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冬休み目前のダベリ

 それは、そろそろ二学期も終わりというある日の放課後、

 いつものように和室でまったりしていた元春が「はぁ」と息を吐き出し呟く。


「やっと冬休みかよ」


「もうそんな時期なんだ」


 アヴァロン=エラは見渡す限りの荒野というその景色から、季節感が少し感じにくいということで、玲さんとしてはもうそんな時期かという感覚なのかもしれない。


「そういや玲っちの地球に戻る方法探しはどうなったん?」


「しっかりやってるよ。ちょっと前に世界樹の植え付けとかで留守にしてたじゃない」


「あれってそういうことだったん?」


「条件が揃えば、目的の座標に物資を送り込むことができるようになったから、後は動物実験とかかな」


 とりあえず、原子精霊に物をもたせて転移することは成功しており、いま考えている次の実験は、あらかじめ殺虫剤を仕込んでおいて到着からすぐに死ぬように調整した上での生体転移の実験であると、そんな計画を立てていることを伝えると、元春は「ヒデーな」と一言。

 僕もこのやり方は酷いと思わなくもないが、地球でもすっかりおなじみの問題になっている外来生物の被害を考えると、やむを得ない措置でもあって。


「ただ虫やマウスくらいなら大丈夫だと思うけど、それ以上ってなると難しいんだよね」


「マウスで上手くいくなら、人間でもいけそうな気がすんだけど」


「わたしからはなにも言えないかな」


 玲さんの――いや、正確には環さんの――思いとしては、できるだけ安全に転移したいというのが本音だろうが、それによって多くの命が危険に晒されるというのは、あまり気分がいいものではないだろう。

 最悪、適当な弱い魔獣を使うという手もあるのだが、そっちはそっちで転移位置のズレなどによっては別の危険があってだ。


「できればお正月までにはなんとかしたいところだけど」


 これは玲さんの一存だけでは決められないことで、環さんの了解も取る必要があると僕が言うと、元春がふと思い出したように。


「そういや最近、環さんを見かけねーけどどうしてるん?」


「年末だから、お仕事の方が忙しいみたいだね」


 環さんのお仕事はネットをメインにした輸入業ということで、季節的な忙しさはそこまでと思われがちであるが、この時期は服やアクセサリなどがよく売れるらしく、加えて、お正月に向けて福袋などの準備もあるとのことで、かなり忙しいみたいなのだ。

 それでも、玲さんとは魔法窓(ウィンドウ)なんかでやり取りを取っているから――とそんな話をしていると、ここでマリィさんが小さく手を上げて。


「福袋といえば、今年もやりますの」


「はい。去年よりも種類を増やして準備をしてますよ」


「楽しみですの」


 僕の言葉にマリィさんが手を合わせて喜ぶ一方、意外そうな顔をするのは玲さんだ。


「ここって福袋出してるの?

 とゆうか売れるの?」


「去年、少し告知をしたら、これを目当てで来てくれたお客様いましたよ」


 前回は二ヶ月くらい前から来店した客さんに告知しただけで、魔女のみなさんだったり、ガルダシア城のメイドさんだったり、アムクラブからのお客さんだったり、お正月の期間中、お店に来てくれたたりもした。

 今年も同じような時期から福袋の話をしているので、時期を合わせてお店に来てくれるお客様がいるだろうと予想しており。


「そうじゃなくって中身の方」


「アイテムに素材に食材と、いろいろな種類がありますから」


 正直、現地での値段を考えるとかなりお得な福袋になっている。

 ちなみに、食材云々は赤い薔薇のみなさんからのリクエストで、特にラインナップに力を入れていて、おそらく今頃、この案を出してくれた彼女達はこちらに向かっているのではなかろうか。

 他にもアムクラブのみなさんが来ることを考えるのなら、炊き出しなんかの用意をしておいた方がいいのかもしれないと、一人そんなことを考えながらも。


「ただ、どうしても人によってハズレになってしまうかもしれませんが」


「志帆姉の骨とかな」


「骨? なにそれ」


「義姉さんが買ったんですけど、ワイバーンの素材一式で――」


「たしかに、それはちょっと困るかも」


(わたくし)からしてみると、羨ましい限りですけど」


 これは人によるとしか言えないかな。

 マリィさんがその福袋を引いたなら、余すことなく武器や防具の作製に使っただろうけど、義姉さんの場合、なにか装備を作るにしても、そこまで大量の素材を必要としていないから、結局グローブなんかに加工したんだけど、それでも結構な量が余り、未だ工房の片隅にその一部が放置されている状態であるのだ。


