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それぞれの年末02※

◆虎助side


 十二月三十一日、午後六時――、

 テレビ画面の中、駅に到着する青い電車を眺めながら玲さんが呟く。


「なんかこうしてると年末って感じがする。

 人数はちょっと寂しいけど」


「元春が夕方頃に連絡をくれるそうですよ」


「東京だっけ?」


「渋谷のカウントダウンに行くって言ってました」


 そう、現在元春は東京に遠征中――、

 今ごろ現地に到着して、本番を前にアレコレ準備に励んでいることだろう。


「あと、次郎君も東京にいるみたいです」


「今の時期のコンサートはだいたい東京だもんね。

 いや、埼玉もあるんだっけ?」


 ちなみに、次郎君の方は数日前から東京に入っていて、連日コンサートに参加しているのだが……。


「しかし、アンタ等って意外とアグレッシブルだよね」


「まあ、母さんが主催する寒稽古に巻き込まれたくないってこともあると思いますよ」


 高校に入ってから強制的な招集はなくなったけど、暇をしていては巻き込まれ兼ねないと、元春や次郎君に限らず、僕の友達は年末年始にそれぞれ予定を立てているみたいだ。


「そんなにハードなの?」


「メニュー自体は大したことないですよ」


 地元で行われる寒稽古は、カルチャースクールの生徒さんも参加することがあって、普段なら年始のニュースで取り上げられるようなものとあまり大差はないと思うのだが、


「ただ、場合によっては母さんとの実践があったりしますから」


「それは、確かに遠慮したいかも」


 ちなみに、今年は母さんがずっと警察の仕事を受け続けていたことから、寒稽古はごくごく身内でのものになるようで、逆に厳しくなるのではと僕は踏んでいる――、

 というか、もう年末から稽古は始まっているのかな?

 義父さんとの旅行から帰ってきた後、ディストピアを幾つか持っていったし。


 まあ、今日に限っては、義父さんと自宅でのんびり掃除をしているみたいだけど。


「しかし、ひよりも大胆よね。年末に正則の家にお泊りとか」


「あの二人は、昔から家族ぐるみの付き合いですから」


 と、続いて玲さんがため息交じりに触れるのは、今日のお昼に魔法薬を受け取りにやってきたひよりちゃん達のこと。

 家が隣同士で生まれた時からずっと一緒だった二人は、お互いの家を行き来する仲で、この年末は部活が忙しいと、実家に帰る家族を見送り家に残っているのだ。


「それでも年頃の娘でしょ」


「お母さん同士が同郷で、ひよりちゃんの弟君も一緒みたいですから」


 まあ、正則君とひよりちゃんのお母さんなら、たとえ二人きりだったとしても、むしろ微笑ましげな目線を向けていたと思うけど。


「あれ、ひよりに弟なんていたの?」


「知りませんでした?

 年は離れてますけど居ますよ」


 いまは小学四年生になるのかな。

 田舎に帰るこのタイミングで風邪を引いてしまったようで、両親と下の妹二人が心配する中、居残りになってしまったという。


「そういうことなら安心かな?」


「薬も渡しましたしね。

 というか、むしろ太陽君――、

 ひよりちゃんの弟君なんですけど、彼も応援している側ですから」


 ひよりちゃんについて、市のカルチャースクールなんかにも顔を出していることがあって、僕も太陽君とその下の姉妹とは顔見知りであるのだが、実は彼等もまた正則君を兄と呼び懐いているのだ。


「成程ね。

 だけど、ひよりのところが四人姉妹だったとは――」


「ちょっと驚きですよね」


 下の兄弟とも離れていることから、僕達からしてみると、どうしてもひよりちゃんには妹というイメージが付きまとうのだが、実際は四人兄弟の長女だったりするのである。


「そういえば、兄弟ってことなら、あんたんトコの志帆さんは?」


「義姉さんなら、今日は地元の友達と遊ぶって言ってましたよ」


 もちろん鈴さんと巡さんも一緒にだ。

 駅前の複合施設に行くとかで、万屋でお昼を食べた後、出かけていった。


「地元の友達かぁ。みんな元気かなぁ」


「年賀状とか良かったんですか」


 魔女さん経由でアメリカから送ることも出来るからと、十二月の頭に出すか聞いたことがあったのだが「無駄にお金をかけるのは――」と断られていたのだと、ついクチに出してしまった感情を誤魔化すように玲さんはニコリ笑うと、ここでゲームの手番が回ってきた魔王様を見て、


