表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

67/849

開発と勇者の実績※

 母さんからの強制依頼(おねがい)を受けてから数日後、特殊部隊の皆さんをディストピアに送り込んだ僕が何をしていたかといえば、彼等が戻ってきた時に使える拠点作りをしていた。

 ゲートを北として、万屋の東に広がる平らな土地に、母さんがどこからか調達してきてくれた資材を使って、簡易的な宿営地を建設していたのだ。


「「おお」」


 作業を行うエレイン君達を見守る僕の両脇で元春とフレアさんが驚声を揃える。


「それで虎助、これは何を作っているのだ」


 いや、見れば普通に分かるのでは――と言いたいところだけど、魔法世界に暮らすフレアさんからしてみると、現代ナイズ――もとい、ゴーレムナイズされた設営作業というのは珍しく映るのかもしれない。


「ちょっとしたキャンプ施設の設営ですよ。いま、知り合いのお客様を招いてまして、その方々が休める場所を作ってるんですが、せっかくですから後々にも使えるようにと、トイレやら、お風呂やら、お店やら、ディストピアやらと施設を拡充させてるんですよ」


「つか、それ、もうちょっとしたキャンプ施設ってレベルじゃねーだろ。なんつったっけこういうの――グランピング?とかそんな感じじゃねーかよ」


 グランピングっていうとリゾートホテルなんかでやってるっていうリッチなキャンプみたいなものだったかな。大袈裟な。ちょっと改造して快適な空間へと作り変えているだけじゃないか。

 魔獣素材によって強化されるテント元春の驚きに、僕が困ったように息を吐く傍ら、フレアさんが上半身を軽く右に傾けて、


「ディストピアとはなんだ?」


 そういえばフレアさんはディストピアのことを知らないんだっけ。

 そう思いながらも、もう何度目になるかのディストピアの説明を簡単にしてあげるのだが、フレアさんが理解しているようなしていないような顔を浮かべる。


「フレアさんの場合、体験してもらった方が早いですかね。ちょうどカーバンクルのディストピアの設置も終わったところみたいですから入ってみます?」


 度が過ぎた体育会系にカテゴライズされるフレアさんに、魔法式を利用した特殊なアイテムの構造を理解してもらうことは不可能に近い。

 それならば、いっそ――体験してもらった方が早いのではと、一足先にお試し版として設置したカーバンクルのディストピアに誘ってみると、異世界でもメジャーな精霊の名に興味が湧いたのか、「うむ」と乗り気なフレアさんの一方で、以前カーバンクルに散々な目にあわされた元春としては行きたくないみたいだ。

 俺は行かねーぞ。と一言。頑として動きそうにないので、


「じゃあ、元春はお留守番ね。というか、テスト勉強しなくてもいいの?」


 僕は原付免許の一発取得ができなかった残念な友人にチクり一言。フレアさんと一緒にカーバンクルのディストピアに入ることにするのだが、


 それから約一分――、

 すぐに帰ってきた僕達を見て、元春が嬉しそうに声をかけてくる。


「おっ、お早いお帰りじゃねーかよ。やっぱ無理だったか」


 他人の不幸は蜜の味――とは少し違うかもしれないが、僕達が即行でやられて帰ってきたのだと思ったのだろう。

 しかし残念ながら元春のご期待に沿うことはできないようだ。

 何故かといえば――、


「瞬殺というか偶然というか、入ってすぐにフレアさんがカーバンクルを捕まえちゃったんだよ」


 やはり勇者というだけあって精霊から好かれでもしているのだろうか。

 ディストピアに入るなり、カーバンクルの方からフレアさんに飛びついてきたのだ。

 結果的に一分足らずで『カーバンクルゲットだぜ』と帰ってくることになったのだが、


「マ・ジ・か・よ。世の中不公平すぎンだろ!!」


 事の顛末を聞いた元春が空に向かって叫ぶ。

 まあ、元春は殺られる側で二回――瞬殺されているから、あまりに違うカーバンクルの対応にそう叫びたくもなるのもわからなくはない。

 とはいえ、もしもあのカーバンクルが雌だったのなら、元春が持つ不名誉実績【G】の実績が悪さをしたとか、そんな可能性もあるのではないか?

