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ディストピアの拡張パーツ

 その日、僕達はアビーさんとサイネリアさんが暮らすトレーラーハウスの前に集められていた。


 さて、どうして僕達がこうして集められているのかといえば、

 以前よりお二人が作っていた暴食の魔導書を使った、特殊なディストピアが完成したからだ。

 ただ、いま僕達の目の前にあるのは、すっかり見慣れた骨が絡みついた剣で、


「これってスケルトンアデプトのディストピアですよね」


「虎助君の言う通り、これはスケルトンアデプトのディストピアだね」


「だけど、ここに僕達が発明した拡張パーツをつけると――」


 どうやらそれは、魔導書を持ち替えさせることでいろいろな魔法を使うスケルトンアデプトを作り出し、戦うことができるようになる魔導器(マジックアイテム)だったみたいだ。


「それで実績獲得に影響があるんですか」


「それがわからないから、みんなに集まってもらったのさ」


「私達も装備をガチガチに固めてなんとか勝ったんだけど、獲得できた権能がちょっと判断に困るものでね。二つ目の権能獲得は難しいからってみんなを呼んでみたんだよ」


「それに、アレと何回も戦うのはね」


「そんなに大変な相手だったんですか」


 二人とも研究者とはいえ、かなりの実力の持ち主だ。

 そんな二人がジガードさんを伴い、万屋の装備やアイテムをふんだんに使って苦戦したってことは、相手は相当強いのではないかと訊ねたところ。


「普通のアデプトでもかなり強いのに、魔導書の分、パワーアップしているから厄介なんだ」


 魔導書に使った魔法生物などの素材の力が、そのままスケルトンアデプトに反映されているようで、

 護衛に入ったジガードさんも、相手の属性、サイネリアさんの動きによっては意外とあっさりやられてしまったらしく。

 ここにアイルさんとスタバーさんがいればまた違ったのだと思うのだが、二人はすでに里に戻ってしまった後なので、


「君達にも手伝ってもらおうってことなのさ」


 成程、そういうことなら仕方がないか。


「頑張れよ」


 僕は元春に言われるまでもなく、まずは一人で挑戦しようと考えていたんだけど。

 ここでマリィさんが『どうせチャレンジするなら自分も――』と名乗りをあげたので、

 僕は安全確認が必要だとマリィさんを説得。

 一人で新開発の魔導書がセットされたスケルトンアデプトのディストピアに入場する。


 と、降り立ったの場所は左右を崖で囲まれた深い谷間にある廃寺院、

 ノーマルなスケルトンアデプトとの戦いの場がコロッセオのような場所だったことを考えると、これは追加パーツである魔導書の影響が強く出ているってことかな。


 油断なく今回のバトルフィールドを見回し、ずっと視界に捉えていたディストピアの主を注視する。

 それは廃寺院の前の広間に浮かぶボロ布をまとったスケルトン。

 その手には紫電を纏う本が開いた状態で乗っかっていて。


 あれがサイネリアさん達が作った魔導書が効果を発揮している状態ってことかな。

 表紙の色で判断できるようになっているらしいけど、今回は確認するまでもなく雷の魔導書のようだ。


 しかし、これはハズレを引いたかもな。


 聞くところによると、この追加パーツで出現するアデプトは、基本の四大の魔導書を持つものに加え、光に闇、そして雷に氷という属性を持つものになるのだそうだ。

 その中でも今回引いた雷の魔導書は厄介なようで――、


 いつまでも眺めていても仕方ないか。


 僕は相手の殺傷範囲(キルレンジ)を測るように、ゆっくりと近づきながらアクアとオニキスを召喚。

 アクアに水膜の展開を頼み、オニキスには僕の影に潜んでもらう。


 ちなみに、今回の戦いに精魔接続は使わない。

 このディストピアがアヴァロン=エラ内にあるということで、魔力の供給をメインとした精魔接続はあまり必要がなく、むしろ離れられないことがデメリットとなってしまうのだ。


 まあ、精魔接合することで、僕自身が水と闇の魔法を上手く使えるようになるというメリットもあるのだが、それならアクアとオニキスに使ってもらった方がむしろ威力が高いと――、

