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勇者パーティ

 それはとある昼下がりのことだった。

 朝からの客足も一旦途絶え、僕が夏休みの宿題を、マリィさんが少し早めのおやつを楽しんでいたところ、ゲートから光の柱が立ち上り、赤髪と青髪、異世界でも特徴的な髪を持つ二人の少女が万屋に乗り込んできた。


「フレア様。フレア様はどこですか。アナタ、フレア様を出しなさい!!」


 万屋に入るなりそう言って掴みかかってくるのは勝ち気そうな赤髪の少女だ。頭にかぶっているツバ広のとんがり帽子を見る限り、魔女か魔導師かのどちらかだろう。

 そんな少女の剣幕に困惑する僕の背後、和室で小豆なアイスバーを齧っていたマリィさんが何気なくこんなことを口にする。


「そういえば最近あの男の姿を見ませんわね」


 それを聞いた赤髪の少女はただでさえつり上がっていた目を三角に、今度はマリィさんに詰め寄るのだが、


「アンタたち何者?フレア様とどういう関係なの?言いなさい」


 マリィさんは怯まない。怯まないというよりか、むしろ挑戦的にこう切り返す。


「ただの顔見知りですわ。それよりも貴方、こういう時はまず自分から名乗るのが常識ではありませんの」


「ふん、いいわ教えてあげる。私の名前はティマ、フレア様のこ――ぼ、冒険者仲間よ。これでいいのよね。じゃあ、フレア様はどこにいるの――、教えなさい。すぐ教えなさい。いま教えなさい」


「あら、頼み事をするのにもそれなりの態度が必要でしたと思いますの」


 早口で捲し立てる赤髪の少女ことティマさんに追い打ちをかけるマリィさん。そして二人は対戦直前の格闘技選手のように鼻と鼻がぶつかりあうような距離で睨み合いを始めてしまう。

 と、このままでは殴り合いならぬ、魔法の撃ち合いに発展しそうな雰囲気なので、


「ええと、とりあえずこれでも食べて落ち着いてください」


 イライラした時は甘い物。冷蔵庫から出したコンビニスイーツを餌に少女二人を座らせて事情を聞くことするのだが、警戒からか中々口に運んでくれない二人。

 しかし、マリィさんが率先して毒見役を引き受けてくれると、ようやく安全な食べ物だと思ってくれたようだ。フルーツたっぷりの白玉あんみつを口にした二人は、


「なんですかこれ!?」


「くっ、私はこんなお菓子なんかに屈しないから」


 うん。感触は上々のようだ。

 と、そんな流れから聞き出したことによると、どうも彼女達はフレアさんのお仲間らしい。

 この場合、フレアさんの出身国になるのかな?彼女達が拠点とする国の周辺で勃発したトラブルに対処する為、出ていったっきり戻らないフレアさんを探して、はるばるアヴァロン=エラまでやって来たとのことだ。

 なんでもフレアさんに決して立ち入るなといわれていたとある遺跡の奥にあった次元の歪みを通って来たらしい。

 ふむ、以前からフレアさんがどうやってこのアヴァロン=エラにやってきているのか気になってはいたけど、まさか隠し部屋のワープポイントのような場所を通ってやって来ていたとはね。やっぱりゲームとかにありがちな○○の扉とかそういうアレなのかな。

 と、個人的な好奇心はさておいて、話を聞く限りではすぐにフレアさんを連れてきた方がよさそうだな。


「えっと、つまりフレアさんを連れて来いと、それともお二人が直接フレアさんのところに行きますか」


「そうね――ってゆうかそれってフレアはここにいないってこと?」


「いえ、正確にはここというか、実はとある魔導器の中で修行のようなことをしてまして――と、とにかくフレアさんのところに行きましょうか」


「お願い」


 僕がティマさんのお願いを聞き入れ、二人を――いや、むくれながらも何故かついてくるマリィさんを含めた三人を引き連れてゲートを右に万屋から徒歩一分。すっかり完成間近となったキャンプ施設の中にあるディストピアが集められた施設まで三人を案内するのだが、

