表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

701/847

マナクレイとゴーレムクリエイト

◆前のお話のこぼれ話です。(オマケあり)

 それは賢者様に龍の鱗でなにか装備を作らないかと持ちかけた際の話――、

 注文を受けている合間に、いつものように魔法薬だの現地商品だのとプレゼンを受けた僕は、その中に一つ、面白い効果を持つ魔法薬を見つけ。


「強化魔法の効果を大幅に延長させる魔法薬ですか、面白い効果ですね」


「近くで珍しい薬草を見つけてな。解呪系ポーションの素材になるからって、強めの抗呪薬が作れないかと試していたら、こうなっちまったんだ」


「世界樹の影響でしょうか」


「間接的にはそうかもしれないが、直接的には違う原因だな。

 この間、教会の奴等が森に来た時、ワームが出てきただろ。

 地盤とかに影響がないか調べてたら、その現場で見つけたんだよ」


 成程、この魔法薬は、世界樹の影響で目覚めたワームが地中深くから運んできた土の中に、その元になった薬草の種が含まれていたから作れたということか。


「ちなみに、この魔法薬はどれくらい作れるんです?」


「ああ――、

 それで頼みがあんだけど、ここの農場なら種があれば薬草の量産はできるんだよな」


「現物があればですけどね。魔素に対する耐性とか条件にもよりますが」


 アヴァロン=エラにおける植物の急速成長。

 これはこの世界に現在する濃密な魔素と植物の魔力耐性に関係するものであり、

 植物の魔素に対する耐性――もしくは親和性を備えていれば、安定的な量産が可能になるのだ。


「挿し木っていうのか、あれならなんとかなるんじゃないか」


 もし駄目だった場合は別の方法での量産も考えるということで――、

 僕は賢者様から魔法による促成栽培で採取したという、その貴重な薬草の種を受け取り。


「この薬草以外に影響とかはあったりしたんですか?」


「どうだかな。これが見つかっていろいろと調べてんだけど、俺達が駆けつけるまでに教会の奴等が森の中をあちこち逃げ回っただろ。その所為で結構な範囲に影響があるみたいでな」


