修学旅行03
◆感想、誤字脱字報告ありがとうございます。
なかなか対応できる余裕がなくて申し訳ないです。
それはお風呂からあがってすぐのこと――、
着替えを終えた僕が先に出た元春を探していると、どこに用意をしていたのか、脱衣場を出てすぐのトイレで、ジャージをベースにスパイチックな装備を身に着けた元春と数名の有志同盟を発見。
「えと、今から本当に行くの?」
「虎助は行かないのか」
「逆にどうして行くと思うのかな。常識的に考えてみてよ」
さて、僕の残念な友人達が、お風呂上がりにこんな格好で何をしようとしているのかというと、あえて言うまでもないだろう――覗きである。
そして、それは戦力的な意味でなのか、彼等の中では当然のように僕も行くような流れになっていたようだが、誰が好き好んで犯罪者の片棒を担ぐだろうか。
きっぱり拒否の姿勢を示す僕に元春はゆるく首を振り。
「臆病だな」
「言ってやるな。坊やなのさ」
どこかで聞いたようなやり取りで、仲間同士、無駄にハードボイルドさを醸し出しつつ肩を叩きあうと、特殊部隊のように統率のとれた動きで、キャアキャアと女子達の声が聞こえてくる廊下の先へと消えていく。
と、そんな元春達の姿を見てだろう。
通信の向こう、玲さんから『ねぇ、あれ、大丈夫なの?』と呆れ成分100%のコメントが送られて来るのだが、
『はい、問題ないかと、こうなることは先生にも報告してありますから。
まあ、わざわざ僕が注意を促すまでもないと思いますけど』
このシチュエーションでの元春達が起こす行動なんてことは、少しでも彼等と付き合いがある人なら誰しもが想像できることである。
それにプラスして、犯行のタイミングも、お風呂の順番さえしっかり確認しておけば、簡単に予想が付くことであって――、
『なんていうか、あいつは本当にどうしようもないわね』
残念なことに、まったくもってその通りなのだ。
というわけで、後の処理は現場の先生に任せるとして、
僕は部屋に戻り、ベッド脇のスペースで日課のストレッチを始めながら、『そういえば、みなさんお土産はなにがいいですか』と、最終日に買って帰るお土産のリクエストを聞いてみる。
すると、先ずは魔王様が――、
『……肉』
『わたしはラーメンとかかな。そっちってご当地ラーメンとかあったっけ?』
『高山ラーメンっていうのがあるみたいです』
事前に調べた情報によると、この辺りのご当地ラーメンはベーシックな中華そばのようなもののようである。
ただ、高山ラーメンはタレとスープを別個に作るふつうのラーメンとは違って、しっかりと味付きのスープを作る、掛け蕎麦のようなタイプらしく、それによって醤油味のスープがまろやかに仕上るのだという。
『マリィさんはやっぱりおまんじゅうとかですかね?』
『あ――、そうかもだけど、マリィならちょっと前に帰ったわよ』
『そうなんですか?
