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修学旅行02

「やっとついた――」


 バスから降り、大きく伸びをするのは元春だ。

 科学館の見学の後、近くの食事処でひつまぶしを食べて、バス内でスキーの講習ビデオを見せられつつも、幾つかの観光地に立ち寄り、夕方頃になってスキー場に到着したのだ。


「しかし、さっきのあれは良かったな」


「ああ、最高だった」


「俺としてはあんまだったけどな」


「ふっ、ゼキはまだまだ足んねーな。

 ああいうちょっとしたことの中から、光るもんを見つけられるのが本物ってもんだぜ」


 さて、バスから降りるなり、元春達が訳知り顔でなにを語り合っているのかというと、スキー場への到着の直前、寒さ対策にと、スカートの下にズボンを履いた数名の女子に対する品評だった。


 うん、最低だね。

 そして、またそんなことを大声で話してると――、


 スパン、スパン、スパン!!


 案の定、我がクラスの副委員長である中谷さんから、旅のしおりを獲物としたご褒美の三連打が入れられ。


「馬鹿なこと言ってないで、さっさと並ぶ。

 谷君が困ってるでしょ」


「いやぁ、ゴメンね」


 大人しくなったところで整列。

 クラス単位でホテルのロビーに入ったところで、先生からそれぞれの班にカードキーが配られる。

 ちなみに、指定された部屋番号から、どうも僕達の部屋は三階にあるようだ。

 ということで、さっそくエレベーターに乗り込んで三階へ上がり。


「うーん、悪くないんじゃね」


「床もふかふかだし、悪くはないな」


「たしかに、こうなんていうか見た感じ豪華っていうの? 悪くないよな」


 気取ろうとしてうまく気取れていない友人達のコメントを聞きながらも、長い毛足の絨毯が敷き詰められた廊下を進んでいくと、


「おっ、ここじゃね。虎助、カギカギ」


 元春の声に急かされ、部屋の鍵を開けて中に入る。

 すると、雪がちらつく景色を奥に見る細長い部屋がお目見えして、


「思ったよりも広いな」


「俺、一番奥な」


「ズリー、そこは酔いやすい俺に譲るべきじゃね」


「ホテルの部屋でそれ関係ねぇじゃん。

 とりま、俺はテレビが見やすい真ん中でいいわ」


「待て待て、ここはじゃんけんだろ」


 『ベッドの使用権は平和的にじゃんけんによる解決を――』となったところで僕は勝負を辞退。

 誰も選ばないだろう入り口近くのベッドに荷物を置いて、この後の夕飯とお風呂の為、ジャージ一式を出して着替えていると、じゃんけん勝負に決着がついたみたいだ。

 三人がそれぞれ決まったベッドに背負っていた荷物ごとダイブ。


「じゃ、さっそくペイチャンネルでも見ようぜ」


「応っ――て言いたいところだけどよ。そういうのって普通できなくなってんじゃね」


「お前、諦めんなよ」


 いかにもな会話を始める三人を横目に、僕が部屋を出ようとしたところ、なぜか一瞬、熱血キャラになっていた元春が一気に普段のテンションに戻りつつも。


「虎助、どこ行くんだ」


「非常口の位置とかの確認をしておかないとって思って」


「真面目だねぇ」


 始めての場所に来たら、まず逃げ道を確保するのが基本である。

 それは当然、母さんの洗礼を受けている元春達も承知のことだが、僕が確認していればいいと思っているのだろう。すぐにテレビリモコンと格闘を再開させ。

 僕はそんな三人に苦笑を残して部屋を出ると、まだ確認してなかった廊下の奥へと進んでゆく。

 すると、角を曲がったところで非常口を示す緑の誘導灯を発見。

 その先の扉からちゃんと外に出られるようになっているのかを確認していると、


『ここにも設置するの?』


『設置するには下まで降りる必要がありそうですが』


 ここでコメントと共に流れるハニーボイスは玲さんのものである。

 それに続く気品のある声はユリス様に変わって万屋にやってきたマリィさんものであって、

 ちなみに、ここに来る途中にも中継機は、サービスエリアや観光地なんかの一角にさりげなく設置させてもらっていて、

 その設置もペタっとシールのように貼るだけなので、それほど手間はかからないのだが、魔力供給の観点から考えるのなら、木などの有機物に貼り付けるのがベストである。

 だから、今後のことも考えるのなら中継機を設置するなら一度外に出た方がいいだろうと。


「夕飯もすぐですし、また夜にでも抜け出しますから」


『夜に抜け出すとか、あんたが言うとまた違って聞こえるから不思議よね』


 否定はすまい。