 元春のステイタスを思い出し、僕なんかはそう勘ぐってしまうのだが、どうなんだろう。


「しかし、まったく修行にならなかったな。正直、拍子抜けだぞ」


「まあまあ、実績も手に入ったんですし、いいじゃないですか」


「ん?」


因みに(ちな)カーバンクルの実績の効果ってのはどんなだっけか?」


 あまりに簡単だったカーバンクルのディストピアに拍子抜けするフレアさん。

 それを宥めていると横から元春が割り込んでくる。


「カーバンクルの加護から得られる権能(・・)は〈富と名声〉。金運補助と付与実績が得られやすくなるというものだよ」


「なんか思ったよりもスゲくね?マリィちゃんもそうだけど、勇者も速攻でクリアしてきたから、もっとしょぼいモンだと思ってたぜ」


 マリィさんに続き、フレアさんまで簡単にクリアしたところを見せられると、元春がそうも言いたくなるのもわからないでもないけれど、


「それは、いい意味で二人が特別だからだと思うよ。僕もテストプレイを兼ねて、前にカーバンクルのディストピアに潜ったことがあるんだけど、クリアまでには結構な時間がかかったからね」


 その期間は一週間。まあ、早朝や仕事の合間、後は皆が帰ってからと隙間隙間にちょちょっと入っていただけだから、正味一日の滞在時間は一・二時間くらいだったのだが、何故か必死で逃げ回るカーバンクルに全力でかくれんぼ&追いかけっこをさせられる羽目に陥ってしまったのだ。


「それに、カーバンクルは精霊でありながら龍の末席にあたるといわれてるらしいからね。試練の割に実績の効果が高いのもおかしなことじゃないよ」


 なんでも龍種には脳内に宝石が埋まっているという伝説があるらしく、それになぞらえて額に宝石を持つカーバンクルが龍種として数えられているみたいなのだ。

 厳密に龍であるかどうかは定かではないが、

 実際、龍種の多くが脳内や頭部に魔石を持ち、特殊な魔法を操る触媒にしているという事実を考えると、あながち間違いという訳でも無いのかもしれない。

 緑の毛を持ち飛び回る小動物って、見ようによってはミニドラゴンのようにも見えなくはないからね。


「とはいっても、ディストピアで獲得できる加護は、ディーネさんみたいな本物の精霊から貰える加護と比べるとその効果は半分以下に落ちるからね。元春が思ってるほど絶大な効果って訳じゃないと思うよ」


