表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

724/847

救出準備と移動拠点

 魔女のみなさんを迎え入れた翌日、エルマさんの救出準備が完了したということで救出作戦を決行することになった。

 しかし、そうはいっても作戦決行にはタイミングがある訳で――、


「えっ、すぐにやんじゃねーの?」


「さすがに、この時間に突入っていうのはないでしょ」


 時刻は現在、午後四時過ぎ。

 逢魔が時で注意力が散漫になる時間帯といえば悪くないタイミングかもしれないが、今の時間、現場近くの帝城にはまだまだ人が多く残っているのだ。

 余計な被害を出さない為にも作戦は人の少ない時間帯にやることが望ましく。


「それに、いまの通信状況だと事前に指示をするのが精一杯だから」


 僕はリアルタイムで見る予定だが、通信に少なくないタイムラグがある以上、救出作戦の判断は現地のラファに任せるしか無いのである。


「そういうことなら仕方がねーか。

 んで、逃げた後の予定とか決まったん?」


「うん、大体はね。

 とりあえず牢を脱出した後は帝都地下の下水道で暫くほとぼりを冷ましてもらうつもり」


 さすがに東西数十キロにもおよぶ帝都の中心部にある施設から、外壁の外までトンネルを伸ばすのは難しいので、エルマさんには体を休める時間も必要だと、脱出した後はしばらく帝都の地下に潜んでもらうつもりである。


「それってなんかすぐに見つかりそうだけど」


「そこはミスリードや隠蔽工作をしっかりしますから」


 元春に続き、玲さんの心配は尤もだが、エルマさんを牢屋から救出した後、ラファが単独で地下から街へとわざと逃げる様を帝都の警備兵に見せることで捜索範囲をミスリードして、追っ手の目を誘導した上でエルマさんにはしばらく潜伏してもらい、落ち着いたところで隙をつき王都を脱出というプランである。


 とはいえ、計画はあくまで計画なので、投入される兵の数や状況に応じて、他にも作戦を用意してあって。


「それで逃げた後はいかが致しますの?」


「もともとエルマさんが予定していた通り、運河を抜けて帝国の勢力圏から抜けようと思います」


「上手くいくの?」


「その為の準備もしていますから」


 とりあえず帝都からの脱出後、もう一体の亀型ゴーレムであるレオをこちらに呼び戻し、その改修や役に立つアイテムを運んで貰うつもりだ。


「運河を抜けた後はどうするん?」


「手頃な無人島を見つけて、開発できればっていいかなって思ってるけど」


「夢だな」


「……ん」


   ◆


 さて、そんなこんなで午後九時――、

 地球に住まう僕達にとってはまだ早い時間帯ではあるのだが、照明器具が高価な世界では、この時期としてはかなり遅い時間帯となるだろう。


 エルマさんが閉じ込められているのは、帝国内で最高の研究機関が集まる帝国技術院。

 湖を望む丘を切り開いて作られた帝都北西にある大小五つの建物群がそれである。

 その地下にある監禁部屋に工業区の下水道から掘り進めたトンネルが繋がっている。


「後は時間との勝負ってところかしら」


「はい」


 ちなみに、この時間まで万屋にいるのは玲さんだけで――正確に言えば、工房に置いてあるトレーラーハウスに母さんと義父さん、義姉さんがいるのだが、三人はエルマさんとの面識がなく――元春や他のみなさんはライブ中継を飛ばしているので、通信越しに見ているのかもしれないが。


「じゃあ、始めます」


 といっても、こちらからは作戦開始の合図を出すだけであって――、

 ただ、通信の関係で十数秒のタイムラグがあり。


 緊張感漂う中、静かな時間が過ぎていき、まずは複数ある中継先の一つ、大きなドックのような場所で調査が行われる潜水艇が動き出す。


 まずは潜水艇に搭載されている爆発力の高い魚雷魔弾を内向きに発射させ、潜水艇を自爆させる。

 一応、潜水艇の武装ということで、周囲に被害が出ないよう、タイミングや効果範囲など、細かく計算はされているが爆発は爆発だ。

 多少の巻沿い事故が発生してしまったようだが、死者は出ていないようなので許してもらいたい。


 すると、とつぜん爆発した潜水艇に現場は大混乱。

 施設の人員がその爆発現場に集中したタイミングでラファが動き出す。


 エルマさんの牢のすぐ真下まで繋がっていたトンネルから、ラファが僕の使っているものと同じ、解体に特化した巨大ナイフで、エルマさんが監禁されている部屋の床をくり抜くと部屋の中に侵入し、薬などの影響からぼーっとしているエルマさんに無理やりエリクサーを飲ませ、強制的に正気を取り戻してもらったところで、こちらからはリアルタイムでメッセージが送れないので、あらかじめ録画しておいた映像で状況を説明。


