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龍の里の再調査

◆「」が万屋内での音声で『』が龍の谷からの音声になります。

 大晦日が目前に迫ったある日の午前中、リドラさんから龍の谷に到着したという報告が届いた。

 予定では現地への到着は年内ギリギリになる予定だったのだが、リドラさんが張り切ってくれたようで、二日ほど前倒ししての到着となったみたいだ。


 しかし、そんな強行軍で、あの幼龍は大丈夫だったのだろうか。

 そんな心配もあったりしたのだが、リドラさん達が現地に到着したとあらば、まずはやるべきことをと、今日までに集めた調査結果やその他諸々のデータを送信。


「事前に少し調査してみたのですが特にヒントとなるような情報は得られませんでした」


 ここ数日、フル稼働でモスキートを飛ばして龍の谷を調査したりもしてみたのだが、親とおぼしきトワイライトドラゴンはもちろん、空間系の魔法が使える個体はどこにも存在していなかった。


 強いて親らしき存在をあげるとするのなら、空という珍しい魔力特性を持つスカイドラゴンや、短距離転移の魔法が使えるシャドウドラゴンと、この辺りがトワイライトドラゴンと関係がありそうであるのだが、そのどちらも老齢の龍種(ドラゴン)で、子供を作るのは難しいとなれば、親である可能性は限りなく低く。


『そうなりますと、やはりこの子は流れ者の子供になりますか』


 もしくは、龍の墓場のような別次元からやってきたという可能性であるが、


『それなら両親がすぐに迎えに来るんじゃない』


 ヴェラさんのご尤もで、子供が行方不明というのなら、親が探しに来ないというのはちょっと考えにくく。


 まあ、その親に動けない事情があったりするのかもしれないが――、


 過去に遡って龍の谷に異空間からなにかしらの干渉がなかったのかと調べてみても、少なくともモスキートが常駐するようになってからの二ヶ月の間に、それらしき干渉が龍の谷にあったことは確認できず。

 ただ、龍の谷は広く、モスキートでカバーできる範囲は限られているので、この調査も完璧ではなく。


『無人の宿か北側になにかあるかもしれませんな』


「可能性の問題になりますが」


 ちなみに、いまリドラさんが言及した『宿』というのは、龍の谷の左右にそびえる断崖絶壁に空いている洞穴や亀裂のことで、番になったドラゴンが子育てに使う場所のことである。

 そして、龍の谷の北側は主にワイバーンの住処になっていて、何らかの原因でそこで孵化した可能性も無くはなく。


『今は心当たりから探っていくしかありませんな』


 頭の上の幼龍をあやすヴェラさんに声をかけ、探索開始となるのだが、その前に聞きたいことが一つ。


「あの、リドラさん。ヴェラさんはいつの間にあの赤ちゃんと仲良くなったんです」


 出発前、あれだけ警戒していたというのに、あの親密っぷり、いったい何があったのか。

 不思議がる僕達に、どこか釈然としない表情を浮かべながらも、リドラさんはこう教えてくれる。


『それが世話をしている内に情がわいたようで』


 なんでも、出発した頃は、まだヴェラさんもあの幼龍を警戒(?)していたようで、遠巻きに眺めるくらいしかしていなかったそうなのだが、

 道中、リドラさんが幼龍に与える食事や鱗研ぎなどがあまりに雑だと見かねたて交代を要求。

 世話をする内に徐々に打ち解けていって、いつしか母親のように振る舞うようになったのだという。


 成程、そういう事情があったとは――、


 しかし、意味なくギスギスされるよりかはよっぽどいいと、幼龍の世話はそのまま彼女に任せ、僕達は龍の谷を調べていくことに。


「では、リドラさん。お願いします」


『承知』


 僕の呼びかけにリドラさんが用意するのは、小瓶に入れられた大量のモスキート(蚊型ゴーレム)

 自動操縦のこれに加えて、先日パキートさん主催の遺跡探索に使った蜘蛛型ゴーレムの久秀を数体と、猛禽類型ゴーレムの蒼空を、僕に魔王様にエレイン君達と、ちょうどお店にいたマリィさんと玲さんの助けを借りて操って、長さ百キロを超える大渓谷を調べていくことになるのだが、


「だけど、改めて見てもすごい景色。

 地球でもグランドキャニオンとか、そういうところにドラゴンって住んでるのかな」


「それなんですけど、魔素の問題で地球に龍種(ドラゴン)がいるなら、山奥に密かに湧き出す泉とか、そういう場所の方がいるんじゃないかと」


 実はこの質問、前にも元春から聞かれたことがあったのだが、いまの地球の魔素濃度を考えのなら、龍種が留まれるような環境はパワースポットの周辺くらいしかなく、土地のサイズ的にも龍の谷ほど大きな龍種が留まるのは難しいのだ。


 と、僕が玲さんの疑問に応えていると、ここでヴェラさんの頭の上に乗っていた幼龍が、ふいとその頭から飛び降りて、ポテポテとどこかに向かって歩き出す。


 そんな幼龍の行動に、ヴェラさんが『ちょっと』と慌てたようにするのだが、


 これはもしかして記憶にある風景に思い当たったか――、


 と、独り歩きする幼龍に、過度な心配を向けるヴェラさんをなだめすかしつつも、周囲を固めてその後を追いかけると、行き着いたのは谷が大きくカーブしたその膨らみに、亀裂やら洞窟やらと幾つかの進む道がある場所で、


