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リドラの帰還

 正月も三日目になってリドラさん達が帰ってきた。

 予定よりもお早い帰還となったのは、間に合いはしなかったが年末年始のアレコレに合わせようとしたのが一つと、幼龍が能力を発現してしまったからである。


 ちなみに、現在その幼龍はベル君のスキャンを受けており。


「レーヴァはどんな感じ?」


「スキャンの結果、体・魔力共に異常はないようですね」


 レーヴァというのは例のトワイライトドラゴンの幼龍のことだ。

 すっかり母性に目覚めたヴェラさんがつけた仮の名で、向こうの世界の法則でリドラさんとヴェラさんの名前を掛け合わせるとそうなるみたいだ。


 さて、そんなレーヴァのスキャン結果はソニアの分析が終わるのを待つとして、それまでの間に気になっていた情報の確認をしておこう。


「そういえば帰ってくる途中で面倒に巻き込まれたと聞きましたが――」


「峠で絡んできたエルフと人間ね。軽く吠えたら逃げていったわ」


 それはリドラさん達が拠点に戻ってくる途中のこと、ボロトス帝国に近い山岳地帯でエルフと人間の諍いに巻き込まれそうになったという。


「しかし、エルフとボロトス帝国の兵が小競り合いというと、やはり例の奴隷問題が原因ですかね」


「でしょうな。ボロトスの輩が子供のエルフを運んでいるようでしたので」


 これは以前から聞いていた話であるが、現在ボロトス帝国の貴族と一部エルフとの間で対立が起きているという。

 その原因はボロトス帝国による奴隷政策であり、今回リドラさん達は偶然にもその現場に遭遇してしまったようだ。


「追い払った後はどうしようもないから、そのままにしてきたけど――」


「マオ様の件もありますれば、下手にかかわると面倒事にしかなりませんからな」


 エルフ達の理不尽なまでの魔王様への迫害を考えるのなら、リドラさんの判断は妥当なものだろう。

 なにしろ、一年半ほど前まで、エルフの一団が夜の森に攻め込んでくることがあったのだ。


 その関連でリドラさんはエルフの間でもかなり知られている存在となっていて、下手に関わればあらぬ疑いをかけられ兼ねないと、去り際に、戦闘で発生した血の臭いにつられて魔獣などが寄ってこないよう強めの威嚇を周囲に撒き散らしながらも、エルフの子供達をその場に残してきたのだという。


 一方、現地にはモスキートを放ち、報告を受けた飛行隊のみなさんが調査に向かっているようなので、なにかあった場合はこちらに報告をしていただけるようだ。


 そんな確認をリドラさんとしていたところ、僕の手元に魔法窓(ウィンドウ)がポップアップ。

 すると、それを見た、ヴェラさんが待ちきれないといった様子で聞いてくる。


「それで、どうしてあの時、レーヴァがいなくなったのかとか、わかったの?」


「待って下さい。

 ええと、オーナー(ソニア)からの見解によりますと、あの時、レーヴァが消えたのは、共振現象が起こったのではないかとのことみたいです」


 山道での件を話している間にソニアから送られてきたデータに目を落とし、僕が応えると、ヴェラさんは頭を傾け。


「共振現象?」


「はい。パルス老が龍の墓場に導かれた際にレーヴァの持つ力が反応して、龍の墓場に転移してしまったのではないかってことみたいですね」


 あの時の動きをすべて知れるのは、あくまでレーヴァだけなので正確なことまでははっきりしないが、行方不明になる直前にレーヴァが入った脇道を線で伸ばしていくと、パルス老がいたという亀裂の奥に行き当り、その際の魔力の動きから、レーヴァは事前に時限の歪みの発生に気付いていたのではないかというのがソニアの考えのようで、


「そういえば、彼の地を管理するのは時限の龍と聞いたことがあるような」


『ちょっと、それ、詳しく』


 ずっとこっちのやり取りを聞いていたのだろう。

 ポツリとこぼしたリドラさんの一言に、デカデカと浮かぶソニアからのメッセージ。


「ふむ、そう言われますれども、その話は我がまだレーヴァくらいの頃に老龍から聞いた話でして――」


『ちなみに、その老龍っていうのは?』


「残念ながら、すでになくなっております」


『だよね~』


 リドラさんが子供の頃に龍の谷にいたってことは、その時点ですでに死期が迫っていた訳で、さすがにその龍種(ドラゴン)がまだ生き残っていないか。


「しかし、こうなるとそちらから情報を集める必要もありそうですね」


「ですな」


 リドラさんが話を聞いたというその老龍に話を聞くことはできないものの、いまだ存命の龍種(ドラゴン)の中には詳しい話を知っている龍もいるかもしれない。

 そういった年嵩の龍種(ドラゴン)に話を聞けば、なんらかのヒントが得られる可能性もあるのではないかというのが最終的な結論で。


「また谷に戻るの?」


「墓碑を持っていかねばならぬしな」


「それがあったわね」


 ちなみに、いまリドラさんが口にした墓碑というのは、シャイザークの犠牲になった龍種を夜の森に埋葬する時に使った魔鉄鋼の柱(オベリスク)のことである。

 これを使えば、龍種の鱗などから放出される、濃密な魔素を散らすことができるだろうと、龍の谷のゴミ問題により、拡大を続ける周囲の森の楔とすべく、現在計画を練っているのだ。


「ただ、レーヴァのこともあるのでな。しっかり調べた後でのことになるだろう」


「そうよね」


 はてさて、ヴェラさんが嬉しそうにしているのは、しばらくリドラさんと一緒だからなのか、それともレーヴァと一緒だからなのか。


「とにかく、できる範囲で調べていきましょう」


「そうですな」


『お願いするよ』


 龍の谷には、モスキートに蜘蛛型ゴーレムの久秀と、蒼空がいるのだから手はそれなりにあるのだ。

 調査範囲はかなり広いが、こつこつ調べていけば何かしらのヒントが見つかることもあるのかもしれず。


「そういえば谷の北側はどうなったの?

 期待はしてないけど」


 次にヴェラさんが微妙な顔で聞いてきたのは、知能ある龍種とは思えない不衛生さだったワイバーンの住処のことである。

 あまりの惨状にヴェラさんが緊急避難した後、強制的にワイバーンに浄化の魔法を教え込み、身の回りを綺麗にするようにとの御触れを出したのだが、もともとワイバーンの衛生観念があまりに残念すぎた為、また今度ということになっていたのだが。


「いま調べられる範囲では、特にこれといった発見はありませんでした」


「ま、そうよね。この子があんなとこにいたら死んじゃってたかもしれないから」


 実際、糞尿や食べかすにまみれたワイバーンの住処にいては、レーヴァが気管支炎などの病気になっていたのかもしれない可能性はあったのだ。

 まあ、ブレスが吐ける龍種が気管支炎になるかはわからないのだが……。


「じゃあ、やっぱり御歴々に話を聞くしかないのかしら」


「今のところヒントらしきヒントはありませんからね」


 それが正解に通じているかはわからないが、レーヴァについての取っ掛かりとしてはそれくらいしかないのが現状だ。


「なんにせよ。次に向かった時にいろいろ話を集めてみましょう」


 念話で話を聞くことも可能であるが、相手は長き時を生きる龍種である。

 それなりの礼節を持って接しないといけないから、ソニアとしては気になるところだろうが、リドラさん達の強力無くして、ことは運ばないだろうから、じっくりと腰を据えて調べていくしか無いだろう。

◆次回投稿は水曜日の予定です。

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