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修学旅行07

 結局、遭難騒動は僕が自力でホテルに戻ることで無事解決と相成った。


 精霊の親子を待たせるわけにもいかないし、いつまでも中谷さんを心配させるのも可哀想だと、急斜面から転げ落ちた後、謎の生物(精霊父)から逃げつつ、寒さをしのげる場所を探している内に、いつの間にかホテルの近くまで戻ってきていたことにして、

 遭難からおよそ一時間――、

 日暮れ前になって吹雪が止むのとほぼ同時に精霊父を連れてそのまま帰ってきたのだ。


 ちなみに、その際、先生達からのお咎めなどは殆どなかった。

 そもそも遭難の原因が内田さんを助けようとした結果であって、その事実は元春を始めとした複数の目撃証言があり、偶然に偶然が重なった結果、不運にも僕だけが遭難してしまったといったような状況だったと証明されたからだ。


 あと、学校のみんなに迷惑はかけられないと、遭難から解決までが二時間以内と早く、夕食に間に合ったというのが功を奏したかな。

 クラスメイトですら僕が遭難していたことを知らない人が多いくらいだったからね。

 なんでも、みんなは僕が遭難している間、急な吹雪でホテルに戻ってくることになって、スキーやスノボの返却やら着替えでてんてこ舞いだったそうなのだ。


 ただ、巻き込まれた中谷さんやそのお友達は事情を知っている訳で、無事に戻った際に泣きつかれてしまったのだが、こればっかりは仕方がない。


 と、僕からすると居心地の悪い一幕があったところで、精霊の親子の感動の再会があって、

 翌朝、僕はその精霊父と戦っていた。


 さて、どうして僕がこんな早い時間から精霊父との再戦をしているのかというと、

 それは精霊娘の何気ない一言(?)が原因というか――、

 まあ、どんな種族でもお父さんの威厳を保つのは大変だという精霊父側の要望と、昨日の反省から僕も雪上での戦闘訓練をしたいとの利害の一致もあったからだ。


 先生方には申し訳ないのだが、遭難騒ぎを起こした昨日の今日でこっそりホテルを抜け出させてもらい、つい昨日、バトルを繰り広げたスキー場横の森の中で早朝訓練という名の戦いをすることになったのだ。


 と、そんなこんなで精霊娘が見守る中、

 僕はなかなかに有意義な訓練を――、

 そして、精霊父の尊厳も無事に守られてと、大満足の内に早朝訓練は終了し。

 精霊親子と別れた僕は浄化の魔法で汗を流し(証拠隠滅)、ホテルの部屋へと戻ろうとするのだが、ここで部屋に戻るまでのルートに幾つか不穏な動きをする気配を察知する。


 その気配は、その数、その強さから察するに、特に問題になるようなものであると思われるが、昨日のことを考えると万が一の可能性もある。

 ということで僕はその気配の主が誰なのかを確かめるべく、その気配がいる場所へと行ってみることに――、


 すると、現場である人気のないホテルの片隅では、緊張気味の男女二人が向かい合っていて、

 モジモジとじれったいような雰囲気から察するに、これは告白の現場だろうか。


 だとするなら静かに立ち去るのが一番だと、僕は別のルートから部屋に戻ろうとするのだが、残念ながらことはそう簡単にはいかないみたいだ。

 こっそりと現場から離れようとしたところで、いくつかの気配がこの現場に近付いてきているのに気がついてしまったからだ。

 そして、そんな気配の中には、よく知っているものが含まれており。


 これは僕が行かないとな――、


 と、急ぎ足でその気配の下へと向かってみると、案の定というべきか、そこにはドロドロと怨念にまみれた友人達の姿があって。


「虎助か?