 すると、エルマさんはわけがわからないながらも、最初に僕からの挨拶があったおかげか、それともまだ薬の影響が残っているのか、意外と素直にその映像をしっかりと見てくれているようで、

 ただ、内容が二匹の獣魔に及んだところで一気に意識が覚醒したのか、画面に向かって矢継ぎ早の質問が飛んでくるのだが、このタイミングで黒ずくめの集団があらわれる。


 これに、エルマさんは従魔が無事であると知らされた直後ということもあってか、顔面蒼白になってしまうも、ソニアによって改造強化を施されたラファからしてみると彼等などものの相手ではなく。

 肩に取り付けられたアームから各種状態異常が付与された魔弾を連射。

 相手がどうなったのかを確認するよりもエルマさんの安全確保が最優先だと、エルマさんを小脇に抱えるようにトンネルへと戻り、出口を破壊、事情などの説明は流れる映像に任せて、狭い穴を進んでいく。


 そうして移動すること百メートル程、ここで魔法によって偽装された脇道へと入ると、待ち構えていたモグレムが穴を崩し、若干まだ戸惑いが残っているエルマさんに装備を変えてもらう。


 ちなみに、その装備はワイバーンの革を使った防具とフード付きの風のマント、僕も装備している空歩などが付与されたスニーカー一式というラインナップになっている。


 そして、着替えの前に発信機などの有無をチェックをするのだが、エルマさんの両手を繋ぐ枷がその検知にヒット。

 ただ、この手枷に付与された効果は後で使えるとラファが判断したみたいだ。

 その機能を壊さないようにその手枷を外して、エルマさんには着替えてもらうのだが、

 前述の通り、この映像は元春にも配信されているので、ラファはいったん通路の先の警戒に動いてもらう。


 すると、先に下水道の様子を見た玲さんが「あれ」と少し驚いたように語尾のトーンをあげ。


「意外と綺麗じゃない?」


「下水といっても場所柄、しっかりした浄化施設が備えられているようですから」


 そう、ここは帝城に隣接する研究施設の地下になる。

 勤め人のほとんどが貴族などの上級国民に該当することも手伝ってか、浄化設備がしっかり備え付けられているようで、下水道そのものもかなり綺麗になっているのである。


 そんな解説を挟んでいる間にもエルマさんの着替えが終わったみたいだ。

 ラファが振り返りエルマさんを呼び寄せ、ここからは別行動。

 いま回収した発進機能付きの手枷を持ってラファが囮となっている間に、エルマさんには待機していたもう一体のウミガメ型ゴーレム・レオの先導で、帝都東の地下に作った仮の拠点に移動してもらって、しばらく体を休めてもらうのだ。


 そこで、ラファが用意するのはデッサン人形を大きくしたようなマジックアイテム。

 これは万屋(ウチ)でも扱っている荷運び用のフライングボードを改造したもので、これに先ほど回収した手枷を付けて、マントを被せればエルマさんがラファに連れられ逃げていると偽装ができるのだ。


 ラファは申し訳無さそうにするエルマさんと別れて下水道の出口を目指す。


「これで引っかかってくれればいいんですけど……」


「発信機みたいなのはこっちにあるんだし、あんたのことだから他にもなんかしてるんでしょ」


「ですね」


 とりあえず、エルマさんのマントには認識阻害の効果がついていて、レオに大量のフラッシュバンを持たせてあるから、もしも敵と遭遇しても、ある程度は撃退できると、そんな僕の解説に、玲さんから「いや、むしろ普通に逃げられるんじゃない」と呆れられてしまうのだが、相手には六将なんて人達もいるから油断は出来ない。


