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●玲と環、ナタリア、そして佐々木と店長※

◆今回は三話まとめての投稿になります。

 ちなみに、三話とも時系列的に少し前のお話になります。

 ◆環と玲


 日曜日の早朝、私は車に乗り込み出かける。

 目的は異世界転移に巻き込まれてしまった妹に会いに行くこと。

 正直、異世界転移なんて正気を疑う話なんだけど、残念ながら現実は現実として受け止めなければならない。

 何故なら妹の玲がその当事者なのだから。


 ちなみに、このことは現在海外出張中をしている両親には話していない。

 あの激甘な両親のことだ。玲のことを聞けば仕事を放り出して帰ってくるといい出しかねない。


 なにより私がそうだったのだけれど、玲の現状を上手く説明できるとは思えないのよね。


 と、毎回のようにモヤモヤとした気持ちを抱えつつも車を走らせること一時間半――、

 辿り着いたのは、どこにでもあるような地方の住宅街。

 その一角に建つ一軒家であるここに玲がいる異世界へと繋がる秘密の入り口がある。


 ちなみに、この家の家主は世界的に有名な冒険家なのだが、その割にはこじんまりした家となっている。

 農家が多いという土地柄、周りの家が大きいからということもあるのだが、それにしたって世界的に有名な人物の家がこんな庶民的な家なんていうのには違和感という他ない。


 まあ、彼が世界的に有名になったのは最近のことだから、仕方のないところもあるかもしれないのだけれど……。


 さて、そんな家の呼び鈴を鳴らすと、出迎えてくれるのは小柄な和装の美人。

 彼女の名前は間宮イズナ。

 聞けば彼女は警察関係のお偉いさんだとのことなのだが、私の印象だと、どこか隠れ家的な宿の女将とか、そんな感じである。


 と、そんなイズナさんとの挨拶もそこそこに、私が足を向けるのは縁側に座る毛むくじゃら。

 彼女はそにあと名付けられたビッグフットだ。

 どうしてか(・・・・・)いまは話題になることは少なくなってしまった彼女だが、世界的に有名なUMAである。


 さて、どうして私が彼女の前に来たのかというと、実はこのそにあの口の中が異世界への入り口なっているからである。


 海外の童話なんかだと、クローゼットの中から異世界に――とかいうのがパターンなんだけど、まさかビッグフットの口の中から異世界へ飛ぶなんて、なかなかにふざけたファンタジーよね。


 ちなみに、そんなそにあの口の中はまるでコールタールを溶かし入れたような闇で覆われており、そんなそにあの口の中に飛び込むのには、未だに恐怖心があるのだけれど、入らないと玲に会えないというのなら仕方がない。


 思い切ってその闇の中へと飛び込むと、車で急坂を下った時のような腰の浮く感覚あって、真っ暗闇から光に転じ、その光が収まると目の前に赤茶けた大地と石のオブジェが飛び込んでくる。

