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●魔女と特殊と象の魔人

 小さな森と草原と川が渾然一体となる壮大な景色に響き渡るのは銃を乱射する音。

 ライフルを構えるボディアーマーを着た男女二人組によるものだ。

 その男女の前方には剣道着のような藍の和服に身を包んだ二人の青年の姿があって、四人をサポートをするのはどこか和風のテイストを感じさせるローブを羽織る魔女が最後尾に控えている。


 さて、そんな五人が対峙するのは二足歩行する巨大な象の化け物――トルージャだ。


「ちっくしょ、硬ぇ」


 木刀を振り下ろした大柄な青年は(くだん)

 彼は加藤家に連なる者で――、


 そんな件がトルージャの皮膚の硬さに呻いたその瞬間、トルージャが無造作に払った棍棒に弾き飛ばされる。

 十メートルは飛ばされただろうか、件は物理演算エンジンのシミュレーションでひどい目に合うラグドールのように地面を転がり、最後は大の字になって光と消えてしまう。


 すると、彼と同じく、加藤の弟子としてこの訓練に参加している(たくむ)が、既に三度目の死に戻り(ゲームオーバー)となった彼の姿を見て冷静に、その他のメンバーに通信を飛ばす。


『件が戻ってくる時間を稼ぎます?』


『あそこまで踏み込んでようやく届くくらいだ。ちまちまやったってしょうがねぇ。全滅覚悟で攻めてかねぇとだろ』


『このディストピアは消耗品が復活しない設定ですからね』


 そう、ここはディストピアの中――、

 今回、彼等は訓練と称し、このディストピアに放り込まれていたのだ。


 ちなみに、件の攻撃はトルージャに多少なりともダメージを与えることが出来たが、この会話の間にほぼ回復。

 その自然治癒力の凄まじさと魔弾の連打すらも防ぎ切るその防御力の高さから、このままやったとしてもジリ貧だと、警察の特殊部隊から参加している八尾の判断に最後尾に控えていた近接戦闘系の魔女・杏が動く。


『準備に時間がかかる魔法はあまり得意ではありませんが大きいの行きます。引きつけを――』


『『了解』』『わかりました』


 通信を介した杏の願いに、八尾とその同僚である春日井は、返事をするやいなや二手に分かれてライフル型の魔法銃から魔弾をバラ撒くと、それに混じって工が魔法式を経由した飛ぶ斬撃――飛斬を飛ばしていくのだが、


「三発が限度ですか」


 一つ、二つ、三つと放ったところで魔力が枯渇してしまい、ガクリと膝が落ちそうになる工であったが、倒れる寸前に一歩足を踏み出すと、フラつきながらも混紡を振りかぶるトルージャから距離を取り、その数秒の内に回復した魔力に、今度は先の失敗を生かして二発づつ斬撃を飛ばし、トルージャの意識が周囲に逸れたタイミングで投げ込まれるのは緑の魔法石――風のディロックだ。

