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●雪と遺跡

「この辺りか」


「特になにもないようですが」


 雪が降り積もるやや開けた森の中、何かを探すようにしているのはフレア達。

 さて、彼らがどうしてこんな人気のない場所を探索していりのかといえば、それは先日、召喚具などが完成したとの報告を受けて万屋に来店した際に、召喚具作成の素材として回収したスノーゴーレムの核から、そのゴーレムが辿った形跡が残っていたことが判明したからである。


 もともと、フレア達が森の中で偶然遭遇したスノーゴーレムは明らかにおかしな動きをしていた。

 場合によっては自分達のみならず被害者が出てしまう可能性があると、一度、調査をしてみるべきだと、こうして地図を頼りに現場へとやってきたのであるが、

  魔法窓(ウィンドウ)由来のナビゲーションシステムによって辿り着いたその場所には、特にこれといった建物などは見当たらず。

 そんな中、斥候のメルが、トゲトゲした葉っぱを持つ背の低い木が生い茂る一角を見て。


「見つけた」


「えっと、なにもあるようには見えないけど」


「魔法で隠蔽されてる」


 自前のマジックバッグから魔法銃(マスターキー)を取り出し、その引き金を引く。

 すると、目の前の景色がまるで板ガラスのように粉々に砕け。

 現れたのは粗野な石組みの屋根がかけられた下り階段だった。


「隠し通路なんて、あからさまに怪しいわね」


「見張りの類はいないようだな」


「魔法の仕掛けもない。あったとしてもマスターキーの一撃で吹き飛んでる」


 自らの愛剣・ソルレイト(陽だまりの剣)をライト代わりに下り階段を覗き込んだフレアは、メルからの説明に「ふむ」と頷き。


「俺とティマが先行する。ティマとポーリは召喚獣やスクナを出して見張ってていてくれ」


「わかった」


 そう指示を出すと、ティマが風の狼と小さなワイバーンを、メルが浮かぶ盾を呼び出してその場に待機。

 フレアとメルはソルレイトの明かりを頼りに階段を降りていく。


 そして、フレアとメルが階段の奥へと消えて暫くすると、上に残った二人に降りてくるようにとの声がかかる。

 呼ばれるままに階段を降りたティマとポーリが見たものは、鉄でも石でもない建材で作られた広いスペースだった。


「これは――」


「こちらもまた遺跡の類ですか」


「ああ――」


「でも、あっちとはまた違った感じよね」


 ティマが言う『あっち』というのは万屋に行くために使っている拠点から少し離れた岩山にある遺跡のことだろう。

 ただ、よくよく見れば、こちらの遺跡の方がやや古ぼけたような印象があって。


「通路が幾つかあるけど――」


「進むならあっち、他は空き部屋やトイレみたいなとこだった」


「そうなの?」


「詳しく調べればなにかわかるかもしれないがな」


 そう、フレアとメルは階段を降りた後、魔獣かなにかが住み着いている可能性などを鑑みて、この広いスペースを一通り調べていたのである。

 そして、唯一先に進むのなら、なにかの作業スペースだったのだろうか、工具らしきものが散らばる、簡単に間仕切られた部屋の向こうにある通路しかないと、ティマとポーリを連れて入った通路の先にあったものは真っ白な壁であり。


