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テールスープ

「壮観ですわね」


「ホント、スッゲー数だな」


 工房の一角、所狭しと並べられるワイバーンの遺骸の数に、マリィさんと元春がため息を吐く。

 これらワイバーンは、レーヴァの検査の後、リドラさんが出してくれたもので、


「それでどうするの。ワイバーンの素材ってただでさえ余ってるんじゃなかった?」


「余っているのは骨ばっかですから――、

 まあ、骨の方も全部砕いて粉にしちゃえば使えますし」


 特に皮や血などはそこそこ珍しく、骨の方も粉にして鍛冶や即席で魔法金属を作る時に使えるのだ。


「あれ、そういうのって面倒とかって言ってなかったっけか」


「すでに白骨化しているような素材はそうだね。

 だけど、倒してすぐならまだ柔らかいんだよ」


 それが、まだ肉体が残っていて水分が多く含んでいるからか、それとも魔法的な力が働いているのかは分からないが、死んで数日のワイバーンから取れる骨なら、すでに白骨化した状態で手に入れたものよりも数段柔らかく――それでも他の魔獣の骨などと比べれば数段硬くはあるのだが――アダマンタイト製の粉砕機などを使えば、綺麗な粉に出来るくらいには加工がしやすい状態であるのだ。


「他の素材はいかが致しますの」


「とりあえず飛膜の大部分はマントにしてしまおうかと」


 加工の前に属性を調べてみないといけないが、リドラさんを足止めしたワイバーンのものなどは、前にナタリアさんが作った風のマントにしてしまえば、いい商品になってくれること請け合いだ。


「そちらも譲ってもらうこともできますの」


「もちろん、マリィさんにはいろいろと手伝ってもらいましたので」


 マリィさんには龍の谷の調査でお世話になったので、その報酬として風のマントを渡すくらいはなんでもなく。


「マジか、俺は?」


「元春は遠征に出かけてて調査を手伝ってないから、タダであげる訳にはいかないでしょ。

 まあ、素材費を自腹で出すなら元春のも作るけど」


「うーん、そりゃ迷いどころだな」


 しかし、ワイバーンを並べるのに力をかりたこともあり、リドラさんに渡すことになっている素材の代金さえ出してくれれば作ると言うと、元春は風のマントが自分の活動に利用できそうだと考えたのだろう。

 腕を組んで悩み始め。


「ただ、マントの前にまずはプテラを作り直しですかね」


「なんだっけかそれ?」


「マリィさんのところの飛行ゴーレムだよ」


 空魚の素材をメインに作ったプテラノドンのようなゴーレムだ。


「それって蒼空でよくね」


「ガルダシアは冬になると天気が悪いことが多いから、

 それにワイバーンの翼膜を使えば魔力消費をかなり抑えられるし」


 もともと龍種の飛膜には空を飛ぶ為の力が備わっている為、それを引き出すことによって、かなりの悪天候の中でも飛行が可能となり、運用時間もかなり伸ばせる筈なのだ。


 と、前々から考えていたプテラのバージョンアップに必要な素材採取をエレイン君に割り振ったところで、僕が手を付けるのはリドラさんが大量のワイバーンと戦う原因となったディンゴの尻尾の解体だ。


「思ったよりもデカいな」


龍種(ドラゴン)の尻尾だからね」


 ディンゴは龍種としては小柄な方だというが、それでもこの尻尾は僕の身の丈二倍は優にある。


「けど、これを解体するってったってどうすんだ?」


「そりゃ普通に鱗を取って皮を剥くんでしょ」


「玲っち最後のところ、もう一回」


「最後のところって――誰が言うか!?」


 と、マリィさんが首を傾げる横、玲さんにセクハラまがいの声をかけていた元春がボディブローに沈んだところで作業開始。


 まずブルーシートの上に置かれたディンゴの尻尾から鱗を剥がすべく、用意してあったバールを鱗の隙間に差し入れて、釘抜きの要領で鱗を剥がそうと力を入れる。


 すると、それを見た元春が――、


「面白そうだな。俺もやってもいいか」


「構わないよ」


 むしろ手伝ってくれるというならありがたい。

 僕は元春に予備のバールを渡し、協力して鱗を剥がしたところでナイフを取り出して。


「まずは尻尾の裏と表の境目に切れ目を入れて、思いっきり剥がす」


「おお、カワハギみてーにズルっていったな」


「ディンゴはあまり肉体を鍛えているようではありませんでしたからな」


 リドラさんによると、これは龍種に限ったことではないことだというが、どうも尻尾の皮は鍛え方によって身離れの良さなどに差が出るみたいだと、そんな話を聞きつつも綺麗に皮を剥き。

