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余った鱗の使い道

 宵の口、魔王様とゲームの対戦をしていると賢者様がやって来たので、ゲームを一時中断。

 いつものように新薬の相談だったり、日用品の注文を受けた後、一つ、何気ない感じで相談事を持ちかけてみる。


「賢者様、ドラゴンの鱗、いりませんか?」


「なんだ藪から棒に」


「実は魔王様のお手伝いで大量の鱗が手に入ったんですけど、使い切れなくて」


「まあ、龍の鱗なんて正しく戦略物資だもんな。投げ売りもできんか」


 アムクラブから来るお客様を信用していないという訳でなないのだが、戦略的にも値段的にも、ワイバーンでもない龍種の素材を買ってくださいと持ちかけるのは難しく。

 その点、賢者様なら下手なことにはならないだろうし、なにより万屋にプールされているお金もそれなりにあるのである。


「どうですか、賢者様のところなら、お安くしておきますよ」


 正直、種類を問わなければ龍種の鱗はタダで譲っても構わない程に数はあるのだが、

 この鱗が、魔王様――というか、リドラさんから譲られたものだということで、ある程度は魔王様達の利益になるようにしないといけないから、素材単体での値段はしっかりとした値段をつけなければならなくて。


「血や肉ならともかくとして、鱗は使うのが手間だからな」


「装備品を作るのはどうでしょう」


「といっても、装備はこの前、作ったばっかだろ」


 そういえば、聖騎士が攻めてくるのに合わせて、パワードスーツみたいな鎧を作ったんだったか。

 正しくは、あれは賢者様に限った装備ではないのだが――、

 しかし、新しい装備を作ったばかりとなれば、これは駄目かと思いきや、賢者様の横でずっと静かに話を聞いていたアニマさんが小さく手を上げ。


「あの、その鱗で私の武器を作るとしたら、どれくらいの価格になるでしょうか」


「アニマ?」


「私はいついかなる時でもマスターのご命を守らなければなりませんので」


「アニマ~」


 アニマさんの決意に歓喜する賢者様。

 しかし、そんな喜びも束の間、すぐに真面目な顔を取り戻し。


「ただなぁ、俺の為にアニマが戦うなんてのは違うだろ」


「しかし、現状を考えますと、不測の事態もあるやもしれませんので」


 賢者様としてはアニマさんが戦線に立つことは望ましいものではないのだろう。

 しかし、その一方で、賢者様によって生を与えられたアニマさんからしてみると、いまだ神秘教会と敵対している現状、いつなにが起きてもおかしくはなく。

 その時、自分がどうなろうとも賢者様は守らなければならないという意識がその根底にはあるようだ。

 一向に引く気はないようなので――、


「でしたら余計にアニマさんの装備を作るべきでは?」


 そう、どうしてもアニマさんに引く気がないというなら、もしもの時でも大丈夫なように、普段遣いできるような装備を最上級のものにしてしまえばいい。


 まあ、それでなくともアニマさんは、たまに母さんの薫陶を受けていることもあって、こと接近戦などに関しては賢者様を軽く超える実力を持っていたりするのだが、野暮なことは言わないでおこう。


「わかった。

 金に糸目はつけなくてもいいから、作ってくれるか」


「半ば押し付けるようなものなんですから、材料費だけいただければ構いませんよ」


 今回、龍種の鱗はあくまで棚ぼたで手に入れた品物だ。

 これを持ってきてくれたリドラさんの利益になればそれでいいのである。


 ということで、賢者様達を見送った後、龍の鱗の売却金額を魔王様とゲームの続きをしながらも相談。

 魔王様が帰ったところでソニアに会いに行き。


「やっぱり全部もらってきたのはやり過ぎだったよね」


「でも、自主的に持ってこられたものを『要りません』とは言えないでしょ」


「まぁねぇ」


 どうも龍の谷では放置されていた鱗を邪魔だと思っていた方が意外にも多かったみたいなのだ。

 リドラさんが掃除をしているのが知られると、龍の谷のみなさんがせっせと鱗や爪などを持ってきてくれたみたいで、予想以上の集まってしまったという経緯があって、それを多過ぎるからと断るのは流石にできないと――、

 あと、わくわく顔のマリィさんの手前、持って帰らない訳にもいかないと――、

 すべて持ち帰ってもらったというのが今回のことであり。

 すでに膨大な魔素があふれるアヴァロン=エラでなら、素材そのものを分解することもできなくもないが、それはさすがに勿体なく。


「まあ、龍種の素材はなんにでも使えるし、その幾つかはボクの研究や龍の谷の問題解決の実験に使ったりするから残しとかなきゃだけど、せっかくだから、多めに残ってる種類を消費しておきたいよね」


「ってことは、今回は防御力が高くて数が多い地龍の鱗をメインに作るって感じかな」


「そうだね。補助具として数が多い地龍の鱗を重ねて圧縮してアクセサリに加工、前に作ったマオ達の防具とおんなじ風に龍鱗の力を引き出せばいいんじゃないかな」


 そう、龍種には龍鱗という特殊な魔法障壁を発生させることができる個体が存在する。

 それら龍種の鱗を中心にまとめて圧縮、その力を引き出すように加工すれば、擬似的なオートガード装置を作ることが可能で、それならばアニマさんの注文とも合致するのではないだろうか。