 そう締めくくろうとしたのだが、ここで追加の質問が元春から入る。


「ディーネさんって誰だ?」


 しかし、その質問の内容はメインであるカーバンクルの実績に関するものではなく、その途中で出てきたディーネさんのことだった。


「裏の井戸に住んでるウンディーネのディーネさんだよ。水の上位精霊だね」


 本当にこういう嗅覚は鋭いんだから。

 いつも通りである友人の病気に首を左右に振りながら教えてあげたところ、その話を聞いた途端、「ちょっと行ってくる」だなんて走り出そうとする元春。

 だが、待ってくれ。


「止めてくれるなダチ公よ」


 走り出そうとする元春の首根っこを捕まえる僕に元春が妙に時代がかったセリフで返してくる。

 えと、その元ネタはなんだっけ?たしか時代劇ではなかったような。

 いつかどこかで聞いたようなフレーズにモヤモヤっとなりながらも答えるのは、


「ディーネさんは人間嫌いだから迂闊に近付くと攻撃されちゃうよ」


 残念という意味でゲスの極みである元春がディーネさんに何か粗相をしてしまった場合『行ってくる』が『逝ってくる』になりかねない。

 不用意にディーネさんへと近付く危険性を示唆すると、


「おいおい冗談は顔だけにしておいてくれよ」


「僕が嘘や冗談でこんなこと言うと思う」


 というか、冗談みたいな顔をしてるのは元春の方だから。


「いや、虎助は俺が女子に近付こうとすると平気で嘘をつくだろ」


 それは元春が女子に迷惑をかけると、幼馴染であり保護者みたいに扱われてる僕の下に苦情が回ってきたりするからの処置である。


「今回ばっかりは本当に本当だよ」


「マジで?」


 真面目な顔で頷く僕に、元春がゴクリ喉を鳴らす。

 そう、たとえば元春が魔鉄鋼(ミリオン)でできた鎧を装備しておイタをしたとしても、大精霊であるディーネさんにとってはそんなものはまさに紙装甲。ウォーターカッターみたいな水流で撃ち抜くか、水球で囲んで溺れさせるだけで簡単に命が奪えてしまうのだ。

 具体的な例をあげると、さすがの元春もその深刻さを理解してくれたようだ。


「そ、そういうことなら仕方ないかな。うん。徐々に仲良くなる作戦でいこう」


「それでも諦めはしないんだね。マールさんもいるのに欲張りなんじゃない」


 因みにマールさんというのは、つい先日、この世界(アヴァロン=エラ)の住人になったドライアドさんのことである。

 彼女が棲み着いて以来、元春はほぼ毎日、人間椅子という名のご褒美をもらっているハズなのだが、どうもこの残念な友人はそのスキンシップだけでは満足できないようなのだ。


「バッキャロー。俺はハーレム王になりたいんだよ。女の子からキャッキャウフフってもてはやされたいんだよ。なあ勇者、お前もそう思うだろ」


 それは魂の慟哭だった。

 しかし、水を向けられたフレアさんはというと、


「残念だが、俺は姫の心さえ手に入れられればそれでいい」


 普通に聞くと一途に相手を想っているようにも聞こえるこのセリフ。

 だが、フレアさんと件のお姫様に直接的な面識がないことを忘れてはいけない。

 と、そんなフレアさんの事情を知ってか知らずか元春が更なる持論を展開する。


「オイオイ勇者――素直になれよ。男という生物に生まれた以上、姫であれ、精霊であれ、そこに可愛い(・・・)女子だったり、美人の(・・・)お姉さんが居たのなら突撃するのが義務だろ」


 うわぁ。分かり易く最低だ。


「ふむ。元春のその気持ち、男として理解できなくは無いのだが」


 理解しちゃうんですか!?


「しかし、いくら水精様が清らかで美しい乙女とはいえ、そのような目線を向けるのは不敬になるぞ」


 フレアさんの『清らかで美しい乙女』という評価に一瞬、元春が獲物を狙うハイエナのように目をギラつかせるも、まるで実際に見たことがあるようなフレアさんの口ぶりがきになったのだろう。


「あれ、勇者はその虎助が言ってたディーネさんに会ったことがあんのか?」


「俺が水精様に出会ったのは自分の世界でのことだ。おそらく虎助が話すディーネ様とは別の存在なのだろう」


 元春の質問にフレアさんは、かつて自分の世界でウンディーネに出会ったことがあると話す。


「へぇ、別の世界の大精霊様ですか。どんな方なんです?」


「ああ、さっきも言ったが清らかな水のように美しく心根までも透き通った方だったぞ」


 その話を聞く限り、うん。フレアさんが会ったという水精様とディーネさんは完全に別人みたいだな。

 ソニア曰く、上位精霊と出会うのは天文学的な確立になるんじゃないかと聞いていたから、もしかして同一人物かもしれないとも思ったのだけれどもイメージが違い過ぎる。


「このマントもその水精様にいただいたものなのだ」


 精霊が作った装備品か。

 そういえばフレアさんはそのマントでアダマーの火炎放射も受け止めていたし、ディロックの暴発事故からも生き延びている。おそらくは耐火耐熱に絶対的な防御を誇るマントなのだろう。

