●発見報告と精霊会議
◆志帆side
それは志帆とタバサが虎助の依頼で八百比丘尼の調査を始めて、一月ほど経ったある日のことだった。
夜遅くに訪れた人魚伝説が残る神社の境内を見回し、志帆が呟く。
「ここ当たりかも」
「ほ、本当ですか」
「いかにもなんかありそうに光の粒が、あの変な形のでっかい樹にまとわりついてるから」
そう言って、志帆が指差したのは一纏めにしめ縄が巻かれた三本の大きな杉の木だ。
「原始精霊が、ですか。
御神木、みたいですけど、どうすればいいんでしょう」
「どっかに入り口があるんじゃない?」
「見たところ、それらしきものは、ありませんけど」
怪しいといえば御神木だろうか、三本の杉が密集して植えられているところだが、その杉も大きく育つ過程で隙間が埋められてしまったようで、何処かから入れるような場所は見当たらない。
「ほら、前みたいどっかから地下に潜れるとかあるかもじゃない。調べるのよ」
「わかりました」
しかし、志帆からしてみるとそれが逆に怪しいと、タバサに探査魔法を使うように目配せ。
それにタバサが各種魔法を発動させるも。
「と、特に反応はありませんけど」
これといった反応を得ることは出来なかったが、今回の調査の為に作られたグラムサイトをかけていた志帆には、タバサとはまた違った光景が見えていたようだ。
「待って、もう一回、さっきのお願い」
「ですが、感知にはなにも――」
「いいから」
なかば怒鳴るような志帆の声に慌てて同じ魔法を繰り返すタバサ。
すると志帆が口元に「やっぱり」と笑みを作り、「どうしたん、です?」と言うタバサに自分がかけていたグラムサイトを投げ渡し。
「佐藤が魔法を使うとあの木にまとわりついてる原始精霊が揺らめくのよ。佐藤も自分でやってみて」
タバサが志帆の言われた通りにしたところ、御神木にまとわりつく原始精霊の一部が波紋のように揺らぐ様子をグラムサイト越しに確認でき。
「本当です。すごい発見です」
「さすが私」
「はい、さすが志帆さんです」
小さく手を叩くタバサ。
「じゃ、行くわよ」
「えっ、二人、だけでですか」
「私達が見つけたんだから当然じゃない」
「でも、どうやって」
「それは佐藤がどうにかするしかないでしょ。
とりあえず反応があるとこに魔力でも流してみれば」
ありがちなパターンであるが、そこに何かが隠されているのなら、魔力を流せば反応があるんじゃないかと、そんな志帆の安直な考えに、タバサも『一理ある』とビクつきながらも覚悟を決めて、その御神木の原始精霊が魔法陣を描くように動いている部分に魔力を流してみる。
すると――、
「あ、穴が――」
「ふふん、言ったとおりでしょ。ほら、行くわよ」
それはワームホールという表現が一番しっくりくるだろうか、巨木の幹に現れた光り輝く謎の横穴が現れ。
それに志帆が当然とばかりに胸を張り、呆然とするタバサの背中を押すように躊躇なくその穴の中に足を踏み入れる。
と、そこは薄ぼんやりとした虹色の光に包まれる不思議な空間で。
「通路っていうよりもゲームのワープゾーンみたいな感じね。
とにかく、ここにいてもしかたないから先に進むわよ」
「け、けど、これって、どっちに向かえばいいんでしょう」
「こういう時は風を確かめて――こっちよ」
人差し指を立てて、おもむろに歩き出す志帆。
そんな志帆にタバサは入ってきた穴を振り返りながらも、置いていかれないよう、必死にその背中を追いかけながら。
「あの、志帆さん。
本当にこっちで、大丈夫なんです?」
「あってるんじゃない。
原始精霊もいっぱいいるし」
思わぬ返事に思わず『ええと風は?』と思うタバサであったが、特に文句を言うわけでもなく、歩くこと数分――、
唐突に視界が開け、二人の目に飛び込んできたのはこの空間に入る前に見た神社の境内だった。
「これって戻ってきちゃった?」
「えとえと、そうじゃないみたいです」
と、タバサの声に志帆が振り返ると、そこにはここに来るのに入ったゲーミングカラーの穴があり、周囲をよくよく見渡せば、その境内は霧のように漂う原始精霊達に囲まれていて。