 そこから更に視線を飛ばせば、前に東京でみたような巨大ロボットが佇んでいて、私はそんなゴーレムの股の下をくぐり抜け、正面に見えるレトロな駄菓子屋のような店に入る。


 と、店に入った私に『いらっしゃいませ――』とにこやかに対応してくれる男の子は間宮虎助君。

 一見すると、ただの男子高校生にしか見えない彼は、今しがた家の方で出迎えてくれたイズナさんの息子さんで、実はこの店の店長だったりする。

 私は虎助君に「おはよう」と返しながらも店内を見回し、玲の所在を訊ねると、


「玲さんなら、今の時間、農園にいると思うので、エレイン君に案内につけますね」


 虎助君はそう言って、すぐに小学生低学年くらいのずんぐりむっくりとした魔導人形(ゴーレム)を呼び出してくれる。

 私はそんなエレインの先導で店の背後を取り囲む石壁の向こう側へと歩き出す。

 そして道中、エルフの美青年というファンタジックな存在とすれ違いつつも歩くこと五分程――、

 何もなかったハズの荒野に大自然が現れる。

 そのあまりの光景に私が呆然としていると、そこにいた玲が気付いてくれたみたいだ。

 「お姉ちゃん」と手を振りながら駆け寄ってきてくれ。


「なにこれ」


「すっごいよね。世界樹なんだって」


 ゲームをあまりしない私でも知っているようなそれが存在することは聞いていたのだが、そのあまりにファンタジックな光景には言葉もない。


「それで玲はなにをしてるの?」


「マオ達の手伝いでフェアリベリーの収穫をしているところ」


 マオというのは、私達から少し離れた場所から、小さな妖精達とこちらの様子を伺うパーカーを着た銀髪の女の子のことだ。

 ハーフエルフの魔王であるとの説明を前に受けたけど、それはあくまで押し付けられた役職だそうで――、


 うん、正直なにを言っているのかわからないのだけれど、妹の玲からして、すでに聖女なんていう訳の分からない役職を押し付けられているのだから今更よね。


「お姉ちゃんも一緒にやろ」


「ええ」


 と、少し現実逃避をしてみた私が玲に手を引かれて向かった先にあったのは、色とりどりの実がなる植物だった。

 系統としては木苺のようなものになるだろうか、こんもりと茂る葉の隙間から色とりどりの実が顔を覗かせるそれが、件のフェアリーベリーだとのことであるが、


「美味しそうね」


「たしかに見た目は美味しそうだけど気をつけて、

 そのまま食べると男になったりしちゃうから」


「えっと――」


 いったいそれはどういうことなのかと訊ねると、なんでもこのレインボーカラーの果実には妖精達を保護する為の魔法がかかっているらしく、そのまま食べてしまうとたちの悪いイタズラのような禍が降り掛かってしまうそうなのだ。


 えっと、お姉ちゃん、そろそろキャパオーバーなんだけど。


 ただ、食べ方さえ知っていれば問題ないらしく。

 今はこの実から魔法の薬を作るべく、収穫を行っているとのことである。


 うん、こんな不思議な実だものね。魔法の薬の材料になるわよね。


 ということで、無我の境地で収穫のお手伝い。


「レイ、ありがと~、これお礼ね」


「くれたものだから大丈夫だと思うけど、いちおうお祈りをしておかないと」


 そして、気がつけば心地よい疲労感とともに終了していた収穫の後、妖精達が手伝ってくれたお礼に籠いっぱいのフェアリーべりーをくれるのだけれど。


 果たして、これはどう処分したらいいものなのかしら。


 玲によると、この実は、どうやら精霊の許可さえいただければ、普通に食べても問題がないらしく。

 不安なら万屋で売っているカードで呼び出せるスクナにお願いすればいいみたいなのだが、


「そういえばお姉ちゃんはスクナは買わないの」


「気になってはいるんだけど、高い買い物でしょ」


 そのカードは誰でも精霊と契約が出来るというものだそうで、安いタイプのもあるにはあるらしいのだが、その契約の相手がしっかりと意思を持った相手ともなれば半端な買い物はできないだろう。


「じゃあ、お姉ちゃんは買わないの?」


「お金ならあるから、出来ることなら買っておきたいところなんだけど」


 ただ、お店に戻ったところで虎助君にそういった心配を相談してみたところ。


「そういうことでしたら、契約の際にそういった意思をしっかり示せば問題ないかと――、

 あと、スクナカードに関して言えば、僕の方で幾つか仕入れてもらいたいものがあって、その代わりにということで提供もできますけど、いかがでしょう?」


 虎助君が言うには精霊というのは人間とはまた違った感性の持ち主も居るとのことで、契約の際にハッキリとこちらの要望を伝えておけば、それに対応した精霊が自分を選んでくれるみたいで、

 成程、パートナーとなるスクナの相性関連の話はいいとして――、

 カードの提供条件に関してどういうことかと訊ねると、虎助君は海外製のアウトドア用品と音響機器を手に入れたいみたいで、その購入を私に依頼したいのだという。


 たしかに、それは私にうってつけの仕事ね。


 そして何より、スクナカードを手に入れることは自分の身の安全にも繋がるという言葉もあって――交渉成立。


「オリハルコンとムーングロウ、どちらのカードにします?」


「その二つにはどんな違いがあるのかしら」


「大まかにオリハルコンが素体の強度への補正が大きく、ムーングロウが精霊が宿ったスクナの緻密さや、彼等が使う特技の拡張性に大きな補正があるといった感じですね」


 ただ、その二点の補正については高いレベルでの話というのが前提のようで、


「だったら、その、オリハルコン? っていう方にしようかしら」


 先日、私は暴漢に襲われそうになった。

 あんなことはもうないとは思うんだけど、玲がいまいるここに来ることを考えるのなら、私を守ってくれるような精霊がパートナーになってくれるとありがたい。


 だとするなら、強度を売りにするオリハルコンを選択するのが当然の成り行きであり。


「後は契約の方法なんですけど」


「それはわたしが説明するから大丈夫」


 カードを受け取った私に玲がしてくれた話によると、スクナとの契約にはイメージが重要だそうだ。

 そうなると、今の私にピッタリな精霊はと考え、まず思い浮かべるのは絵本に出てくるようなキャラクターだ。


 ただ、そういった精霊は私の趣味じゃないし、

 どちらかっていうと、同じ絵本でも王子様キャラとか?