「高い場所にある穴は除外すべきでしょうか」


『いや、あの子は滑空ができるようですから、その限りではないかと』


 ペタペタと地面を歩く幼龍を魔法窓(ウィンドウ)に捉えつつも訊ねると、リドラさんが長い首を横に降って応えてくれて、


 そういうことならと、僕は何匹かのモスキートに谷壁丈夫にある亀裂や穴を調べるように指示を出し。

 リドラさんを筆頭に、僕達は幼龍の後を追いかけ、一番大きな洞穴に突入。

 すると、そこは氷系の属性龍が使っていたねぐらだったのか。

 かつてこの谷を支配しようとしていたシャイザークがその能力の傀儡に使っていた、龍種(ドラゴン)の遺体を安置していた氷の洞窟に似たような空間で、

 リドラさんと並走をする久秀を操る玲さんが、地下に向かって彫り下がるような氷の通路に、ポツリこんな感想を漏らす。


「意外と綺麗にしてるんだ」


『我々も不衛生がどれだけ体によくないかは知っておりますので、普段から魔法を使って身綺麗にはしています。

 まあ、それぞれの性格にもよりますが』


 これは個人的な偏見になるが、そういう性格は属性によって偏りがありそうだ。


「しかし、鱗と牙はそのままですのね」


『鱗などは魔法ではどうにもなりませんので、もしよろしければ、今回のお礼にこれを持ち帰っても構いませんぞ』


「え、こちら持って帰ってもよろしいの?」


 なにか意味があって集めてあるのでは?

 という心配と興奮が折り混ざったマリィさんの声にリドラさんから、


『一部、物好きが何か道具を作るのに使うことはありますが、殆どが自然と朽ちるのを待つだけですからな』


 後から入ってくる者が片付けるまで放置されているのが常であり、次に入居する龍種(ドラゴン)によっては、周囲の森に廃棄されることもあるというが、

 しかし、最近では廃棄した鱗などが樹海の拡大にも繋がっているようで、人の国などの位置関係から、その処分にも困っているという話を聞かされる。


 そして、そういう事情があるならと、僕はチラチラと視線を送ってくるマリィさんに促されるように、ここのある鱗や牙、爪などを回収。

 そのお返しではないのだが、


「周囲の森にはオベリスクを用意した方がいいですか」


『お願いできますか』


 濃密な魔素をまとう鱗を周囲にバラ撒くのが問題になっているのなら、その解決方法はなくもない。

 以前、魔王様達が暮らす森にシャイザークの所為で(?)、死んでしまったドラゴンの遺骸を埋葬した際に、立てた墓標と同じ効果を持つ魔導器の設置すればいいのではと提案をしたところ、リドラさんはどこかホッとしたようにそれに同意。

 僕は『どこにでもゴミ問題というものはあるものだなあ』と少し遠い目をしつつも。


『ちょっと、そっちは危ないわよ』


 ここで聞こえてきた声に視線を魔法窓(ウィンドウ)に戻すと、そこにはヴェラさんの巨体では通れない小さな脇道に入っていく幼龍の姿があって、


「僕達がついていきます」


『お願い』


 久秀に狭い穴の奥へと歩いて行く幼龍を追いかけさせると、ヴェラさんがその大きな手を器用に使って自前の魔法窓(ウィンドウ)を展開。


『まったく、こういう場合は大きな体は不便よね』


『人化の薬というものを開発してもらってるのだったな』


「まだ、どうなるかわかりませんが、いまフェアリーベリーの効果を上手く利用できないかって調べています」


『精霊由来の素材を使って下手はないでしょう』


 僕としてはそれが逆に心配であるのだがと、そんなことを話している間にも行き止まりに突き当たったみたいだ。

 幼龍はゴツゴツとした洞窟の壁をペタペタ触りながらも、この道からではこれ以上進めないと諦めた様子で、狭い通路の入口から聞こえるヴェラさんの声に、後ろ髪を引かれるように何度も振り返りながらも、もと来た道を引き返し。


『もう、心配させて、勝手に何処かに行ったら駄目なんだからね』


 ヴェラさんがようやく戻ってきた幼龍に頬を舐め、手近にあった玲さん操る久秀を幼龍の持たせたところで、


「結局なにもありませんでしたね」


『そう上手くはいかないということですな』


 結局、この洞窟内では特にこれといったものは見つからなかったと、玲さんに新しい久秀――は近くにいなかったので、モスキートをコントロール権を投げながらも、洞窟の入り口まで戻ってくるのだが、

 いざ洞窟から外に出ようとしたその時、谷の方からギャーギャーと沢山の鳴き声が聞こえてきて、


「なにか騒がしいですね」


『この声はワイバーンですな』


『まったくなんの騒ぎよ』


 洞窟の入り口から外を覗くと、そこには一体の龍種(ドラゴン)を中心に空を埋め尽くすワイバーンの群れが待ち構えていた。

◆ちなみに、ゴーレムのネーミングについては、基本的に完成時にソニアがつけるのですが、

 ソニアの場合、わかりやすく〇〇レムと名付けることが多く。

 それがイマイチしっくりこない場合に、虎助の意見を求めて、漢字ネームになるというパターンが殆どという設定です。

 ちなみに、モスキートに場合はちょっと特殊なパターンで、二人共にしっくりくる名前が思い浮かばなかった為、開発中のコードネームがそのまま名前になったものだったりします。(具体例、ソニア→モスレム。虎助→飛聞(ひぶん)。)

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