正月姉妹とマッサージ
◆サウンドオンリーな玲や環の反応を自己ボツにした結果、かなりコンパクトなお話になってしまいました。
「はぁ、動きたくない」
冬休み最後の週末――、
将来、元春が口にしそうなセリフを吐いて和室でグダるのは玲さんのお姉さんの環さんである。
その疲れの原因は、年末年始に帰ってきたご両親や戻った実家で玲さんのフォローをしていたからだという。
正直、玲さんの現状を知らなければそこまで気にするようなことでもないと思うのだが、知ってしまったからには無視することはできないと、無駄にハラハラしてしまった結果がいまの環さんだとのことである。
とはいえ、甲斐甲斐しく玲さんにお世話されるというこの状況はこの状況で、玲さんのことが大好きな環さんにとっては幸せなのかもしれなくて、
「それで、玲っち帰還の儀の進捗状況はどんな感じなん」
「一応、転移しようと思えばできるんだけど安全性の確認がね。どこまでやるかが問題なんだよ」
ディーネさんやニュクス様の協力を願っての実験に、動物や魔獣を利用した動物実験と、多少面倒な条件があったりするものの、いくつかの世界に狙って転移できることは既に確認できている。
ただ、それはあくまで虫やマウスに限ったことで、後はどこまで実験を繰り返すのかの問題であり、最終的には僕が実験台になってもいいと考えているのだが、これにもまた確実に戻れるといった保証はないと反対意見があって、
とりあえず春休みくらいまでにはなんとかしたいというのが、いまのところの計画であると、そんな説明しながらも、環さんの空になった湯呑にお茶を注いでいると、果たしてちゃんと話を聞いていたのだろうか、また元春がおかしなことでも思いついたようで、わざとらしくも手の平をポンと叩き。
「環さん。そんなに疲れてるなら虎助にマッサージしてもらったらどうっすか、
虎助ってそういうのメッチャ上手いんすよ」
「あんた、なにか企んでない」
「いやいや、環さんメッチャ疲れてるじゃないっすか、虎助なら魔法とかも使えるし、リラックスできると思うんすよ」
鋭い目つきの玲さんにしれっと適当なことを言う元春。
元春としては僕がマッサージをすることで、環さんが薄着になったりするのを狙っているとかそんなところだろう。
しかし、僕も学んでいるのだ。
「だったら足つぼなんかはどうです?」
「足つぼ、痛いって聞くけど」
たしかに、足つぼマッサージは痛みを伴うことがある。
しかし、その効果については、すでに学校でクラスメイトを中心にリクエストされるくらいに自信があると、僕が胸を張って僕が言うと、これに元春が敏感に反応。
「ちょ、それ聞いてね~んだけど」
どうして元春が急に慌てたのか――、
それは自分の知らないところで僕が女子と話しているのが気に入らないのと、足つぼマッサージでは自分が期待した展開にはならないからだろう。
と、そんな元春のリアクションに玲さんは少し安心したのか、環さんと相談、まずは自分が試してみた上で、環さんがマッサージを受けるということになったみたいだ。
ただ、ここで玲さんが「あ、待って、先に足を洗わないとだから」とエチケット的なことを気にし、二人は足を洗いに店の裏の洗い場へ。
その間に、僕はまだ何か企んでいそうな元春を警戒しつつも魔法窓を開いて、人一人が入れる色付きの結界を作り出す。
すると、戻ってきた玲さんがその結界を見て。
「なにこれ?」
「マッサージ中に周りを気にしないでもいいように用意をしてみました」
それは以前、元春が学校で同じようなことを企んだ際に、クラスの女子達を見世物にしないようにと作った段ボールハウスと同じようなもの。
僕がその時のことを玲さんに話すと、玲さんは元春に不敵な笑みを送って中に入り、「じゃあ、わたしからお願い」とそのお御足がにゅっと結界の外に出てくれたので、僕は「触りますよ」と断りを入れ、さっそく足つぼマッサージを始めようとするのだが。
「んあっ」
「すみません。強かったですか?」
力加減を間違えてしまったか、玲さんの思わぬ驚声に慌てる僕だったが、玲さんの反応は単にいきなりの刺激にビックリしただけだったようで、環さんが少し心配そうな表情を浮かべる中、玲さんはすぐに「続きを、お願い」と声をかけてくれ。
元春がくねくねと気持ち悪い動きをしていたのが気になったものの、その後は特にトラブルがなくマッサージは終わり。
段ボール箱の中から出てきた玲さんが元春を見て一番に言うのは、
「あんた、図ったでしょ」
「嘘はついてないっすよ」
「どういうこと?」
「お姉ちゃんもマッサージしてもらえばわかるけど、気をつけて――」
成程ね。元春は玲さんに痛みを伴う足つぼマッサージを受けてもらうことで、ふだんのお仕置きの仕返しをしたかったってところかな。
玲さんはそこまで言うと環さんに内緒話をした後、マジックバッグから取り出したタオルを環さんに渡す。
すると、環さんは気合を入れるように、その華奢な拳を握り込むと結界の中に入り。
それからは特に可もなく不可もなく、環さんは痛みに強いタイプなのか、多少苦しそうに息を呑むような声が漏れ聞こえてきたのだが、玲さんのような大きなリアクションもなくマッサージは終了。
結界から出てきた環さんはタオルを片手に頬を上気させつつも、さっぱりとしたご様子で、
「楽になったわ。ありがとう」
「またなにかありましたら言ってください。いつでもマッサージしますから」
「そ、それは楽しみね」
うん、満足していただけたようで良かったよ。
ちなみにその後、何故か元春が玲さんと環さんに連れて行かれて、ひどい目にあったみたいだけど、一体なにをされたのやら。
本当に毎度毎度の困った友人である。
◆次回投稿は水曜日の予定です。