 賢者様――というか、あの時は玲さん並びにナタリアさんがターゲットだったかな。

 ともかく、賢者様達を捕まえんと森の中に入った神秘教会が、迷いの結界を抜けるべく持ち出した獣耳マジックアイテムが発端と鳴って暴れ回った巨大ワーム。

 そのターゲットになった騎士達が必死に逃げた結果、影響が広範囲に及んでいるらしく。


「穴を埋め戻さないってのもあるんだが、その土がブレスで散らばっちまってるから回収もできねぇしな」


「それならワームが出てきた穴の方を調べた方が良さそうですね」


 なにしろ、魔法薬の元になった薬草の種はその穴にあった土の中から出てきたものなのだ。

 それに穴自体もかなり大規模なもののようだから、場合によってはなにか利用できるかもしれない。


「とりあえず穴の位置と――、

 後は深さとか分かります?」


「待てよ。

 たぶんデータに残ってるから」


 賢者様が提供してくれたデータを見ると、その穴は真っすぐ斜めに千メートルちょっと伸びているとのことである。


「穴の中にはなにか使えそうな素材はあったりしましたか」


「そうだな。今のところ質のいいマナクレイが見つかったくらいか」


「質のいいマナクレイですか、それは使い出がありそうですね」


「そっちでいるならホリルに持っていかせるぞ」


「だったら、お願いできますか」


「任された」


   ◆


「んで、みんなで粘土遊びをやってるってことかよ?」


「うん、ゴーレムの基本素材みたいだから」


 正確には、そこら辺にある普通の土からでもゴーレムは作れるのだが、このマナクレイを使えば余計な処理の必要がなく。

 ただ形を整えるだけで簡単にゴーレムが作れるとのことで、このマナクレイがどれだけの性能を持っているのかの実験をしているのだ。


 すると、それを聞いた元春が、またいつものように碌でもないことでも思いついたようで、「んじゃ、俺もそのテストを手伝うぜ」と、張り切って粘土弄りをはじめ。

 僕と魔王様が作っていたゴーレムが完成。

 早速コアを埋め込んで動かしてみることになる。


 ちなみに、僕はピクトグラム的人間を――、魔王様はシュトラをゴーレムを作ってみた。


 と、そんなゴーレムにビー玉サイズのコアを、それぞれの胸の部分に押し当てると、コアは粘土の中に沈み込み。


「なんかスッと入っていったな」


「そういうものだからね」


 このコアを用意してくれたソニアが言うには、あらかじめそうしたこともプログラムに含まれているとのことで。


「これ、どうやって動かすんだ」


「リスレムなんかを動かしているのと同じアプリで動くよ」


 コアの種類によっては遠隔操作や音声認識など、色々と制御方法があるようだが、

 今回は、これまでに運用してきたゴーレムからのデータをフィードバックして、すでにかなり高度なプログラムに成長している万屋製のゴーレム統括システムを使おうと思う。


 ゴーレムにコアを埋め込んだ僕と魔王様は、それぞれに魔法窓(ウィンドウ)開いて専用の魔法アプリを起動。

 埋め込んだコアと同期させると、体の作りなどを確認しているのだろう。三十秒くらいの待機時間(ローディング)があった後――、


「……動いた」


「滑らかだな」


 このアプリにはリスレムやネズレムなどが集めたデータのみならず、ソニアが作り上げたすべてのゴーレムのデータが網羅されている。

 だから、それぞれの形状に合わせた動きを自動で行ってくれる仕様になっており。


「そんでこのゴーレムはなにができるん?」


「別に、ただ動くだけだよ」


 あえて言うなら、ちょっとした偵察に使えるくらいか。

 すると、それを聞いた元春から「まあ、そんなもんか」と少しガッカリしたような声が上がるも、しかし、ゴーレム作りは続けるみたいで、

 僕と魔王様が自分の作ったゴーレムの能力を図るべく、運動テストの要領でゴーレムにいろんな動きをしていると、ここでこれまで静かに邪神像を練り上げていた玲さんが不意に悲鳴じみた声を上げる。


「ちょちょっ、あんた――、なにやってんの!?」


「なにって、ウチのライカを作ってるんすけど」


「その手付きはやめなさい」


「え、その手付きって?

 あれあれ、玲っちはなにを想像しちゃってるんすか」


 ねぶるように粘土ライカの頭の天辺の突起を作る元春に玲さんが敏感に反応。

 そして、あまり誂いが過ぎると当然制裁が加えられるの当然の流れでしかなく。

 指先に魔力を溜める玲さん。その標的となった元春は慌てたように両手を突き出し。


「待って待って、これは玲っちの為でもあるんすよ」


「わたしの為?」


 自分の為という言葉に怪訝な顔をする玲さん。

 これに元春はライカを呼び出すと作ったゴーレムと一緒に胸元に詰め。


「ほら、このゴーレムこうやって胸に入れると自然におっぱいが盛れちゃうんすよ」


 さすがにそんな言い訳が――、


「ちょっと、そのサイズだと少し盛りすぎでしょ。あくまで自然じゃないと意味ないじゃない」


「玲さん?」


「えっ、いや、ほら、胸元にゴーレムを入れていたら、刺されても平気とか、漫画とかにそういうのあるじゃない」


 それを言うならロケットとかライターとか、そういうのが定番だと思うんですけど……、


 ただ、発想自体は悪くないのかな?