 小さな体育館とかそんな表現がぴったりなその施設の前までやってきたところで二人の少女が唸るような声を上げる。


「ここは神殿ですか?」


「すごい力を感じるわね」


 たかが簡易施設に大袈裟な評価のような気もするけど、異世界の人から見たら立派な建物なのかもしれないな。

 二人のリアクションにそんな事を思いながらも、僕は軽自動車なら余裕で入っていけそうな入り口から建物の中へ、大小様々な展示物が左右に並ぶ一直線の通路を進もうとするのだが、

 そこで、歓喜に打ち震えるように足を止めてしまった人が一人。当然ながらマリィさんである。

 どうやら(というか確実に?)マリィさんはここのディストピアを求めてついてきたみたいだ。


「マリィさん。ここにあるアイテムは全部ディストピアですので迂闊に触ると取り込まれますよ」


 前に言ったと思うけれどもう一度、念の為にと注意をした上で、改めてフレアさんのいるディストピアへと向かおうとするのだが、今度は別方向からの待ったがかかる。


「ちょっと待って、これは何の冗談?」


 そう言って僕の腕を掴んだのはティマさんだ。


「何の冗談と言われましても、さっき言っいた魔導器ですけど」


「そんな、これらのアイテムは巨獣や神獣、龍種の素材が使われているんですよ」


 ティマさんに続いて声を荒らげたのは、パッツンパッツンの修道服に身を包んだ青髪少女・ポーリさんだ。万屋からここに来るまでの間にされた紹介によると、どこぞの高貴な家の生まれという話だけど、その関係から珍しい魔導器なんかにも造形が深いのだろうか。


「ここでは貴重な素材がわりと手に入ったりしますからね」


「にしても程が有るわよ。アンタ、本当に何者よ!?」


「ただのしがないバイト店長ですけど」


「嘘おっしゃい!!」


 ティマさんはご不満のようなのだが嘘をいっていない。ただ、このアヴァロン=エラという世界が少し特殊なだけなのだ。

 しかし、それを正直に説明したところで簡単には納得してくれないだろう。だから、


「それよりも早くフレアさんのところに行きましょうか。急がないといけないとかじゃないんですか?」


「そうだったわ。で、フレアはどこにいるの?」


 ここはフレアさんの名前を出して脇道に逸れようとしていた話を強引に軌道修正。

 ちょろ過ぎるティマさんはともかく、ポーリさんはもう少しディストピアの事を聞きたかったようだけど、ティマさんが急かすなら仕方がないと口を噤み、二人(+1)を連れて移動。向かったのは毒々しいランプが展示されているスペースだった。


「フレアさんはこの中にいます」


「禍々しい魔導器ですね」


「大魔王を名乗っていた魔人が最後に残したアイテムをそのまま使ってますからね」


 そんな解説を聞いてか聞かずかティマさんがそのランプに駆け寄ろうとするのだが、


「あの、きちんと装備を整えてからの方がいいと思いますよ」


「なんでよ」


「いま説明しました通り、この中には、かつて魔王と名乗っていた魔人の精神が封じ込められていますからね。ディストピアで再現している今ではパワーダウンしてはいますが、危険に代わりありませんよ」


 それを聞いたポーリさんは考え込むように俯いた後、


「つまり、フレア様はその魔王の精神とやらを相手に危険な修行を行っていると?」


「はい、危険といえば危険ですかね。(主に精神的な意味で……)でも、ある程度の安全対策は施されていますから、無茶をしなければ大抵は大丈夫ですよ」


「……ならば、このまま構いませんね」


 簡単なやり取りで突入を決めたようだ。

 正直言うと、僕がディストピアの中に入ってフレアさんを呼び戻す方法が、一番安全かつ手っ取り早い方法だと思うんだけど、本人がそうしたいというのなら僕がとやかく言うことではないだろう。


「僕もついていこうと思いますけど、マリィさんはどうします?」


「勿論、(わたくし)もついていきますわ。前の戦いではコールブラストのこともありましたし、見ているだけでしたが、パワーダウンしているというのなら十分に対処可能な相手でしょうから」