 自慢げにマントを翻すフレアさんを元春は羨ましそうに見ながらも、


「つか、アイテムにも実績が乗ったりするんか」


「多分これそのものは魔導器みたいなもので、実績は別にもらってるんだと思うよ」


 こればっかりはステイタスを見てみないと分からない。

 だれど、特別なアイテムを与えておいて、加護を与えないということはないだろう。


「精霊ってのは至れり尽くせりなんだな」


「気に入った人にしかそんな贔屓はしないと思うけど」


 しかし、そう考えるとフレアさんとウンディーネとの相性はあまり良くないようにも思えるが。

 どちらかと言えば、火の精霊とかそういう存在と馬が合いそうだけど。

 まあ、こればっかりは実際にその場に居た人じゃないとわからないか。


「んで、本命の実績の効果はどんなモンなんだ?」


 僕がフレアさんがどうやってその水精様の加護を得たのかを考える横、元春が返す刀でフレアさんに質問を投げかけるのだが、当の本人であるフレアさんは何故かキョトンとして。


「実はさっきから気になっていたのだが、虎助達は権能やら実績やらと何を言っているのだ。精霊様の加護を得ると何か他にも得られるものがあるのか?」


 おっと、フレアさんは実績の存在を知らないらしい。

 頭上に大きな疑問符を浮かべるフレアさんに僕は腰のポーチからステイタスプレートを取り出して。


「ええと、フレアさんの世界では、こういう魔具で自分に宿る加護みたいなものをチェックをしたりしないんですか?」


「フム、俺の世界にそのようなマジックアイテムは存在しないな。魔力の数値を測る水晶は存在するが、それぞれが持つ特殊技能を測るようなマジックアイテムは無かったハズだ」


 つまりフレアさんの世界には、魔力を測る装置は存在するけど実績や権能を測るような装置は存在しないと、


「じゃあ、一回確かめてみましょうか」


「頼む」


 ということでフレアさんのステイタスを調べることになった訳だが、


 魔力:59


 獲得実績:【我流剣士】【軽戦士】【見習い魔法使い】【魔法剣士】【見習い騎士】【見習い剣術指南】

      【魔獣殺し】【巨獣殺し】【竜殺し】【精霊の加護】


 付与実績:【神童】【自称勇者】【道化】【武術大会覇者】【一級冒険者】【ペガサスナイト】


 皆様お気づきだろうか。


「おいおい。【自称勇者】って……、勇者って【勇者】じゃなかったのかよ」


 そうなのだ。何の気なしに勧めたステイタスチェックの所為で、フレアさんが【自称(・・)勇者】でしかないことが判明してしまったのだ。

 僕が『ほら見なさい』と、自信満々に高笑うマリィさんの幻視を脳裏に浮かべる傍ら、この残酷な結果に元春が笑い転げる。


 そして、いつのことだったか、偽物と騙されていた聖剣(コールブラスト)が折れた時のようにがくりと膝をつくフレアさん。


「シッ、元春。黙って!!」


 そんなフレアさんの様子に慌てて元春を諌めるけど、

 時既に遅し、俯くフレアさんの目元からはポタポタと大粒な雫がこぼれ落ちていて、

 本当におバカな友人がすみません。

 声もなく号泣するフレアさんに、ただただ僕は心の中で頭を下げるしかなかった。

◆ちょっとした解説。【自称勇者】編


 フレアの【自称勇者】という実績は付与実績です。

 故郷のモタルカ村で【神童】と呼ばれていたフレアが勇者を名乗り、周りがおだてた結果、発生したのが【自称勇者】という付与実績です。

 因みにフレアが現在拠点にしているのはルベリオンという国で、こちらでも勇者を名乗り、なかなかの実績を残していますから、本来、こちらで名乗るのが正しいのですが、子供の頃のクセというのはなかなか抜けないもので、結構な確率でこちらの名乗りをあげてしまうのがフレアクオリティとなっております。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
↓↓↓クリックしていただけるとありがたいです↓↓↓ 小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