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スノーゴーレムと召喚触媒

 夕方――、

 宿泊施設のお客様へのバーベキューコンロの貸し出しが一段落した頃、やってきたのはフレアさん達だ。

 メンバーの一人、ティマさんは店に入るなり、肩がけのマジックバッグから白い塊を取り出し聞いてくる。


「虎助、これの加工できる」


 ポタリとカウンターの上に落ちた水滴から、ティマさんが手にするそれが雪の塊であることはわかるのだが、これを加工できるかというのはどういうことだろうか?


 聞けば、それはゴーレムの体らしく、大量に魔力を含んだこの雪を錬金術で結晶化させれば、魔氷結晶なるアイテムが作れるのではないかとのことで、

 早くしないと溶けちゃうからとティマさんに急かされる形で工房へ。


 そして、手が空いているのエレイン君に集合をかけ、特大サイズの錬金釜を用意してもらっている間に、詳しい説明を求めたところ。

 どうもその雪の塊は、フレアさん達が拠点とするログハウスの周囲の森の巡回中に遭遇した相手のものであるようで、マジックバッグがほぼ埋まってしまっていることも急いでいる理由の一つだそうだ。


「しかし、簡易版とはいえマジックバッグがパンパンになるなんて、そのスノーゴーレムは相当大きな個体だったんですね」


「いや、理由はよくわからないのだが、森の中を集団で移動する集団を見つけてな。

 走る方向から人里に向かっているのではと思い殲滅したのだよ」


 その気配に最初に気付いたのはメルさんだったそうだ。

 いつもの巡回任務兼狩りの途中、森の中を移動する複数の気配を察知。

 また良からぬ輩が森に入ってきたのではと現場に駆けつけたところ、そこには森の中を疾走するスマートな雪人形の集団があったそうで、

 その思わぬ遭遇に一瞬唖然としてしまったフレアさん達だったが、すぐに我を取り戻し、追跡を開始。

 ただ、思いの外、ゴーレム達の移動速度が早かったことから、魔法窓(ウィンドウ)由来のマップ機能を駆使して先回り、不意打ちを仕掛けた結果、これが思った以上の戦果となって、大量の雪を獲得するに至ったとのことである。


 しかし、どうしてゴーレムの集団が、操者(マスター)不在まま森の中を疾走していたのか?

 僕が根本的な疑問を考えようとしたところ、

 ここで、ティマさんが雪を注ぐ、錬金釜の方から、カツンとなにか硬いものがあたったような音が聞こえてくる。


 僕がティマさんに声をかけ、雪を注ぐのをいったん止めてもらって調べてみると、枝や石ころが入らないように錬金釜の上に乗せた網に黄土色の魔石の欠片が引っかかっているのを発見。

 これを鑑定したところ。


「壊れたゴーレムの核ですか。

 これってなにか意図したものだったりするんでしょうか」


「さて、その核となっている魔石は土属性のものとお見受けします。

 それに比べて実際に遭遇したゴーレムの属性を考えますと、事故という可能性もあるのでは?」


 確かに、ポーリさんの言うように、もともと土属性だったそれが雪の身体で形成されていたとなると、なんらかの偶然によってその核が起動したって可能性もあるのか。


「なんにしても、ゴーレム達の動きを見るに、何者かが良からぬことを企んだといったことも考えられるのではないか」


 ゴーレムの生成が意図したものであるか、そうでないかは別として、あからさまな目的を持ってゴーレムが動いていたとなれば、なんらかの背後関係があるのではとフレアさんの指摘も頷ける。