 そして、ついでにといってはなんだが同行したマリィさんにも確認を取ると、どうもマリィさんもついてくる気満々のようだ。バトルジャンキーとまではいかないものの、軟禁状態の鬱憤を晴らすべく魔獣を狩るマリィさんにとってはアダマーと戦えるこのチャンスは見過ごせないイベントなのだろう。

 まあ、マリィさんのことだから、コールブラストを折られた恨み(?)を晴らそうとか、そういう動機もあるのかもしれないけど。


「で、どうやって入るのよ」


「手を翳すだけで後は自動でディストピアの方が受け入れてくれますよ」


 早くしてと言わんばかりに聞いてくるティマさんに、取り敢えずは実演と、禍々しいランプに手をかざした瞬間、目の前の景色が入れ替わる。

 辿り着いたそこはダークな雰囲気が漂う石のレンガで組み上げられた巨大な通路。地下なのだろうか、窓のようなものが一つもなく、幾重にも枝分かれする通路がまるでダンジョンのような雰囲気を漂わせている。

 僕が初見のディストピアに目を奪われている間にも、三人も追いかけてきてくれたみたいだ。光と共に通路に降り立って、


「半信半疑ではありましたが、本当に亜空間につながっているんですね」


「『ゲーム』でしたら『ラスボス』が待ち構えていそうな場所ですの」


「で、フレアはどこにいるの?」


「多分あっちですね。戦ってる音が聞こえます」


 ポーリさんにマリィさんとディストピアの感想を口々に呟き、強い口調で言ってきたティマさんの声に、僕が仄暗い通路の一つを指し示すと、ティマさんは耳を澄ませるようにして、


「なにも聞こえないけど、嘘をついてたりしてないでしょうね」


 ティマさんが疑うのも当然だ。戦闘音といっても普通の人には言われてみれば聞こえてくるかもと、それくらい小さな音でしかないのだから。

 しかし、周囲の音を探り状況を把握するこの手の技術は母さん主催の夏のキャンプでさんざん鍛えられた技術である。


「これでも鍛えていますから」


 自信がありますと力強く返した頷きに、ティマさんは「間違ってたら承知しないわよ」とテンプレートなツンデレ台詞は吐き捨てて走り出す。

 そして僕達も、置いていかれないようにとその後姿を追いかけていくと、極小のボリュームだった戦闘音が次第に大きくなっていき、


 ズズン。


 幾つかの入り組んだ通路を進んだその先の大広間に待ち構えていたのは、以前よりもややスケールダウンした上半身だけの大魔神とその巨拳に殴り潰されるフレアさんの姿だった。