 先手必勝、一点強化した脚力で殺傷圏外から一足飛びに懐に潜り込もうとするのだが、あと一歩でナイフの刃が相手に届く距離まで近づいたところで視界が白で埋め尽くされる。


 どうやら落雷の直撃を受けてしまったみたいだ。

 光に遅れてやってきた轟音に、僕がそんな判断をした時にはもうアクアがカードに戻っていた。

 僕が一撃でやられないようにと無理をさせてしまったらしい。


 ただ、これはアクアがやられたとか、そういうことではなく、アクアが僕を守ろうと補給された僕の魔力をすべて使ってしまった結果であって、

 空中でキャッチしたカードに魔力を充填、再召喚をすればアクアはすぐに現場復帰となるのだが、敵はそんな時間も待ってはくれないようだ。


 向こうも初撃が防がれたのを確認すると、すぐに次の攻撃に打って出る。

 さすがはスケルトンアデプトだ。自我がないことも相まって判断が早い。

 バチバチと迸る雷を格闘ゲームの飛び道具のように飛ばしてくるアデプトの攻撃に、僕は誘引の魔法と身のこなしでそのダメージを最小限に抑え、そのままディロックなどで反撃といきたいところだが、今回の目的は実績の獲得だ。

 そうなると、あまりそればっかりにも頼っていられないから、『ある程度はダメージ覚悟で――』と特殊なカプセルの中に入れた回復薬を口の中に放り込みつつ、オニキスに防御のサポートをしてくれと念話通信でメッセージを飛ばし。


 スケルトンアデプトのふところに飛び込んだ瞬間、轟音と共に落とされた雷が僕を直撃。

 しかし、さすがに二度目ともなれば対策を立てられる。

 具体的には大きな素材などをまとめる時に便利な|魔鉄鋼〈ミリオン〉製のワイヤーをアース代わりに影に沈め、電流を地面に受け流すのだ。

 これならサポートそしてくれるオニキスにはダメージがいかないし、

 まあ、電流が流れるので完全にノーダメージとはいかないが、

 あまりに酷くなれば口に放り込んだカプセルを噛み砕けばいいと、マジックバッグから取り出した大振りの解体用ナイフを振り抜き、リッチのようにボロ布を纏ったアデプトの体を切り裂くも、

 真っ二つになった骨の体が白く実体を失う。


 これは幻術?


 一瞬の思考で可能性を考えるも、それを全身に奔った衝撃がかき消す。

 どうやら僕が斬ったのは雷で作られた分身体だったらしい。

 体に走った電流に僕は口の中のカプセルを噛んで回復。


 危ないなあ。

 回復薬をいつでも使えるようにしてなかったら完全にやられてたよ。


 心の中でそう文句しながらも、空歩を使いスケルトンアデプトを追いすがり、その胸にナイフを突き立てる。


 しかし、相手はアンデッド。

 体の一部を砕かれたところで痛みも無ければ大したダメージにもなっていないようだ。

 死神のような格好をしたアデプトは肋骨を砕かれながらも雷矢(サンダーアロー)を複数発射。


「〈誘線(ガイドライン)〉」


 僕はそれを空中に描いた誘引の魔力線によってわずかに反らし、半分ほど電流を浴びながらも、何も持っていない左手で胸の中心、砕かれた肋骨の奥に浮かぶ核を掴む。


 と、その電流はスケルトンアデプトにもダメージを与えているみたいだ。

 魔導書で強化されてるから本体そのものには雷の耐性がないのかもしれない。


 しかし、これは好都合。


 相手が機能不全を起こしている間にもと、掴み取ったアデプトのコアにナイフを突き立てる。

 すると、ここでアデプトが死なばもろともと魔導書そものもから強烈な放電魔法を発動。


 だけど、そっちが玉砕狙いならこっちもだと、もう一撃、ナイフを胸に突き立てたところで景色が暗転。

 気がつけば、ディストピアの外で待っていた全員の視線が僕に集まっていた。


「戻ってきたね。どうだった?」


「待ってください」


 今回はお試しと、あとレアな実績の獲得を狙って、条件を厳し目にとリスポーン無しでの設定だったから、勝っても負けても現実に戻ってくるようになっていた。

 だから、戦いの結果がどうなったのかは実績を確認しなければわからないと、自前のステイタスカードを使って確認をしてみたところ、そこに輝くNEWの文字。

 これは先日、ステイタスカードに新規追加された新しく獲得した実績や権能を知らせる機能で。


「ギリギリで勝ちを拾ったみたいです」


「ギリギリって、お前がかよ」


「今回は僕一人だったし、アビーさんとサイネリアさんも何回か負けた相手だよ。

 それに引きが悪かったから」


「引きが悪かった?」


 と、ここで首を傾げるのは玲さんだ。


「魔導書が雷だったんですよ」


「ああ、雷の――」


「ふむ」


「あれ相手によく勝てたねぇ」


「最後は相打ち覚悟でなんとかって感じですかね。

 途中、あらかじめ口の中に回復薬を入れておかなかったら終わってましたし」


「虎助が相打ち覚悟って、それってマジな激戦じゃんかよ」


 まあ、相打ち覚悟っていうのは場所がディストピア内で、戦いの流れからの結果なのだが、


「それでどんな権能をゲットしたんだい?」


「えと、【雷耐性】ですね」


「耐性系の実績か、影響はあるけど微妙なところだよね」


 属性としては影響ありだけど、スケルトンアデプトが使う武器によっては各主耐性の実績獲得もあり得ることを考えると、耐性系の権能が完全に魔法系の権能かといわれればそうではなく。


