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寒稽古と神獣の話

 元旦、夜も明けやらぬ工房側の訓練場にて――、


「駄目だな」


「義父さんも結構強い方だと思うけど」


「うーん、まだまだ。

 せめて志帆には勝てるようになりたいぞ」


「でも、義姉さんを指導しているのは母さんだから――」


 僕と義父さんの向ける視線の先にあるのは、魔力を纏い殴りかかっていった義姉さんが、その手を取られ、母さんに転がされるというよく見る光景だ。


「まあ、なにか初見殺しみたいな魔法でもあればまた別だけど」


「初見殺しか――、

 虎助、なにかいいものはあるか?」


「そうだね。義父さんの魔法特性はバランスタイプだから、複合系の魔法がいいと思うんだけど、そういう魔法ってだいたい習得難度が高いんだよね」


 義父さんの魔力を小さな世界で調べると、恒星と惑星が風と水に乗ってくるくる回るようなものが表示され、火・風・水・土がバランスよく含まれていることがわかる。

 だとするなら、ふつうに威力の高い魔法をおぼえるよりかは複合系の魔法の方が威力が出ると思うのだが、その習得には高い難度が求められる訳で――、


「努力でどうにかなるものなら、なんとかするさ」


「そう?」


 義父さんがそういうのならと、僕は万屋のデータベースを開き、比較的難易度が低く汎用性の高い複合系の魔法をピックアップ。


「始めての複合魔法で僕のオススメなのは風と水の〈帯電霧(エレキフォッグ)〉かな。

 相当な練習が必要になるけど、使い方によっては一撃必殺にもなるし、足止めにもなる魔法だから」


 それは、威力を抑えれば空中に設置するスタンガンになり、最大威力で放てば広範囲の殲滅魔法にもなりうる魔法。

 他にも同じような使い方ができる水と土の複合魔法の〈泥縄(ストランドマッド)〉や火と水の複合魔法の〈泡気雷(スチームマイン)〉と、使い方によっては足止めにも一撃必殺になる可能性を秘めながらも、牽制としても使えるような魔法を幾つか紹介して、後のチョイスは義父さんにお任せといったところで、ふと気になっていた案件の進捗状況を聞いてみる。


「そういえば魔導列車の方はどうなったの?」


「あれな。いろいろ調べてみたんだが仕組みそのものは普通の蒸気機関車と変わらなかったぞ。全体の作りや装飾なんかには独自の文化が見られて面白かった。

 ただ、このところ検証が魔法的な部分に入ったようでな。俺はそろそろお役御免だ」


「いやいや、十三殿の見識がなければ刻まれる魔法式の意味を孫達が解くことはできなかったでしょう」


 と、ここで会話に加わるのはジガードさんだ。

 出会った当初、義父さんをサイネリア(お孫)さんを狙う輩と警戒していたみたいだけど、一緒に過ごすうちに打ち解けたみたいで、いまはかなり親しげになっている。


「しかし、この後、娘との約束もありますので」


「そ、私に付き合ってくれる約束なの」


 そして、母さんとの訓練を終えてやってきた義姉さんが「次、おじいちゃんの番だよ」とジガードさんを次の獲物として母さんに差し出して。


「そういえば父さん。動画の方、出ても大丈夫だった?」


「ああ、個人経営だから問題はないみたいだぞ」


 義姉さんが確認するのは、この年明けから義父さんも参加することになった、八百比丘尼さん関係の調査に関連した動画配信のこと。

 これはもともと魔女のみなさんの何人かが集まって運営していた散歩動画に、最近加わった義姉さん・佐藤さんコンビのトレジャーハンターシリーズが意外と人気が出ているそうで、今回の調査に合わせて、魔法関連のアレコレはカットしつつも義父さんにも出演願いたいと、魔女のみなさんの要望が上がり、義父さんの権利関係を調べることになったのだが、