「そういえばマオのとこはお正月なにするの」


「……お蕎麦食べる」


「そういえばリドラさんは残念でしたね。せっかくいろいろ用意しましたのに」


「……餅つきとか」


 キャサリンさん曰く、鴨南蛮ならぬ(メガブロイラー)南蛮を作る予定があるそうで、リドラさん用にメガブロイラーの丸焼きの準備を進めていたそうなのだが、そのリドラさん達はまだ龍の谷からの帰り路で、年末年始までには拠点に戻れないそうなのだ。


「それで餅つきは大丈夫なの?」


「……ブキャナンがいるから平気」


「そうですね。魔王様のところにはリドラさん以外にも力持ちがいっぱい居ますから。

 ニュクスさんも張り切っているようですし」


 そう、魔王様の拠点にはオーガのブキャナンさんを筆頭に元戦闘奴隷でだった獣人のみなさんと、力自慢が揃っているのだ。

 加えて、ニュクスさんは餅をスティック状に切ったものにベーコンを巻いて焼いたものがお好みらしく、餅つきにも積極的とあらば周りも張り切らずにはいられない。

 ちなみに、この餅の食べ方はニュクス様だけでなく、魔王様や拠点にいる多く仲間――特にミストさん達、アラクネの皆さん――から支持を集めているようで、魔王様のところのお餅はほぼ全てスティック状に切るようになってしまったのだという。


 すると、そんな話が魔王様の食欲を刺激してしまったのか、僕の方をじっと見てきたので、


「ご飯が入らなくなるといけませんから一本ですよ」


「……ん」「お願い」


 魔王様だけでなく玲さんからも強い視線を受け、僕はゲームの操作をベル君に変わってもらってキッチンへ向かい、手早く焼いたベーコン餅を食べつつゲームを続け。


「五年勝負でも意外とかかったね」


「ですね」


 ちなみに、ゲームの最終順位は一位から、僕・魔王様・スクナのみんな・玲さんという順だった。


「……そろそろ帰る」


「では、これを――、

 お蕎麦とウィスクム麺です」


 と、こちらで用意した麺が入ったバスケットにを渡すと、魔王様は「……ありがと」とはにかんで帰宅の途につき。


「そういえば、ここって大掃除とかやらなくていいの」


「掃除は普段からしっかりやってますから」


 やるとするならバックヤードの在庫処分などだが、福袋に入れる商品の選定の際にある程度はしてあって、そもそも工房などの掃除は一度やり出したらきりがないからと苦笑いをしていると、ここで通信待ちだった魔法窓(ウィンドウ)がポップアップし、映し出されたのは見慣れた坊主頭。