「まだまだ検証は必要だってことだ」


「でも、これで安全性は確認できたんじゃないかい」


「そうですね」


「よし、虎助君の了解も取れたし、みんなで入ろっか」


「俺もっすか」


 ここで何故か元春が驚いたようにわざとらしい声を上げるも、隈があったりするがサイネリアさんもアビーさんも少なくとも地球基準で美女であることは間違いない。

 そんな二人に迫られてしまったら断れないと、ジガードさんが睨みを効かせる中、張り切る元春を筆頭に僕達は準備万端ディストピアに突入。


 今度の相手は水属性の魔導書持ちと、マリィさんの得意属性を考えるとあまり引きがいい相手ではなかったが、それでも雷の魔導書持ちを相手するよりかはマシだと、僕と元春とジガードさんが前衛、マリィさんには魔法による援護、隙きあらば前に出て攻撃をしてもらうようにして、後のメンバーは後方から魔法を連打と、役割分担を決めてバトルスタート。


 すると、自我がほぼない状態では繊細な水属性を操ることが難しかったか、大きな波乱もなく戦いは進み。

 最後、戦闘開始からずっと援護に徹していたマリィさんが魔法の打ち合いの隙間を縫うように、炎の飛剣突きを撃ち込んで決着。

 ディストピアから戻ってきたところで早速と――、


「じゃあ、実績の確認だね」


 アビーさんの声かけにみんながステイタスカードを使ってみたところ。


「僕は水耐性みたいですね」


「また耐性かよ」


 そんなことを言われても、こればっかりはある程度運が絡む問題である。

 ちなみに、そんな元春は戦いの途中、アデプトが身を守る為に展開した、水の結界に捕まってしまったのが影響してか、〈古式泳法〉なる珍しい権能を獲得したらしく。


「あら、これは魔法関連のものですわね」


「どんなものか聞いても」


 すぐに駆け寄ってくるアビーさんとサイネリアさんの二人に、マリィさんは苦笑交じりに「構いませんの」と魔法窓(ウィンドウ)を前に出し。


「水魔法に強化がついたみたいですの」


「本当かい?」


「ええ、見ます?」


 と、サイネリアさんとアビーさんは差し出されたその魔法窓(ウィンドウ)を覗き込むと、


「ちょっと使ってもらっても」


「水の魔法はあまり得意ではないのですが」


 マリィさんは申し訳無さそうにそう言いながらも〈流水(ウォーター)〉という主に飲水(のみみず)を確保する為の魔法を使って水を放出。


「強化されているかい」


「久しぶりに使うのでおそらくとしか言えませんが、気持ち使える水が増えているような気がしますの」


「成程――」


「だけど、これで実績の獲得が出来ることは証明できたね」


「うん、でも、まだまだデータが欲しいから、続きをお願いできる」


「こちらこそ望むところですの」


 と、ウキウキする女性陣には逆らえないと再挑戦。

 すると、運悪く雷の魔導書持ちのスケルトンを引き当ててしまい、僕とマリィさん以外が瞬殺されたところで効率を考えてリザイン。


 続く相手は土属性の魔導書を持つアデプトで、土の壁で防御を固め、土の槍を飛ばしてチクチク攻撃してくる相手に、元春がブラットデアの性能を存分に生かして立ち回って勝利。

 装備頼りなところもあったので少々心配もしたのだが、


「よっしゃ実績ゲッツ。権能は〈頑強〉?」


「スケルトンアデプトの能力なのか、属性由来のものなのか微妙なところだね」


「これが下位のスケルトンだったら、魔法由来一択なんだけどね」


 ふつうスケルトンは頑強さと程遠い存在なのだが、一定以上のスケルトンは骨そのものが逆に強化されるからと考えると、今まで一度も出なかったこの権能もスケルトンそのものの力とも考えられなくはなく。

 これで元春のしぶとさがさらに高まったみたいだ。

◆おまけというか補足?


「そういやよ。スケルトンアデプトはなんで一纏めにしてあんだ?

 一個一個ならもっと簡単だろ」


「ああ、それね。

 そもそもスケルトンアデプトの素材が少ないっていうのもあるけど。

 ランダムにすることで対策が立てにくくなるから、実績の獲得の時に有利に働くんだよ」


「成程な――」


◆感想、読ませていただいております。

 このお盆休みに書き溜めをしたいところなんですが、そろそろ次章のプロットもしっかり考えなくては――、

 ええ、この長期休暇も趣味三昧です。

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