モニュメント作り
さて、エンキドゥさんがギルガメッシュ騒動の謝礼にと持ってきてくれたフンババの素材についての確認をしたところで、これをどう加工するかであるが――、
「やはり、ここはエクスカリバーさんの勧めた通りにするのが一番ですか」
「ですわね。私も賛成ですの」
「おっ、意外な反応。マリィちゃんなら『絶対に武器にするべきですの~』とか言いそうだったのに」
うん、ふだんのマリィさんなら迷うことなく、武器だのなんだのに使ったんだとは思うんだけど、今回はエクスカリバーさんの助言もあったからだろう。
ただ、今のモノマネはさすがに――、
と、僕が誂うような元春の言い方に憂う横、マリィさんの鋭い視線が元春に突き刺さり。
「元春がこれを武器にするならどうする?」
「そ、そりゃ、それに取手をつけて槍にするとか」
そうなんだよね。
これを武器に加工するなら、そのまま槍にしてしまうのが一番とマリィさんもそう考えていたのだろう。
「だけどよ。お前が言ったみたいに――、
仏像? にするにしたってどうすりゃいいんだよ」
「一番簡単なのは、そのままフンババをモデルに像を作ってしまうことなんだけど」
「そういうのって宗教的に問題ないん?」
「私達の国は宗教国ではないので問題ありませんの」
曰く、マリィさんのお国では、昔から宗教の自由が保証されているそうで、それはルデロック王国になった今でも変わらないらしく。
「なにより、私達の国では旅の無事を精霊に祈ったりしますの。
ですので、そういった位置に当てはめてしまえば問題なく受け入れられると思いますの」
「フンババも精霊の一種っつーんだもんなあ」
エクスカリバーさんの見識であるが、どうもこの角の持ち主であるフンババは、精霊であることには間違いないのだが、物質由来のエクスカリバーさんとは違い、どちらかといえばマールさんに近く、更にその状態にも特殊な縛りがあるのではないかとのことであり。
「けどよ、そのままっていうのはなくなくね」
ここで元春が見せてくるのは地球で一番有名な、全裸のフンババがなにやらポーズを決める石版だ。
「たしかにこれはちょっとって感じかも?」
「あら、私は異国情緒が溢れていて面白みがあると思いますが」
こちらに関しては僕もマリィさんと同じ意見で、このフンババはこのフンババで味があると思うのだが、元春や玲さんからしてみるとこのデザインは無しのようで。
「本物ってどんな感じなんだろ」
「本物って、この角の持ち主?」
「エンキドゥさんに聞いておけばよかったですね」
「ま、いい感じにこっちで考えるしかねーだろ」
「いいのかな?」
「とゆうか、そういうのってだいたい創造の産物じゃない?」
それを言ったら何でもありになってしまうような気もしないでもないのだけど、偶像は偶像だからともいえる訳だから。
「わかりました。地球の文献などを参考に、想像で書いてみますか」
「そうですわね」
と、ここで魔王様も参加してのお絵かきタイム。
ちなみに、地球におけるフンババは、レバノン杉を守る森の番人で、剣呑な口は竜、顔はしかめっ面の獅子、胸は荒れ狂う洪水という謎な見た目をしているとのことで、これを参考にとみんなにも伝えたところ。
「洪水ってなんなん」
「そんなこと僕に聞かれても」
英雄譚や神話などには時々こういった詩的表現が挟まれることがある。
だから、これはこれでそういうものだと思うしかないと、元春のツッコミにそう応え、みんなそれぞれにデザインを進めた結果、一番に書き上げたのは元春だった。
「出来た」
「早っ」
「こういうのは悩むだけ無駄っすから」
その完成の速さにみんなが驚く中、元春がドンと口でいいながら反転させた魔法窓に描かれていたのは、頭に牛の角を生やしたウルフカットの女性だった。
ちなみに、事前にツッコミがあった胸の荒れ狂う洪水という特徴は、運動が大変そうなくらいの大きな胸という解釈になったようだ。
「ちょっとあんた、絵ぇ上手くない?」
「ふふん、イラストはけっこう得意なんすよ」
驚く例さんに無駄に自慢気に胸を張る元春。
しかし、いくら元春がこういうイラストが得意だったとしても、この短時間でここまでしっかりとした絵に仕上げるのは難しいと思われる。
だとしたら、このイラストはなんなのかというと、たぶん元春は得意な写真加工の技術を流用して描いたんじゃないだろうか。
よく見ると、その構図もどこかでみたような感じだからと、僕が密かにそう考える中、元春は自慢げに、
「んで、どうっすか俺の力作は」
「どうって、さすがにこれは――」
「悪くはありませんわね」
「ちょっとマリィ?」
「細かな気になる部分はともかくとして、絵自体はよく描けていると思いますの」
