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●人形の調査結果

 時刻は二十三時を少し回ったところ、

 とある山中に存在する工房の一室に三人の魔女が集まっていた。


 その顔ぶれは極東支部の工房長である望月静流とその補佐を担う小練杏と計良未来の二人。

 そんな三人がついていないテーブルの一面には大きな魔法窓(ウィンドウ)が一つ浮かんでおり、そこには横たわる女性を映し出されていた。


『――取り出したデータを見る限り、大体そんな感じかな』


 横たわる女性を映す魔法窓(ウィンドウ)から聴こえてくるのは幼さが残る少女の声――、

 万屋のオーナーであるソニアの声だ。


「つまり、この人形は何者かの残留思念を元に作り上げられた人口幽霊を宿した存在ということでしょうか」


『正確にはその試作品かな。

 この人形作りで何かしらの問題点が出たから、八百比丘尼なんかの研究に手を出したってことになるんだと思うんだけど』


「そうなりますと追跡調査が必要になりますか」


『その辺の判断は君らに任せるよ。この人形からデータが取れたのも君達の協力があってこそだし』


 この人形は、魔女達に伝わる情報から志帆とタバサが捜索、見つけたものである。

 その情報源は魔女からのものであって、ソニアを始めとした万屋の面々はその手伝いをしただけなのだ。


『そんな感じでこっちからの報告は以上かな。

 それで彼女はどうしたらいい?』


「どうするとおっしゃいますと?」


『そのまま直しちゃうか、それとも別のなにかに使うかってこと』


 すでにデータは抜き取り、この人形を調べる目的は達成されたものの、ものはいいのだから利用しないのはもったいない。

 ソニアからの提案に静流は少し不安そうな表情を浮かべながらも。


「危険はないのですか?」


『う~ん、こればっかりは実際に動かしてみないとってトコもあるんだけど、人形そのものに以前の人格(・・)が残ってるとかじゃないみたいだから平気なんじゃないかな。

 ものはいいから人形に仕立て直してって手もあるけど』


「我々からしてみると、そちらの方が使い出はありますね」


「ネクロマンサーは殆どいませんからねぇ」


 死霊使いというのは、その才能の希少さ、魔法の対象になるものの入手難度から、魔女の中でもその数は少なく。


『ただ、この子の場合、ある程度、魔法の素養さえあれば動かせると思うけど』


「そうなのですか?」


『そっちに送ったデータにもあると思うんだけど、素体の仕組みはほとんど人形のそれだし、中身の方も誰かさんの記憶(・・)を元に完全な自立タイプとして設計したみたいだから、彼女を作った錬金術師もそういう術の適正がなかったんじゃないかな』


 だから、逆に純粋な人形にしてしまうのも難しくはなく。


「二人はどう思います」


「私には判断つきかねます」


 杏はどちらかというと腕っぷしや実務能力を買われ、静流の補佐をしており、制作方面にはそれほど詳しくはなかった。

 だから、ソニアが送ってきてくれたデータの半分も理解できないというのが本音であって、

 かたや、未来は人形の操り手として意見できなくはないのだが、


「こういうのは個人的な趣味もありますし」


「たしかに人形と操者には相性がありますか。

 この件は後ほど誰が扱うかも含めて、話し合いが必要になりそうですね」


「そうですねぇ。あの館の管理自体が支部に移っていますから、人形の行き先の話し合いもしないとですし」


『わかった。

 とりあえずどう転んでもいいように直しだけしておくよ』


 合同管理になるのか、誰かが代表して使うのか、それは今後の話し合いだということで一旦保留。


「ちなみに、それを人形に仕立て直すとして、どのようなことが出来るのでしょうか」


『素体の強化や改造、魔導器の拡張に強化外装、他の人形と同じことなら大体できるかな』


 その分、お金が必要になるのだが、


「成程、そういうことでしたら、ハイエストなどへの牽制を考えて、可能な限り強化しておきたいということもありますね。

 ただ、そうなるとこちらの支部で使うというよりも、アメリカに送った方がいいかもしれませんか」


 静流はそこで言葉を切って、追加の魔法窓(ウィンドウ)を自分の目の前に展開。


「情報交換も兼ねてワルプルギスに議題を上げておきましょう。

 最近は魔法窓(ウィンドウ)のおかげで簡単に開けるようになりましたから」


 ワルプルギスというのは世界各地域の支部長が一同に介した定例会議のようなものである。

 以前は他勢力への秘密漏洩を警戒して、わざわざ集まったりしていたのだが、最近は魔法窓(ウィンドウ)由来の独自のネットワークを使えるようになったことで頻繁に行えるようになっていた。


