攻撃は移動を担当していたサイネリアさんがなんとかリカバリー。
受け身を取って体勢を立て直し。
『アビゲイル様。一人突出は危険です』
「ごめんね。
つい、気が逸っちゃって」
アビーさんが獣戦士の状態をチェック。
大したダメージが入ってないことを確認すると、ここは素直に――、
「どっちにしても相手の再生力を考えると一撃で倒さないのだから、みんなフォローをお願いできる?」
『了解しました』
『仕方ないっすね』
『アンタも油断しないの』
『来るぞっ!』
アビーさんが白盾の乙女に協力を願うと、彼女達はサンドサーペントの吐いた毒液に散開。
まずはココさんが投げナイフでサンドサーペントの片目を狙い。
サンドサーペントは瞼を閉じてこれを防ごうとするが、ココさんのナイフは魔鉄鋼製のナイフである。
硬い鱗で覆われたサンドサーペントの瞼を貫き、『SYAaa――』とかすれた悲鳴が闘技場に響き渡り。
「ちょっと、危ないじゃない」
リーサさんが滅茶苦茶に振り回される極太の尻尾に文句を言いつつも風の防御魔法をバラ撒いて、エレオノールさんが構えた白い大盾でサンドサーペントの尻尾を受け止めると、飛びかかったアヤさんがその剣でサンドサーペントの尻尾を地面に縫い付けて。
『アビゲイル様』
「わかってるよ」
ここまでお膳立てされれば、後は狙い定めて首を斬るだけだと獣戦士が突撃。
こんなこともあろうかとプログラムしておいた回転斬りで喉を削り斬ればサンドサーペントももう再生できない。
「血が、血が勿体ない」
首を切られたことによって噴出した血を慌てて樽で回収する獣戦士の背後で、サンドサーペントはひっそりとその生命を枯らすのであった。
◆次回投稿は日曜日の予定です。