 僕の場合、元春のそれとは違って、特にやましいことをする為ではないのだからと、そんな話をしながらも部屋に戻れば、ちょうど元春達が部屋を出ていくところで、


「どこ行くの?」


「女子の部屋」


「殺されたいの?」


「ちょっ、おま、なに物騒なこと言っちゃってんの」


 いや、君はそう言うけど、結果などわかりきったことだろうに――、

 ただ、それでも勇者達は止まらないようだ。

 元春はコメント欄にとめどなく流れる三点リーダーから逃げるようにエレベーターホールに足を向け、そこでクラスメイトと一緒の次郎君とエンカウント。


「おっ、次郎。

 お前も女子部屋か?」


「ラウンジですよ。

 みんなそっちに行っているようですから」


「ふむ、だったら俺等もそっちにするか」


 この元春の心変わりに他の二人から「「えっ?」」と意外そうな声が上がるも、元春からなにかしら耳打ちされると二人も納得の表情で、

 エレベーターの重量制限に引っかかりながらも、ラウンジがある二階まで降り。


「じゃあ、俺達は場所取りな。次郎、行こうぜ」


 成程、次郎君を餌に女子をつろうとする作戦ね。

 エレベーターから降りるなり、元春達はラウンジから見える景色に見とれてる暇も与えず、次郎君とそのお友達の背中を押すように女子達が集まる一角に歩き出す。

 そうして、数こそ少ないものの、そこかしこからねっとりとした視線とローズピンクの歓声が上がる中、


「あんまりはしゃいでるとご飯抜きになるかもだから、ほどほどにね」


「おうっ、本番の前に捕まっちまったら最悪だしな」


 はたして、僕の真意は伝わったのだろうか。

 いや、伝わってないだろうなと、元春達を見送ったところで、僕は一部残念ながら置いてけぼりをくらった、次郎君のクラスメイトと苦笑を交わし自販機コーナーへ。

 そこで仕入れたコーヒーを片手にラウンジの一角に陣取り、窓の外の壮大な雪景色を見ながらの談笑を楽しみ、そろそろ夕食の時間になったところで、煤けた状態になってしまった元春達を回収。

 食堂に足を運ぶと、そこには飛騨牛をメインとした数々の料理が並んでいて。


『昼間のひつまぶしといい、あんた達の学校はどうなってるのよ』


 バイキング形式のその夕食に玲さんからの愚痴が飛ぶのだが、


 そんなことを僕に言われても――、


 スキー用品のレンタルにもお金はかかると思うけど、それを含めてホテルにお金をかけているのではないかと、僕はベル君に玲さんの夕食を豪華にするようにお願い。

 本当に美味しかった夕食を十二分に堪能したところでお風呂タイムになるのだが、


『これが男湯の中――』


『虎助、映ってますの』


『と、これはすみません。見苦しいものをお見せしました』


 脱衣場に入ったところで玲さんとマリィさんからのコメントが入り、僕は二人に謝りつつも映像を切って着替えようとするのだが、ここで先にパンツ一枚になった元春が「ムンッ」と脱衣場の一角を占居して変なポーズを決めていて。


「どうよ」


「なんか凄えな」


「細マッチョ」


 元春もまかりなりにも母さんに鍛えられている為、脱いだらそれなりにいい体をしてるのだ。

 しかし、いつまでも脱衣場の真ん中でポーズを決められても邪魔なので、


「はいはい。自慢はその辺でお風呂に入るよ」


 素早く服を脱いだ僕が元春の肩をつかんでお風呂場に連れて行こうとするのだが、

 どうしてか元春が急に力が抜けたかのごとく四つん這いになってしまい。


「どうしたの?」


「安西先生バスケがしたいです」


「意味わからないよ」


 本当に意味がわからないと困惑する僕を前に元春達が叫ぶ。


「お前等、デカさが全てじゃないんだぜ」


「そうだ。デカさよりテクニック、これ重要」


 はぁ、そういうことね。

 でも、見た感じ、言うほど変わらないと思うけど。


 僕が変に絡んでくる元春達にどう反応していいものか困っていると、次郎君が騒ぎを聞きつけ応援に来てくれたみたいだ。


「どうしたんです?」


「いや、元春がね」


 と、僕が次郎君にも元春の説得を手伝ってもらおうとするのだが、

 そうするよりも先に元春がフッとシニカルに笑ったかと思いきや、すっくとその場から立ち上がり。


「あー、そうだな。行こうぜ。悪かったな」


「そうそう、重要なのはテクニックだぜ」


「酒井はそういうの凄そうだからな。頑張れよ」


 次郎君を励ましつつもお風呂場に向かって歩き出す。


「なんです。アレ」


「さあ」

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