 お前も目的は同じか」


「そんなわけないよね」


「ならばどくがいい。俺達はこれから修羅道に入る」


 修羅道なんて大袈裟な。

 とはいえ、みんなの顔つきを見る限り、冗談で言ってるのではなさそうだ。


「えと、さすがに無粋だと思うけど」


「ふっ、ならばお前を倒して征くのみ」


 なにか格好いい感じで言ってるけど、今から元春達がやろうとしているのは告白の現場への乱入だからね。


「これが俺たちの答えだ。着装」


「ちょっと、それは――」


 鎧姿に変身する元春。

 これはさすがにやり過ぎじゃないかと、そんな思いを抱く常識人は僕だけだったみたいだ。

 元春と一緒にやってきた友人一同は元春の変貌を特に気にするようでもなく。


「今日、俺達はお前を超える」


「悪いな虎助、覚悟しろよ」


「いや、なんでみんなツッコまないのさ」


 元春以外はアヴァロン=エラのことを知らない友達だ。

 いきなり変身シーンを見せられたらなんらかの反応があっていいと思うのだが、


「そんなことはどうでもいい。僕達には今まさに目の前にある危機の方が大事なんだよ」


「それにその鎧、どうせイズナさん絡みの代物なんだろ」


 まったくの言いがかりのようは話であるけど、母さんという理不尽存在を出されては、簡単に否定できないのもまた然り。

 と、友人達のうちの母さんに対する間違った信頼に、僕が諦めに似た感情に浸っている内に元春達が飛びかかってくる。


 そのポジションを見る限り、基本は元春をメインにし、他のみんなが隙を伺い、僕を捕まえようとする作戦のようだ。


 しかし、事前の打ち合わせも何もなく、みんながこれだけ連携してくるなんて――、

 げに恐ろしきは嫉妬の心か。


 なにより今日は元春の動きにキレがある。

 ふだんは扱いが難しいと使うことがないブラットデアの羽を巧みに使い、鎧そのもののパワーアシストを受けているとはいえ、僕が受けに回らされるなんて、

 これは向こう(アヴァロン=エラ)で魔獣と戦っている時よりも、調子がいいんじゃないのか。


「ちょっと本気過ぎない」


 若干の驚きと共にどうにか友人達に被害がいかないようにと連携をいなしていると、元春から予想外の言葉が投げつけられる。


「俺はお前にも怒ってんだよ」


「はい?」


 それはどういうことかと訊ねたら。


「委員長に抱きつかれやがって、このリア充が――っ!!!!」


「あれはそういうんじゃないと思うけど」


 再会の時、たしかに元春の言うように中谷さんに抱きつかれはしたのだけれど、あれはただ心配されただけというのが本当のところで、それはクラスメイト(・・・・・・)の皆なら(・・・・)わかっているんじゃないかと、僕はそんな指摘をするのだが、


