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●ある冬の夕暮れ

◆今回は途中で視点が変わる二本立てのお話になっております。

 こたつにみかん。

 それは正しく冬の風景だった。


「相撲を見ると冬って感じがするよな。これってなんなんだろ」


「冬の方が家に帰る時間が早いからじゃない」


 こたつに寄りかかりテレビを見る元春に、みかんを剥きながら応じるのは玲さんだ。


 個人的にはテレビの相撲中継に季節感を感じることはないのだが、元春の場合は帰宅時間が関係しているんじゃないと思うのだが――、

 と、そんな僕の意見に玲さんがみかんをモムモム食べながら納得したように頷き、元春が、


「しっかし、子供の頃は相撲とか見てもスッゲーつまんなかったけど、いま見ると普通に見れるんだよな。謎だぜ」


「仕切りの前の流れがわかってるからじゃない。

 あと、誰が誰とかわかるから」


「そういや昔はみんな同じに見えたもんな。

 今でも対して変わんねーけど」


 とはいえ、有名な力士なら顔と名前が一致するもので、

 その中で贔屓の力士でもいれば、相撲は一気に面白くなってくる。


「優勝争いもそうですけど、応援している力士が勝ち越せるかも面白いところですの」


 マリィさんが指摘する番付に関わる悲喜交交も子供の頃にはわからなかった楽しみの一つだろう。

 そんなまったりとした空気の中、ふと映った客席に元春が聞いてくるのは相撲観戦で定番のおつまみのことだった。


「そういや玲っちって、そら豆って皮剥く派? そのまま食べる派?」


「あれって剥くのが普通なんじゃないの?」


「そのまま食べる人もいるらしいっすよ」


「ペペロンチーノ風にするなら皮付きのままでも美味ですの」


「さすが領主様、おしゃれな食べ方してる~」


 これは僕が以前トワさんから大量の空豆をいただいた際に、代わりにと調べたレシピの一つで、軽く塩ゆでした空豆をニンニクと唐辛子とオリーブオイルで炒めただけの簡単料理だ。


「そういや、あそこに出てる空豆って国技館の地下で作ってるんだよな」


「あれ、それって焼鳥じゃなかった?」


「そだっけか」


 これは確か玲さんの記憶が正解だった筈だ。


ちな(ちなみに)、みんな焼鳥といえば何が好き?

 俺は定番のモモ肉をタレで焼いたヤツかな」


「……つくね」


「わたしは無難に胸の塩」


「ああ、おっぱいがおっきっ!?」


 と、レイドバトルをしながらの魔王様の呟きに続く玲さんの回答に、元春がまた余計なことを言って、こめかみをレーザーで焼かれたところで、マリィさんが、


「しかし、あのタレは本当によく出来ていますわね。(わたくし)達も領にあるもので同じようなものを作ろうと挑戦しているのですが、なかなか思うようなものが作れていませんの」


