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●世界樹の共振実験

◆新章開幕です。

◆万屋side


 地下に降りるとそこは夕焼けの森の景色に埋め尽くされていた。


「探索はどんな感じ?」


「九割九分九厘終わったかな」


「残りはやっぱりあの家?」


「うん、ボクとしては、こここそ調べたいところなんだけど、

 向こうに行く手立てがない以上、このリスレムを失うわけにはいかないから、

 とりあえず、こっちは体制が整うまでこのままで、先に安全な転移を確保するのを優先かな」


「じゃあ、そろそろおニ柱(ふたり)に声をかけておいた方がいい?」


「そうだね」


「わかった。

 ニュクス様には前々からお願いしてあるからいいとして、ディーネさんのお礼はどうしよっか」


「例の果実酒がそろそろ飲み頃なんじゃない。ディーネにはあれを渡しておけばいいでしょ」


「あれか、けど大丈夫? あれ渡しちゃって」


「ベリーの効果のこと? いたずらを仕掛けた精霊そのものだから平気でしょ」


「それもそうか」


「じゃ、そういうことで頼むね」


「了解」



◆夜の森side


「いきますよ」


『あーい』


 光が差し込む花畑の中央、

 天井の穴を突きつけ伸びる世界樹を前に浮かぶ絶世の美女は夜の大精霊ニュクス。

 そんなニュクスの通信越しの声に応える、一見すると儚げな美女はアヴァロン=エラに拠点を間借りしている水の大精霊ディーネである。


 さて、大精霊が二柱(ふたり)、通信越しとはいえ顔を突き合わせて何をしようとしているのかといえば、両者の目の前にそびえ立つ大樹、世界樹同士をつなげる実験だ。


 これは数ヶ月前、不発に終わった異世界転移実験の一環で、

 いや、それよりも以前から進められていたソニアの研究に大きな意味を持つ実験であって、

 だからこそというべきか。


「ディーネ。

 貴女、もっとしゃんとしなさいな」


『こういうことは力を抜いた方がいいと思うのだけれど』


 気合を入れるニュクスに気を抜き過ぎなディーネ。

 多分、この両者の中間がちょうどいいんじゃないかと虎助は苦笑を浮かべるが、

 なんにしても、ディーネにちゃんとしてもらわなければどうにもならないと実験の成功はありえないと、虎助が背後に控える中位精霊のマールに声をかけたところ。

 マールはだるんと自前で用意した水の椅子に溶けるように座っていたディーネになにやら耳打ち。


『むぅ、仕方ありませんね』


 すると、ディーネがいかにも気怠いそぶりで立ち上がり。


「まったく、アタナはそもそもですね」


 ニュクスの愚痴にディーネが文句と、また場の空気がグダグダになりかけたタイミングで、


『さて、そろそろ実験を始めようか』


 ソニアの声がするりと両者の間に滑り込み。


『ほら、ニュクスちゃん。怒られた』


「貴女は――」


 ディーネの誂うような物言いに、また二柱の間に言い争いになりそうな雰囲気ができてしまったが、ここは自分が――とニュクスがぐっと堪え。


「準備は整いました。ソニアさん」


『こっちも準備できてますよぉ』


 静かに目を閉じ集中――、

 ソニアの合図で原始精霊を生み出し、世界樹を基軸として、別の世界の世界樹がある場所へと送り込む。


 これは世界樹の持つ、循環の力と世界を繋げる力を利用した特殊な魔法を発動させる為の実験だ。

 それに精霊が持つ循環の力を同調させて魔法の強化を図る。


 大精霊と呼ばれる二柱がソニアが考案した小さな電波塔(ゲート)()ような魔導器(子機)、そして転移の魔法式を通し、世界樹に魔力を注ぎ始めら数秒――、

 世界樹周辺の地面から、それぞれ黒と青の魔力が滲み出し、


「これはディーネ様の力?」


『こちらはニュクス様の影響ですね』


 ニュクスの周囲に浮かぶ魔法窓(ウィンドウ)の幾枚かが、上を見上げるようなアングルになり、そこに広がる星空のような光景を映し出していた。


 それは夜の精霊が作り出すプラネタリウム。

 夜の力と世界樹が織りなす、その幻想的な光景に見学者である妖精などから「おお――」という歓声が上がり。


『じゃあ、次の段階に進もうか』


『そだね』


「貴女がいいますか」


『まーまー、落ち着いて』


 もうこれは毎度のことなのか、ニュクスとディーネのやり取りに、ソニアの取り成しが入ったところで、ニュクスがちょうど目の前に飛んできた黒く小さな闇の原始精霊を捕まえ、木の実を一粒手渡すと、その手の平の中に包み込み、魔力を込めると世界樹の前に用意された魔導器の中へとそっと放し。

 一方、アヴァロン=エラでは、ディーネがちょうど足元でじゃれついていた水の原始精霊をつまみ上げると、同じく木の実を渡し、襟首をつまむ指からその原子精霊に魔力を流しながら、ゲートと同期する電波塔のような魔導器の中へとポトンと落とし、バイバイと手を振って見送る。


 すると、それが合図だったかのように両方の世界に設置された大小の電波塔のような魔導器が同調するように輝きを増していき。


「――っ、来ました。

 精霊の転移、確認しました」


『こちらも多分、この子がそうかと』


 夜と水、二人の原始精霊の位置が入れ替わり。

 リィリィと虎助、それぞれが白い魔素の光と共に世界樹前に設置された魔導器の内部に現れた原始精霊を転移の反応がしっかり収まるのを待って確保。


『物は?』


「持っています」


『こっちも持ってます』


 それぞれの原始精霊がニュクスとディーネから預かった木の実を持っているかを確認すると。


二柱(ふたり)とも、なにか疲れたとか、存在が薄くなったとか、そういうことはないかな?』


「いまのところこれといった影響はないと思われます」


『とりあえず実験は成功?』


 続くソニアの問いかけに、ニュクスとディーネ、それぞれが自分の体を見下ろし、特に問題ないと回答。


『後はこの子達の追跡調査だけど、そっちはグラムサイトはいらないんだよね』


「例の水晶を使った眼鏡ですね」


「……かっこいい」


『もしかしてマオ欲しいの』


「……ん、できれば」


『だったら準備をしておくよ。デザインは虎助と選んでくれればいいから』


「……わかった」


 マオのおねだりにソニアが応えたところで、ディーネから『いいな。いいな』という声が聞こえてきて、


「貴女には必要ないでしょうに」


『その眼鏡はね。

 けど、あの水晶でグラスとか作って例のお酒が飲めたら素敵じゃない』


「貴女はまた――」


『まあまあ、それくらいすぐ作るから』


『ソニアちゃん、ありがとぉ』


 ディーネのあまりにもあんまりさに、ニュクスが頭を抱えるも、ソニアからしてみるとそれは報酬の範囲内。


「それで例のお酒というのは?」


『前にいただいたフェアリーベリーを果実酒にしたんです』


 虎助のこの発言にニュクスの動きがピタリと止まる。


『あ、ニュクスちゃん。もしかして飲みたいの」


「誰が――」


『本当に?』


「本当です」


 ニュクスはこう言うが、先の反応から気にしているが見て取れる。

 だからと、ここで虎助が、


『お譲りしますよ。もともといただいたものですから』


『ありがたく飲んでよね』


「貴女はなにもしていないでしょうに」

◆次回は水曜日に投稿予定です。

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