 ううん、そういう王子様っていうのは、ただただ優しいだけっていうのがパターンだから少し違うかな。

 それに私の趣味としては、どちらかというともっとワイルドな……、

 そうね。これで行きましょう。


「決めたわ」


 私はイメージを固めて発動させる。

 すると、カードからまばゆい光が放たれて、その光の中から二足歩行の野獣が現れる。


「もしかして美女と野獣の?

 うん、お姉ちゃん、ああいう話、好きだもんね」


 玲の感想があからさま過ぎてちょっと顔が赤くなるけど、ただそれを態度に出したら玲の言葉を肯定するようなもの。

 だから、ここは冷静に姉としての余裕を見せつつも。


「まずは名前をつけてあげてください」


 間がよく差し込まれた虎助君の提案に「そうねぇ」と悩むフリをして、

 勿体ぶるように出した名前は――、


「レオル」


「レオルですか」


「ゲームのキャラとか関係ないわよ」


「ゲームキャラ、ですか?」


「いいの気にしないで」


 玲もそうだけど、男の子がするようなゲームじゃないものね。

 焦って損したわ。


「それでお姉ちゃん、レオルはどんな特技を持ってるの?」


「えと――」


「どうしたのお姉ちゃん」


「別に変な意味じゃないと思うのよ」


 本当にまったく考えてないんだから。


「そ、〈総受け〉ね」


 沈黙――、


 妹からの視線が痛いわ。


 しかし、ここで虎助君の助けが入る。


「成程、〈総受け〉防御系の能力でしょうか」


「あ、そうよね」


「きっとそうだよ」


 しっかり調べてみると、確かにその特技は、私への攻撃を魔法の力で集めてレオルが全て受け止めてくれるというものだった。

 狭い常識で決めつけちゃ駄目よね。


「問題はこの特技がどれくらいの力を持っているか、いきなりディストピアはマズいですよね」


「わたしとお姉ちゃんじゃ殺されちゃうのがオチだもんね」


 ディストピアというのは実体験できるっていう魔法の道具だったかしら。

 ただ、あっけらかんと『殺される』なんて言いきってしまうのは軽過ぎなんじゃないかしら。

 そんな私の心情を読み取ったのか、ここでまた気遣いの出来る虎助君がニコリと笑って。


「今日のところはティル・ナ・ノーグにしておいたらどうです」


「わかった。お姉ちゃん行こ」



◆ナタリア修行中


「訓練の方は順調ですか?」


「うーん、いろいろおぼえないといけないことがあるから順調とはいえないかも」


 僕が声をかけるのはナタリアさん。

 賢者様の世界のカルト教団(?)から、玲さんを保護し、この万屋を訪れたきっかけを作った女性である。

 そんなナタリアさんだけど、最近ちょくちょくアヴァロン=エラ(こちら)に来て魔法の修行をしていたりする。


 曰く、賢者様達が暮らす世界ではシェルという名前で魔導器研究が進んでしまったことによって、純粋な魔法は衰退してしまったそうだが、ナタリアさんはその世界で唯一の魔女を名乗り、いまはもうエルフなどの長命種の間にしか残っていないような魔法を幾つか復活させることに力を注いでいるそうで、

 このアヴァロン=エラの魔素濃度下で魔力を上げれば、使える魔法を更に増やせるという話を耳にし、こうして暇を見て修行に来てくれているみたいなのだ。


 ただ、魔力の総量を増やすのも勿論であるが、魔法を一つマスターするのには、かなりの時間が必要で――、


「ある程度は詠唱なしの魔法を使えるようになったけど、本格的な魔法戦闘が出来ないと話にならないから」


 ナタリアさんのバトルスタイルは本来、各種シェルや骨董品の魔導器をベースに強力な魔法を併用するというものだ。

 しかし、アヴァロン=エラのデータベースを知ったことで、今後は可能な限り魔法だけで戦うスタイルに切り替えていきたいと、いまは手札を増やしているところであって、


「それに玲に追いつかれる訳にはいかないから」


 もともと魔女を名乗り、幾つかの魔法を身に着けているナタリアさんだ。

 そんな彼女に、ここに来るまで禄に魔法が使えなかった玲さんが追いつけるとは思えないが、そこは『師匠』としての意地なのかもしれない。


「そういえばブックマスターの攻略は順調ですか」


「アビー達と入る時はなんとかいけるけど、ソロの攻略は難しい」


 ちなみに、ブックマスターというのは、アビーさんとサイネリアさんが暴食の魔導書をベースに作り上げた、外付けパーツを使って魔導書持ちのスケルトンアデプトと戦えるようにしたディストピアのことである。