「これは雪?」


「スノーゴーレムなどではないようですね」


 そう、そこにあったのは大量の雪。

 それが、まるで土砂崩れを起こしたように通路を塞いでいたのだ。


 さて、問題はこの雪をいかにするかであるが、


「これは天井が崩れていますね」


「規模にもよるけど外から調べた方がいいかも」


 相談の結果、上からどうにかした方が早いんじゃないかと、フレア達は大量の雪が塞ぐ通路の場所を魔法窓(ウィンドウ)のマップ上にマーキング。

 来た道を引き返して地上に戻り、地図を頼りにあの大量の雪があった場所の上へと移動。

 すると、そこには大きな雪のくぼみがあって、


「完全に潰れちゃってる?」


「なにか大きなものが落ちてきたのでしょうか」


「雪をどかしてみないことにはなんとも言えんな」


「しかし、この雪の量はさすがに厳しいのでは」


 ちょっとした溜池くらいはありそうな大穴に積もった雪を男一人、女三人ですべてを片付けるのは難しい。


「イフリートでも呼ぶ?」


 と、ティマが呼ぶかと聞いたイフリートというのは、彼女の切り札の一つである炎の巨人を召喚する魔法である。

 イフリートが纏う熱を使えば、穴に入った雪を排除できるのではというのがティマの考えであるようだが、


「それだと下が水浸しにならないでしょうか」


 雪が溶けると水になる。

 そうすると、さっきまでいた地下空間が水浸しになるのではとポーリが指摘をするが、これにティマは手の平で皿を作りながら。


「こう、上から掬い上げるようにすれば大丈夫だと思うけど」


「後は俺のマントを使えばなんとかなるか」


 フレアのマントは水にまつわる精霊から与えられたものである。

 その力は主に耐火性能をあげるというもので、水を吸わせることにより、その性能を上げられるのだが、それを利用してイフリートが回収できなかった水を排出すればなんとかなるのではないかと、そんなフレアの言葉を受けたティマが炎の巨人(イフリート)を召喚、除雪を始めると、イフリートの熱で溶けた一部の雪が地下の施設を濡らしてしまったが、なんとか横から伸びる通路が見えるくらいに雪を除去することに成功。

 ただ、それと同時に、この穴ができた原因となった原因が姿を現す。


「これはワイバーンか」


「なんでこんなところに?」


「空から落ちてきたとか」


「それならもう少し派手に壊れていてもおかしくないと思うのですが」


「これは俺達が考えてもわかりそうにないな」


「だったら、虎助か、パキートに見てもらえばいいんじゃない」


「そうだな」


 ということで、ネズレムの起動から各種魔法窓(ウィンドウ)の準備と手分けして拠点と万屋との念話通信の手筈を整えたところ、早速とばかりに虎助やパキートなどがフレア達がここまでに集またデータに目を通し。


『映像やティマさんが下さいましたデータを分析した結果、倒れていたのはスノーワイバーンのようですね』


「ってことは、最近の雪はコイツの仕業?」


『う~ん。スノーゴーレムの動きや現場の状況から、雪は自然に降っただけなんじゃない』


 そもそも、スノーワイバーンは場所によっては雪を呼ぶ龍種(ドラゴン)などと信じられていたりするのだが、彼等自身に雪を降らせる能力はなく、多少氷属性のブレスを吐くことはできるが、ただ雪が多い地域に適応した種でしかないのである。


「で、そんなヤツがどうしてこんなところで死んでいたの?」


『首についた噛み跡、それに時期的に雌を巡った争いじゃないかな』


 虎助が言い淀む中、ティマの疑問に応えたのはパキートだった。


「つまり偶然ということですか?」


『周囲の状況――、施設内に散らばった天井部分の状態から、

 戦っている内にここに来て、崩れたと見るべきでしょう』


 散らばる破片には古く汚れが全面に付いたものもあった。

 故に、もともと多少崩れていたところに二匹分の重さが加わって崩れたのではないかというのが、ロゼッタ姫の見立てのようで。


「とりあえず、このワイバーンは持って帰ればいいのか?」


『そうですね。肉は駄目になってるかもしれませんが、皮なんかは十分使えそうですから』


『少し調査もしたいしね』


 最終的に死んでいたワイバーンはその場で大まかに解体。

 マジックバッグに入る分はそのままフレア達が回収。

 と、そうしたところで、思いがけないものが発見される。


「スケルトン」


「いや、ただの死体のようだ」


 ワイバーンをどかした床に倒れていた白骨に警戒、杖を構えるティマの一方、

 フレアがソルレイトを翳して、その白骨がアンデッド化していないことを確認。


『ワイバーンよりもかなり前に亡くなったという印象ですね』


『周りに散らばるゴーレムのパーツや道具を見る限り、僕みたいに遺跡をそのまま研究室として使ってパターンかな』


「えっと、要するにこの死体の主はここにあったゴーレムを組み立てていたということですか?」


 ワイバーンが倒れていた付近に散らばっていたゴーレムのパーツを見る限り、ここでゴーレムが作られていたことは間違いないだろう。


『死んでいた人物が物資補給の為に作ったのかな。あくまで状況証拠だけど』


『なにか資料でも見つかればいいのですが』


「乾かせば幾つか本は見られそうですね」


 雪の中にあった書籍は、その半分は凍結状態で見つかり、残る半分はイフリートを使って雪をどかした際に濡れてしまった。


 ただ、物によっては乾かせば読めるのではないかと、とりあえずそこにある書籍はすべて万屋に持ち帰ることとなり。

 後の調査は事前に放ったネズレムに任せて、フレア達は回収した資料などをマジックバッグに可能な限り詰め込み、拠点へと舞い戻ることになったのだった。


「この遺跡って、私達が万屋に行くのに使ってるのと同じものなのかしら」


『いや、それとはまた別の役割のものだと思う。詳しくはそっちに行って調べてみないとわからないけど』


『主様……』


『やっぱダメ?』


『当たり前です』

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