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調査結果とフラッシュバン

 それは暮も押し迫ったある日のこと、

 アビーさんからお願いされて、アビーさんの妹君であるセリーヌさんの主導(?)で、以前から進められていた、広域犯罪組織の調査報告を一緒に聞くことになった。


 ちなみに、この広域犯罪組織というのは、白盾の乙女のみなさんがそのターゲットになりかけた誘拐未遂事件を発端に見つかった組織のことで、

 三十分にも及ぶセリーヌさんの報告によると、その犯罪組織の中核となる地下施設にネズレムを送り込んだ結果、どうも組織の母体は複数の犯罪組織が集まって出来上がっているものらしく。

 ただ、いくつかの貴族家が客のとりまとめに関与していることが判明したそうだ。


『まったく、我々の預かり知らぬところで、我が国にこのような組織が作り上げられていたなど、まさに不徳の致すところですわ」


「そう古くない組織ということですが」


『出来て数年といったところのようですわね』


 なんでも、その暗黒街ともいうべき地下施設を取り仕切っている組織は、もともと盗品等などを扱う組織が生き残っていた転移ゲートをうまく使って販路を形成、その後、幾つかの犯罪組織を巻き込みながら急激にその規模を拡大させていったようである。


「しかし、そうなりますと突入するにもしっかりとした計画が必要になりますね」


『潰すなら一気に潰してしまわなければ、後々面倒になりますからね』


 ただ、そうなると逃亡阻止の観点からも、根回しに時間がかかるようで、

 特にその組織が転移を使って広範囲に広がっている為、いろいろな領地との折衝が必要らしく。

 組織の中核メンバー全員を確実に断頭台に送る為、転移先も含めて綿密な背後関係の調査を進めているそうだ。

 うん、断頭台とか物騒極まりないのだが、例の暗黒街とも呼ぶべき地下施設の惨状を見るにそれも仕方のないことであるのだろう。


『そこで一つお願いがありまして、以前いただいた鼠型のゴーレムをいくつか貸し出していただけないでしょうか』


「構いませんよ」


 今回の件は、ある意味でこちらが発端の問題でもあるので、無償で提供しても構わない。

 しかし、セリーヌさんとしては、ただでさえお家騒動で迷惑をかけた上に、その姉であるアビーさんがこちらでいろいろ迷惑をかけているだろうということで、きっちり対価を支払いたいらしく。