 みんなに聞くのは――、


「何が食べたい?」


「いきなりだな」


 いきなりだけど、これもいつものとこと言ってしまえばそれまでで、

 お昼までにはまだ時間があるのだが、これまでの経験上、大きな食材を処理をするのが時間がかかると知っている一同はすぐに頭を切り替えて。


「普通にステーキとかどうなん。尻尾を輪切りにしたステーキとかロマンじゃん」


「え、そういうの前に食べたばっかでしょ。

 今日はあっさり、テールスープとかがいいんじゃない」


「……テールスープ?」


「それって焼肉屋とかに行くとあるヤツっすよね」


 たしかに、テールスープといえば焼肉店というイメージがあるけれど。


「あれ美味しいよね」


「尻尾の肉を使ったスープですか、興味がありますわね」


「虎助――」


「はいはい、いま調べるから」


 女性陣の創意が決まれば逆らえまい。

 僕は元春からの声がかかる前にとレシピを検索し、幾つかのレシピを発見。

 それを参考に、まずは先っぽの方を手斧で軽くぶつ切りにして、塩をまぶして軽く揉み込み。

 十分くらい茹でたところでザルにあげて、流水でアクや少し残った血などを洗い流しゆく。


 ちなみに、この時の茹で汁には龍種特有の有効成分が含まれていので、後で魔法薬の生成などに使うべくとっておくとして、肉についた余計なゴミを流水で洗い流し、綺麗になった肉を圧力鍋に投入。

 そこにニンニク生姜、ブラックペッパーに酒、塩、茹で汁半分と水半分を注ぎ入れ、蓋を締めて圧力をかけつつも四十分ほど煮れば完成である。


「意外とシンプルな料理だね」


「作られたのが戦後の食糧難の時代ってことみたいですから」


 もともとは塩と肉だけで作る料理で、

 その後、いろいろと改良が加わり、ハワイのコーヒーショップで出されたことで各地に広まっていったようである。

 ただ、これとは別にインドネシアには古くから同じようなスープがあるようで、そちらはもっと古い歴史があるのかもしれないと、補足を入れつつも話題は残る素材の話に戻り。


「で、この皮とか鱗はどうするん?

 普通に鎧でもつくるとか」


「うーん、そうしたいのはやまやまなんだけど、今回の尻尾の出どころがね。

 増備に使うにはあんまり縁起も良くないらしいし――、

 ですよね。リドラさん」


「争いに負けたものの尾ですからな」


 そう、この尻尾は龍の谷の征服を目論んだディンゴの罰として切られたものである。

 まあ、龍種の価値観からすると、戦いに負けたことの方が重要なようであるが。


「たしかに、そう聞きますと、これを装備にというのは躊躇ってしまいますわね」


「モテねーおっさんの尻尾を使った武器とか鎧とか、性能的にも微妙な感じがするよな」


 いや、モテるモテないっていうのは関係ないから。

 あと、ディンゴはまだ若い龍種(ドラゴン)で、どちらかといえば我儘な子供といった印象だったんだけど。

 まあ、どちらにしてもいい印象はないか。


 と、その後、あーでもないこーでもないと使い道を考えてみたのだが、結局のところ結論は出ないままにキッチンタイマーが鳴り。

 先の話から、このテールスープを魔王様に食べさせるのもいかがなものかとも思ってみたのだが、魔王様としてはみんなと一緒に食べる気満々で、

 なにより縁起が悪いというのは、あくまで龍種に伝わる迷信のようなもののようで、リドラさんも特に止めようとは思わないみたいだ。


 ということで、さっそく皿を両手に待ち構えるみんなに配膳をしていき、それぞれが用意されたウッドテーブルについたところで手を合わせ。


「……プルプル」


「美容によさそう」


 種類によって食感がいろいろ違うが、この尻尾は牛のそれに近かったのかもしれない。


「コリアンダーの代わりに三つ葉とセロリの葉っぱを用意してみたよ」


 残念ながらフレッシュなコリアンダーは近所のスーパーでは売っていないので、お店の冷蔵庫の中にあった三つ葉とセロリの葉っぱを用意してみたのだが、


「あれってパクチーなんじゃね」


「ああ、コリアンダーもパクチーも同じ植物みたいだよ」


 多少品種の違いはあるかもしれないけど、コリアンダーもパクチーも同種の植物であるのは間違いはないようで、中国料理で使われるシャンツァイも同じものだと、僕がレシピを検索した時、出てきた情報をひけらかしてみたところ。


「玲っち知ってた?」


「当然でしょ」


 玲さんがいかにもなすまし顔でテールスープをパクリ。

 モムモムと咀嚼を始めたところで目を見開く。


「これはっ!?」


「……とろける」


「私ももらっていい」


 と、女性陣のリアクションにヴェラさんもテールスープに興味を持ったみたいだ。

 リドラさんを気にしながらも控えめにそう言ってくるので、


「リドラさんも味見、いかがですか」


「ふむ、介錯をしたものとして味わっておかねばなりませぬか」


 ここは僕がフォローをとリドラさんにお伺いを立てたところ、実はリドラさんも気になっていたのかもしれない。

 結局、食べることになったリドラさんも、最終的にはヴェラさんと仲良く、三杯ほどおかわりをしていた。


◆おまけ


「そういえばエレイン達が処理してたワイバーンの肉はどうするん?」


「回収したワイバーンはワイバーンの中でも更に飛行に特化したタイプだから、殆ど肉がなくて――、

 無理すれば食べられなくもないんだけど、保管がね。

 潰して、スパムとかみたいに缶詰にすればいいかもだけど」


「ちょっと美味そうだな」


「そう、だったら、そんなに難しいものではないし、やってみるのも悪くはないかな」

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