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獣戦士

 その日、工房の裏に集められた僕達に、アビーさんとサイネリアさんのコンビが自信満々と見せてくるのは、猫科動物の頭を持った騎士型のゴーレムだった。


「「どうだい。私(僕)達が作った獣戦士は?」」


「よくできているとは思いますけど――」


「なんで獣人風味になってんの」


「それはね。この子にはフォルムチェンジの機能が備わっているからなんだ」


 フォルムチェンジというワードに「おお」と興奮するのは元春と玲さんだ。

 いや、魔王様も目をキラキラさせているかな。


「ちょちょっ、その変身ってのはどんなんすか」


「……気になる」


「まあまあ、君たち落ち着いて、その前に戦士としての能力も見てくれよ」


「つっても、頭以外は普通の銀騎士と変わらないんじゃね」


「まあね。ただ、この獣戦士は重装甲で、どっちかっていうとガラハドに近いタイプになってるんだ」


 前のめりになった元春達を押し留めるようにサイネリアさんが言ったガラハドというのは、ソニアが対人戦闘の訓練にと作ったゴーレムで、特殊部隊のみなさんや魔女のみなさん、宿泊施設のお客様などからリクエストがあった際に貸し出していたりするのだが、そんなガラハドと比べると獣戦士はいかにもな軽装タイプに見える。


「装備はマジックバッグで管理しているのさ」


「リドラさんにつけているのと同じヤツをね」


 アビーさんが目の前に浮かべていた魔法窓(ウィンドウ)の一枚を操作すると、

 獣戦士と呼ばれたゴーレムが鎧の腰のあたりにあるスリットから、大振りなメイスと透明なライオットシールドを取り出し、構えてみせる。


「なんていうか、ちょっとアンバランス?」


「そうかな。獣戦士の線が細いから気になるかもだけど、重騎士としては割りとまっとうな装備を揃えたつもりなんだけど」


 玲さんとしては、機動隊のみなさんが持っているような盾を獣頭の鎧騎士が持っているという状況に違和感を感じているのだろう。


「しっかし、その盾で大丈夫なん。魔獣とかと戦うには軟そうだけど」


「今回の目的は犯罪者集団の拠点制圧だから問題ない筈」


「魔獣には別の盾は用意してあるしね」


 普通の盾だとマジックバッグを圧迫してしまうが、薄い樹脂製の盾なら場所を取らない。

 それに、使われている素材が世界樹のものとなると、下手な鉄の盾より耐久度が高いから、わざわざ盾を持ち替えなくとも、魔獣にも十分使えるんじゃないというのがアビーさんとサイネリアさんの計算らしく。


「なんなら試してみても構わないよ?」


衝撃の魔法(インパクト)の反撃効果もお祖父様以外のデータが欲しいしね」


「遠慮しまっす」


 マッドサイエンティスト二人からの期待の眼差しに頭を下げる元春。

 単なる耐久実験ならば、元春もやや不健康ながらも美女二人からのお願いということで引き受けたかもしれないが、その盾に反撃能力がついていると言われてしまえば答えは否となる。

 その後、一見すると地味なメイスの方にも実はワイバーンの血が混ぜられていて、殴った相手に一定確率で麻痺(毒)の効果を与えるというものになっているようで、この効果も試してみたいと元春が絡まれながらも、そろそろ獣フォルムの方も見たいとい切実な声もあがって、変身バンクに突入。