いつもならまだ居てもおかしくない時間だとは思うんですが』
『なんか用事があったみたい。
ねっ、マオ」
『……ん?』
なんか魔王様の『ん』のニュアンスがおかしかったような気がするけど、帰ってしまったとあらば仕方ない。
マリィさんなら直接メッセージを送って聞いてみるという手もあるけれど、忙しいと悪いから、マリィさんのリクエストは、お土産を買う時に聞くことにして、
『じゃあ、元春達が捕まるまでの間に業務報告のチェックでもしてしまいましょうか』
『あんた、ホントにマメよね』
『マメというよりも習慣のようなものですかね。
これでも一応店長なので』
やるべきことをやらないというのは決まりが悪いと、僕は魔法窓経由で開いた業務日誌に目を通す。
すると、今日はいつものメンバーに加え、アムクラブからのお客様が一組と、夕方にガルダシア城のメイドさんが買い出しに来たようで、日用品に食料、調味料に魔法薬、それに各種カード類が売れたみたいだ。
あと、店番を手伝ってくれていた玲さんのメモによると、アムクラブからのお客様は盾を一枚買おうかと悩んでいたみたいだが、もう少しお金を出せば一段上の盾が買えるからと、今回は諦めて帰られたそうだ。
まあ、これに関しては性能と価格の問題だから仕方がないとして――、
その後、ベル君とエレイン君達に、本日ゲートを通じて流れてきた品々の処分を頼んで、しっかりとストレッチをし終えた後、残りの時間は魔王様のゲームのお手伝いをしながら『明日の朝の鍛錬はどこでしよう』『中継機の設置ついでに外に出てみようか』なんて考えていた。
そうして、十九時半を少し回った頃、部屋のドアがノックされ。
出てみると、相手は生徒指導の先生だった。
どうやら前もって僕がしたアドバイスの甲斐もあって、早々に元春達の犯行に防ぐことが出来たとのことで、お礼を言われてしまった。
本当なら元春達の犯行を未然に防ぐことが出来ればいいんだけど、こればっかりは仕方ない。
さすがに、まだ何もしていない元春達を実力行使でなんて訳にはいかないからね。
結局、他のクラスの友人も含めて、捕まったみんなは説教の上で小テストをさせられているようで、合格点を取れるまで拘束は続くとのことで、いつになったら帰ってこられるのやらだ。
とはいえ、いまは修学旅行中だ。
だから、先生もある程度のところで簡単な問題に切り替えてくれると言っていたから放っておいても平気だろう。
ちなみに、こういった時、グループ単位で連帯責任にされてしまいがちだが、そこは問題児の面倒を一任されている僕である。
先生方もあまり僕に負担ばかりをかけるのはいかがなものかと配慮してくれているらしく、僕が元春のやらかしに巻き込まれたことはなかったりする。
なにしろ、元春関連のアレコレは小学校時代からすでにこうなので、義姉さんのことも含めて、そういう情報が先生方の間で回っているそうなのだ。
と、そんなこんなで残念な友人達の末路を聞いたところで、そろそろ魔王様も拠点へ帰る時間のようだ。
そのついでに玲さんもお風呂に行くとのことなので――、
一人、暇になってしまった僕は、このまま部屋でテレビを見るだけというのもどうなのかと、次郎君や正則君に連絡。
すると、次郎君と正則君はそれぞれの友人と下のラウンジでお茶を飲みながらカードゲームを楽しんでいるとのことで、
だったら僕もとラウンジに向かうことにした。
と、そんな移動の途中、クラスメイトに何人かに元春捕縛のニュースをネタに話しかけらてしまった。
元春達がやらかすのは毎度のことなので、みんな元春達が『何をして――』『何時頃――』捕まるのかを賭けていたそうだ。
だから、なにか動きがあると情報がすぐに伝わってくるのだと、そんな情報を聞きつつもラウンジに到着。
次郎君達と合流すると。
「来ましたね」
「モトはいきなり捕まったんだってな」
「あ、こっちにも伝わってるんだ」
聞けば元春達の捕獲のニュースはいろんなグループチャットでも出回っているそうで、特に女子一同は一安心とリラックスモードに入っているみたいだ。
「ホント、変わんねぇな元春は」
「変わりようがないでしょ」
ちなみに、次郎君と正則君の後に話しかけてくれた二人は、中学の頃から付き合いがある友人で、母さんの洗礼を受けたこともある友達だったりする。
ただ、こちらの友人は主に正則君繋がりの友人なので、正則君と同じく、女子に積極的な部分はありつつも、今回のようなイベントに参加するタイプでもなく?
いや、時と場合によっては正則君がそうであるように元春側の住人になるんだけど……、
さすがに今回ばかりは修学旅行ということで仲間に加わらなかったみたいだ。
「そういえば正則君、ひよりちゃんに連絡した?」
「したした。っていうか、お前もか」
おっと、これはひよりちゃんから言われて聞いてみたけど、みんなが注意してくれていたみたいだ。
「リアル天然のおそろしさよ」
「まったくです」
「お前も人のこと言えないけどな」
◆次回投稿は水曜日の予定です。