「なに、コレ……」


 いきなりのクライマックスシーンに呆然と呟くティマさん。

 しかし、すぐに我を取り戻したか。


「フレア――――――――っ!!」


 悲壮な表情でフレアさんの名前を叫ぶと、どこからか取り出した杖を地面に打ち付けて巨大な魔法陣を描き出そうとする。

 だけど、


「無駄です」


 ああなってしまっては何をしても無駄である。

 いや、むしろ、魔法の無駄打ちは相手の気を引く行為に他ならない。

 僕はティマさんの行動を諌めようとするのだが、ティマさんは魔法の構築を止めてくれない。

 しかし、無情にもそんなティマさんの魔法が完成するよりも早くフレアさんは光の粒と消えて、それと同時に魔法の構築すらも投げ打ったティマさんが掴みかかってくる。


「フレアが死んじゃった。アンタの所為――、アンタの所為よ」


 まあ、たしかにあんなシーンを見せられたら、気が動転してしまうのも仕方が無いことなのかもしれない。

 けれど、慌てないで欲しい。


「あの、フレアさんは死んでませんから――」


「うるさい。うるさい。うるさい。うるさい。死んじゃえ。アンタなんか死ねばいいのよ」


 改めてディストピアにおける仕様の説明をしようとする僕の声をぶった斬ってティマさんが喚き散らす。

 いや、喚くどころか問答無用で襲い掛かってくる勢いだ。

 まあ、親しい相手が目の前であんな風になったら気が動転してしまうのも分からなくはない。

 それに、ディストピアの中でなら、ティマさんの願い(・・)を叶えてあげるのも吝かではないのだが、

 と、僕が脱力して覚悟を決めたその時だった。


「落ち着きなさい」


 バチンと一発、興奮するティマさんの頬にビンタを入れたのはマリィさんだ。


「落ち着きましたの?」


 だが、叩かれたティマさんは僅かな思考停止の後、マリィさんを睨み上げ、


「落ちついていられる訳ないじゃない。フレアが死んじゃったのよ。殺してやる。アンタもアンタもみんな殺してやるんだから」


 と、ここで割り込んだのは意外にもティマさんのお仲間であるポーリさんだった。


「ティマ。落ち着きなさい。落ち着きなさいと言っているのです」


 誰かが激怒していると周囲は意外と冷静になれるという話は本当なのだろうか。ポーリさんが落ち着けとティマさんを宥めようとしてくれるのだが、そんなこちらの状況を嘲笑うかのように、蚊帳の外におかれていた大魔王アダマーが大きく腕を振り被る。どうやらフレアさんの消失(・・)によってターゲットがこちらに移ってしまったみたいだ。

 まあ、あれだけ大きな魔法陣を描こうとしてたんだからヘイト値が溜まるのも当然か。

 僕が攻撃を仕掛けてくるアダマーを前にゲーマーっぽい心の声を呟いていると、さすがに勇者パーティを名乗るだけのことはある――のだろうか、アダマーの動きを察知したポーリさんが素早く呪文を唱えようとするのだが、

 これは間に合いそうにないな。

 ということで、僕は腰のポーチから取り出した指先サイズの魔法石を弾き、すかさず魔法名を唱える。


「〈聖盾(アイギス)〉」


 すると、僕の声に答えるように空中に打ち上げられた魔法石が光とともに砕け散り、振り下ろされる巨拳からみんなを守る盾となる。

 しかし、その盾も長くは保たない。

 空を切り裂く豪腕を受け止めたかに見えた次の瞬間、ビシリと亀裂が走り、


 パリン。


 僕がティマさんを、マリィさんがポーリさんを、その場から無理やり引き離したその直後、光の盾はガラスように粉々に砕けてしまう。


「やっぱり、まだ強度が足りないですかね」


「虎助。貴方――、光魔法も使えるようになりましたの?」


 次の攻撃を警戒しながら呟く僕の傍ら、マリィさんが訊ねてくるけど、残念ながら僕に〈聖盾(アイギス)〉を使い熟す光魔法の適性はない。


「ディストピアの中ではゲートに付随した機能は使えませんからね。これは音声認識機能を持たせたディロックですよ」


 正確には魔法名をキーワードに発動するようになった音声認識の魔法石ということで、ディロックとはまた別の商品名になるのだろうが、今はそんな細かい話をしている場合ではない。


「とにかく、ここで言い争いをするのは危険です。リスポーン地点まで急いで戻りましょう」


 そう言って、追撃を仕掛けてくる気配を見せるアダマーに、とりあえず元きた道を引き返そうと振り返ると、


 カッカッカッカッ――、


 薄闇に沈む通路の彼方から赤茶の髪と精霊のマントをなびかせて、一人の青年が石レンガの通路を爆走してくる。

 その人物はもちろんフレアさんだ。


「虎助。これは一体どういう状況だ。どうしてここにティマとポーリがいるんだ?」


 さっき殺されたばかりだというのにフットワークが軽い人である。


「えっ、フレア?あれ、いま、死んだんじゃあ――、どどど、どうなってるの?」


 死んだと思われたフレアさんの登場に混乱するティマさん。

 そして、先に飛ばしてきたフレアさんの質問にも答えたいのはやまやまなのだが、それにもまずは落ち着いて話が出来る環境を作る必要があるだろう。


「なにはともあれ先にあのアダマーを倒してからにしませんか」


「承知した」


 さて、これが二度目の魔王狩りになるのかな。僕達の戦いはいま始まったばかりである。

※なんか打ち切りっぽい〆になっちゃってますけど、ちゃんと来週に続きますよ~。

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