「リンゴとか使えばいいんじゃない」


「リンゴですか?」


「そそ、焼鳥とは違うけど、焼肉の時に使ってるタレあるでしょ。

 あれって半分近くがリンゴだとかって話をどっかで聞いたような気がするんだけど」


 有名なあのタレですね。

 実際、りんご以外にも桃とか梅とかが入っているなんて話を聞いたことがあるから、フルーツを使ってなにかしらのタレを作るのは、いいアイデアなんじゃないだろうか。


「しかし、リンゴですか」


「そういや、マリィちゃんトコって果物とかは作ってないんだっけ。

 なんか寒いところはりんご作ってそうなイメージだけど」


 ガルダシアは高原になるから、りんごが取れるイメージがない訳でもないけど。


「そもそも(わたくし)達の感覚からしますと、果物というのは森に入って採るものになりますの」


 ワインを作る為のブドウ園はあるというが、あれは蔓性の植物だからということもあるのだろう。

 一部、貴族家や教会などでは敷地に数本の果樹を植えているところがあるそうだが、大々的に作っている地域はないそうで。


「ガルダシアで果樹園やってみますか」


「ですわね。土地が余っていることですし」


 カイロス領との間を繋ぐトンネル内では乾物を販売しているから、ドライフルーツを作れば、新たな収入源となる。

 とはいえ、地球から苗を持っていくのは環境への影響が心配なので、できれば現地で見つける方向で、

 とりあえずサンプルさえあればアヴァロン=エラで増やせるから、周辺で原生している木を持ってきて植樹することで話はまとまり。


「しっかし、そんな話をしてっと塩タンが食いたくなってきたぞ」


「普通の焼肉じゃなくて?」


 もしくは焼鳥。


「いや、俺ってタン塩が好きじゃん」


「そう、それなら前に倒したアステリオスのタンでも持って帰る?」


 アステリオスというのは、以前倒したミノタウロスの上位種で、

 その舌が捨てるのも勿体ないとまだ工房の冷凍施設で保管してあったのだ。

 アステリオスの討伐には元春も関わっているし、それなら持って帰れると僕が聞くと、元春は少し驚いたようにしながら。


「食えるのか?」


 アステリオスが二足歩行の魔獣だけに気になる部分もあるのだろうが、すでに一部部位は食べている上に、


「スキャンとかしたけど、普通に食べられるみたいだったから、そのつもりで保管してるけど」


「それなら適当に持って帰っか」


「わかった。

 じゃあ、エレイン君に持ってきてもらうから」


 僕がさっそく工房に連絡を取っていると――、


「肉をお土産に持って帰る高校生って――」


「僕達からするとわりとよくあるパターンなんですけどね」


 玲さんは呆れたようにするけど。

 例えば、ブートキャンプの帰りに大場さん達から鹿肉を持たされたりとかいうのは、僕達からするとよくあることであって、


「大場さん?

 なんか聞いたことある名前だけど」


「修学旅行の時に駆けつけてくれたおじさんですよ」


「ああ――」


 ちなみに、あの時はいろいろとお世話になったので、お歳暮は奮発して(?)ウチで作った蟹の巨獣カルキノスの缶詰を送っておいた。

 と、そんなことを話していると工房からアステリオスの舌が届いたみたいだ。


「普通に焼肉屋で出てきそうな感じになってんな」


「いや、ドンと舌を出されても千代さんが困っちゃうから」


 さすがに料理上手の千代さんでも、そのままの舌を渡されても料理するのは難しいだろうと、エレイン君にすぐに食べられるように加工してもらったのだ。


「それで、これ冷蔵庫に入れておく?」


「いや、いい時間だし、そろそろ帰るわ」


「帰り道、気をつけなさいよ」


「ハハッ、美人痴女ならいつでもウェルカムっすよ」


「まったく、あんたは一回、車に撥ねられるくらいが丁度いいんじゃないの」


   ◆


 それは虎助達が焼鳥・焼肉の話をしていたのと同じ頃――、

 夕食前のまったりした時間に燦が魔法窓(ウィンドウ)を介して相撲中継を見ていたところ、それに気付いた肉体派の魔女達が集まってきて、


「サン、熱心になにを見てるんだい?」


「相撲ですよ。

 ちょうど初場所がやっていましたので」


「これっていつ始まるの?」


「立ち合いまでの流れとか理解していないと、なにをやっているのかわかりませんよね」


 取り組みまでの流れを知らなければ、いつ取り組みが始まるのかがわからない。

 そんな、アメリカの同僚達に燦が懇切丁寧に取り組みまでの流れを説明していると、十秒とかからずついてしまった勝負に一人の魔女が聞いてくる。


「呆気なく終わるのはなんなんです。

 勝てないと思って力を抜いた?」


「いまのは立ち合いの当たりで、負けた力士の腰が完全に伸びちゃってましたね」


 あっさりとした土俵内容でも、実は回しの取り合いや力の抜き差しなど、一瞬の内にさまざまな駆け引きがあったりするのだが、こればかりは実際に体験してみたり、知識を身に着けたりしなければわからないこともある。


