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エルフのその後

 それは学校から帰ってしばらく、僕と元春がそれぞれの仕事を済ませて魔王様とゲームをしていた時のこと――、


「そういえば、前に調べた馬車から行方不明になったっていうエルフの子供はどうなったん?

 あれから結構たったけど」


「……見つかってない」


「それってもしかして――」


「それなんだけど……、

 前に話した血の魔法が反応しているから、その子供が死んじゃったとかそういうことこななってないとは思うよ。

 ただ、なんか同じところをクルクル回っちゃうみたいなんだよね」


 元春がふと思い出したように下質問に対し魔王様の説明では言葉足らずだと、僕が妖精飛行隊のみなさんから届いた報告を何枚かの魔法窓(ウィンドウ)で開きながら答えると、それを手元に引き寄せたマリィさんがその情報に目を通し。


「状況としては迷いの結界の効果を受けているといったようですの」


「天然でそういう場所だったとか?」


「妖精のみなさんが調べた限りではそういう話はないみたいですね。

 なので、行方不明になったエルフの子供が何かしらの力に目覚めたか、精霊を始めとした特別な力を持った何かに匿われているとか、そういった方向で予想しているんですけど」


 その世界――というよりも、周辺地域のエルフに対する精霊の心情を鑑みると可能性としてはかなり低いものの、魔王様がそうであったようにそのエルフの子供も精霊にも何かしらの特異点があり、保護されているという可能性だって無い訳ではないのである。


「んで、どうするん?」


「……探すのはそのまま」


「前にも言ったと思うけど、エルフの子供が消えた現場にリドラさんが居たから、エルフ集団が夜の森の外苑に顔を出すようになったみたいだから、放置も出来ないんだよね」


 今までの結果から、エルフが迷いの結界を抜けて森の中に入ってくることはないと思われるのだが、関与を疑われ、周囲をうろつかれるのは魔王様達にとってあまり気持ちのいいことではないということで、行方不明になったエルフの子供については早く見つかって欲しいという事情があるのだ。


「だから、いま魔王様の拠点にいる精霊の誰かに現地に行ってもらおうって話になってるね」


「しかし、それは大丈夫なのでしょうか?

 ボロトス帝国は精霊も狙っていたのではありませんでしたの」


 うん、さすがはマリィさん、いい気付きである。

 しかし、これには一応の対策があってだ。

 僕とアクアやオニキスのように、正式に契約を結んでカードに宿ってもらえば、わりと簡単に精霊のみなさんも隠密行動をすることが出来るからと、いま魔王様の拠点ではその相性を見てもらっているところで、


「……みんなでご飯食べたりとか、ゲームをしたりお出かけしたりしてる」


「なんか、それだけ聞くと合コンみてーだな」


 語弊があるけど、やってることはあまり変わらないのかも。


「それで現地の方はどうなってるの?」


「ボロトス関係者は一部が近隣に残って、いったん報告に戻るみたいです。

 ただ、エルフの集団はむしろ増員しているようで」


 ボロトス帝国の一団は当初、この失態をなかったことにする為に周辺の捜索を必死でしていたみたいなんだけど、数日、森の中を駆けずり回っても逃げたエルフの子供を一人も見つけられず、逆に大人のエルフに何度も襲われ、食料も少なくなってきたとあらば意地を張ってもいられないと、その大半が処罰覚悟で帝国ん戻るようで。

 一方、襲撃側であるエルフの集団は、森での活動はお手の物と森の中に簡易的な拠点を作り、そこから周囲を捜索しているようで。


「相手が精霊だったらエルフパワーで見つけたりとかできねーの?」


「いまのエルフは精霊との関係はあんまり良くないみたいだから」


 精霊達の姫巫女である魔王様を忌み子として夜の森へと捨ててしまった影響はことのほか大きかったみたいだ。

 もともとエルフと共に暮らしていた精霊の大半が魔王様が放逐されると同時にエルフの前から消え、その後、エルフは精霊達と交流することが出来ていないのだという。


「しっかし、マオっちんトコの周りって面倒な奴等ばっかだよな」


「ボロトス帝国が大きな国だから」


「そうなん?」


「地球でいうところのアメリカとか中国とかロシアとか、そんなイメージをしてもらうとわかりやすいかな」


「それは確かに大変かも」


 これまでの動きからもわかるように、ボロトス帝国は周辺国に戦いを仕掛けて略奪して大きくなっている国だけに、国土面積は広く、夜の森の外苑の半分がその国土と接しているくらいには大きな国になる。