「とりあえず、倒したゴーレムの数だけ核はあると思いますので、

 幾つかこちらで預かって分析してみましょうか」


「頼めるか」


 ということで、同じゴーレムの解析ならエレイン君達はお手の物と、さらにゴーレムの核を二つほど回収したところで錬金釜が満杯になったみたいだ。


 ティマさんに場所を変わってもらい錬金術を発動。

 その反応光が収まった後、釜の下部に設けられた取り出し口から釜の中を覗き込んでみると、そこには氷砂糖を手の平サイズにしたような結晶体があって。


「どうですか?」


「悪くないんじゃない。

 これならいい感じの召喚具が作れそう」


 しかし、召喚具として使うのなら、ここからさらにいろいろ取り付けていく必要があるようで、そちらの加工もウチにお願いしたいと、出来た結晶もこちらで預かることとなり。


「よっし、いまので大体三体分だから、じゃんじゃん作っていくわよ。

 倒した敵の数からいって、あと十個は作れるんじゃない?」


 ふむ、フレアさん達は僕が想像していた以上の集団と戦っていたみたいだ。

 ティマさんの言葉から、僕が自分の中のイメージを修正する一方――、


「全部、その召喚具にするんですか」


 気合を入れるティマさんに訊ねると、彼女は「ううん」と首を左右に振り。


「私は二つあればいいから、後はお店とみんなでわければいいんじゃない」


 どうやら、この魔氷結晶は装備品などに特殊な魔法式組み込む事によって、氷属性を付加することができるようだ。

 というよりも、本来はこちらの使い方がメインになるのかな。

 加工代としていくつかを万屋に納め、残りをフレアさんで使うのがいいんじゃないかと、ティマさんは言うのだけど。


「しかし、ものが氷となるとな。俺のソルレイトとは相性が悪いだろう」


 その属性は、自身が持つ陽だまりの剣ことソルレイトとは相性が悪いと、フレアさんがその使用を辞退。


「私はこれに属性を乗せられるようにしたい」


 一方、メルさんは最近のメインウェポンである魔鉄鋼製のナイフ二本に、結晶を組み込めるようにしたいそうだ。


「私はこのローブに取り付けられればいいのですが、まだまだ寒い季節はこれからが本番ですから役に立ちそうですし」


 そして、最後にポーリさんが、今回戦ったのスノーマンしかり、この時期に出る魔獣は大なり小なり氷系の魔法を使うから、その対策にローブを強化したいとリクエスト。


「そうなりますと結晶を二つ追加で使うことになって、まだまだなにかできそうなんですけど」


 ティマさんの言うことを信じるのなら、魔氷結晶は全部で九つ作れることになる。

 だとするなら、加工分の料金を余った素材で相殺するにしても、少し余裕があると言ったところ、フレアさんが「そうなのか」と顎に手を添え考え始めてしまったので、


「マジックバッグに取り付けるというのはどうでしょうか」


 そうすれば回収した素材を運ぶ時などにはかなり役に立つのではないかと、そんな僕の提案に、フレアさんは「成程」と指を鳴らし。


「もしそれが出来るのなら、マジックバッグを一つ買い足して、そうするか」


「そうですね。

 では、そのようにお願いできますか」


   ◆


 フレアさん達が帰った後、場所を移して工房地下の研究室。

 僕はソニアにゴーレムの核を調べてもらっていた。


「どんな感じ?」


「何の変哲もないゴーレムだね。

 少なくともここにある(コア)は採掘に使われていたみたい」


「採掘?」


「主に銀と銅だね。

 それを集める為に鉱山を指定してあるみたい」


「けど、なんでわざわざそんなことを?」


 ゴーレムを使って採掘だなんて無駄に目立つだろうにと、そんな僕の疑問にソニアは「さあ」を肩を竦め。


「このゴーレムの主が面倒くさがりの錬金術師だったとか?

 ゴーレムコアに記録されていたルートは吸い出しておいたから、調べてみれば」


 ソニアに調べてもらったおかげでいろいろなことが判明したが、逆に増えてしまった謎もあるな。

 とりあえず、この情報はフレアさんに送信するとして、


「魔氷結晶だけど、こっちはどうする?」


「ボクはいらないかな」


「珍しいものなんじゃないの?」


「氷系の汎用素材で使いやすいんだけど、バックヤードを探せばこれ以上の素材があるから」


 言われてみると、これはたしかにソニアの言う通りだ。


「じゃあ、こっちで適当に使っちゃってもいい?」


「それこそ彼等に提案したみたいにマジックバッグにつけたりしてもいいんじゃないかな」


 まあ、そうすると応用の効かないマジックバッグになっちゃうし、数もそれなりにあるから、その使い道は後で考えるとして、最後にティマさん達の注文なんだけど。


「召喚具ってエレイン君とかでも作れる?」


 いままで注文がなかっただけに、エレイン君に丸投げしていいものかとソニアに確認してみると。


「一通りの知識は入れてあるから大丈夫だと思うけど、今回はボクが作るよ」


 ものが初めて作るアイテムだけに、まずはお手本をとソニアが作ることになったのだが、


「僕も見ててもいい」


「もちろん構わないよ」


 エレイン君へのお手本用にと、動画撮影も兼ねて、僕も興味があると見学していいかと訊ねると、ソニアから快くOKが出て、いざ召喚具作成へ。


 とはいっても、作り方そのものは普通のマジックアイテムとほぼ変わらないようなので、

 まずは召喚具の核となる魔氷水晶に召喚魔法の契約に必要な魔法式を刻み込み、それにミスリルをベースにした土台を取り付け、後は細々とした補助の魔法式を刻み込んでいくという作業を熟し。


「ティマさんがもともと持っているのとは少し違うね」


 ティマさんがすでに持っている召喚具は魔獣の素材をそのまま加工しただけといった粗野な作りだったのに対し、ソニアが作ったのは、しっかりとデザインに拘ったアクセサリといった印象で、その違いは何なのかと訊ねてみると。


「ティマが持っていたような召喚具だと、ただ相手を使役することにしか使用できなくて、使い勝手が悪いんだよね」


 一方、今回、ソニアが作った召喚具はエフェクターの役割も果たす為、これを発動体にして魔法を使うこともできるようで、召喚具単体でも攻撃をすることも可能なのだそうだ。


「と、これで二つとも完成かな。

 理論上は素材の元となったものと同等の存在を従えることができる筈なんだけど」


「つまり、ゴーレム三体分位なら大丈夫ってこと?」


「まあ、契約自体は行使する側の実力も関係するから、受け皿として、それくらいの魔獣・魔法生物なら許容できるよって考えてもらえばいいって感じかな」


 実力ありきのスクナカードみたいなものって感じかと、そんなことを考えている間にも、予備の召喚具が完成。


「じゃあ、他にも作らないといけないものがあるから、これはもらってくよ」


「うん。じゃあ、後はよろしくね」


 魔氷結晶とゴーレムの核を回収した僕はティマさん以外の三人から注文したアイテムを作るべく、ソニアの研究所を後にするのだった。


◆魔氷結晶は魔力の供給源ではなく、特定属性への変換器のようなものとお考えください。ちなみに召喚具に関してはいろいろな製法のものがありますが、氷系の魔獣・魔法生物に対応するものが少なく、上質な魔氷結晶はその希少な召喚具を構成する素材の一つだという設定です。

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