 そうして三秒、投げ込まれたディロックが割れると同時に巻き散らかされる暴風。

 そんな暴風にトルージャが大きく仰け反ったのをチャンスとここで杏が前に出て、木刀を突き放つ。


『行きます』


  すると、杏の手を離れた木刀がミサイルかくや、彼女の前方にはじき出され、トルージャのでっぷりとした腹に突き刺さり、大きな風穴を開けた――、

 までは良かったのだが、その一撃でトルージャを仕留めきることが出来ず。

 直後、杏が見た光景は巨大な混紡を振り上げるトルージャの姿だった。


   ◆


「……負けたな」


「まさか、あの状態から回復されてしまうとは完全に選択ミスでした。

 あの場面で貫通ではなく、押しつぶすような攻撃を選んでいれば」


「気にすることないですよ。

 私、後半ほとんど何も出来ていませんでしたし、先輩なんて居た意味ありませんでしたもん」


「うるせぇよ。

 俺は遠くからチマチマってのが性に合わねぇんだっての」


「今回は前衛が多かったんですから、

 こういう事もできないとカルキノスのディストピアに放り込まれますよ」


 メンバーそれぞれが反省点を述べていく中、脅しとも取れる春日井(こうはい)の発言に八尾がチッと舌打ち。

 そんな二人を「まあまあ」と杏が仲裁すると、八尾は場の微妙になった空気を気にしてか。


「しかし、お前らが使ってたあの飛び道具、加藤家の技なのか」


「一応はそうみたいなんですけど、僕達が使っているのは、万屋で売っている練習用の魔法みたいで」


「そうなのか、だったら今度、教官に仕入れてくれるように頼んでみるか」


 銃以外の遠距離攻撃に興味を示す一方、今日の戦いでまるでいいところがなかった件が「羨ましいな」と呟くと、


「お前等の木刀(それ)、万屋で売ってるヤツだろ。

 だったら普通に買やぁいいんじゃねぇの」


「実は、この木刀もなんすけど、ハイエストって奴らの輸送任務の時にもらったヤツなんすよね」


「そうなのか」


 八尾はどこか諦念が漂う件の話にと驚いたようにしながらも、何かしらの事情があるのだと深く聞くことはなく。


「てことは、お前ら、ハイエストと戦ったのか?」


「戦ったというか、ただその場に居ただけ――という表現が正しいのかと思いますが」


「けど、相手は見たんだろ。どうだった?」


「ありゃ、完全に化け物っすよ。化け物。

 ジジイもよくあんなのとタイマン張れるよな」


「ライカンスロープと言うんですかね。

 ライオンに化けられる超能力者で、少なくとも僕達では勝てないと思いました」


 話は変わって、男性陣がハイエストの超能力者の話題で盛り上がる中、春日井が杏に聞くのは、


「そういえば小練さんはハイエストの戦闘経験があおりだとか」


「私が遭遇したのは二人が遭遇した超能力者よりも格下だったのですが、それでも一対一では勝てませんでした」


 例えば、いまの杏なら、単独で群狼と戦うことになったとしても、八割がた勝ちが拾えるくらいの地力はつけている。

 しかし、相手がライオンの獣人――ドゥーベともなると、単独で勝利するのはほぼ不可能。


「やっぱり八尾さんも新しい増やすべきなんですよ」


「ゴチャゴチャ持ち歩くのはあんま好きじゃねぇんだけどな」


 春日井の話が最初に戻り、これに八尾が渋い顔をして、


「万屋でマリィ様の魔導器を参考に、装備の変更がしやすいホルスター型のマジックバッグを開発したとかいう話を聞きましたけど、そういうのは使わないんですか」


「そんなのがあるのか?」


「チェック不足ですよ八尾さん。万屋さんの新商品です。

 まあ、私達のお給料じゃ、なかなか手が出ないんですけどね」


 春日井が魔法窓(ウィンドウ)を開く、地味ながら見やすい万屋のホームページに並ぶ商品ラインナップは、魔法薬を中心に、安いものでは千円単位の商品がいくつか見られはするものの、それが装備品ともなると百万を軽く超えてくるものが殆どで、公務員である春日井にはおいおいと手を伸ばせるものではなく。


「春日井さんは錬金術とかやらないんですか」


「知っての通り、私達は公務員なので副業は禁止されているんです」


 杏の疑問に肩をすくめる春日井。

 それに工が「ああ――」と納得したような声をあげ。


「装備が欲しいの? 注文しよっか」


 このタイミングで会話に入ってきたのはイズナである。

 前触れなく会話に混じったイズナに加藤家二人が身を固くする中、春日井はいつものことだと砕けた調子で、


「いやいや、私の場合、半分っていうか殆ど個人的に欲しいものですし」


「お金なら私が出すけど」


「えっと、それは不味いのでは?」


「心配しないで、

 実は修行の為に魔獣と戦ってたら、相当なポイントが溜まってて」


 春日井にしては珍しく遠慮がちな態度に、イズナは万屋のポイントが溜まっていて、現金化することもできないでもないが息子が店長を務める店でそれをするのもいかがなものかと、どうせなら、そろそろ独り立ち出来そうな特殊部隊の隊員になにか有用な物資を提供できないかと提案。


「それに部隊で使う装備なんかなら経費で落ちるし、ポイントと現金、最終的な収支さえあえば、個人的なものも買う余裕が生まれるんじゃない」


 どこかマネーロンダリング的なイズナのアイデアに、それはそれで問題があるのではないかとも思う春日井であったが、自分の安月給で個人的に万屋の商品が手に入れられるというチャンスは見逃せないと――、

 しかし、公務員としてそれは許されるのかと、懊悩する春日井の姿を見てイズナは楽しげにしながらも、「どうせなら、あなた達も一緒にどう?」と、残る三人に声をかけたところ、男三人からは「本当かよ」「いいのでしょうか」との戸惑いの声があがり。


「まあ、君達のことは加藤さんに頼まれているし、これからのことを考えるとちゃんと許可が出ると思うけど」


 加藤家は日本における武門の一角を預かる家だ。

 国を守る組織としてのパワーバランスを考えるのなら、加藤一門の強化は必要不可欠であり。


「あっ、杏ちゃんもなにか欲しいものがあったら、言ってくれてもいいわよ」


「イズナ様。さすがに――」


 最後に最近息子が手を回している魔女の陣営への配慮も忘れていないと、そう杏に声をかけるイズナであった。


 ◆忘れがちな設定でありますが、イズナも杏も(地球人にしては)高い魔力や実績など(・・)の影響から、見た目年齢がバグっています。

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