 そのディストピア内で戦える魔導書持ちのアデプトに勝つことによって、魔法関連の補正を挙げられる可能性があるからと、ナタリアさんは二人の検証に加わる形でそのディストピアにチャレンジをしているというが、一人での攻略と一部のアデプトにはまだ対応できていないようで。


「君は雷をソロで倒したと聴いたけど、参考までにどうやって倒したのかを聞いてもいい?」


「構いませんよ。

 とはいっても、単純に素早い動きで撹乱しながら、相打ち狙いで倒したって感じですけど」


「それは――、

 自分には参考にはならないね」


「風のマントとか瞬間移動みたいなマジックアイテムを使えばできなくはないと思いますが」


 瞬間的な爆風を生み出す風のマントか、前に手合わせした時に使った靴を使えば、ナタリアさんも同じような特攻も可能じゃないかと、そんなアドバイスをする僕に、ナタリアさんは難しい顔を浮かべ。


「そうすれば似たようなことができるかもだけど、私は君と違って接近してからの引き出しが少ないのでね」


 たしかに、ナタリアさんは、遠距離から超火力の魔法攻撃をバンバン使うようなタイプだから、わざわざ近づいてそれをするのは違うか。


「ならば、そういった役目を例えばスクナなんかに任せてしまうのも一つの手かと」


 ここまでのアイデアはナタリアさん自身の手札によるものだが、それが足りないとあらば外部から持ってくればいい。


 ちなみに、ナタリアさんには既にエッダというスクナが相棒としているのだが、そのエッダは情報処理に特化したスクナで戦闘力がほぼ皆無であり、そうした役目は期待できないとなると――、


「新しいスクナの導入を考えるべきか」


「SEカードという手もありますけど、エッダになにかを装備させたところであまり変わりそうにありませんから」


 そもそも金属球体なエッダに装備が扱えるのかが疑問である。


「ふむ、ここは一つやってみるとするか」


「勧めておいてなんですけど、いいんですか?」


 正直、かなり高い買い物になってしまうけど――と僕が聞けば、ナタリアさんは、もともと考えていたことだからオリハルコンのスクナカードを出すように――、僕にそう言って、迷うこと無くそのカードを使用。

 新たに契約を結んだスクナは楕円形の液体生物だった。


「これはスライム――、

 じゃなくて、水の精霊ですか?」


「君の相棒はかなり有能そうだから参考にさせてもらったんだ」


 たしかに、アクアには僕もかなり助けられている。

 ナタリアさんはアクアのような相棒をイメージしてスクナを召喚したみたいだ。

 そして、新たにエギルと名付けられたこの水の精霊の特技であるが、それは体の一部を触手のように伸ばして戦うものだったみたいで。


「とりあえず、ブックマスターと戦ってみるかな」


「頑張ってください」



 ◆佐々木と店長


「ふいー、疲れた」


 そう言って、机に突っ伏す私は佐々木亜美。

 私がいまいるここがどこなのかというと、年末までの一週間、クラスメイトの間宮虎助君から紹介されたアルバイト先の休憩室だ。

 仕事をしていた時間はそんなに長くはなかったんだけど、初めてのことばかりで気疲れしてしまったというのが本音だったりする。


 ちなみに、業務内容はインターネットで商品されたダンボールに詰めて、宛先などが書かれたシールを貼り付けていくというものだ。

 量こそ、そんなに多い訳じゃないけれど、間違えたら大変と緊張しっぱなしの作業だった。


 そんな、お疲れモードの私に「お疲れさん」とこの店の店長さんが出してくれたのはハーブティ。


「おいしい」


「そりゃよかった。

 疲れてたようやから、ローズヒップを多めに入れたんやけど、上出来やな」


 もしかしなくても、このお茶、店長さんのオリジナルブレンドかな?

