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それぞれの年末03

◆虎助side


 時間を少し遡り、年末直前――、

 夕食の準備に工房に来ていたカオスを手伝って、アビーさんとサイネリアさん+ジガードさんと、三人分のクラブハウスサンドを作り、トレーラーハウスに趣いたところで、ふと気になったことを聞いてみる。


「そう言えばお二人は実家に戻らなくてもいいんですか?」


「実家に戻る? どうしてだい」


「いや、もう年末になりますので、なにか行事とかそういうものはないのかなと思いまして」


 ここで言う年末というのは地球の暦におけることなのだが、どうしてか、ゲートと繋がる世界は似たような時間の流れをしている場所が多く、お二人の故郷でも似たような季節なのではと訊ねてみると、アビーさんとサイネリアさんはそれぞれ自前の魔法窓(ウィンドウ)を開きつつ。


「ありゃ、もう、そんな時期かい」


「ボクの方は特に言われてないよ。用事がなくてもアイルが会いに来るし」


 それぞれに寄せられたメッセージをチェックしてみた結果。


「うわぁ、すごい数のメッセージが入ってた」


「やっぱり侯爵家ともなりますと、いろいろとやらなきゃいけないことがあったりするんですか」


 アビーさんはまかりなりにも侯爵令嬢である。

 この時期にパーティなどに誘われているのではと訊ねる僕に、アビーさんは手を左右にひらひらとさせ。


「いや、ほとんどが愚痴みたいだね。例の闇オークション関連の問題だったり、地方に飛ばされた兄がいろいろやらかしてるとか、そういうメッセージばっかりだ」


 やらかしているといえば、現状アビーさんも似たようなものだと思うのだけれど。


「それって大丈夫なんですか?」


「兄の方なら平気だよ。やらかした分だけ罰が増えるだけだから」


 それはそれで侯爵家としては困るのではないだろうか。

 いや、この場合、やらかしたのは、暗殺騒動の末に次期侯爵の目が完全に失った次男の方ではないのかと、僕はそんな理解しながらも。


「なにか贈り物でもしてはいかがです。僕の地元には年末に親しい人に贈り物をする習慣があってですね」


「そうだね。父が働けるように私が作った元気薬でも贈ろうか。

 いや、周りが有能に育つようにマリィ嬢の領地で教育に使っているメモリーカードを送るという手もあるか。

 それなら父だけでなくセリーヌの助けにもなるだろうし」


 言っては悪いが、アビーさんにしては意外とまともなチョイスである。

 一方、サイネリアさんはアビーさんほど急ぎの用事はないようで。


「ボクの方はどうしようかな。一族の方は適当に素材でも送っておけばいいとして、アイルのご機嫌取りならディストピア一択なんだろうけど、手持ちにディストピアにできるような素材はないんだよね」


 ディストピアを作るなら、最低でも巨獣やワイバーンくらいの強さか、その強さに並び立つくらいに知性を持つ存在の素材が必要となる。

 もう少し待てば、龍の谷から戻ってきているリドラさんが新鮮なワイバーンを大量に持ってくれてくれる筈だけど、ワイバーンをディストピアにする場合、個体それぞれの才覚も関係してくるようで、確実にディストピア化できるとは限らないというから。


「ティル・ナ・ノーグの追加データとかはどうですか」


「うーん、悪くはないけど――、

 ちなみに、店長が今までで一番強かったと感じた相手をあげるとするならどう?」


「個人で言うのなら母さんですね」


 この答えに二人から「ああ――」という声が上がり。


「魔獣などでとなると相性もありますし、なにより巨獣や龍種なんかは体が大きく、ティル・ナ・ノーグとの相性がイマイチなんですよね」


「ティル・ナ・ノーグは場所が必要になるんだったっけ?」


 大型ボスのような戦いをするのなら、別空間にて戦闘を行うディストピアの方が有用なのだが、こちらはこちらで生産性が低く。


「あのさ、それ、シチュエーションを代えてみるってのはどう?