 だからという訳ではないのだが――、

 いや、燦としては、肉体派の魔女達に相撲の面白さを知ってもらうには、実際に体験してもらった方が早いと考えたのかもしれない。


「そういえば〈ティル・ナ・ノーグ〉に河童のデータが入っていた筈です。

 興味があったら戦ってみてはどうです?」


「河童?」


「日本のマーマンですよ。相撲が好きで勝負を仕掛けてくるんです」


「なんだい、その珍妙な魔獣は?」


「ええと、ほら、西部の亡霊――、

 あれと同じようなものですよ」


「ああ、あの早打ちジャンキーか……」


「わかったようなわからないような」


 結界魔法のような力を使い、特殊なルールを強いてくる魔獣というのは少なからず存在するものだ。

 この河童もその類の存在だと、燦は手持ちのインベントリから〈ティル・ナ・ノーグ〉のアプリを立ち上げ、対戦相手のリストの中から訓練の時に見つけてあった河童を選択。

 魔女達が休憩をしていたすぐ横のスペースに円形のフィールドが出現したところで「誰かやってみませんか」と声をかける。


 すると、魔女達は顔を見合わせた後、まずは肉体派魔女の急先鋒である副工房長のジニーが「じゃあ、あたしがやってみるよ」と展開されたフィールドの中に入ったところ、反対側から中学生くらいの半魚人が現れて、フィールドの中央まで歩み出ると、そこに引かれた二本のラインの片方の前でしゃがみ込み、軽く握った両拳をそのラインの上に乗せる。


「なんか、ちっこいのが出てきたねえ」


「見た目で油断しない方がいいですよ。河童は本当に厄介な相手なんですから」


「それで、これからどうするんだい?」


「いま彼がしているように、その線に手をついたらバトルスタートです。

 ちなみに、手をつかずに攻撃したら尻子玉を抜かれてしまうので気をつけてください」


「尻子玉?」


「なんて説明したらいいんでしょう。

 マジックハンドを使ったア●ルへのフィストフ●ックで魔力の塊を抜く技ですか?

 これを抜かれると、数日間、腰が抜けて立ち上がれなくなります」


 燦の口から次々とまろび出た不穏なワードに顔を引き攣らせる周囲の魔女達。


「フィストフ●ックって……、

 それ平気なの?」


「あくまで魔法的な処置ですから実害はありませんよ」


「けど、魔力の塊を抜くって」


「そちらももあくまで一時的なものですから」


 ここまで聞けばホッと一安心――してもいいのかわからないのだが、とにかくルール違反はご法度だと理解したジニーは燦に言われた通り、仕切り線に手をついて、

 次の瞬間、「うおぉぉぉおお!?」と困惑の声ごと土俵(バトルフィールド)の外まで押し出されてしまう。


「狙ったような電車道ですね~」


「電車道?」


「いまみたいな相手に何もさせない圧倒的な勝ち方をそういうんです。

 ほら、足を擦った後が電車のレールみたいになってるでしょ」


 納得する一同の一方、やられたジニーの方はいまの勝負に納得がいかなかったのか。

 すぐにリベンジを申し出て、とある魔法を発動する。

 それは、土を纏い防御力を上げる魔法であり。


「ああ――、副長ずっこい」


「攻撃しなきゃ魔法もOKだろ。ルール違反なら仕掛けてくるって話だし」


「というか、使わないと相手にならないですから」


 そう、そもそも河童との勝負は魔法などの強化ありきのものなのだ。

 それは一瞬ではあるものの、実際に体をぶつかり合わせたジニーにはわかっていることで、ついさっきまでのおどけた態度を改め、睨みを効かせて仕切り線に手をついて発気揚々(はっけよい)

 頭からぶつかりにいったジニーに対して、河童は胸を張ってそれを受け止め。


「今度は互角?」


「いや、ジニーの方が上だ」


 一歩、二歩と先程の逆を見せるようにジニーが前に出るが、小さな河童は土俵際まで押し込まれたころで腰を捻り、ゴツゴツとした岩を全身に纏ったジニーを土俵(フィールド)の外へと投げ捨てる。


「綺麗にうっちゃられちゃいましたね。

 みなさん見ましたか、ああいういなしが地味に見えて難しいんですよ」


 見た目ではあっさりとついてしまった勝負をそう解説。

 あっさりとついてしまった勝負の中にも、しっかりとした相撲の技が隠れていることをご満悦な様子で解説する燦であった。

◆次回投稿は水曜日の予定です。

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