「だとしてもだ。

 だとしても女子に抱きつかれたなんて羨まし過ぎんだろ」


 ただ、残念な友人達からしてみるとそんな背景などまったく関係ないようだ。

 僕に対する猛攻が更に激しさを増し。


「と――、

 とりあえずみんな落ち着いてくれるかな。

 あと、元春はすぐに鎧を脱ぐことをオススメするよ」


 僕は煩悩亡者とかした友人達の攻撃を躱しつつ、さりげなく告白現場から離れるように友人達を誘導しながらも説得を続けるのだが、 みんなの答えは変わらないらしい。


「するわけねーっての」


「そう、じゃあ仕方ないね。

 とりあえず、僕としてはすぐに返ったほうがいいよって言っておくよ」


 僕はその忠告の言葉を最後に現場から姿を消す。

 すると、少しして聞こえてくるのは学年主任の先生の怒声。

 そう、その現場に迫っていたのは、なにも元春達だけじゃなかったのだ。

 そして、先生に見つかった元春達は、その後、一日目と同じく小テストを受ける羽目となり、朝食の時間が終わるまで、部屋に帰ってくることはなかった。



   ◆



「修学旅行の最終日に朝飯抜きで課題とか、どんな虐待だっての」


「ご飯なら部屋の方に届けられたって聞いたけど」


「握り飯がな」


「全部回してくれりゃよかったんだよ」


 朝食後、チェックアウトを前に、僕は元春達の愚痴を聞きながら荷物をまとめていた。

 とはいっても僕の場合、特に荷物になるものは持ってきていないので、結果として他の三人の手伝いになるのだが、


「修学旅行もこれで終わりか」


「まだ今日が残ってるけど」


「なんつーか、こうやって帰り支度をしてると終わった気がすんだろ」


『「「たしかに――」」』


 と、この会話は玲さんも聞いていたみたいだ。

 途中、玲さんが会話に加わったことで、元春と他の友人との会話が微妙に噛み合わないなんてことがありながらも、なんとか荷物をまとめて部屋を後に――、

 先生方の先導でバスに乗り込み向かうのは、奥飛騨最大の観光地である高山市。

 市内の駐車場でバスを降り、そこからは自由行動となって歴史的な町並みを見て周る。


 ちなみに、その際、昼食は各自で取ることになっていて、僕達の班は元春のリクエストで飛騨牛バーガーを食べることになった。

 肉厚な飛騨牛のパティをメインに定番のBLT、そしてチーズを加えた、なかなかにボリューム満点なバーガーで、僕はこれだけで十分だったのだが、元春達は少し足りなかったみたいだ。

 飛騨牛コロッケを片手に街を散策、お土産の確保をしていく。


「虎助は土産選びに迷いがないな」


「(現在進行系で)リクエストされてるからね」


「しっかし、マリィちゃんは相変わらず渋い趣味してんな。

 その大福、マリィちゃんのリクエストだろ」


「うん」


 元春からの問いかけに僕が頷くと水野君が後ろから、


「マリィちゃんって例の金髪爆乳の()だよな。どんな()なんだ?」


「そりゃ、もうボインボインよ」


 通信の向こう側にはユリス様がいるというのに、あえてジェスチャーを交えながら答えていくのが元春スタイル。

 と、そんな元春の発言に玲さんから三点リーダーの絨毯爆撃が投下され、

 そんなフキダシの乱発に誘導されるように僕の視線が一つのお土産に惹きつけられる。


「どした?」


「酒か――」


 僕が注目したのは飛騨の地酒。

 少し辛口ですっきりとキレがいいのが特徴のお酒らしく。


「十三さんにお土産か?」


「バイト先にお酒が好きな人がいるんだよ」


「あっ、もしかして師匠か?」


「ううん」


「じゃあ、ディーネさんか?」


「ちょっ、なんかまた新しい女の名前が出てきたんだけど」


 と、友人達がディーネさんの話題で盛り上がる中、僕は淡く青が入る透明な四合瓶を手に取るのだが、

 ただ、さすがに修学旅行のお土産にお酒は買って帰れないだろうと、後でお取り寄せしろとか言われても大丈夫なように、このお酒が通販できるのかなどをチェックして、その後も何店か、お土産屋さんを見て回り、両手いっぱいにお土産を買ったところで、