 ちょっと前に作った狙撃阻止の帽子みたいに、例えば自然に懐に忍ばせたそれに、ある一定の条件で硬化するような魔法式(プログラム)を組み込み、自然に体を守れる防弾チョッキのようにするとか、そういった方向で作るのはアリだと思う。


 と、玲さんの予想外の反応に僕が現実逃避気味に思いを巡らせていると、元春が「ちょっ待てよ」と慌てたように掴みかかってきて。


「固く出来るってことは柔らかくも出来るのか」


「出来るけど」


 そう、固くできるのなら柔らかくも出来る。


「ってことは、これってライカの成長イベントか、マジでリアル偽乳が作れんじゃね」


「リアル偽乳?

 リアルなのか、偽なのか、どっちなのよ」


「いやいや冗談じゃなくって、えっと、シリコンバストって知らないっすか」


「なに、豊胸手術とかそういうの?」


 たしかに、シリコンといえば豊胸手術というイメージがあるけれど――、

 なにか身につまされるものでもあるのだろうか、厳しい視線を向ける玲さんに、元春は「違うっす違うっす」と首を振り。


「ほれ、女装コスプレイヤーがおっぱいを作んのに使うブラみてーなのがあるじゃないっすか。

 えっと――、こういうヤツ」


 元春が自前の魔法窓(ウィンドウ)から見せてくれたのは、胸元が大きく開いたドレス姿のコスプレイヤーの写真である。

 すると、それを見た玲さんは、まるで飛び上がらんとばかりに身を乗り出して。


「えっ、これ男の人なの!?」


「そっすよ」


「けど、こんなおっきいおっぱいが――」


「だから、それがシリコンバストっす」


 頷く元春に愕然とした表情の玲さん。


「虎助はどう思う?」


「どう――と言いますと?」


「作れるかってこと?」


「作れるかと言われれば、作れるでしょうね」


 しかし、地球で実物が売っているのだとしたら、わざわざ作る必要はないのではと、そんな僕の疑問に元春はポンと僕の肩に手をおいて首を振り。


「虎助、こういうのは理屈じゃねーんだ」


 そんな悟った顔で言われても――、


「それに、コイツならお前がさっき言ってたのだって作れるかもだろ」


「一石二鳥じゃない」


 ただ、玲さんが良しとするなら僕が反対する理由もない。

 というよりも、この流れで反対なんて出来るわけない――、

 と、元春主導で造形を行い、細かな調整は工房のエレイン君に丸投げ。

 一時間ほどで完成したそれは、もともと粘土だったとは思えない素晴らしい仕上がりのバストであり。


「じゃ、玲っち、使ってみてくれ」


「うん」


 ゴクリと喉を鳴らし、胸元にそのおっぱいを貼り付ける玲さん。

 ちなみに、このおっぱいはゴーレムの為、装備するのに服を脱ぐ必要はなく。

 どうしたことか(・・・・・・・)ただ胸元に置け――入れれば、後はゴーレムが勝手にフィッティングをしてくれるという無駄に高性能な仕組みになっていた。


「ひゃっ!?」


「どうしたんすか、もしかして感じちゃったとか?」


 まったく、せっかくいい感じで前の制裁が有耶無耶になっていたのに――、

 元春が玲さんのレーザーを股間に食らって悶絶したところで、胸元に入れたゴーレムのフィッティングが完了したみたいだ。


「どう?」


「えっと――」


 どうと聞かれましても、この場合、どう答えるのが正解なのか。


 とりあえず、縦長の魔法窓(ウィンドウ)を用意して、それを姿身代わりに操作方法などを教え。

 満足いくまで試してもらったところで、一度取り外していただき、耐久実験をすることになるのだが、

 ここで元春が劇画調の顔になり。


「ちょっと待った。そっちは俺が実験台になるから」


「危ないから、台とかに置いて試そうよ」


「いやいや、せめてぬくもりを――」


 それが本来の目的か。

 元春の本音が出たところでまた玲さんによるレーザー光線の乱舞が見舞われて、悪の野望は防がれるのだった。


 ちなみに、その後の耐久実験の結果は、打撃や斬撃に対する性能は想像以上のものだったのだが、刺突などに少し課題があるとの結果となった。


