敵の幹部と戦ってみよう
荒野に生えた氷の柱を切り裂き迫るのは、儚げな少年。
僕はそんな少年が突き出した鋭く長い爪を掴んで空中に放り投げ、着地するかしないかのタイミングを狙って、手元の魔法窓から氷の散弾を発動。
無数の氷の礫が少年に襲いかかるのだが、少年は長く伸ばした爪を地面に突き刺し空中に留まることで、僕が撃った氷の散弾を回避。
爪を切り離すと地面を蹴って僕に迫り、再び生やした鋭い爪で襲いかかってくるも、僕はその攻撃に誘引の魔力を乗せた後ろ回し蹴りでカウンターを合わせる。
すると、相手の腹部に突き刺さり。
続けてもう一方の足でさらに蹴りを当てていこうとするのだが、さすがにそこまで綺麗に決めさせてくれないようだ。
少年は蹲るようにその場にしゃがみ込み、僕の蹴りをやり過ごすと、すかさず飛びかかってくるのだが、僕はこれに氷筍の魔法を使うことで対抗。
その発動速度から地面から突き出す氷の槍こそ当てることはできなかったが、少年の足元を崩すことはできたようだ。
つんのめる少年の顔面を思いっきり殴り飛ばし、ヘソ天させてしまえば後はどうとでもできる。
とはいっても、嬲る趣味はないので、僕は足を使って氷原の魔法を使い、相手を簡単に建てなくすると、素早くマウントポジションを取り、さっくりナイフを胸に突き立てて止めを刺して、空中にWINの文字が表示されたところで、目の前の少年が砕けて消えて。
「さすがマスターです」
「データ不足なところがありますから」
さて、僕がアヴァロン=エラの荒野で魔女のみなさんに見守られ、何をしていたかというと、魔女のみなさんが戦ったというハイエストメンバーとの模擬戦だ。
ブックマスターとの実戦の後、次におぼえる魔法の参考にと、届けてもらったデータを使って超能力者との戦いみなさんに見てもらっていたのだ。
ちなみに、いま倒したのは、先日ジョージアさんの腹心の一人であるジニーさんが戦ったという超能力者で、
ハッキリした能力は不明なのだが、僕が戦った群狼や母さんが戦ったというハイエスト幹部のように、獣人化能力を持っているのではないかというのがその見立てである。
ただ、その一方で、この相手は格闘が素人のようであり、落ち着いて対処すれば案外簡単に対処できるかとアドバイスをしたところ。
「素人ですか」
「はい」
もしこの相手が、なにかしらの武術を収めていたのなら、こうも一方的には戦えなかっただろう。
「しかし、それを対抗手段とするとなると、参考になりそうなのはジョージアさんくらいでしょうか」
「自分も格闘自体は素人のようなものなのですが」
北米支部のみなさんは接近戦を好む方が多いのだが、それはあくまで自己流の技術であって、ジョージアさんから僕のようには出来ないという応えが返ってくるのだが、僕が見る限り、魔女のみなさんの格闘技術も魔法的な儀式かなんなのか、ベースとなる動きはしっかりあると見て取れる。
だから――、
「みなさんの場合、すでに確固たるスタイルがあるでしょうし、幾つか基本的な技を幾つか教えて、後は実戦をこなした方が強化に繋がるんじゃないでしょうか」
例えば雷の魔法を主軸としたバトルスタイルであるジョージアさんの場合、今から新しく武術を学んでもらうよりも、いまのスタイルの中で使える他の武術の型を教え、それを使った立ち回りをおぼえてもらった方が強化につながるだろうと、格闘が出来そうな魔女さんには、早朝の訓練に加わってもらうなりで、さらなるパワーアップを図るとして、逆に魔法主体の魔女さんは――、
「スプラッシュ系の魔法を渡したみなさんなら、いまのままでも十分対処できるかと」
とりあえず、いまの相手なら水の散弾で足を止めて、まわりを取り囲んでしまえばなんとかなるからと、簡単な攻略法を教え、半信半疑のみなさんを送り出したところで、
「あの、私達はどうしたらいいでしょう」
遠慮がちに手を上げるのは、ジニーさんを中心とした石柱などの壁系の魔法をおぼえてもらっている魔女さん達だ。
しかし、彼女達へのアドバイスもそう難しいことはなく。
「いま、僕が氷筍でやったみたいに石柱で相手の足元を崩してやればいいんじゃないですか」
「だけど、相手のスピードだと、相手に魔法を当てるのは難しいんじゃないの――ですか?」
「いや、確実に当てる必要はないんです」
中途半端に迫り上がった壁に足を取られでもすれば十分で、勢いによってはそのまま突っ込んでくるなんてパターンもあるかもしれないが、そうなったらそうなったで追撃チャンス。