 そして、残りの三割が海に接していて、それとはまた別に外苑の森の一部にエルフ達が暮らしているとなると、どこからの干渉にもとらわれないというのは難しく。


「夜の森ってのは思ってたよりも厄介な場所にあるんな」


「マオも苦労をしていましたのね」


「とはいえ、夜の森とその外縁がかなり広く、魔獣なんかの住処になっているようなので、そこまで問題になってないんですよね」


「……ん」


 実際、ボロトスのように奴隷を使い潰すか、エルフのように精鋭を送り込まない限りはなかなか森の深部まで辿り着けないことを考えると、おそらく三人が想像しているよりも夜の森は平和な場所であって、

 ただ、森から一歩、外に目を向けた場合、どうしてもボロトス帝国かエルフの集落に引っかかってしまう立地という事実は変わらずに。


「でも、そういうことなら、わざわざ関わらないって手もあるんじゃない?」


「それなんですけど、妖精飛行隊のみなさんが張り切っているのと、ヤンさん達が自分達の身の上とそのエルフの子供達を重ねている部分があるようでして」


「そういえば、ヤンのおっちゃんとかって、もともと帝国の奴隷だったんだっけか」


 魔王様の境遇からエルフに対しては思うところはあれど、子供で奴隷となれば放ってはおけないと、それは魔王様も気になるところのようで。


「なので、精霊との契約者が決まり次第、リドラさんが現地まで送ってくれるといった運びになっているんです」


「あら、そうした役目はヴェラ様がしていたのではありませんの?」


「ヴェラさんは今、レーヴァの子育てにかかりっきりですから」


「例の幼龍ですか、ならば仕方がありませんわね」


 そう、ヴェラさんはいま子育てに忙しく、拠点から離れられないのだ。


「しかし、そうなりますと目立たずに現地に人員を派遣するのは難しくありませんの?」


「……大丈夫。ソニアにリドラの鎧を改造してもらった」


 それは転生龍帝を名乗ったシャイザークの問題を解決すべく龍の谷へと向かう前に作った鎧である。


「リドラ様の新しい鎧ですか、気になりますわね」


「……写真に撮ってあるから見る?」


「お願いしますの」


 前のめりなマリィさんのお願いに、魔王様がいろんな角度から撮った鎧姿のリドラさんの写真を表示していく。


「これは、荘厳さと流麗さを併せ持った素晴らしい鎧ですわね」


「てか、この鎧、若社長の真似してめっちゃ叫びたい感じの見た目だな」


「……チェルトヴカがやってた」


「誰だっけか、それ」


 ポーズ付きで魔王様が真似してみるのに首を傾げる元春。


「元春は見たことないんじゃないかな」


 ちなみに、チェルトヴカさんというのは魔王様の拠点に暮らす一人で、元春もたぶん名前を知らないだけなんだと思うけど。

 名前と顔が一致したら、また面倒なことになりそうなので、僕は「ふーん」と鼻を鳴らす元春の気を逸らすようにパンと手を叩いて。


「これならリドラさんだってバレることは無いんじゃない」


「たしかに、これなら騙されるよな」


「なにより、龍種であられれるリドラ様に鎧を着ていただくなんて発想がまずないでしょうから」


 そもそも龍種と遭遇することすら滅多にあることではなく、そんな龍種が全身鎧を身に着けているなんて状況はなかなか考えられることではないのである。


「そもそもリドラさんがしてくれるのは送り迎えだけで、森に直接乗り込む訳ではありませんから、実際そこまで気にしなくてもいいんですけどね」


 今回は特に人の目が気になるということで、行きは人の目が届かない空の上から飛び降りる形で乗り込んで、帰りはリドラさんが待機している合流地点まで移動する予定なので、リドラさんが上空を通過していく際に、たまたま索敵能力に優れた人物が空を凝視していないでもない限り、リドラさんが見つかる可能性などそうそうないのだ。


「しっかし、これ、子供のエルフが見つかった時はどうするん?」


「それはケースバイケースなんだけど、出来ればこっちは顔を出さずに、森に残っているエルフのところに誘導して引き合わせるよう出来ればいいんだけど」


 だから、もし表に出るとしても精霊のみなさんでくらいで、


「それが一番無難よね」


「下手に関わると逆に疑われかねませんし」


「いっちゃ悪いかもだけど、マオのところのエルフって結構ヤバくない」


 まあ、この夜の森の外苑に暮らすエルフ達の性格については、劣悪な奴隷制度があるボロトス帝国が近隣にある所為で、余計に排他的になってしまったという事情もあるかもしれないが、魔王様にした仕打ちなどを考えると庇えるようなものではなく。


「なにかあったら言ってください。こっちでもいろいろ考えますから」


「……ん、ありがと」

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