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ミイラ発見?

 猿の手――、

 それは持ち主の願いを三つ叶える代償に災いが降りかかるという呪いのアイテムだ。


 さて、僕がどうしてこんなことを調べているのかというと、それは錬金術師の館にあった資料を元に、八百比丘尼の調査をしていた義姉さんが、ミイラになった手を見つけてきたからである。

 しかも、その手を鑑定した結果が『生きたミイラ』となれば、いろいろと想像ができるわけで、


「生きたミイラって、アンデッドってこと」


 カウンター横のソファーにボスッと座り、聞いてくるのは義姉さんだ。


「つか、バラバラになっても生きてるって、お肉ちゃんなのか、お肉ちゃんなのかよ」


 そして、ギリギリの発言をするのは元春である。

 ただ、ミイラになっていることは別として、生きた状態でバラバラというのなら、


「僕の空切でも同じようなことができるけど」


「いやいや、空切みてーな武器なんてそうそうあるもんじゃねーだろ」


 たしかに元春が言うように、僕の空切はあのソニアをもってしても、同じものを二つと作るのはほぼ不可能と言わしめるような代物だ。


「ただ、別にそういう方法じゃなくても、欠損した部位を生きたままで保存する方法なんていくらでもあると思うんだけど」


「そうですわね。一番簡単なのは凍らせることですが、今回のこれは――」


「……呪い」


 見た目の印象と鑑定の内容からして、魔王様が口にした可能性が一番高く。


「その辺もあわせてソニアに調べてもらうから、義姉さん、支払いの方はその後でいい」


「別にいいけど、あんまお金があっても意味がないのよね」


「うわっ、ブルジョワ発言」


 義姉さんの呟きにオーバーに驚いてみせる元春。

 しかし、義姉さんがこれまでに発見してきたものの換金結果を合計すると、お金に困っていないというのは嘘ではなく。


「お金じゃなくて他になにか欲しい物があったら、金額に応じてって事もできるけど」


 この提案に義姉さんは、頭の後ろで手を組み、万屋の天井を見上げ。


「だったら服とか――、

 あと、あっちのそにあ(・・・)の貸出とかできたりする?」


「服は大丈夫だけど、そにあ(・・・)を貸して欲しいっていうのは?」


「前にアンタの奢りでご飯の約束したでしょ。鈴と巡をこっちに連れてきて欲しいの」


 ああ、前に義姉さんに調べてもらった錬金術師の館でした約束ね。

 ただ、その理由で――なくとも――そにあ(・・・)を貸し出すのは難しく。

 ならばと代わりに、母さんが持ってる飛空艇とかで迎えに行くのはどうかと訊ねてみると、義姉さんは『それだったら上の二人が冬休みに入るのに合わせてお願い――』と妥協してくれたのだろうか。


「しっかし服のリクエストって、志帆姉も女子だったんだな」


 元春がそう言うのが早いか、義姉さんの鉄拳がゴチッと元春の坊主頭に落とされ。


「仕事で服なんかよく破れたりするからそれ用よ。ここならそういうのあるでしょ」


「なんだ、そういうことか――、

 って、それ、殴られ損じゃん?」


 いや、叩かれたのは元春が余計なことを言うから悪いんじゃないかな。


「それでどういう服がいいの?」


「動きそうなヤツ。

 ただ、幾つか作って鈴や巡、ひよりちゃん――と玲にもあげたいから、みんなが似合いそうなヤツね」


 また難しい注文を――、

 というか、さりげなくひよりちゃんや玲さんの注文まで入れてくるところが義姉さんらしい。


「わ、わたしもいいの」


「玲には鈴と巡のレベル上げに付き合ってもらう予定だから、遠慮しなくてもいいわ」


「そ、そう、それじゃあ、ありがたくもらっておく」


 と、これは余計なことを言えない雰囲気か。

 一見するとそっけなくも見える義姉さんの態度に玲さんは照れたように頬をかき。


「ホント、志帆姉って女子に甘いよな」


 特に後輩からの人気が高いのが義姉さんだ。


「元春、ワケわかんないこと言ってるとすり潰すわよ」


「イエスマイマジョリティ」


 また元春がまた余計なことを言って、おしおきされそうになったところで、


「なんにしても見本になるデザインが欲しいかな」


「だったら、俺、俺、俺に任せて、こういうの得意だから」


 ハイハイと張り切って手を挙げる元春に、『あんた、またなんか変なことたくらんでるでしょ』と言わんばかりのジト目をする玲さん。

 しかし、ここで何か思い出したことでもあるのか、ピコンと頭上にエクスクラメーションマークを浮かべ。


「こういうの得意ってあんた、

 先週の日曜とか、ガイアが囁いてんじゃないかって感じだったじゃん」


「い――やいやいやいやって、先週俺ってどんな服きてたん?」


 そんなこと急に聞かれても――、

 先週っていうと、なんていうのかカリスマ美容師が田んぼに突っ込んだって感じの格好だったかな?