「とりあえず、みんなの分のお土産は確保したけど、この後どうする?」


「バスに戻って荷物を置いて、ぶらぶら冷やかそうぜ」


「そだな」


 全会一致で元春の意見を採用。

 いったんバスがある大きな駐車場に戻ってみると、班のメンバーから冷やかされつつ、正則君がどこかに行こうしているところで、


「ノリ、どこ行くん?」


「ひよりに頼まれてな。さるぼぼの手作り体験に行くところだ」


 へぇ、そんなのがあるんだ。


「てか、さるぼぼって安産のお守りじゃなかったか」


 また変な想像をしているのだろう。驚愕に震える元春がそんな指摘するも。


「色によっていろいろあるみたいだよ」


「ギャグ?」


「じゃなくて、さるぼぼ自体には子宝・良縁・無病息災、ベーシックな赤には勝負運、黄色は金運、ピンクは恋愛祈願、緑は健康って感じでそれぞれに効果が違うみたい」


 さて、どうして僕がそんなにさるぼぼのことに詳しいのかといえば、コメント欄を通じ、リアルタイムで玲さん達が情報を送ってくれているからである。


「ちな《ちなみに》、ひよりっちからは何色を頼まれたん?」


「俺の好きな色でいいって」


「それは試されてるな」


 まあ、試されてるっていうのは言い過ぎだと思うけど、ひよりちゃんとしては正則君が直接選んだお土産が欲しいんじゃないかな。


「で、どうすんだ?」


「どうするって、ひよりにやるならピンクだろ」


「この男、迷いがねぇ」


「とはいってもな。金運とかそういうので選ぶと微妙な色だろ」


 たしかに、黄色いさるぼぼとかちょっと違和感を感じるね。


「この天然め」


「よし、こうなったら俺等もピンクのさるぼぼを作りに行こうぜ」


「「おお――」」



   ◆


 窓の外、流れる景色を見ながら、僕は横でグースカいびきをかく元春が残したビーフ味のポテトチップスを食べていた。

 すると、前の座席に貼り付けた魔法窓(ウィンドウ)からポンと軽快な音が上がり。


『虎助は休まなくてもよろしいんですの』


『乗り物に乗っていると眠れない(たち)でして、あまり疲れてもいませんし』


 必要があれば眠ることは出来るが、実際そこまで疲れを感じていなかったりする。


『疲れてないって、あんたどんだけタフなの。きのうあんなことがあったのに』


『はは、タフというよりも慣れですかね』


 どこかに山の中に出かけて|体を動かすなんてことは、一年前まではよくあったことで、人外との戦闘もほぼ毎日のことなのだ。

 だから、多少の遭難騒ぎくらいでは特に疲れるということもなく。

 どちらかといえば、こののんびりしたバスでの移動の方が疲れるくらいで、


『しかし、ホントに遭難するとは思わなかったわ』


『あれは無理やりそうなってしまった感はありますけど』


 これは改めての話になるのだが、もともと雪の精霊のお父さんは僕達――というよりも中谷さんをどうこうするつもりはなかったようだ。

 単に娘の気配を感じた彼女に思わず飛びついてしまったのがあの突撃で、あそこで僕が手を出さなければ話し合いで解決なんてこともあったのかもしれなかったのだ。

 いや、あの精霊お父さんの慌てっぷりを考えると、それはちょっと難しかったか……。


『なんにしても、みんな怪我なく帰ってこれてよかったですよ』


『怪我なくって――、

 あんたのあれは一歩間違えば大惨事だからね』


 たしかに、一般的にはそうなのかもしれないが、僕からしてみると、あれは少し雪山を散歩した程度であり。


『ただ、今朝のあれは予想外だったかな』


『今朝のあれといいますと中谷さんの件ですか』


 それ以外に心当たりはないと訊ねると、玲さんが『そ』と短く答える一方、マリィさんが、


『中谷といいますと虎助が庇ったという女学生の名前でしたわね。なにがありましたの』


『告白されたんだよ男子に』


『された?

 彼女がですの?』


『うん、昨日の今日で告白とか、もうちょっとタイミングを考えても良かったのにねえ』


 これに関して言えば、もともとそういう予定があったのかもしれないし、例の遭難騒ぎがある意味できっかけになったのかもしれないけど。


『しかもOKとか、ホント予想外』


 そっちはそんなに意外でもないかな。

 なにしろ中谷さんに告白したのは、ずっと同じクラスで委員長をやっている谷君だったのだ。

 二人の仲の良さといったらクラスの女子のお墨付きで、一部からは谷々夫妻なんて呼ばれたりしていたのだ。


『虎助のフラグが立ったと思ったのに』


『それはないですよ』


『だって、あのでっかい精霊から庇ったじゃん』


『ただ庇っただけですよ』


 さすがに、それだけでどうにかなるなんていうのは、中谷さんにも失礼ではないのかと、そう思ったのは僕だけではなかったようだ。


『そうですわね。あの状況で力ある者なら当然の判断だったのでは』


『ええ――、普通は惚れるとこでしょ』


 この辺の感覚はもしかすると育った環境によるのかもしれない。


『まあ、これがきっかけで上手くいったのなら良かったんじゃないですか』


『まったくお人好しなんだから』


 玲さんのため息に僕は苦笑。


『それで、あと一時間くらいで戻ってこれるんだよね。

 お店の報告はどうする?

 暇ならいま送るけど』


『あとちょっとで学校ですから、後でそっちに顔を出しますよ』


『はぁ、帰ったばっかでバイトとか、ふつう休むんじゃない』


『さっきも言いましたけど、そんなに疲れていませんし、お土産もありますから』


『大福、楽しみですの』


『じゃあ、あと一時間ほどでそっちに行けると思いますから』


『ハイハイ。気をつけて帰ってきなさい』

◆次回投稿は水曜日の予定です。

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