「あと、黒龍の鱗と魔法金属で作って、魔力吸収系の武器でも作れば燃費も良くなると思うんだよね」


「攻撃すればするほど、防御力が上がっていくとかそんな感じ」


「どっちかっていえば能力維持がメインだけどね」


 つまり、武器の方は素の攻撃力は勿論のこと、あくまで補助的な能力を尖らせて、アクセサリが持つオートガード能力の回数を増やすとか、そういうイメージか。


「虎助の分も作ろうか」


「この前、大剣を注文したばかりだからいいよ。

 まあ、いま作ってる大剣を盾みたいに使えるようにできるなら、ありがたいけど」


「う~ん、ちょっと考えておくよ」


「お願いね」


 と、工房の地下でそんなやり取りあって数日後――、

 万屋の訓練場には賢者様の研究所で暮らす四人が揃っていた。


「みんなで来いっていうから来たけどよ。全員分用意してくれたのか」


「素材は余ってましたから」


 龍種の鱗というのは小さいものでも成人男性の手の平よりも大きいものになる。

 それを贅沢に使って作ったとしても、ものがアクセサリとなると、一人分を作るよりも数人分を一気に作る方が効率的で、

 なにより、新しい装備をアニマさんだけ作ったとなると、後が大変かもしれないと気を利かせたということもあったりするのだ。


「あ、でも、価格はかなり抑えていますから安心して下さい」


 僕が安心させるように、今回の装備に使った素材の価格を見せると賢者様は少し驚いた顔をして、


「こんなに安くていいのか?」


「ええ、今回はこれはたまたま手に入ったものですから、原価ギリギリで放出してます」


 そう、繰り返しになるが、今回の件は予想外の無償提供があったからであり、そんな流れを作った魔王様のところに行くお金が徴収できればそれでいいのである。

 それに、このお金を龍の谷周辺の森の環境改善に役立てられたら、鱗を提供(押し付けて)くれた龍種のみなさんの利益にもなるだろうし。

 あと、今回の装備が、今後、神秘教会との戦いで目をつけられる可能性があるとして、その迷惑料としても安くしてあったりもする。


「ということで、みなさんにはお揃いのこれを作ってみました」


 と、開いた箱の中に入っていたのは、玲さん達に作ったそれと同じく、龍鱗の力を宿した腕輪である。

 これは以前、賢者様とアニマさん、ホリルさんで作った三連の指輪と似通ったダークブラウンの本体に銀糸が絡みつくようなデザインのもので、腕輪に宿る魔力が続き限りは攻撃を龍鱗の守り(魔法障壁)がピンポイントで防いでくれるというものになる。


「武器はそれぞれに魔力吸収をつけようとしたんですが、

 ただ、賢者様の武器が銃ということで、こちらはマスターキーの技術を応用して、標的を打つことで魔力を弾き出し、それを銃が吸収するという少し面倒くさい仕様になっています」


「銃もそんなに得意ってわけじゃねぇんだが」


 とはいえ、それ以外の攻撃方法となると、今の賢者様は魔法に偏ってしまっているので、消去法で一番使い慣れた銃になってしまうのは仕方のないことだと思う。


 さて、そんな賢者様の一方でアニマさんとホリルさんの武器は普段使い(・・・・)のメリケンサックで、続くナタリアさんの武器は、


「私のは杖じゃなくて、なんだいこれは?」


「僕の地元でトンファーと呼ばれている武器です」


 普通に使うにはクセのある武器だが、魔法による自動回転機能を備えているので、風のマントを装備するナタリアさんにはちょうどいいのではと、

 まあ、ソニアが悪乗りした結果である。


「一応、普通の杖としても使えますし、賢者様のそれと同じく魔法銃の機能も持っていますので、使い方はナタリアさんにお任せします」


 と、早速ナタリアさんがトンファーの具合を確かめ始めていると。


「そっちの方が良かったかも」


 ホリルさんがトンファーそのものに興味を持ったようなので、後で簡単に古代樹製のトンファーを用意すると約束。

 最後にアニマさんの武器であるが、こちらは、以前から色々な場面(・・・・・)で使っていたナイフとチョッパーナイフの二刀流にしてみた。


「アニマさん。使い心地はいかがですか」


「はい。普段使っているものと変わりなく使いやすいです」


 それは良かったと、重さなどを確かめるように二本の包丁を振るうアニマさんの一方で、賢者様が近づいてきて、


「虎助、あれって――」


「アニマさんにも言ったように、使い慣れた武器の方がいいんじゃないかという理由もそうですが、まあ、想像通りかと」


 そう、こちらの武器ももソニアが悪乗りした結果である。


「これはアニマにしっかり言っとかねぇとだな」

◆次回投稿は水曜日になります。

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