 僕が『たぶん玲さんが言ってるのはあの服だよな』と先週の記憶を掘り起こす一方、


「と、とにかくこれを見てくれたらわかるっすから」


 もともとアテがあったのか、元春が見せてきた画像は、チャイナドレスと競泳水着を合わせたような服だった。


「どこの痴女よ」


「破廉恥ですの」


 無言で拳を振り下ろす義姉さんに、玲さんのレーザー、そしてマリィさんの火弾が、元春をボロ雑巾のようにしたところで、義姉さんの手元に魔法窓(ウィンドウ)がポップアップ。

 こういうのは――と義姉さんが見せてくれたデザインは、フリーハンドで描かれているのか、少女漫画が好きな小学生の女の子が描いた警察官のような絵で、


「悪くはねーけど地味じゃね。

 つか、志帆姉、この絵はねーわ」


「なに、鈴の絵に文句があるっての?」


「へ、それ鈴さんが描いたんすか」


 どうやら義姉さんはこの話があってすぐ、鈴さん達と連絡を取っていたようだ。

 見せられたデザインは鈴さんから送られてきたものだったらしく。

 元春が妙に焦っているのは、鈴さんがこういう時、意外と落ち込む質だったりするからで、


 これは後でしっかり謝っておかないと大変だぞ。


 僕が現在ここにはいない鈴さんの落ち込み具合を想像していると、今度は僕の手元に魔法窓(ウィンドウ)がポップアップ。


「ソニアっちから?」


「鑑定の結果が出たみたい」


「なんだったの?」


 義姉さんも気になっていたのか、僕の手元を覗き込み。


「キメラの一種ねぇ」


「キメラって日本にもいんのかよ」


「ソニアは鵺とかそういう妖怪のミイラじゃないかって睨んでるみたい」


 鵺というのは日本版のキメラのような妖怪だ。


「けど、鵺の体って虎じゃなかったっけか」


 さすがは元春だ。鵺と聞いてすぐにその姿を思い浮かべたようだが、ただ、それはテンプレートな組み合わせらしく。

 一方、ソニアが添付してくれた資料によると、鵺は物語によって手足が狸とか微妙なチョイスもあるようで、別に腕が猿の鵺がいたとしても、おかしくないんじゃないかというのが、今回の結論のようなのだが、


「それでそのミイラはなんで生きてるの?」


「えと、キメラっていうのは再生力とか、そういうのに特化しているらしいので」


 僕も専門家ではないので詳しくは説明できないが、キメラ系の魔獣などは、その成り立ちからして再生力が強い個体が多いそうで、切り離された腕が数百年経った後も生きていることがあってもおかしくはないのではないかとのことらしく。


「で、それは服とかと釣り合いになりそうなの?」


「使う素材なんかのランクによるけど、十分その代わりになると思うよ」


 謎のミイラの報酬がおおよそ確定ところで、


「こういうのはどうっすか」


 まったくいつの間に用意したのか、元春が見せてきたのは某女怪盗から首なし妖精様ご愛用の黒のライダースーツ。


「ばっかじゃないの」


「いやいや、万屋で(ここ)革が余ってるらしいし、魔獣の革つかえば防御力も高くなるっしょ」


 たしかに、元春が言うように魔獣の革の在庫は大量にありはするんだけど、それならそれで、


「普通にレザージャケットとかスタジャンとかでいいんじゃない」


 これだと作るのは上だけになっちゃうけど、パンツの方はミストさん達に頼めば、かなり性能がいいものが作れるからと、そう提案してみると。


「レザージャケットはわかるけど、スタジャンってなんだっけ?」


「たしか、横須賀の――」


「そっちじゃなくてスタジアムジャンパーの方」


 スタジャンとはスタジアムジャンパーの略で、海外ではヴァーシティジャケットやレターマンジャケットなどと呼ばれ、もともと野球選手などが休憩中に体を――特に肩を――冷やさないようにと、袖から先が革で作られたジャンバーのことで、

 スカジャンというのは第二次世界大戦後、横須賀の米軍基地のアメリカ兵がお土産として、鷲や虎、龍などのオリエンタル柄や、自分が所属していた部隊などのエムブレムを周辺の仕立て屋に注文したのが始まりらしい。


 と、僕が元春から得も言われぬ視線を向ける中――、

 義姉さんが僕が見本に浮かべたスタジャンを見て、


「いいんじゃない。これなら普段使いもできそうだし」


 これで決定かと思いきや、ここで元春が「だったらせめてパンツだけでも――」とまた誤解を生みそうな事を言って制裁を受け。


「とりあえず、簡単にどんなのがいいのかを考えてくれるとありがたいかな」


「わかった鈴と巡にも相談してみる」

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