 すると少しして、そんな心配がフラグとなってしまったか、ラファの視界を写し出すカメラにかすかな魔力光が映り込み、横殴りの衝撃が加えられる。


「なに?」


「追手です。

 転移系の魔法みたいですね」


 魔法窓(ウィンドウ)に表示されたラファの周辺状況を知らせるログを見るに、急に五人の敵が現れたみたいだ。


「転移って、そんなことできるの?」


「いまはまだ帝城からもそんなに距離が離れていませんし、発信機を頼りに転移すれば難しくないかと」


 国や世界をまたぐような転移ならまだしも、数百メートルという距離での転移なら、適性さえあればそれなりの使い手でも使える魔法もあるだろう。


「でも、なんかすっごいんじゃないコレ、逃げ回りながら魔弾の連射とか、なんかロボットゲームみたい」


「これでも手加減してると思いますよ」


「そうなの?」


 その証拠にエルマさんの監禁部屋では簡単に沈めていた黒ずくめの者達がまだ追いかけてこれているのだ。


「たぶんラファの狙いは相手の誘導に従って囲まれることかと」


 そんな予想をしている間にも逃走の場は下水道の外へ。

 そこは下水の処理施設か、淀んだ水溜められるプールが幾つも並んだ場所で――、


 ラファが下水道から飛び出したタイミングで打ち上げられる光の玉。

 そんな光に照らし出されるのは、プールを取り囲むように並ぶ、重そうな全身鎧を身に着けた兵士達や杖を構えた魔法使い達。

 そして、指揮官に当たる人物だろうか、周囲より豪華な鎧を装備した騎士がメガホンのようなものを口に当て『貴様は包囲されている――』などとお決まりのセリフを飛ばしてくる。


 しかし、ラファの勢いは止まらない。

 腰に引っ掛けていた牽引ワイヤーを引き寄せて、エルマさんに見せかけていた人形を横抱きにすると一気に加速。

 追いかけてきた黒ずくめを置き去りにして、等間隔に並んだプールの上を走り切ると、肩に備え付けられたオプションアームからから衝撃の魔弾を放ち、行く手を塞ぐ兵士を吹き飛ばすと、殺到する魔法を無視して、併設する建物の壁を蹴り、施設を取り囲む塀を飛び越えそのまま施設の外へ逃れようとする。


 だがしかし、そこに切り込んでくる一人の男。


 髪の毛を中央にまとめて編み込んだ珍しいヘアースタイルに濃褐色の肌、シンプルな長剣を使うその男は大剣豪。

 そんな大剣豪の一閃をラファは文字通り身を削るダッキングでくぐり抜け。


『相手はゼハルトだけではないぞ』


 放たれる豪炎。


『おいおい、邪魔するなよ爺さん』


 軽口を叩く大剣豪が見上げる夜空に浮かぶのはローブ姿の老人。


『邪魔などしておらん』


 大剣豪と大魔導師、二人は言い合いのようなことをしながらも、連携してラファに挑みかかってゆく。


「なんかすっごいね。普通に見たら絶体絶命の大ピンチなんだけど」


「ラファはまだ余裕だと思いますよ」


 そもそもラファはエルマさんを模した人形を腕に抱いた状態で戦っている。

 そんな状態にも関わらず、相手の攻撃を受け流しているのだ。

 これを余裕と言わずしてなんというか。


「でも、これからどうするんだろ。

 相手の目を引くっていうなら、これでもう十分でしょ」


「そうですね。僕ならこの辺りで一番面倒そうな魔導師を倒して逃げますか」


「剣豪じゃなくて?」


「剣での攻撃なら逃げながらもでも避けられますけど、後ろから範囲攻撃を撃たれるのは嫌ですから」


 僕と玲さんがこの後のラファの動きを考察していると、ここで大剣豪の攻撃がはじめてヒット。

 その反動で大きく後ろに下がったラファが一枚の魔法窓(ウインドウ)を展開。

 一枚の魔法陣を自分の足元に描き出す。


『換送転移の魔法陣じゃと!?』


 驚くのは大魔導師。

 すると次の瞬間、ラファの足元に描き出された魔法陣から目も開けられない程の閃光が放たれ。


『逃がすな』


 光が収まったそこに剣を交えるラファと大剣豪。


「えっと、いまの何?」


「たぶん下水道で黒ずくめの連中が現れた時に見た魔法式を魔法窓(ウィンドウ)に映して見せて、光で見えなくなっている間にマジックバッグに収納したんだと思います」


 そう、ラファは転移魔法の類は使っていない。

 ただ、相手が使ってきた転移魔法の魔法陣を逆手に取って、エルマさんを転移させたように見せかけ、その実、ただの人形をマジックバッグの中にしまっただけなのだ。


 このラファの妙手に画面の向こうが慌ただしく動き出す。


『いまの術式ならおそらく遠くには飛んでない筈じゃ。ここはお主に任せる』


『しゃーねーな』


 逃亡者が消えたことに慌てた大魔導師が戦線離脱。

 大剣豪がラファに踊りかかったところで、目的はほぼ達成したかな。


 後は良きところで唐辛子爆弾でも使って逃げれば大丈夫だろうと僕が言うと、玲さんは『うわぁ』とラファと大剣豪が激しい戦いを繰り広げ始めたモニターに気の毒そうな視線を向けるのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
↓↓↓クリックしていただけるとありがたいです↓↓↓ 小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