まあ、これが誰が描いたかと考えなければ、ある種の芸術じみたところがないとは言えなくもなく。
「そういう玲っちはどうなんよ」
「言っておくけど、わたしあんまり上手くないから」
「ある程度はエレイン君が調整してくれますから」
僕の下手っぴな絵でも、しっかり製品として仕上げてくれるエレイン君達の理解力を持ってすれば、多少のデザインの悪さなど問題ないと僕が言うと、玲さんは少し照れながらも、自分の考えたフンババ像を見せてくれるのだけれど……。
「えっと、なんだこれ?」
「かなり抽象化された絵ですわね。紋章かなにかですの?」
「……ゲジゲジ?」
玲さんが見せてくれたその絵は、マリィさんの発言にあるように、象形文字の途中経過をみるような記号めいた形をしていて、あえてその絵をなにかに例えるとするなら、魔王様の言うようにゲジゲジや蜘蛛などを上から見た図と解釈できなくもないが――、
「いやいや、これはドラゴンとライオンの合体したような感じになってるんだけど。この頭の変がドラゴンで体がライオン。胸が洪水とかいうから飛び出てるでしょ」
うん。説明されてもまったく意味がわからない。
「てか、玲っちは画伯だったんな。ははっ」
いや、ちょっとそれは――、
空気の読めない元春がまた睨まれたところで、
「次、虎助見せなさい」
玲さんからやけくそ気味に振られた僕が魔法窓をくるりと回転。
それを見たみんなの反応は、
「なんかどっかで見たような――」
「ゆるキャラとかにいそうよね」
「わかる――」
「私、可愛いと思いますわよ」
「……かわいいけど被った?」
ちなみに、そんな魔王様の絵は、僕とはまた違う印象の可愛らしいゲームキャラクターのような絵であって、
「つか、虎助とマオっちのコレ、どっかから訴えられね」
「それはさすがに気にし過ぎなんじゃない」
そういうキャラを参考にさせてもらったのは流石に否定しないけど、それはあくまで参考程度。
その扱いは、巷にあふれるゆるキャラと変わらないんじゃと思っている。
「では、最後は私ですわね」
と、マリィさんが見せてくれたデザインは、斧のようにも見える大剣を担いた重量級の戦士であり。
「なんつーかコレ、精霊っていうより、英雄の像って感じだよな」
「叙情詩の内容に触発されまして」
マリィさんはご自身が好きな黄金の騎士関連の物語のようにギルガメッシュ叙情詩を読んだのだろう。
デザインされたフンババも物語のキャラクターの一人といった受け止めのデザインで。
「じゃあ、俺のか虎助のかマリィちゃんのかマオっちのかで投票ってことで」
「ちょっと、わたしだけ入ってないんだけど」
「いや、玲っちのはさ。わかるでしょ」
あからさまに小馬鹿にしたような元春の態度に、玲さんがぐぬぬとなりつつも、デザインとしては元春のものがみんなの中で一番の秀作かもしれないと認めざるをえないのだろう。
ただ、これから作る像の元となる角は、細く長いものだから、あえて一つのデザインに絞る必要はなく。
「みんないろいろデザインしてくれたんだし、それぞれの像を作るということでいいじゃないですか」
「いやいや、玲っちのはないっしょ。別の意味で邪神像じゃん」
「うーん、その辺は、エレイン君達が上手い具合に作ってくれると思うけど」
どちらにしても、たぶん邪神像にはなり得ないと、みんながデザインした像を工房に注文して、完成後の像をどうするかなんだけど。
「マリィちゃんのトコはマリィちゃんが考えた像がいいんじゃね。ほれ、トンネルの入口とかに飾ったら目立つし」
マリィさんの像はそれでいいと思う。
「俺のはここのカウンターにどどんと――」
「いや、それだと怪しい店になっちゃうかもだから」
元春の像は芸術的とも言えなくはないのだが、さすがにお店に置くにはちょっといかがわしいかもしれない。
だから、
「店に置くなら虎助のでしょ」
「けどよ。これマオっちのお気に入りだろ」
「……ん」
そうなのだ。
僕がデザインしたフンババ像は、なぜか魔王様のお気に入りのようで、拠点に持って帰りたいらしく。
「ここは、魔王様がデザインした像をウチで預かり、僕がデザインした像を魔王様にということで」
「そうだな。玲っちのだとどこの邪神像って感じだし、表に出せないだろ」
そして、玲さんのソレに関しては、出来上がりを見てどこに設置するのかを考えるとして、
「元春の像はどうしよう」
「わかった。あれは俺が預かるよ」
ああ、それが目的か。
結局、元春の目論見はすぐにバレてしまい。
元春と――、
あと玲さんの像は出来上がってからどこに配置するのか決めることになるのだった。
◆次回投稿は水曜日の予定です。