『ヘイヘイ、虎助、玲っち。映ってるか、これスゲくね」


「うわっ、すごい人じゃない」


 場所は有名な渋谷の交差点かな。

 画面越しに見えるだけでもかなりの人が集まっているのがわかる。


『で、そちらのお子様は?」


 ここで声をかけてきたのは水野君。


「遠縁のお姉さんでね。いまは寒稽古でこっちに来てるんだよ」


 うん、我ながらうまい誤魔化しができたと、僕が思う一方で、水野君達が気になったのは別のことだったみたいだ。


『お姉さん?』


『ああ、玲っちはああ見えて俺等よりも年上なんだよ』


『マ・ジ・か』『『『まさかの合法ロリだと!?』』』


 その後、当然のようにギャースかと玲さんを含めて一悶着も二悶着もあったのだが、年が明けて、帰ってきた元春がどうなったのかは言うまでもないだろう。


◆志帆side



「おっすおっす――」


「久しぶり」


「あれ、イサちゃんは? 一緒じゃないの」


「勇美は駅弁やらなんやらで忙しかったみたいで戻ってこれなかったんだよ」


「それをいうなら駅伝でしょ」


 場所は地元駅の入口前――、

 そこに集まるのは志帆を中心とした高校の同級生だ。


「しかし、志帆と鈴はますます格好よくなって――」


「なにそれ?」


「私は、私は?」


「巡は相変わらずかわいい。

 てゆうかまたデカくなってんじゃん」


 挨拶が終わり、ある意味で定番のやり取りがあった後、ずむっと胸を持ち上げられた巡が「えへへ」と歩き出したところで、わいわいと移動しつつも近況の報告会が始まりだ。


 と、そんな中にあってひっそりと志帆に近づく怪しい影が一つ。

 その正体は志帆達の友人の一人、田端メリサ。


「くく、久しぶり。

 そっちはどう? 最近いろいろ動いてるらしいけど」


「田端もいちおう関係者じゃない」


「弟君にはお世話になっているよ」


「なんの話?」


 長い前髪を揺らして姿勢悪くも頭を下げるメリサと志帆の会話に、巡の胸のさらなる成長に指を加えていた朋子が乱入する。


「間宮には、叔母が仕事関係で世話になっているんだよ」


「ああ、あの、めっちゃ美魔女な親戚の――」


「地方の歴史とかに詳しくて、仕事の手伝いとか任せてるの」


 そう、実はこのメリサこそが志帆とタバサを引き合わせた張本人。

 志帆や虎助が魔女達と交流を持つに至ったきっかけを作った人物なのだ。


「それで、どうなのよ。トレジャーハンター(笑)」


「(笑)ってなによ」


 ニヤニヤと誂うような朋子の問いかけに、志帆は若干口を尖らせながらもそう返すと、

 それに朋子は頭を掻きながら。


「いやぁ、普通なろうと思わないでしょ」


 これは鈴と巡も同意するとばかりに頷いて。


「そんで、上手くいってんの?」


「そこそこね」


「ホントに~?」


「それは私が証明するよ」


 肩を竦めつつも太鼓判を押したのは鈴である。

 すると、それを聞いて安心しているのやら、呆れているやらといった表情で「マジか」と唸る朋子に、志帆が唇を尖らせて。


「ちょっと、なんで鈴が言ったら納得するの」


「自分の胸に手を当ててください」


 志帆の突拍子もない行動はいまに始まったことではない。

 それは中学・高校からの付き合いの朋子達ですらわかっていることであって。


「そういえば、みんな、二十歳の集い(成人式)はなにで行く?」


「振り袖~」


「振り袖」


「私も振り袖だね」


 この唐突な話題転換はかしましさが為せる技か。

 巡を筆頭にみんなが次々に答えていく最後、鈴の回答に朋子は意外そうな表情を浮かべ。


「志帆と鈴はスーツで行くと思ったけど」


「私もそうしようと考えてたんだけど、あの女がね」


 志帆がそっぽを向きつつも主犯である人物に触れると、周囲のニマニマと口元を歪めた朋子が「素直じゃないなあ」と志帆を突き、それを「もう、朋ちゃんったら」とつばめがやんわりと注意。


「鈴ちゃんは――って、聞く必要なかった」


「例のシスコンお兄さん?」


 項垂れているのか、それとも頷いたのか。

 疲れたような鈴のリアクションに、つばめと朋子は先ほど志帆に向けたのとはまた別種の視線を作りながらも。


「でも、あのお兄さんがいて、よく実家を出られたよね」


「それは巡のおかげかな」


「一緒に住んでるんだっけ?」


「巡が一緒なら大丈夫だって、許可が降りてね。本当に助かったよ」


 鈴には過保護な兄がおり、大学入試の前に『一人暮らしなんてけしからん』と反対していることも知っていたのだが、巡が一緒に住むとなれば話は別である。

 ただ、それは巡にとってもお互い様で――、


「こっちこそだよ。私なんて家族みんなが心配するんだよ。しっかり生活できるのかって」


「巡、料理あんまだもんね」


「見た目は凄くできそうなのに」


「待って、私、料理出来るんだよ」


「結果でしょ。過程がアレじゃん」


 もうと怒りながらも巡はみんなを追いかけるように駅前の複合施設の中に入っていくのだった。



 ◆作者の為の備忘録・志帆の関係者※


 間宮志帆……虎助の姉。スレンダーなガキ大将。しかし、後輩などの面倒見は良く、例えるなら通常版の皮を被った映画版。


 伊吹鈴……志帆の友人の中で数少ない常識人。本人にそのつもりはないが周りからは男装の麗人として扱われることが多い。癖の強い友人やシスコンの兄二人を持つ苦労人。


 笹本巡……おっとりポワポワな武闘派女子。幼なじみ三人の中では一番男性(・・)にモテるが「自分より強い人じゃないと」とバッサリ断っている。一通りの家事はこなせるが料理だけは独特(・・)


 田端メリサ……魔女である佐藤タバサの親族。志帆と同じクラスになった際、いつも一人でいることに目をつけられ友人に。魔法薬の調合ができ、現在は薬剤師の免許をとるべく大学の薬学部に通っている。


 東朋子……元陸上娘。志帆経由で虎助グループとの親交があり、同じ競技をするものとして正則と話が合うことから、ひよりに要注意人物と目されている。勇美という友人がいる。


 穂波つばめ……朋子の幼なじみ。中学の入学当初、たまたま志帆の前の席になったことから振り回されることに。ただ元々の正確なのか、志帆に振り回されるのも楽しんでいるフシがある。

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