 私はさらっと出してくれた店長さんの気遣いに驚きながらも。


「こういうのを毎日飲んだらあの人みたいになれるのかなあ」


「あの人?」


 その独り言に語尾のトーンを上げる店長さん。


「実はここを紹介される前、間宮君のお友達に見せられたんですけど、

 佐藤さんだったかな? なんかここの偉い人みたいなんですけど、四十代なのにすっごく若くて、私ビックリしちゃって」


「うん、佐藤先輩な。

 あの人はホンマ見た目詐欺やわ」


 あ、やっぱり店長も知ってるんだ。

 そうだよね。四十代であの可愛さはないから。


「けど、佐々木ちゃんはまだ高校生やろ。そんなん気にせんでもええんとちゃう」


「いやいやいやいや若い内から気にしませんと、

 私たまに女子大生とかに間違えられたりするんですから」


「ああ、それはわかる気がするわ。佐々木ちゃん大人っぽいもんな」


 やっぱりみんなそう思うんだよね。

 実はさっき『たまに』なんて言っちゃったけど、私服で出歩く時なんて『ほぼ』年上に間違えられたりするんだよ。

 場合によっては友達のお母さんと間違えられたりして……、


「でも、ウチとしては逆に羨ましいわ。

 ウチなんてジャージとか着て夜中に出かけると、いまだ警察に声をかけられるんよ」


 それは、どうリアクションしたらいいんだろう?


「そういえば店長ってお幾つなんです」


 失礼かと思ったけど『店長を任されるくらいだから、私が見た印象の年齢とは違うんだよね――』と聞いてみたところ、店長はカラカラと笑い。


「まだ二十代の小娘や」


 年相応?

 いや、ほとんどノーメークもしていないで、この綺麗さは二十代じゃないわよね。

 それに二十代っていっても幅がある。

 もしも店長が二十代後半だとしたら、信じられない若さなんじゃ――と、私はそんなことを思いながらも。


「でも、二十代で店長って凄いですね」


 私がいましている通販の仕事もそうだけど、店長は表のカフェと、それに併設されているアンテナショップも仕切っているのだ。


「それな。

 ウチの会社の経営方針で、こういうトコの経営はウチ等みたいな下っ端に役が回ってくんねん」


「それは革新的というか、なんというか」


 年功序列がすべてじゃないとは思うけど、

 店長が言うようなやり方はかなり珍しいんじゃないだろうか。


「そういうのじゃなくってな。単に上の人等が自分のやりたいことやりたいからって押し付けてくるんよ。

 まあ、全員が全員そうやないんやけど」


「それもそれで凄いと思いますけど」


 他にやりたいことがあるから仕事は任せるなんて、普通の会社ならありえないよね。

 店長さんはそんな私の指摘に苦笑い。


「ウチんトコは一族経営みたいなところがあるし、そーゆーとこはかなり緩いんよ」


「そうなんですか」


「同郷のモンが集まって立ち上げた会社やから」


 間宮君が言ってた人手のことっていうのはこういうことなのかな。

 それはそれでなんか凄いと思うけど。


「そういえば、店長――虎助君とは同じクラスなんだってな。

 あの子、学校だとどうなん?」


「真面目で面倒見が良い人ですよ」


 なぜか一部の人には恐れられているけど、それは噂のお義姉さん絡みが殆どみたいだし。

 実際、間宮君はいい人だ。


「そういえば店長は間宮君とどういう関係なんですか?」


「気になるん?」


「気になるといえば気になりますね。謎が多い人ですから」


 これはさっきの話に通じることだけど、

 間宮君がこのお店とどうやって伝手を得たのか、気にならない訳ではない。

 松平が写真を持っていたことを考えると、意外な方向かもしれないけれど。


「実は前に別ん部署の上司がやらかして、その時、迷惑をかけたのが彼のバイト先でな。

 その時、まあまあって間に入ってくれたのが彼なんよ」


「ああ、間宮君ってそういうことありますね。学校でもわりとそんな感じですよ」


「ははっ――さすが店長さんやわ。

 と、お客さんが来たわ。

 じゃあ、佐々木ちゃん、それ飲み終わったら、もう一踏ん張り頼むな」


「はい」

◆今回登場のスクナ※


 レオル(環のスクナ・獣人型)……〈総受け〉

 エッダ(ナタリアのスクナ・球体型)……〈乱数調整〉

 エギル(ナタリアのスクナ・スライム型)……〈万能水手〉


◆次回投稿は日曜日になる予定です。

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