倒れてきたところに膝を入れたりとかと、僕が実際に動きながら対応策を教えたところ。
「それって、私達にも出来るんでしょうか」
不安げに聞き返してくる燦さんだ。
たしかに、燦さんはあまり運動ができるタイプには見えないが――、
「でしたら、こう杖を前に突き出すのはどうでしょう?」
これは相手がどれだけ体勢を崩しているかにもよるのだが、勢いさえあれば、そこに杖を置いておくだけでもかなりのダメージになると、そんな助言をしている間にも、先に送り出したみなさんは上手く立ち回ってくれたみたいで、
「パターンに入ったようですね」
「なんかすごいことになってる」
僕に促され、魔女のみなさんが向けた視線の先には、周りを囲まれ、水のスプラッシュを浴びせられる小柄な青年の姿があり。
「これは圧倒的ですね」
「実際にはこうなる前に逃げられたりすると思いますけど、いまやっているのはあくまで戦闘シミュレーションですから」
〈ティル・ナ・ノーグ〉の設定上、敵は常にプレイヤーに向かってくるからこそ、このような状況になってしまった訳で、
本物ならこうなってしまう前になんらかの対策を打ってくるだろうけど。
「効果があることがわかっただけでもよかったです」
とはいえ、こういった状況は他のデータと連動させ、プログラムを複雑化させれば解消されることだからと、本物を抑え込むにはここから更に何かしらの作戦が必要だと付け加え。
「そろそろ決着が付きそうですね。ウォール系がどれくらい効果があるのか、メンバーを入れ替えて試してみましょう」
「頑張ります」
続いて、燦さんを筆頭に、今日までの訓練で壁系の魔法を無詠唱で使えるようになったメンバーをばかりを揃えてバトルスタート。
燦さん達は僕のアドバイスを受けて戦いに挑むのだが。
「やられてしまいました」
「善戦はしたじゃないですか」
さすがに防御魔法を上手く使うだけでは、あの超能力者に対抗できないか。
しかし、敵のスピードに慣れさえすれば、壁を斜めに生成したりして、攻撃の手として使えばなんとかなるかもしれないと、追加の助言を送りながらも話題は進み。
「問題は今日までに使えるようになった魔法に、どんな魔法を組み合わせるのかということですが」
「とはいっても、石柱を使う私達は散弾系の魔法、一択じゃないですか」
「それなんですけど散弾系の魔法は風と水以外だと殺傷能力が高いんですよね。下手に扱うと味方にも被害が出かねませんから」
使えないことはないけど、できれば自分の適性にあった魔法が使いたいという要望は当然のことで、
しかし、そうなると相手を殺してしまう危険があったり、フレンドリーファイアの問題が出てきてしまい。
「後、地面関連の散弾は少し癖がありまして」
その場にあるものを使う方が魔力効率がいいと下位の魔法には、その場に存在する物質を使う傾向があって、土属性のスプラッシュは殺傷能力こそあまり高くはないものの、その魔法は発動させた場所に影響を受けてしまうのだ。
ただ、こればっかりは見てもらわなければわからないと、サクッと万屋でダウンロードしてきた〈地散弾〉の魔法式を地面にセット。
踏みつけるように発動して見せると、爆発するように前方へと飛んだ土の散弾を見たみなさんが――、
「たしかにこれは癖がありますね」
「しかし、使えないことはないんじゃないかい?」
「それがこの魔法、地面の材質によって効果が微妙に変わってくるんです」
そう、この魔法は地面の材質によって威力は勿論、効果までもが変わってくるのだ。
「ちなみに、地面じゃないところでこの魔法を使ったらどうなるんです?」
この質問に関しては、とりあえずコンクリートやアスファルトでも発動することはわかっている。
ただ、場所によっては想定しているよりも殺傷能力が高くなってしまったり、例えば、木の床だったり金属で敷き詰められた場所は発動事態が不可能という難があったりするのだ。
「それと、この魔法を使うと地面が荒れてしまうので、集団で戦う場合は注意が必要ですね」
「まあ、その辺は石柱でなれてるからね」
と、最後に付け加えた問題に関しては、地面系の魔法を得意としているジニーさんなんかには今更な注意であるようで、最終的な結論としては各自に判断を任せるという結論になったみたいだ。
◆今回、虎助はあえて発動速度や狙いの正確さ、多様な弾種の使い分けを捨てて、自力で衝撃の魔弾を使っています。




