一夜明けて
◆今回は前回の事後報告的お話です。
エルマさんの救出から翌朝――、
いつものように早朝訓練やらお店の商品チェックをした後、学校に行くべく準備をしていると自宅のチャイムが鳴る。
ドアを開けるとそこにはコンビニ袋を片手に通学カバンを背負った元春が居て、挨拶もそこそこに義姉さんと母さんの所在を確認してくる。
みんなまだアヴァロン=エラで朝食を食べていると教えると、安心して家に上がりこんで、途中で買ってきたというサンドイッチを食べながら聞いてくる。
「ラファが逃げたところでお開きになったけど、あの後どうなったん?」
「ラファにはエルマさんの警備に戻ってもらって、今はお休み中だよ」
監禁中に受けた尋問の回復にエリクサーを使ったが、基礎的な体力など衰えてしまった部分は治せない。
今は用意していたパン粥なんかを食べてもらって、体力の回復に努めてもらっているところだ。
ちなみに、帝国の兵士達がエルマさんの隠れている場所に気付いている気配はいまのところなく、技術院にスパイが忍び込んだというのを名目に、帝都内の下町を中心に捜査を行っているみたいだ。
それから、技術院や帝城に潜ませているモスキートから送られてきた映像を見る限り、帝国のお偉方は帝国と因縁がありそうな組織の関与を疑っているらしく。
「エルマっちの調子はどうなん?
薬とか飲まされてたんだろ」
「そっちは今のところ安定してるかな」
そもそも薬の影響はアヴァロン=エラで魔力を上げたおかげか、かなりの部分で抵抗できていたようで、心配するほどの重症でもなかったみたいだ。
「しっかし、飯に薬を混ぜるとか、帝国エグ過ぎんだろ」
「覇権主義的な国みたいだからね」
効率重視なのかなんなのか、肉体的拷問がまだされていなかっただけ、まだ良かったとしか言うしかないかな。
「んで、こっからどうするんだっけか?」
「もともとエルマさんが行こうとしていた運河の向こう側に逃げるのが当面の目標だね」
問題がなければエルマさんにはこのまま帝都を脱出してもらって、人里離れた海岸から海に出ていただくつもりだ。
ただ、救出作戦の揺動に潜水艇を壊してしまったので、海に出る前に一度レオにアヴァロン=エラに戻ってもらって、改造手術を行った上で新しい足を始めとした物資を渡さないといけないから、そちらの準備もしておかなければならないだろう。
ちなみに、今度作る船は逃げ足と隠密に特化したものになる予定で、今回のように変に相手に狙われないように、しっかりとした偽装も施すことになっている。
「しっかし、あの六将の二人はちょっと期待外れだったよな」
「そう? 結構強かったと思うんだけど」
「確かにそりゃそうかもだけどよ。なんかもっとこうあるだろ。
漫画とか、ああいう状況で急に超強キャラが出てきてピンチになったりするとかあんじゃん」
うん、元春の期待もわからないでもないんだけど現実を見ようよ。
実際問題、救出作戦の最中に突然そんな強敵が現れたら、まあ見ている分には盛り上がるかもしれないが、被害者当人としては洒落にならない。
「ただ、帝国のトップは結構厄介な人かもしれないんだよね」
「そうなん?」
「ちょっとこれ見て」
僕が開くのは例の戦いの後、帝城で撮られた映像で――、
◆
『耄碌したかよ爺さん』
『戦っていた敵を取り逃がした貴様に言われたくないな』
『ジジィ――』
『止めよ』
『だ、大総統』
『例の船を壊されたそうだな』
『それにつきましては誠に申し訳なく』
『構わん、相手もやるのだろう。
それよりも今後のことだ』
『それにつきましては警備第一隊が王城を――、
第二・第三隊が内門内を固め、残りを族の捜索に出しております』
『ショキアは襲撃があると考えておるのか』
『破壊された例の船を調べたところ、破壊に使われた魔法は外から内へと向けられておりました。
そして連れ去られた女は我が国の転移魔法陣でどこかに飛ばされたことを考えますと――』
『ボロン連盟か』
『その可能性は高いかと』
『わかった。諜報に回る人員を増やせ。今度こそ彼奴らを我が聖剣の錆にしてくれるわ』
◆
「これこれ俺はこういうのを待ってたんだよ。
いかにもな強キャラで聖剣使いって、もしかしてエクスカリバーさんの同僚とか」
「それは無いと思うよ。
なにせ、この人が持ってる聖剣がエクカリバーなんだから」
正式名称はカレドヴールッハとなるみたいなのだが、調べたところ地球でもエクスカリバーがそのように呼称されることがあるらしく。
「つまりどゆこと?」
「伝説級のアイテムとか名前が被ることはよくあるから」
これもシンクロニシティと呼ばれる現象になるのだろうか?
魔獣などが顕著であるが、世界をまたいで同じような存在に同じような名前が当てられることはままあることで。
「どっちにしても国で一番偉い人がエルマさんを探す為に出てくるってことはないでしょ」
「わからんぜ。
昨日ラファが六将の二人に勝ってたじゃんか、コイツが国で最強なら、あの二人が勝てないなら俺がって出るってパターンもあるんじゃね」
まあ百歩譲って、例えば戦場の只中とかなら、それもあり得たかもしれないが、前提としてエルマさんとラファは言わばただの逃亡者。
その追跡に大総統が駆り出されることはまずあり得なく。
それに大総統が気にかけていたのは潜水艇そのものであり。
「帝国も面倒な相手がいるみたいだから」
「ああ、ボロン連盟ってヤツ?
なんなんこの組織?」
と、この元春の質問に関しては、僕――というかラファ――も詳しく調べた訳じゃないからハッキリしたことは言えないが、
「簡単に言っちゃうと秘密結社とかそういうのかな」
「おお」
『秘密結社』という中二心をくすぐる単語の登場に元春がテンションを上げるのはいつもの病気として、帝城内での評判をまとめるに、このボロン連盟という組織は、地球でいうところの〇〇過激派とかいうような集団のようで、基本的に関わり合いになりたくないタイプの人達であって。
「こっちとしては帝国がその組織の関与を疑ってるなら潰し合ってくれると助かるかな」
「……黒虎助が出ちまってるぞ」
「だけど最終的に平和を考えるのなら、それが一番かなって」
「マジでか」
実際、帝国も連盟も形は違えど他者の犠牲に上で成り立っている組織だから、エルマさんの平穏を考えるのなら、それが最良だと思うんだよね。
しかし、ただの一個人がそんな大きな戦況を回せる筈もなく。
「なんにしても、変に疑ってくれるならエルマさんとしても助かるだろうから、なんか証拠っぽいものが残せたらいいんだけど」
「おっ、そりゃあなんか面白そうだな」
「元春もなんかいいアイデアとかあったらまた教えてよ」
「おうっ、任されろだぜ」
◆ちなみに、帝国の事情については本筋とはまったく関わりがない為、おそらく投げっぱになります。
◆次回投稿は水曜日の予定です。




