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●コッペ村のメイド達

◆今年は健康運が良くない一年でした。

 伊勢神宮にでも行こうかな。

 それは雪がちらつくある冬の日の昼下がり。

 ガルダシア領、唯一の村・ポッケ村にある店舗の一つで男の怒鳴り声が響いていた。


「はぁあ!? これ以上、俺達にもの売れねぇってのはどういうこった」


「お店の入り口の注意書きにあるように、一組のお客様が購入できる商品に数に限りがあるんです」


 どうやらその男――、

 いや、その男達は商品の購入制限が気に入らないようだ。

 数名で売買カウンターの前に陣取り、売り子の村娘を睨みつけていた。


「娘じゃ話にならねぇ。店長を出せ」


「今日、お店を管理しているのは私です。お引取りを――」


 いかにもな我儘を言う男にキレイなお辞儀を返す村娘。


「テメェ、こっちが下手に出てりゃ――」


 はてさて、どこを見れば下手に出ているのだろうか。

 ともかくその男達からしてみると下手に出ていたらしく、それで話がつかないのなら、後は実力行使しかないと、カウンターに手を付いた男の手が村娘の胸元にかかろうとしたその時だった。

 その男の肩に手が置かれ「おい、その辺にしておきな」と声がかかり、ばっと振り返った男が自分を止めた買い物客を睨みつけ。


「てめぇ、正義の味方きどりか」


「あ――、どっちかっていうとアンタ等の為を思って言ってるんだがな」


「なにいってんだ――」


 善意から割って入った買い物客に突っかかって行く男。

 しかし、二人の間で衝突が起きることはなかった。


「なんの騒ぎです?」


 男が買い物客の胸ぐらを掴んだところでバタンとお店の扉が開き、店内に入ってきたのは二人のメイド。

 そんなメイド達の姿に先ほど店員である村娘が、ホッとするというよりも呆れの方が強いだろうか。


「リシアさん。こちらのお客様が店長を出せと」


 ため息混じりに告げたところ、リシアと呼ばれたメイドは女性店員の声に店内を見回して、

 いきり立つ男達に、素直に手を上げ肩をすくめる買い物客、その他、野次馬のリアクションから、おおよその事態を把握したのだろう。

 「成程――」と小さく呟き。

 明らかに騒動の原因となっている一団を睨みつけ、端的にこう訊ねる。


「そちらの責任者はどなたです?」


「ハッ、メイドごときになにができる。俺達はグドルブ商会の(もん)だぞ」


 一方、文句を言っていた男達は周りを馬鹿にするような態度のまま、威圧的な態度でリシアに近づいていくのだが、リシアはそんな男達に怯むことなく。


「そうですか、そういった態度を取るのであらば仕方ありません。アナタ方の村への立ち入りを禁止します」


「ハァ――、なに言ってやがる。なんの権利があって」


「それこそ、アナタはどのような権利があってお店に迷惑をかけているのです?」


 リシアが突きつけたのはまさに正論。

 しかし、それで引き下がるくらいの人間ならば、この男達もわざわざ騒ぎなど起こしていない。

 そして、タイミングを見計らったように一人の男が人混みの中から出てきて、


「あの、いいですか、我々はクロスナウ伯爵の御用商人なのですがね」


 無駄に自慢気な男の胸元に光るのはユニコーンの意匠が入ったメダリオン。


「それがどうだというのです?」


 しかし、リシアはさも自分達が上とばかりに主張する商人の言を冷たく突き放す。

 と、そんなリシアの態度に商人は意表をつかれたような顔をするも一瞬、さっきまでの貼り付け笑顔はなんだったかというように眦を吊り上げ。


「アナタ、伯爵家を敵に回すことになりますよ」


 あからさまに圧力を掛けてくるのだが、


「ここは自治領ですよ。ルデロック王ですら手を出せない土地になっているのですが、(おっしゃ)りたいのはそれだけですか」


 投げ返された言葉に言葉をつまらせてしまう商人。

 実際、自治領というのは、ある種の独立国家でもあって、場合によってはその領主は、たとえ相手が王であったとしても意見を通せることもあるのである。

 そうした状況を懸念したのだろう、商人は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべ。

 一方のリシアは、


「反論もないようですのでお引取りを」


 ようやく理解してくれたかと会話を打ち切り、もう一人のメイドと共に店員と迷惑をかけた客に声をかけ、店を出ようとするのだが、

 ここで最初に文句を言っていた男達が二人の前に立ち塞がる。


「これは?」


「アナタが悪いんですよ」


 つまり、権力が駄目なら暴力という訳だ。

 商人は領地の大きさと爵位を鑑み、最悪の選択を下してしまったのだ。


「本当に救いようがありませんね」


 商人指示の下、ついに武器を抜いてしまった男達。

 そんな男達にリシアはロングスカートから取り出した棒で応戦する。

 そして、一緒に店へとやってきたメイドと共に、大袈裟に武器を振り回す男達の攻撃を流れるような動きで制し、急所へと棒の先を打ち込み、主だった悪漢を動けなくすると、


「さて、言い訳はありませんよね」


 本物の威圧を込めた視線が商人に突き刺さり。

 大柄な荒くれ者たち数人がかりでどうにもできないものを一介の商人がどうこうできる筈もないと、追い詰められた商人は最悪の手段に出てしまう。

 彼は店の手伝いだろうか、店内にいた村の子供を捕まえ、ゴテゴテと宝石が散りばめられたナイフを突きつけたのだ。


「ち、近付くな。このガキがどうなってもいいのか」


 しかし、ここでの周囲の反応は商人が思い描いたものとは少し違っていた。

 周囲の野次馬は憐れむような目線を彼に送っており。


「なんだその目は――」


 悲鳴にも聞こえる怒声を上げる商人。

 しかし、彼はその文句を最後まで言い切ることは出来なかった。

 少しでも自分を大きく見せようとしてか、商人が野次馬に向けてナイフを振り回そうとした瞬間、その無駄に重そうな体がふわりと浮かび、気がつけば床に叩きつけられていたのだから。