 ほら、巨人と戦うゲームなんかで岩場で戦うってのがあるじゃん。そういう感じのルールを作ればいいんじゃない」


「ふむ、悪くないかも」


 というか、アビーさんとサイネリアさんはいつの間にゲームをプレイしたのだろう。

 いや、お店に来た時なんかに、僕と魔王様がやっているところを見ていたのか。


「そういうのでいい相手とかいる?」


「精霊喰いなんてどうでしょう」


「そうだね。それにしよう」


◆ロベルトside


 場所はロベルトの研究所、リビングダイニング。

 帰ってきたプルが街で手に入れてきた品物を、大きな楕円のテーブルに並べると、ロベルトがその中から一つ、合金製の人形を手にとり、どこか呆れた顔をしてこう一言。


「随分買い込んできたな」


「ちょうど越冬祭のマーケットが開かれていましたので」


 プルが語る越冬祭というのは、もともとは冬が本格的になるこの時期に、越冬の品物を融通し合うというこの地の風習から生まれたもので、いまでは連日多くの蚤の市が開かれるお祭りとなっているものである。


「しかし、こんなにオモチャを買い込んでどうするんだ」


「以前こちらから迷い込んだ玩具がスクナの開発につながったと聞きましたので」


 プルが触れるのは一年以上前に万屋であった一騒動。

 これにより、ロベルトはマリィから強いお叱りを受けたということがあったということはさておいて、たしかに、こういう商品が開発につながったことは間違いはないとロベルトも納得。


「そういえば、今回はあちらさんからの接触はなかったのか」


「はい」


 ロベルトが気にする『あちらさん』というのは、二ヶ月ほど前に、聖騎士達が攻めてくるという話を持ち込んだ女性聖職者のこと。

 聖騎士達を無事に撃退したこともあって、何らかの接触があるやもと思っていたが、どうやら特に何もなかったようだ。


「すでに用済みということなのでしょうか」


「どっちかっていうと、俺達に構ってられるような余裕が無いのかもな」


「そっちの方がしっくりくるわね」


「そういえば今更だけど、相手方はどうやってプルと接触できたのかしら」


「信者の目を使ったんじゃない」


 ここで会話に加わるのは、研究室の片隅で魔法や精霊、スクナのことについて語り合っていたホリルとナタリア。


「ん、それなら普通にプルが気付いたんじゃないのか」


「いや、ここでいう信者の目っていうの特殊な儀式魔法で、広範囲の探知魔法のようなものだから」


「へぇ、そんなのがあるんだ」


「そんな話よく知っていたな」


「古い組織っていうのは、それだけ技術を隠し持っているもの、私が調べていてもおかしくはないでしょう」


 今や魔法がシェルなどのマジックアイテムに取って代わられたこの世界で、魔法に関する知識を手に入れるのなら、数百年とある組織の内部を探るのが手っ取り早く知識を得る方法の一つなのだ。


「まあ、ともかく、向こうからなにか言って来ないなら、それはそれで放っておけば――、

 それよりも前に追い返した奴らはどうなったの?」


「ようやく二人目の貞操帯が機能停止したってところか」


 わからないことよりもわかることを――、

 そんなナタリアからの質問にロベルトはこれまでに集めた情報を魔法窓(ウィンドウ)に表示。


「これって制限があるアイテムを使っているという受け止めでいいの?」


「地力で式を解除ってんならすぐ三人目と続くだろうからな」


 一人目、二人目と、魔法を解除した影響を調べるにしては解除されるペースが遅すぎる。


「思ったんだけど、これ、魔法を使って解除ことはありえないの」


「それはないと思う。コンディションを整えるにしても解除と解除の間が空いているから。


 まあ、レイを呼んだのと同じ、儀式系の魔法って可能性もなきにしもあらずだとは思うけど」

 なんらかの儀式によって貞操帯を機能を停止するということは、ありえないことではない。

 だが正直、この世界に残っている魔法技術でソニアが作った魔道具を、解析・分解するのは難しいと、それはナタリアだけでなく、ロベルトも思っていることで。


「その辺は調査待ち、もう潜入したんだろ」


「潜入には少々時間がかかってしまいましたが、中に入ってしまえばこちらのもの、すでに調べ始めているようです」


「だったら、プルが買ってきた豚ハムでも食いながらゆっくり待とうぜ」


 言って、ロベルトが持っていた人形をテーブルの上に、その手で魔力の膜に包まれたハムの塊を手に取ると、ホリルはそれを見て、


「そういえば、ここいらでは今の時期、これを食べるのよね」


「エルフの里だと違うのか」


「私達のところだとパイを食べるわね。ドライフルーツがたっぷりはいったヤツ」


「へぇ、それは美味そうだな」


 意外と甘党なところがあるロベルトがそう言うと、


「では、作りましょうか」


「じゃあ、作ろうか」


 アニマとホリル、二人の声が重なり、アニマは冷静に、ホリルはやや顔を赤らめながらも、お互いに無言でキッチンへと向かうのだった。

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