 と、各所に連絡を送る静流を見て、ソニアが『そういえば』とばかりに訊ねるのは、


『そうそうハイエストっていえば、アメリカとの交渉はどうなったの?』


「つい先日、相談した件で動いてくれたみたいですね。

 パワースポットの話がいい餌になりました」


『引き渡しはいつになりそう?』


「土地の件の法的な処置がしっかりしてからになりますので、年を明けてになるのではないかと」


 念の為にと杏と未来の確認を取りながらも静流がそう応え。


『だったら、その前に杖を使った起動実験してみるのもいいんじゃない。

 そのついでに、土地の精霊とでもコンタクトが取れれば、いざという時にやりやすいと思うんだけど』


「ハイエストに狙われないですかねぇ」


『ちゃんと設計通りにできてれば、ちょっとやそっとのことじゃ気付かれないと思うんだけど』


 ただ、相手側に感知能力に優れた人材がいた場合、知られてしまう可能性も極小ながらもありはして、


『だったら、何かそれ用に魔導器でも作ろうか、例の錬金術の館で使われていた認識をごまかすような結界を作る魔導器とか』


「それも要相談ですね」


 静流としては悪い手ではないと思うが、実際に作業を行うのは北米支部の魔女になる。

 故に彼女達の了解がなければ決めるものも決められないと、この件もまた後でということになって、


『あと、もし人形にするなら、この核はどうする』


 続くソニアの問いかけに三人が魔法窓(ウィンドウ)を見ると、そこに小指の先ほどのクリスタルが映し出されており。


「それも引き取り手が決まってからですかね。研究資料として欲しがるところが出てきそうですから」


『中に入ってたデータは全部取り出したけど』


 核そのものの組成から使われた魔法を抜き取れば、それはただの素材でしかない。


「素材としてはどれくらいのものになりますか」


『地球に限っていうのなら貴重なものだとは思うけど、ウチならもっといい素材を用意できるから』


 魔素の薄い地球ならそれは希少な素材である。

 しかし、万屋との取り引きある魔女達なら、決して手に入れられないものではなく。


『そっちの話し合いによっては、また元の人形に戻すかもだし、とりあえずこっちで保管しておく?』


「それでお願いします」


   ◆


 そんな話し合いから翌日、ソニアはさっそく人形作りに勤しんでいた。

 そこに帰宅した虎助がやって来て。


「人形の処理はそんな感じに決まったから」


「そうなんだ。

 けど、話を聞くに、その人形を作り直すのは注文が決まってからじゃないの?」


「素体の強化は必要だから、それに元の素材を使った方がいいと思うんだよね」


 それは虎助にもなんとなく理解できるのだが、


「見事に分解したっていうか、完全にバラバラ状態になってるけど、これはどういうこと?」


「これは人形を動かす腱が劣化してるから、その修理だね」


「けど、この関節、もう原型止めてないんじゃあ」


 虎助が指差す関節部には球体の部品が挟まっていて、

 仕組みが違えばそれは別物なのではという虎助の指摘に、ソニアの主張は以下の様なものだった。


「後のメンテナンスを考えるとこっちの方がいいと思って」


「けど、全身関節を取っ替えるとなると、それだけお金がかかっちゃうんじゃない?」


「それは大丈夫。

 この前、ロベルトが迷惑料って置いてってくれたのがあるから」


 それは先日、ロベルトの研究所がある森に攻め込んできた聖騎士団が装備していた鎧。

 ロベルト達としては魔法金属化した部分だけが必要で、他は鎧のお礼や戦いのサポートに回ってくれた虎助達への報酬と置いていってくれたのだ。

 ちなみに、その鎧については、階級などによって鎧の素材に差があるようで、銀やプラチナ、アルミニウムなどの金属があるらしく。


「マニュアルで動かすことを考えるなら銀が無難かな」


「ミスリルにするの?」


「魔力の通りがよくなるからね。ただ関節部は摩耗性能も上げたいから、銅もちょっと混ぜるけど」


 そう言いながらもソニアは工房のエレインに注文を送り、持ってきてもらった金属部品を組み立てていく。


 と、その様子を静かに見ていた虎助がポツリと零した感想は、


「なんていうかフィギアフレームみたいだね」


「フィギアフレーム?」


「フィギアを作る時に使う芯材みたいなものかな。ほら、前に用意したデッサン人形をさらに細く感じの」


 ちなみに、虎助がどうしてそんなマニアックな知識を持っているのかというと、かつて元春が自作のフィギアを作ろうとしたことがあったからだ。

 まあ、元春には造形の才能はなかったようで、フィギュア作りは細かい作業が好きな友人に丸投げされることになるのだが……。


「へぇ、参考になるかもだから買ってみようかな」


「いいんじゃない。注文しておく?」


「お願い」


 ソニアのリクエストにネット通販のページを開き、幾つかそれらしき商品をカートに入れる虎助。

 一方、ソニアは巨大なフィギアフレームがしっかり動くかを魔法で確認し。


「後は実際にオーダーが届いてからかな」

◆次回投稿は水曜日の予定です。

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