 数量を決めて、しっかり売買契約を交わすことになり、その書面を作っていたところ、ここでこれまで静かにしていたアビーさんが「あー」と曖昧な声を出し。


「突撃の時は教えてくれるかな」


『お姉様?』


「いろいろと回収したいものがあってね」


 これにはサイネリアさんも賛成のようで、セリーヌさんは呆れながらも、少しでも使える戦力が欲しいのだろう。


『確約は出来ませんわよ』


「わかってるって」


 と、姉妹同士の取り引きがあったりもして、


「受け渡しはどうします。

 早い方がいいですよね」


 特にネズレムの引き渡しは早い方がいいだろうと訊ねる僕に、セリーヌさんは、


『できれば誕生祭の準備が始まる頃までには片付けたいので、早ければ早いほどありがたいです』


「その誕生祭というのは?」


『初代国王の誕生を祝う祭りです。花の月(三月)の頭になりますね』


 つまり、作戦の実行は年明けにズレ込むってことになるのか。


「他に必要なものとかありますか」


『そうですね。

 突入の際に役に立ちそうなアイテムがあればお譲りいただけとありがたいです』


 ここで武器の供与を持ち出さないのは、アビーさんから万屋の経営方針を聞かされているからだろう。


「突入時に役立ちそうな道具ですか」


「唐辛子爆弾は?」


「密閉された空間で使うのはオススメ出来ませんね」


 煙を逃がすことができない地下だと、進めないといった事態にも陥りかねない。

 しかも、現場には多数の魔獣がいるとなれば尚更だ。

 そういった魔獣が唐辛子爆弾に巻き込まれ、暴れたりでもしたら大変なことになってしまいそうなので、


「そうなるとフラッシュバンとか――、

 いや、それも危険かな?」


『フラッシュバン?』


「火薬などで大きな音と光を出し、相手をひるませるマジックアイテムといったところでしょうか」


『音と光――、

 そのようなものが役に立つのですか?』


 これは実際に体験した人じゃないとわからないか。


「かなり大きな音ですから、使う側はわかっていれば防げますし、先手を取れるかと――」


 まあ、こういうものは実際に使ってみないとわからないだろうから。


「とりあえず、ネズレムと一緒にサンプルを送らせていただきますので判断をお願いします」


『わかりました。お待ちしております』


 ◆


 さて、そんなこんなでフラッシュバンを作ることになったのだが、


「まずどういったものを作るのがいいかですけど」


「ふつうにディロックでいいんじゃない」


「それだと光か音のどっちかしか選べないでしょ」


 魔法を結晶化させるのは一つが限界だ。

 それに、複合魔法なら一つにまとめることも可能であるが、そうすると今度はディロックへの加工が難しくなってしまうから。


「二つセットって手がないわけでもないけど」


「それだと手間がね」


 効能が違う二つのディロックを作るというのは二人が言うほど手間は無いものの、使う人が取り違えるといったこともあるかもしれない。


「唐辛子爆弾みたいに中に閉じ込めるのはどうだい」


 それなら一つのディロックでフラッシュバンと同じ効果が得られそうなものだけど。


「ただ、あちらの世界の持ち込むのなら、後のことも考えた方がいいのでは」


 ディロックを量産できるのは、魔素が豊富なこのアヴァロン=エラくらいである。

 ものが消耗品となると、できれば現地で作れるようなものの方がいいんじゃないかと、そんな僕の意見にアビーさんとサイネリアさんは『それもそうか――』と手を打って、


「必要量がわからないから、こっちから大量に送るわけにもいかないしね」


「そういう魔法薬がいくつかありますから、それを改造(いじ)ればいいんじゃないでしょうか」


「そうなの?」


「錬金術で作れる消費アイテムで、幾つかそれらしきレシピがあったかと」


 毒霧爆弾など、万屋のデータベースを探せばいろいろ見つかる。

 しかし、こういうアイテムならお二人なら知っていそうなものなんだけど、やっぱり専門から少し外れると意外と知らないものなのかもしれない。


 と、僕はそんなことを思いながらも、とりあえずそういった類の魔法薬のレシピをピックアップ。

 二人にも一通り、目を通してもらい。


「本当にいろいろあるね」


「同じアイテムでも幾つかレシピがあるけど、違いとかは?」


「すみません。気になったものは試してるんですけど、なにぶん数が数なので」


 万屋のデータベースにある消耗品のレシピは、主に工房のエレイン君がその効果の検証をしているのだが、いまのところ、商品として優先度が高い魔法薬の検証が優先と、こういった機会でもなければなかなか他の消耗品の検証にまで手が回っていないのが現状で、


「とりあえず、手持ちの素材で作れそうなものを幾つか作ってみようか」


 万屋で各種レシピをダウンロードしたところで、トレーラーハウスの前に陣取り、ジガードさんも巻き込んで、作っては実験、作っては実験を繰り返し。


「効果としてはこの素材同士の反応を使ったもの一番で――」


「作り易さは着火式のこっちかな」


 前者は光蟲の目を始めとした幾つかの素材に雷火石とマナオイルを使って段階的に錬成するのに対し、後者は光蟲の甲殻に爆裂モロコシに火炎草をミキシング、なにかしらの油に成分を抽出し、それを着火して使うタイプのものだった。


 ちなみに今回、これら魔法薬に使った素材は、主に魔王様とフレアさんのところから提供されたものであるのだが、取り寄せればアビーさんの世界でも手に入れられるもののようで、いくつかの見本とレシピさえ送れば、あちらの世界でも量産が可能であるとのことである。


「後々のことを考えると後者一択なんだけど、こっちは光も音もイマイチなんだよね」


 それは、驚きはするものの耐えられなくはないといったレベルのものだった。


「暗いダンジョンの中で使うものとして考案されたものなのではないですか」


 その証拠に、このレシピがアムクラブから持ち込まれた錬金術の本となっており。


「そうなると例の場所で使うのは難しいか」


「例の地下の遺跡には魔素灯が所狭しと設置されてるみたいだからね」


 そう、現場は上流階級が欲を持たすために訪れる暗黒街、

 その名前に反して施設内には煌々と照明がたかれているのだ。

 そんな場所で光量が控えめなフラッシュバンを使ったところで、本来の効果を発揮することは難しく。


「油を変えてみる?」


「そうだね。

 すぐに変えられるのはそこくらいだからね」


 最初に作ったそれは、油ならなんでもいいということで、どうせだからとキッチンに置いてあった、揚げ物油の残りを使っていたのだが、ここを少しいいものに切り替えればその効果を高められるかもしれない。


「だけど、マナオイルはもったいないよね」


「ここで用意できるものと他所で用意できるものじゃ性能に差がありすぎるしね」


 マナオイルというのは魔樹や霊樹といった特別な植物や植物系の魔獣から取れる特別なオイルで、

 今回、前者の魔法薬に使ったものは植物の中位精霊(ドライアド)であるマールさんが用意したものだから、その品質は最高級のものになってしまうのだ。

 現地でそれと同等のオイルを揃えるのは、たとえセリーヌさんでも難しいだろうから、できるだけ安価で沢山集められる油はと考えて――、


「あの、この油って着火剤として入れてるんですよね」


「たぶんね」


「だったら油じゃなくて、それをアルコールに変えるとどうなるんでしょう」


 魔法薬だけに純粋に燃えやすいというだけで選ばれているのではないとは思うが、魔素があまり介在しない素材を作るなら、アルコールのような発火点の低いものの方が効果が高く出るのでは? という僕の提案は一利あったようで、さっそく試してみようかということになり。

 とりあえず、すぐに手に入れられるアコール度数が高いものをと、万屋のキッチンにあった料理用のウィスキーを持ってきて、実際に使ってみたところ。


「これは――」


「思ったよりも強力な仕上がりになったね」


 一段上の素材を使って作ったものよりも効果の高いものが出来上がってしまった。

 しかも、お酒を使ったおかげなのか、フラッシュの瞬発力が高く。


「アルコール度数によってどれくらい変わるのかとか調べた方がいいんじゃないですかね」


「たしかに――」


「やってみよう」


 その後、いろいろ試した結果――、

 度数が高ければ高い程いいわけではなく、実験に使ったウィスキーよりも少しだけ強い、アルコール度数五十程度のものを使うのが、一番光量が増すことが判明。


「そういえば、向こうにもこれくらいのアルコール度数のお酒ってあるんでしょうか」


「それなら大丈夫。

 錬金術で作る安酒があるから」


 言われてみれば、あちらの世界にも錬金術はあるのである。

 僕達がそうしたように、アルコール度数を高めることも難しくはないのか。

 実際、若い錬金術師が練習と小遣い稼ぎを目的にバイト感覚で作っているようで、

 とりあえず、これでいこうと、ネズレムの引き渡し準備も合わせてセリーヌさんに連絡を取るのだった。

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