 ただ、少しして元春のスクナであるライカが新しい特技〈偽乳〉を手に入れたことは追記しておくとしよう。



 ◆おまけ


 それはゴーレム作りの合間のこと――、

 賢者様からマナクレイを受け取る際、話題になったお菓子を出してみることにした。


「コーヒー味のチョコ?」


「いえ、魔法を使ってコーヒー牛乳を固めたものです」


「クアリアみてーなもんか」


「似たようなものだけど、あっちは結界魔法の仕組みを使ってて、こっちはゴーレムクリエイトの基礎を使ってるんだよ」


 曰く、それはゴーレムクリエイトに関する初歩的な魔法を利用した食べ物のようで、実際に幾つか正規の商品になっているものがあるらしく、錬金術を学ぶ際に作ることがあるのだという。


「ふーん、よくわかんねーけど、これってなんでも固められるん?」


「液体ならね。

 ただ素材の質によって固まり方に違いがあるみたい」


 賢者様の説明によると、原料となる液体の魔力を保持する方法によって、食べた時の食感が変わってくるのだという。


「じゃあ、炭酸ジュースとか固めたらどうなるん?」


「やってみようか」


 と、取りい出したるは錬金釜と家庭用製氷皿のようなシリコン製の型。

 これに固める液体を流し込み、賢者様に教えてもらった魔法式を発動させればあっという間に完成だ。


「マジで簡単に出来んだな」


「これくらいの量ならね」


 元々は戦闘中に単純なゴーレム(壁役)を作り出すような魔法だったんじゃないかって話だから、これくらいの素材を固めるのにそこまで時間はかからないと、固めた炭酸ジュースを型から外してみるのだが。


「けど、なんかボロボロになってない?」


「炭酸が原因か?」


「さあ、僕もレシピ以外のもので試すのは初めてだから、

 とりあえず鑑定によると食べられるみたい。

 不安なら僕が毒見をするけど」


 と、ボロボロと崩れ落ちたその出来に僕が毒見を志願するのだが、使った材料が炭酸ジュース一つだったこともあって、そこまで気にすることもないと元春は型から取り出した欠片の一つを舌の上に乗せ。


「あっ、これ、あれだ。口に入れるとパチパチする飴」


「ホントだ。

 でも、コーヒー牛乳とまったく違うのはどうしてなんだろ」


「関係するとしたら脂肪分の割合ですか」


 考えても見れば賢者様から教えられたレシピの殆どは乳製品が関係したものだった。


「じゃあ、コーヒー牛乳に炭酸を入れたらパチパチするチョコが出来るってこと?」


「あれ、でも乳製品に炭酸を入れると固まってしまうとか聞いたことがありますよ」


「そうなの?」


「はい。うろ覚えなんですけど」


 玲さんが首を傾げるのに、僕はインターネットで検索しながらもそう答え。


「じゃあ、パチパチチョコは無理か。

 面白そうだと思ったんだけど」


「あー、でも、乳酸菌系のソーダならイケるんじゃね」


 ふむ、たしかにそれなら玲さんが言うようなものが作れるかもしれない。

 と、元春のアイデアで乳酸菌系のソーダを固めてみた結果。


「見た目はうっすいホワイトチョコって感じだけど」


 問題は味がどうなのかであると「いっせーのーでいこーぜ」という元春の号令で口の中に放り込むと。


「なにこの口当たり」


「シュワって溶けるな」


「感覚としては綿菓子に近いけど、炭酸の刺激もしっかり残っている上に、見た目が飴みたいなのが違和感すごいね」


「これ賞品化いけんじゃね」


 新しいお菓子としては面白いと思うけど……、


「これ魔法が使えないと作れないから」


 魔女のみなさんが小規模にやるならいけるか。

 いや、成分表示なんかに問題があるのかな。

 ちょっと相談してみようか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
↓↓↓クリックしていただけるとありがたいです↓↓↓ 小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