「その対策ではありませんが、今年は中身を装備やアイテムと食材や服にわけようと思ってます」


 これならある程度、自分が狙ったものが当たるだろう。


「トワ達が騒ぎそうですね」


「えっ、トワさん達も買いにくるん?」


「去年も来てたけど、元春は会わなかったんだっけ?」


「ちょ、聞いてないんですけど」


 たしか去年のお正月、元春はちょうど仕事の手が空いたお昼過ぎにやってきたと記憶しているけど、毎度のことながらタイミング悪くトワさんと遭遇できていなかったようだ。


「こりゃ、今年は初っ端から店に張り込まねーとな」


 人はそれをストーカーとか呼ぶのだが、元春のソレは毎度のことで、


「お年玉はいいの」


「ソッコーで回収してきてやんよ」


 貰うものはきっちり貰ってくると――、

 無駄に格好をつけて親指を立てる元春に、玲さんが気にしたのは、


「そういえばお年玉って、いつまで貰ってもいいものなの」


 これはそれぞれのご家庭によって違うと思うのだが、


「高校までじゃね」


「中学までってパターンもあるらしいけど、義姉さんは去年も貰ってたね」


「くれるって言うなら貰っておけばいいんじゃない。ほら、太っ腹の社長とか従業員にくばるとかあるでしょ」


「芸能事務所とか?」


 たしかに、真偽の程は定かではないのだが、某アイドル事務所とか俳優事務所などでは、新年に先輩が後輩に高額なお年玉を渡すなんてのはよく聞く話だ。

 しかし、そういうことなら――、


「僕もなにかした方がいいのかな」


 これでも僕は店長である。

 時に自主的にお店のお手伝いをしてくれる常連にみなさんに、なにかした方がいいんじゃないかと訊ねるも。


「えっ、くれんの?」


「虎助はいいんじゃない。もういろいろくれてるし」


 元春が思わぬ収入上昇のチャンスに喜ぶが、それを玲さんがやんわりと遠慮。

 ただ、なにか考えておいた方がいいのかもしれないと、僕は心の中でメモ書き。


「マリィちゃんトコはそういうの無いん?」


「王城に居た頃は珍しい料理が振る舞われたりなどがありましたが、ガルダシアに来てからはそういうことはありませんわね」


 マリィさんの場合、それは仕方のないところがあると思う。

 なにしろ、マリィさんはつい一年ほど前までは幽閉状態だったのだ。

 マリィさんが城内でこのアヴァロン=エラに繋がる魔鏡を見つけなければ、いまもその状態は続いていて――、

 いや、ルデロック王の動きを考えるのなら、最悪のこともあり得た話であるから。


「しかし、今年はなにか考えるべきでしょうか、村もかなり余裕があるとのことでしたから」


「なにか入用でしたら、お手伝いしますよ」


「そうですわね。お母様やトワ達に相談して考えてみます」


 と、マリィさんはガルダシア城にメッセージを送るべく魔法窓(ウィンドウ)を開く一方、玲さんが、


「ちなみに、普通はどんな料理が出たりするの」


「やはり、ふだん食卓に登らない魚料理や甘いものでしょうか」


「そういやマリィちゃんの国って海がないんだっけか」


 そう、ガルダシア自治領が存在するルデロック王国があるのは大陸の中央――、


「もし海の魚を食べるのならば、カイロス領を経由して取り寄せることになりますわね」


 そして、ガルダシアの隣接するカイロス伯爵領の先に海があるらしく、隣国ではあるのだが、魔の森から周辺を守っている関係から、割りと安価に海の食材が手に入るそうなのだが、

 ただ、それを新鮮に遠方まで大量に届けるのには氷系の魔法を使う必要があって、伯爵領の外ではかなり割高になるようで、


「だったら魚でいいんじゃね」


「在庫がないから、地球からお取り寄せになるんだけど」


 ゲートが海中と繋がることはあまりなく、以前に手に入れた空魚の素材をすでにストック切れである。


「でも、地球で買ってきたとして、村の人が料理とかできるの?」


 それでも、ただ焼くだけの干物とかを買ってくるという方法もあるとは思うが、たしかに慣れない人が魚の調理をするのはちょっとむずかしいか。


「だったら、わかりやすく肉を大量にとかの方がいいんじゃね。豚とか牛を丸々一頭とか」


「そうですわね」


「トワさんとかなら一人でも狩れるっしょ。なんなら俺も協力するっすから」


 ああ、それが元春の狙いだね。


「とりあえず、手頃な魔獣が迷い込んできた時、こちらから連絡します」


「お願いしますの」

◆次回投稿は水曜日を予定しております。

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