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ノーチラス二号

 日曜日、アビーさんとサイネリアさんの手を借りて、エルマさんの為の潜水艇を作っていると、そこに元春が玲さんを連れてやってくる。


「おっ、やってんな~」


「思ったよりも小さいかも」


「前もこのくらいだったっすよ」


「そうなの?」


 玲さんははじめて見る潜水艇のサイズがイメージしていたよりも小さいことに驚いているようだけど、これでも船の中には十分な広さがあって、しっかりした居住空間が備えられているのだ。


「しかし、これってもう殆ど完成してるんじゃない」


「見た目的にはほぼ完成してますけど、いま僕が塗っている魔法の塗料も、あと何回か重ね塗りしないといけませんし、システム周りの調整に関してはまだまだですから」


「それでも作り始めたのってあの作戦の後でしょ。早すぎない?」


 たしかに、玲さんの言うように、本格的に潜水艇を作り始めたのは今週になってからのことなんだけど。


「潜水艇を犠牲にするのは決まってましたから、先に部品の製造を始めていたんですよ」


 エルマさんの救出に当たり、証拠隠滅も兼ねての潜水艇を破壊することは事前に決まっていた。

 だから当然、その代わりが必要になることはわかっていた訳で――、


「内装に関しましてもこれまで散々作ってきましたからね。今回は潜水艇の中ということで少し特殊ですけど、エルマさんの使い勝手を考えながらも逆に楽しく作れましたよ」


 僕が笑顔でそう言うと、好奇心をくすぐってしまったか、

 ソワソワしだす玲さんに、僕が「乗ってみます?」と訊ねると、玲さんは「いいの?」と言いながらも心配そうに横を見るのは、元春がまたなにかやらかすと思っているからだろう。

 しかし、潜水艇の完成にはまだ時間が必要で、いま何かを仕掛けたところで意味がないと、僕はペンキ(魔法薬)を入れたバケツに蓋代わりの板を乗せると、刷毛を浄化の魔法で綺麗にして、組んだ足場から二人を船の中へとご招待。


 そうして入った船内では、アビーさんとサイネリアさんが幾枚もの魔法窓(ウィンドウ)に囲まれ、プログラムに追われていて、潜水艇のサイズが小型ということで多少手狭に感じてしまうが、僕と元春はともかく他の三人は小柄なタイプなので、船の内を見て回るのにあまり不自由はなく。


「へぇ、潜水艦の中ってこうなってるんだ」


「実際のそれとはまた違うと思いますけど」


 潜水艦関連のデータに関しては、集められるだけ集めて参考にさせてもらってはいるが、それら機械式の潜水艇と万屋で作る魔法式の潜水艇とでは操作系統がまったくの別物ということで、実際の潜水艇とは船内レイアウトが違ってくるのは当然なのだ。


「それでこれ、どうやって動かすの?

 窓も運転席も見当たらないんだけど」


「ネズレムなんかを動かすのと同じで魔法窓(ウィンドウ)を使うんですよ」


 視界の方も完全にカメラ経由のものであって、操作方法として一番近いのは蒼空だが、基本的な移動はほとんど座標指定の自動操縦で動かせるようになっているのだ。

 ただ、緊急時の対応として潜望鏡が付けてあり、物理的な浮上システムとスクリューと舵を使った操作が出来るようになっていて。


「けどよ。向こうでただ移動するだけってんなら普通に船とかでもよかったんじゃね。また今回みてーなことにもなりかねねーし」


「それなんだけど、状況によってはエルマさんにこっちに来てもらうことになる可能性もあるから、この形にしたんだよ」


「えっと?」


「ほら、エルマさんのところからこっちにくるには掃除屋に飲み込まれないといけないでしょ」


 これは最終手段になるのだが、状況によってはエルマさんにこのアヴァロン=エラに来てもらう必要性が出てくるのかも知れなくて、転移にはダンジョンの掃除屋と呼ばれる巨大なクジラに飲み込まれなければならないのだが、その際、普通の船だと安全性に問題があるということで、今回もまた潜水艇の形にするということになったのだ。