 そして「ごめんね」と可愛らしい声が耳元で聞こえた直後、小さな弩のような武器を額に突き付けられたかと思いきや、その意識が闇に沈む。


 次に気がついた時、商人は縛られ地面に転がされていた。

 周囲には自分の部下や護衛が同じようにされていて、その周囲を幾人かのメイドが取り囲んでいた。

 そして、先に目覚めたのだろう、喚き散らす荒くれ者をボーッとする頭で見ていると、ここで一人の子供が手を上げ。


「リシア様、太っちょのおじさん、目をさましたみたい」


「そうですか、ありがとうございます」


 リシアは報告をくれた子供達に飴玉を配ると商人の目の前に立ち、宣言する。


「貴方達は罪を犯しました。もう二度と街へ入ることは出来ません。すぐの退去をお願いします」


「巫山戯るな」


 叫んだのは店で喚いていた男だった。

 しかし、これは男の言う通り『巫山戯るな』である。

 侯爵家御用商人である自分達がこんな目に合わされるなんて許される訳がない。

 ようやく働き出した頭で男の言葉に追随する商人だったが、リシアを筆頭としたメイド達はそんな商人達にどこまでも冷淡だった。


「そうですか、ならば罰を執行しなければなりませんね。

 みなさん、お願いします」


 メイドの力はすでに体験済み。縛られた状態ではあるが油断なく構える商人一行。

 ただ、その警戒はまるで意味をなさなかった。

 何故なら、リシアの言葉を受け、周囲の子供達が何かの呪文のような短い言葉を楽しげに叫んだその直後、下腹部に衝撃が走り、男にしかわからない痛みが脳髄を突き抜けたのだ。


 声ならぬ声を上げ、うずくまる男達に子供達の元気の笑い声が降り注ぐ。


 一体何が起こったのか、それはリシアが教えてくれた。


「あなた達にはとある呪いを付与しました。

 今のはその効果です。

 それを受けても文句があるなら相手になりますが」


「文句――ですって、

 あるに決まっているでしょう!!」


 どうやら、自分達は気絶している間に呪いを植え付けられてしまったようだ。

 そんな事実を知らされた商人が怒鳴る。


「先ほども申し上げましたが、侯爵の威を借ることはできませんよ」


「アナタは理解しているのですか、侯爵様の怒りを買うことを」


「理解していないのはそちらです。

 どうして我々にこの地の自治を許されているのか、その意味をよく考えなさい」


 たかが辺境の地の自治にどれほどの意味があるのか。

 怒りに思考を濁らせた今の商人にそれを冷静に判断することは出来ない。


「殺せ。術者を殺せば解けるハズです」


 誰も彼もが縛られているこの状況で無茶を言う。

 しかし、なにもしなければ自分達がやられるのは自明の理。

 縛られた男達が立ち上がるが、


「残念です」


 ズドン――再びの衝撃により蹲る。


「この呪いは、呪文を知っていれば誰でも発動できるので、私を倒したところで意味がありませんよ」


 そして、また突き上げる衝撃が撃ち込まれ。


「どうです。こちらの言葉に従う気になりましたか」


「だ、誰が――」


「では、信じるまで繰り返すだけです。みなさん、このおじさん達に悪いことをしたらどうなるのかを教えてあげてください」


『はーい』


 そこからは地獄だった。

 集まっていた子供達が楽しげにその呪いを発動。

 そうしてしばらく、子供達が商人達のリアクションに飽きたところで、ふたたびリシアが声をかける。


「おわかりいただけたでしょうか」


 しかし、返事はない。


「仕方ありません。みんな、しばらくこのおじさん達と遊んであげてください」


 振り返る先にいるのは村の子供達。


「待っ――」


 ふたたび始まる地獄の時間、

 後悔すると共に、興味本位でその様子を見ていた野次馬達もこの村でメイドに逆らうことは決してすまいと密かに心に誓うのであった。


 ◆今更のアイテム解説(以前からたびたび話題にあがっていた息子殺しの簡易版です)


 衝撃の割印(別名・胡桃の割印)……万屋製の魔法銃にセット可能な特殊弾?引き金を引くことによって浮かびあがる衝撃の魔弾の魔法式を体の一部に転写する魔法。割印機能を使い契約書のような書面を咬ませることによって細かな条件を指定でき、効果期間は転写された魔法式が解除系の魔法により破壊されるまで。ちなみに、魔法式の耐久度は印を付与する際に込めた魔力によって変化し、マガジン内の魔力を上乗せすることも可能となっている。

◆次回投稿はいつも通り水曜日(1月3日)になる予定です。

 皆様、良いお年を――、

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