バーガーショップで雑談
ブルートゥースを名乗る集団との一悶着の後、僕達は近くのファーストフード店にやって来ていた。
「志帆姉なんだって?」
「僕達が狙われるとかならいいけど、ひよりちゃん達が狙われたら殺すしかなくなっちゃうから、仕事の前に一回〆ておくって」
テーブルの上のハンバーガーセットを前に電話を切る僕を見て、聞いてくるのは元春だ。
義姉さんが言うには、ブルートゥースなる輩には心当たりはないそうだが、僕達以外の知り合いが狙われた場合、抑えが効かなくなってしまうから、その前に一回叩いておこうって考えみたいだ。
「こりゃ死んだな。
てゆうか、半殺し?」
「迷惑な奴等だったしいいんじゃね」
「うーん、でも、今回は義父さんとお出かけだから手加減がなさそうなんだよね」
「おっ、十三さんまだこっちにいんの?」
「うん、成人式の後、義父さんと一緒に八百比丘尼のことを調べに行くんだよ」
成人式が終わった後、義姉さんは義父さんと一緒に調査に出かける予定になっている。
友達や後輩が心配なことは一番にあるが、義父さんが大好きな義姉さんとしては、久しぶりの親子水入らずの時間を邪魔されたくないのだろう、出発の前にきっちり決着をつけておこうという算段のようだ。
こうなると、僕達の中で先の一件はすでに終わったことという認識となってしまい。
話題はさらっと他に移って――、
「八百比丘尼ってなんだったっけか?」
「人魚のヤツだろ。不老不死の」
関口君、正解だ。
「なんでそんなの調べてるんだ」
「そこにロマンがあるから?」
「何で疑問形なんだよ」
さすがに、本人らしき人物を見つけたとはいえないので、年末で仕事が一区切りついた義父さんが、義姉さんがたまたま見つけてきた古文書にあった人魚伝説の調査を計画し、それに義姉さんが飛びついたという嘘の流れを説明。
「そんで何かお宝が見つかりそうなのか?」
「義姉さんなら何か見つけてくれそうじゃない?
まあ、知り合いの教授もいろいろバックアップしてくれてるみたいだから、お宝の発見っていうよりも、歴史的な発見って方向かもしれないけど」
ちなみに、その教授というのは各地から集めた資料を分析してくれていた魔女の一人である。
ただ、その魔女さんも彼女達が運営する学校法人で、実際に教授職についているということで、この説明はまったくの嘘というわけでもなく。
「へぇ、トレジャーハンターってのはそういうことにも協力してるんだな」
さて、それはどうなんだろう?
本来のトレジャーハンターがどういうものなのかがよくわからないから、一概にそうとは言い切れないが、以前にテレビ番組かなにかで、偉い学者さんも一緒にお宝を探していたのを見たことがあるから、中にはそういう繋がりを持っている人も居るのではないか。
「で、儲かってんの?」
「儲かってる儲かってないってことなら、儲かってるね」
行き当たりばったりなんだけど、なんだかんだでお宝を見つけてくるのが義姉さんだ。
「儲かってるってどころの騒ぎじゃねーだろ。今年だけでいったら十三さんより儲けてるし」
「マジ。俺もトレジャーハンター狙うか」
ポテトを一口、天井を見上げる水野君。
「いやいや、お前がやったらすぐに素寒貧だっての。あれは志帆姉だから出来てんだよ」
「ああ、志帆さんってそういうイメージがあるわ」
「根っからの主人公体質って感じだよな」
ヒロインではなく主人公ポジションっていうところがミソである。
そもそもトレジャーハンターをはじめて数ヶ月で魔女を連れ回し、その遺産のようなものを探すなんてこと、義姉さん以外に誰が出来るだろうか。
「しかし、そんなに儲けてるなら話題になりそうなもんだけど」
「ないない。
志帆姉ってそういうの好きじゃねーし、トレジャーしたモンも虎助んトコや十三さん経由で買い取ってるみたいだし」
義父さんの手前、表に出すことはないが、子供の頃にあったアレコレから、義姉さんには無遠慮なマスコミにアレルギーがあったりする。
そんな義姉さんの事情を知っている水野君と関口君は複雑な表情で元春の意見に納得し。
「そういや虎助のバイト先って骨董とかそういうとこだったっけか」
「なんでも買います~♪って感じのな」
「それを言うなら『貸します』だろ」
「だけど実際そんな感じだぞ」
これは元春の言う通りだ。
ウチの場合、店に至る方法が特殊なので、お客様の状況によっては、たとえそれが殆ど価値の無いものだったとしても、お金に変えなければならない状況も起こり得てしまうので、可能な限り、出されたものは買い取るようにしているのだ。
とはいえ、そんな事情も二人には話せないので、簡単に店の方針だと説明をすると、ここで水野君が「うーん」と腕を組み。
「どした?」
「ん、ああ、俺もなんか売れるもんないかなってな」
「お金ならバイトで稼いだんじゃ」
さっきも少し話題になったが、水野君と関口君は冬休み中、魔女のみなさんのお店でバイトをしていた。
だから、いまのところ懐が温かいんじゃないかとそう思っていたのだが、
「お前、売り子さんに声をかけられて、全種コンプリートしてたもんな」
「あのコスプレはエロかった」
そういえば年末、みんなで東京に行ったついでに有名な即売会に立ち寄ったことを話していた。
それに東京までの交通費に数日間の宿泊費、すべてを合計するとバイト代が吹っ飛んでいてもおかしくはないのか。
「それに元春の手伝いはアタマヨクナールを買うのに消えるからな。春休みのことを考えると――」
みんな休みになるとお出かけするからね。
行き先にもよるとは思うんだけど、多少はお金を持っておきたいっていうのは当然か。
「なんか心当たりとかあんのか?」
「納屋を探せばなんかあっかも」
「それって勝手に処分しちゃっていいものなの」
「ずっと置きっぱだから平気だろ。
それにあそこにあるのは俺等や親の趣味の残骸だし」
こちらとしては買い取る側なので、処分してしまっていいものなのかしっかり確認してみたのだが、納屋に置いてあるのは、かつて家族が趣味として集めていたものばかりで、その殆どが二度と使わないものということで、荷物を処分できるのは逆にいいことじゃないのかというのが水野君の言葉である。
「けど、どれがどれっくらいで売れるかだよな」
「一応、出張買取もやってるけど」
「そういうのって、結構金がかかんじゃね」
「ウチはタダでやってるよ」
この出張買取は義姉さんに呼び出されるってのが殆どなのだが、たまに魔女さん絡みで例の配送所に出向くことがあるのである。
「だったらちょっち頼もうかな」
「わかった。家の人の許可が取れたら僕に言ってね。買い取りに行くから」
「了解」