 ただ、元春の懸念も当然のことであって――、


「これを船に見せかけられる仕掛けも用意しているんだけどね」


「船に見せかけられるって、もしかして変形とか?」


「ううん、いま考えてるのは幻影かな。魔法窓をスクリーン代わりにして映像を貼り付ける感じ」


「それだと触られたらアウトじゃない?」


「あくまで遠目から誤魔化せればいいだけですから」


 どこかの港に停泊することも視野に入れるなら、元春のアイデアも悪くないと、何故かやる気になっているアビーさんとサイネリアさんを気にしていると、元春がなんの気なしに手近にあったカーテンを開き。


「ここはトイレか――って、そういや前の船にはなかったよなトイレ」


「実はそれでエルマさんが困ってたみたいだから」


「前はどうしてたんだ?」


「簡易トイレか、外でしてもらってた」


 簡易トイレというのは、いわゆる災害対応などで使われる折りたたみのもので、外でというのは甲板の隅っこに作られた足場を使ってしてもらうというものだ。


「大海原に向かって放尿とか、興奮するな」


「いや、そこはちゃんと隠せるようにしてあったからね」


 さっきのヒントになったことだが魔法窓をマジックミラーのように使って、元春は『それはそれで――』とか『そういう使い方もあんだな』と妙に興奮していたのだが、僕達はこれを完全に無視をするというよりも、まだ建造途中の船内で魔法の暴発事故(OSHIOKI)があっても困るということで、玲さんの気を逸らすように、僕はいま話題の中心となっているトイレの目隠しカーテンを手にとって、


「ちなみに、そのカーテンの手前の布を外してここにつなげると――」


「「ハンモック」」


 二つ折りになっていた布が寝床に早変わりするのだ。

 実はこれもエルマさんが困っていたそうなのだが、海の中を移動中、船が大きく揺れた時に床で寝るのは辛いようなのだ。

 海の中も深いところを進んでいれば揺れは少ないみたいなのだが、この潜水艇は木製な為、そこまで深く潜れずに、海の荒れ具合によっては船酔いが酷くなってしまうみたいで、こうして対策を取ったというわけだ。


「ここでエルマっちが寝んのか」


 従魔達かもしれないけどね。


「なあ虎助、ちっと寝っ転がってもいいか」


 元春は出来上がったハンモックに色んな意味で辛抱たまらなくなってしまったようだ。

 僕の了承を待たずにハンモックに突撃。

 アビーさんとサイネリアさんもこういった物理的なギミックは知らされていなかったのか、「単純だけど考えられた仕掛けだね」と感心したようにしていたのだが。


「玲さんはいいんですか?」


「ハンモックってくるんってなりそうで怖そうじゃない」


「わざと端っこに乗ったりしなきゃ平気っすよ」


 玲さんが言うシチュエーションはありがちな失敗である。

 だがしかし、このハンモックはゆとりを持った作りにしてあって、極端な端に行かなければそういうことにはならない筈だと説明すれば、玲さんも気になっているのは確かなようで、

 元春が降りた後、玲さんがハンモックを体験することになって、僕と元春がハンモックの両端を押さえる中、玲さんが慎重にハンモックの上に寝転がり。


「悪くはないけど、寝返りが怖いかも」


「一応、このソファがベッドになって落ちても安全なようになってるんですけどね」


 僕が手をかけるのは船体後部の壁際に設置されたソファ。

 この座る部分を引っ張り出すことによってベッドの代わりになってくれるのだ。


「つか、こんなんがあるなら、ここで寝ればいんじゃね」


「だから揺れが気になった時にこっちを使うから」


 まったく元春は話を聞いてないんだから。

 ハンモックはあくまで船酔い対策で、普段はこっちを使ってもらうのだ。


「ちなみに、折り畳んだ状態のハンモックにフックと袋を引っ掛ければ棚代わりにも出来たりするだけど」


「DYIチャンネルみたいになってきてんな」


 参考にしたからね。


「しっかし、こういうの見ると、なんか自分でも作りたくなってくんな」


「それ、なんとなくわかるかも」


 はしゃぐ元春に手を合わせる玲さん。


「ただ、やる場所がな~」


「それならトレーラーハウスでも改造してみたら、あそこなら好きにしていいし、材料もエレイン君に言えば用意してくれるから」


 その後、元春と玲さんがそれぞれのトレーラーハウスを改造していくことになるのだが、それはまた別の話。

◆次回投稿は水曜日の予定です。

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