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それぞれの年末01

◆とりあえずSS二本です。

◆マリィside


 ガルダシア城内、執務室――、

 独立領主の執務室としては、いささか狭いその部屋の中、マリィは全体的なカラーリングから雰囲気までもが対象的な二人のメイドから報告を受けていた。


「それで、どうでしたの村の様子は?」


「お肉もハーブソルトも好評だったそうです」


「来年からはハーブも栽培しようかという話がチラホラとあがっていたとのことですね」


 その報告は、本日、ガルダシア領内で唯一の集落であるポッケ村で開催された宴の話。

 地球が新年を迎えるのを前にして、そろそろ村を訪れる旅人も減ってきたと、昨年は城のみで行われていた宴を村でもやってみようと企画した宴が、好評であるとの報告にマリィがほっと胸を撫で下ろし。


「しかし、あの熟成肉でしたか、あれは凄いですね」


「管理が難しいという話ですが?」


 今回の宴に出された熟成肉、これについて訊ねたのはマリィの母であるユリスである。


「ただ保存するだけではああもなりませんものね」


 肉の保存はガルダシア城でもやっている。

 それだけで美味しくなるのなら苦労はしないと、そんなスノーリズの声にトワが横から。


「塩漬けのお肉も方法によっては美味しくなるそうですが」


「以前にいただいた味噌漬け肉は絶品でしたわね」


「あれなら、村でも作れなくはありませんね」


 味噌、錬金術による種麹の抽出方法、採取の方法などを教わったことで、極少量にはなるのだが、村でも味噌を作ることが出来たのである。


「そういえば、村の教育の方はどうなっていますの」


「メモリーカードの導入で村人の全員が簡単な読み書き計算を憶え、早いものは錬金などの特殊な技術の習得にかかっています」


「戦闘面では、そろそろホワイトボアくらいなら狩れる者がちらほら出ているところでしょうか」


「一番進んでいるのが子供達というのが皮肉な結果ですが」


「ふむ、弓の数は足りていますの?」


 獣を狩るとなれば弓などの遠距離武器が必要である。

 それが村にどの程度配備されているのかと訊ねるマリィに、スノーリズが手元に魔法窓(ウィンドウ)を浮かべ。


「数は揃えましたが強度の方が心許ないので、その辺りは魔法で補ってもらおうかと」


「おじ様のところから購入することを考えるべきですの」


「腕に見合うものをとなると高くついてしまいますし、将来のことを考えると村で作れるようにするべきでしょう。

 そちらの教育も進んでいますので」


 と、質問からのトワの切り返しにマリィが「成程――」と唸ったタイミングで「ぐぅ」と聞こえる可愛らしい音。

 執務室の入り口に控えるルクスのお腹の音だ。


 この音に執務室の空気が一気に緩み。

 トワがまったくと眉を顰める中、マリィは少しほほえみながらもボールペンを置き。


「では、そろそろ(わたくし)達も中庭に参りましょう」


 移動した中庭に設けられたサンルーム。

 そこに用意されるのはバーベキューコンロ。

 そう、村で宴が行われているとあらば当然、

 城の方でもバーベキュー大会が行われることになっている。

 その日、ガルダシア城の中庭からは、夜遅くまで楽しげな声が聞こえていたという。


◆フレアside


「これくらいでいいのか」


「もう少し、水分が必要かな」


 雪がちらつくその日、森の泉の側に建つログハウスのキッチンで、フレアとパキートの二人が、真剣な顔で蕎麦打ちをしていた。

 前に日頃のお礼にと二人が料理を振る舞ったことが好評だったということで、月に一度はこうして料理を振る舞うのが彼等のライフワークとなっていたのだ。


 そして、つい先日、この時期に振る舞う料理としてなにがいいかと虎助に相談したところ、蕎麦打ちを薦められたから、こうして作っているのである。


「しかし、アレルギーとやらがニナになくてよかったな」


「原因不明の奇病がまさか病気への耐性によるものだったとはね。

 まあ、蕎麦に関しては、ニナはまだ食べられないんだけど」


「しかし、離乳食とやらがそろそろなんだろ」


「最初はパン粥とかそういうのがいいみたいだね」


「作り方をしっかりおぼえなくてはな」


 これがつい数ヶ月前まで、勇者や魔王と呼ばれていた二人の会話だと誰が思うだろうか。


「だいぶ纏まってきたみたいだね。そろそろこねていこう」


「外から内だったな」


「空気が入らないようにしっかりと力を込めて、ね」


 ちなみに、二人はすでに虎助による直接&遠隔指導で蕎麦打ちを体験しており、写真つきのレシピを見ながらではあるが、なんとか自力で蕎麦打ちを出来るようにはなっていた。

 そして、生地が粗方まとまったところで、あらかじめ用意してあった木製ののし台に粉を打ち、上手くまとまった蕎麦生地を乗せ、軽く周りを観察。


「うん、ヒビも入ってないし、いい感じ」


 生地の上にも粉打ち、綿棒を使って伸ばしていく段になるのだが、


「虎助のようにうまく四角にするのは難しいな」


「対角線になるように伸ばしていけば――っていう理屈はわかるんだけど、実際にやるのは難しいね」


 お互いに少し歪ではあるものの、蕎麦生地を一ミリ程の薄さに伸ばしたところで、ふたたびの粉打ち――からの生地を折りたたんで包丁を取り出し。


「やっぱり切るのはお手の物だね」


「自慢できる程のものではないがな。それよりもパキート殿、つゆの方を頼む」


「了解」


 ここからは分担作業――、

 フレアが麺を切り、パキートがダシを取るところから、つゆを作ってゆく。

 ちなみに、パキートが作るのつゆは削り節を使った本格的なもので、まずは前日から昆布を漬けておいた鍋をじっくり時間をかけて沸かしていくが、その火加減は研究者であり魔人であるパキートにかかればお手の物。

 そうして十分ほど鍋を火にかけ、鍋底にふつふつと小さな気泡が出始めたら昆布を引き上げ、ここで一気に強火にして、沸騰したところで火を止め、削り節を投入。

 再び火を付け、再沸騰したところで弱火に、後はアクをすくいながら数分煮出して、綺麗に浄化した布で削り節を濾し取ればダシの完成だ。


 これに前日からみりんと醤油を煮きって作ってあった返しを加えればつゆとなる。


 後は蕎麦を切り終えたフレアと麺を茹で、きのう万屋で仕入れてきた葉物などで天ぷらを揚げ始めれば頃合いだ。


「じゃあ、エドガーそろそろみんなを呼んできてくれるかな」


「かしこまりました」


 ハラハラと覗いていたエドガーに皆を呼びに行ってもらえば、後は食べるだけ。


「ちゃんと出来てるじゃない」


「美味しそうです」


「ニナ駄目ですよ」


 森と泉を望むリビングには、どこか異世界を思わせる冬の情景が見られたという。

◆次回投稿は水曜日の予定です。

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