 そもそも義父さんは芸能事務所などには入っておらず、仕事の事務処理なんかは母さんがしているので、魔女のみなさんの動画に出演しても特に問題はないらしく。


「しかし、今や魔女も多角経営なんだな」


「というよりも、みんなそれぞれ趣味に突っ走ってるだけでしょ。

 ヒッキーが多いから、そういうのに詳しいのもいるしね」


 義父さんの色よい返事に義姉さんも嬉しそうに魔法窓(ウィンドウ)を開いて、佐藤さんにでも報告しているのかな。

 ウキウキが隠せない様子で魔法窓(ウィンドウ)を操作する義姉さんだったが、次の僕の言葉でその表情は一変する。


「義姉さんのチャンネルも結構人気みたいだね」


「は、それ自慢なの?」


「自慢って?」


「アンタんとこの動画、かなり有名よ」


 ええと、僕のところでやっている動画というと――、


「もしかして次郎君がやってる?」


「そ、その子達が歌ったり踊ったりしてる動画」


 訊ねる僕に義姉さんが指さしたのは、僕の顔の左右にふわふわと浮かんでいたアクアとオニキスだ。


「そっちは次郎君に任せてるからまったくしらないんだけど、そんなに有名になってるの?」


「動画の再生数とかチェックしてみなさいよ。凄いことになってるから」


 動画の撮影には協力しているが、それがどれくらいの収益を上げているのか、正直僕はノータッチで――、

 と、義姉さんに言われて、調べてみると数千から数万、古い動画になると更に一桁上の再生数を叩き出しているようで、


「あれ、前に見た時はこんな数字じゃなかったと思うんだけど」


「次郎がなんかやったんじゃない」


「ああ、それはあるかもね」


 次郎君には独自のネットワークがある。

 これは同好の士にユイたんを見せびらかしたくて、密かに宣伝をしていたのかもしれないな。

 しっかり者の次郎君のことだ――、義姉さんが指摘した数字についてしっかり把握しているとは思うけど、また後でしっかり確認しておくとしよう。


   ◆


 さて、そんなこんなで朝の訓練を終えた僕達は今、世界樹の前で二礼二拍手一礼をしていた。

 神社や寺ではないが、ここには本物の精霊や妖精もいるし、初詣にちょうどいいんじゃないかと義父さんが言い出したからだ。


 まあ、あっちでの初詣はまた元春達といくのだが、今日は初売りだったり寒稽古だったりとみんな予定が立て込んでいるからね。


 と、そんな特殊な初詣だったが所為か、万屋に戻る帰り道――、

 難しそうに腕組みをした義父さんがポツリとこんな疑問を口にする。


「そういえば、神は現実に存在するのか」


「さあ、今のところ会ったことはないね。母さんはどう?」


「私も悪魔や魔()、神獣ならともかく、神様には会ったことはないわね」


 母さんならもしかしてと思ったんだけれど、母さんも神様にはあったことがないようだ。


「ちょっと、なんで私に聞かないのよ」


「志帆は会ったことあるのかい」


「ないわ」


 そして、義父さん発の会話にも関わらず、自分にだけ何も言えない状況を嫌ってか、義姉さんが『自分にも聞け』と言ったにも関わらず、その後すぐに言った『ない』という自信満々なセリフに義父さんが苦笑い。


『個人的には神というのは世界を支えるシステムなんじゃと思ってるんだけどね』


 と、このタイミングで音声付きのフキダシで会話に加わったのはソニアである。

 そんな神出鬼没なカットインにも関わらず、僕達は特に動揺することもなく、そのままの流れで、


「世界を支えるシステム?」


『パソコンのOSやセキュリティソフトをイメージしてもらえるとわかりやすいかな。

 その世界における理を管理している存在が神だとボクは考えてるんだ』


「つまり、神は世界の理そのもののようなものという受け止めでいいのか?」


『少なくともボクはそう考えているよ』


 そうなんだよね。ソニアの考える神様は概念そのものがその存在というイメージなのである。


『それで、各世界に伝わる神のイメージは、たぶん神獣のことなんじゃないかってボクは思ってるんだけど――』


「つまり、神獣がなんらかの命を受けて動いていると?」


『うん。これまでの情報から、神獣がなんらかの意思を受けて動いているのは間違いないからね』


「成程、こうなるとその神獣からも直接話を聴きたいが」


「それだったら、前にルナさんが前にそれらしいことを言ってたかも」


『えっえっ、ボク、それ聞いてないんだけど』


「そうだっけ?」


 その場にソニアが居なくとも、興味深い話だったから日課の時に話した記憶があるんだけど、もしかしたら日々送っている情報に埋もれて見逃しちゃってるのかもしれない。

 と、僕が改めて説明をしようとするのだが、ソニアはせっかちにも、


『ベルも居たよね。ちょっと確認してくる』


 そのコメントを置き去りに会話からログアウト。

 そうしたところで、義姉さんが「それで」と続きを促してきたので、僕は軽く喉の調子を整え。


「義姉さんは一番古い記憶で何歳くらいのことをおぼえてる?」


「そうね。ぱっと思い出せるのは、病院で赤ん坊のアンタと会った時のことだから、三才くらい?」


 と、腕組みをして絞り出したこの義姉さんの記憶に義父さんと母さんが微笑ましげな顔をしているが、あえてこの状況をからかうようなことを言ってしまえば義姉さんがまた不機嫌になってしまうので、話を続け。


「ルナさんの場合、それがもう大人になった後だったみたいなんだ」


「それってそのルナって人が最初から大人だったってこと?」


「もしくは、もともと普通の兎だったものが神獣に作り変えられたとかか?」


 義姉さんが言う可能性も、義父さんが言う可能性も、どちらもあると思うのだが、とにかくルナさんは気付くとどこかの世界のだだっ広い草原で草を食べていたとのことで、自分がテンクウノツカイであること、そして、いくつかのやるべきことを初めから知っていたのだという。


「なかなかに興味深い話だな」


 まあ、この話はあくまでルナさんの記憶を元に聞いた内容だから、どこまでが本当なのかはその本人にしかわからないんだけど。


「もう少し前なら神獣に近しい人から詳しく話を聞けたかもしれないんだけど――」


「そうなのか」


「うん。年末にギルガメッシュさんのお友達のエンキドゥさんって人がが来てたから」


 人の神獣であるギルガメッシュさんの友人であるエギンドゥさんなら、なにか知っていたんじゃないかと僕が言うと、義姉さんは頭上に小さなクエスチョンマークを浮かべ。


「ギルガメッシュって、なんかどっかで聞いたことがある名前ね」


「有名な叙情詩の主人公だよ。本人が言うには人の神獣だって」


 まあ、その聞いたことがあるって話も、義姉さんの場合、ゲームとかそういうもので聞いたってパターンだろうけど。


「しかし、偶然の一致か、翻訳の妙なのか、気になる名前だな」


「とゆうか、人の神獣ってありなの?」


 これに関しては僕も思うところが無いわけではないのだけど。


「人間も獣の一部ってことみたい」


「しかし、ここにいることが一番の冒険のような気がするな」


「ちょっと、お父さん?」


 義父さんがそう言いたくなるものわからないでもないのだが、義姉さんが怖いので、


「神獣の誰かが来たら連絡を取れるようにしておくから」


「たしかに、ずっと待っているわけにはいかないか」


 義父さんにはいつでも連絡がとれるように、日本各地に中継機を設置してもらうとしよう。

 今回の目的柄、海沿いの地域とか、森で暮らす魔女のみなさんの手がまわらない地域を回るだろうしね。

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