 とはいっても、変化自体は手と足の関節が裏返り、四つん這いに鳴ったくらいの変化であるが、

 そういったギミックを目の前で見せられると、やはり盛り上がるもので。


「思ったよりもカッコよかったな」


「……もっと見たかった」


(わたくし)としましては変身の隙が多いのが気になりましたの」


「そう? これでも変身の時間を短くしようって工夫したんだけど」


「それにこの変身は移動の為っていうのが大きいから」


 いかにもなギミックに興奮する元春達の一方、戦略的な観点からの指摘を入れるのはマリィさんだ。

 これにアビーさんとサイネリアさんがこの変形の意図を補足。


「じゃあ、この形態はスピード特化ってことっすか」


「見ててくれたまえ」


 再びアビーさんが魔法窓(ウィンドウ)を操作すると、獣戦士は今いるその場からいきなりトップスピード飛び出てゆく。

 そして、百メートルほど走ったところで急な方向転換。

 切り返しもかなり鋭く、スピードもほぼ落ちていないそのターンは獣戦士の足への負担がかなり大きそうに見えるが、


「そこが一番苦労したところなんだ」


「質のいい龍種の素材が手に入らなかったら、あそこまでの挙動は難しかっただろうね」


 なんでも、獣戦士の骨格を作るにあたり、リドラさんが持ってきた地龍の鱗を削り出したものを使っているらしい。

 時間の都合上、耐久実験はしていないようだが、計算上では今の切り返しを何億回と繰り返したところで、骨格の破断どころかヒビが入ることさえありえないことだそうだ。


「この状態でも戦闘は行えるんですか」


「魔弾やディロックでの攻撃をメインに考えているよ」


「魔法障壁を展開して体当たりなんてこともできるけど、それは相手によるかな」


「勢いでなんとかなりそうですけど」


 使われている素材を考えるのなら、たとえ相手がワイバーンでも、十分やり過ごせそうな耐久力を持っていることが推測できるが、


「どれくらい衝撃まで耐えられるかの試す時間がね」


「ある程度は移動中に試すつもりだけど」


 アビーさんからの援軍はセリーヌさんも当てにしているだろうし、無茶はできないっていったところだろう。


「これで終わり?」


「待って、あと一つ、あつ一つ、変身形態があるんだ」


「まだ何かあるんですか」


「今回の任務には役に立たないんだけど、こういう変身もので定番って聞いてね」


 なにかあったかなと僕達が腕組みする中、玲さんが小さい声で言ったのは、


「もしかしてバズーカ?」


「おお、これを当てるのは男の子二人かと思ってたけど、意外なところから答えがきたね」


 成程、そういう定番ですか。


「けど、そういうの俺等世代だと合体技のパターンだったよな」


「そんな変わんないじゃん」


 まあ、特撮作品の代替わりは一年周期なので、一年通してそれを見た年代によって印象的なギミックがいろいろ変わってしまうのは仕方がないと、そんな脱線がありながらも、

 サイネリアさんの命令に合わせて獣戦士の関節が組み変わり。

 変形後の形は数名で支えるようなものではなく、どちらかというとガトリングや大砲のような据え置き型の武器のようだった。


「これって、どんな攻撃になるんです」


「ちょっと元春あぶないよ」


 迂闊にも砲口を覗き込む元春を注意する僕。

 すると、サイネリアさんが「大丈夫だよ」と苦笑いをして。


「これは弾を入れないと発動しないタイプだから」


「弾ってことはボーリング玉みたいな」


「ううん、これはディロックをエネルギー源にして魔砲を放つ武器なんだ」


「それって微妙じゃね」


 確かに、ディロックを弾にするなら、普通に投げてもあまり威力は変わらないのではないだろうか。

 と、そんな疑問にサイネリアさんが否と用意したのは五つのディロックで、


「収束させればそれだけ威力が増すし、試してみようか」


「えっ、それ全部ですか」


「一体いつから、君はこの砲に入れられるディロックが一つだと錯覚していたんだい?」


「つかそれ、言いたかっただけっすよね」


「ふふ、意外と気持ちのいいものだね」


 アビーさんもサイネリアさんも研究のヒントにと漫画なども嗜むだけあって、そういうロマンが通じるみたいだ。


「属性とか気にしなくていいんすか」


「火と水とかお互いに打ち消し合うようなものじゃなければ威力が加算されていくよ」


 ちなみに、火と風とか、相性がよかったりするものなら、量によってだけど更に威力が増していくようで、

 ただ、それも時間が足りずにまだ検証の段階のことらしく。

 今回は場所が場所だけに安全性を考えて、あえて打ち消し合う四大プラスもう一つ、水のディロックをとの構成での実験になったみたいだ。


「じゃあ、発動させるよ


 結界を展開、その影に隠れた後、アビーさんからディロックと同じく三秒のカウントダウンがあって、

 ドンという爆音とともに発射された弾が遥か彼方に着弾。茶色く濁った爆煙を作り出す。


「おお、なんかスッゲー威力だったけど、あれで威力控えめなんすか?」


「いや、僕達の予想ではもっと威力が低くなる筈だったのだが」


 今回の砲撃は製作者の二人からしても予想外の威力だったみたいだ。


「水を二つにしたことで反応が二つに分かれたとか?」


「最初の爆発だね。たしかに、アレで砲撃に威力が付いたから」


 しかし、ブツブツとインプレッションを交わす二人を放っておくと、このまま実験を始めそうなので、


「とりあえず、一通り見せてもらいましたので、向こうに送りましょうか、早くしないとセリーヌさんにどやされますから」


 セリーヌさんを引き合いに二人を促せば。


「検証は小さめの砲身でも出来るか」


「アビーの妹に怒られるのは怖いから、先に獣戦士を送っちゃおう」


 納得してくれたようでよかったよ。

 これ以上の遅れるとなると、セリーヌさんにも一言言ってもらわないといけなくなってたからね。

◆次回投稿は水曜日の予定です。

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