「とりあえず、ここが終着みたいね」
「お、おそらくは――」
「それで、ここからどこを探せば――ってのは考えるまでもなさそうね」
「そうですね」
と、二人が視線を向けるのは眼の前の本殿だ。
なにか隠すとしたらここくらいしかないと、躊躇うことなく足を踏み出す志帆に、タバサはへっぴり腰でついていき。
「開けちゃうんですか」
「ここまで来て確かめない選択肢なんて無いでしょ」
志帆がゆっくりと開けた扉の先にあったものは、巨大な水球――、そして、その水球に包まれた白装束の女性の姿だった。
「これは完璧に当たりを引いたわね。
佐藤、すぐに虎助に連絡」
「は、はい。わかりました」
◆虎助side
『ってことで、それっぽい人を見つけたんだけど、どうすればいい?』
「ちょっと待って、いまソニアに連絡するから」
八百比丘尼らしき女性が発見されたという報告がもたらされた時、虎助は自宅に居た。
虎助は志帆から送られてきた映像に驚きながらも、すぐにソニアに連絡。
すると、ソニアはすぐに精霊達にも意見がもらいたいと、ディーネやマールがいる世界樹農園の方に集まることになったようで、
虎助は素早く身支度を終え、当然のように騒ぎに気付いたイズナと共にアヴァロン=エラへ。
駆け足で世界樹農園に向かうと、そこではすでに現場の検証が始まっており。
「これ、本人の存在がかなり曖昧になってるんじゃない」
『魔力のオーバーフロー現象に似てる状態かな』
「溢れた魔力を地脈に逃している感じかしら」
『で、それ以外にもこの変な空間の形成にもその力を回してるって感じかな』
ちなみに、現地にいる志帆はすっかり休憩モードで、状況説明やカメラの移動などはすべてタバサがこなしているようだ。
ただ、この対策本部(?)にイズナが到着したことで、志帆も渋々ながら動き出し、さらなる検討が進められていくのだが。
「これ、僕って来る必要あった?」
「見るだけっていうのも重要よ。
ここで見たことが後で役に立つってこともあるから」
そんなイズナの指摘に『それもそうか』と虎助は納得。
ちなみに、見つかった八百比丘尼らしき女性の状況は思っていたよりも危険な状態だったようで、ソニアによると、そのまま放置していたら消えてしまっていたかもしれないとのことだった。
「それで助けられるの?」
『方法はいくつかあるんだけど、彼女が何を望んでいるかにもよるね』
曰く、この水球に閉じ込められる彼女を助ける方法はいくつか考えられるのだが、問題はその結果。
二人がなんらかの契約の下に合体していた場合、解除後にその反動があるかもしれず、そもそも彼女が復活を望んでいないという可能性もあるという。
「そういうのって事前に調べられないの?」
『できる範囲では調べるけど、全部の情報が得られるかはわからないから』
例えば、鑑定魔法もまったく知らないことであれば結果にでないこともある。
そして、本人達がいまの自分達をどう思っているのかなど、意識がなければ確認することが難しく。
『本人と話せたりすればいいんだけど、こっちから呼びかけても反応はないんだよね?』
『え、わ、私ですきゃ』
ソニアとしてはちょっと確認してもらいたいだけであったのだが、これにタバサが過剰反応。
しかし、ここで志帆が助け舟。
大胆にも肩を揺すって起こそうと水球の中に手を突っ込むのだが、そもそも彼女に触れることが出来ないようで。
『全然ダメ、そもそも触れないし。
で、どうすんの?
いつまでもここにいるわけにはいかないわよ』
『とりあえず、渡しておいたスカラベをそこに放って撤収しちゃって』
場所がとある有名神社の御神木の中の結界ということで、ずっとここにいるわけにはいかないという志帆の声に、ソニアは監視の目だけをおいて撤収を指示。
『ありがとう。また、頼むかもしれないけど、その時はよろしくね』
『はいはい、わかったわよ』
結局、見つかったのはいいものの継続調査の必要があるということで、ソニアと精霊の二人を除く四人はここで解散となるのだった。
◆今回、前半パートでタバサのどもりが少ないのは仕様です。




