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●聖騎士団の受難02

 巨木が乱立する森の中、

 爆発四散したワームを前に後ろ手に縄で縛られ、正座させられる集団があった。

 彼等は神秘教会が誇る聖騎士団の面々だ。


「我々をどうするつもりだ」


「どうするつもりって言われてもな……」


 忌々しげに声をかけてくるのは、部隊を取り仕切る騎士の一人。

 おそらくはこの場に残る騎士の中で一番の年長者であろう騎士の問いかけに、いかにも面倒と言わんばかりの表情で応じるのはロベルトだ。


 そう、ロベルト達からしたら、こうして捕まえてみたのはいいものの、どうしようもないというのが正直なところだった。

 なにしろ相手は勝手にこの森に入ってきて、怪しげな魔導器を使った挙げ句、現れたワームに殺されるところだったのだ。

 それをロベルト達が助けに入ったことで、なんとか生き延びることができたというのが現状で、


「とりあえず、いつものやっとけば、材料はいっぱいあるんだし」


 ホリルが見るのは彼等を縛り上げる際に回収した白銀の鎧。

 この山積みになった鎧を鋳溶かせば、かなりの量のインゴットを作ることが可能である。

 それを使えばいつもの貞操帯(アレ)が作れるんじゃないかというのがホリルの考えのようで、これにロベルトが「それしかないか」と頷き、ナタリアがその鎧をコンコンとノック。


「じゃあロベルト君、その鎧を運ぼうか」


「無茶言いやがる」


「その鎧ならば問題ないんじゃないの。

 あんまり時間をかけてると、()の人達がまた変なことを始めちゃうかもしれないし、

 まあ、ホリルに手伝ってもらうって手もあるかもだけど」


 ちなみに今回、完全な状態で回収できた鎧は二十八領、

 本来ならこれを一人で運ぶことは難しいが、現在、ウッディクラブというパワーアシスト付きの鎧を着るロベルトにはそれが可能であって、ロベルトは面倒そうにしながらもうず高く山のように積まれた鎧を前に立ち、仕方がないとその山を一つ担ぎ上げようとするのだが、ここで先ほどの騎士が、


「待て、貴様、何をするつもりだ」


「何をするつもりって、俺達の話、聞いてたよな?」


 別にロベルト達はこれまでの話をコソコソとしていた訳ではない。

 あえて聞かせていた訳ではないが、ここまでの内容はほぼ聞こえていただろうと視線を向けると。


「それは神聖なものなのだぞ」


「そうなの?」


 年嵩の騎士の発言にクエスチョンマークを浮かべたのはホリルである。

 彼女からしてみると、その鎧は特に特別な力を感じるようなものではなく、単なる素材としか見ていなかったのだが、騎士達からしてみるとそうではないようで、


『こちらから見た限りでも得にかわったところもないかと思うんですけど』


「ああ、ただの鎧だよな」


「けど、素材に特殊な効果があるって可能性もあるよね」


『そうですね。そういうのはしっかり鑑定してみないとわからないので』


「結局、運ばねぇとってことだよな」


 ただ、ナタリアの言ったこともあり得る話だと、ロベルトは諦めてその鎧を運ぼうとするのだが、これにふたたび騎士団の面々が「やめろ」の大合唱。


「うるさいわね。アンタ達、自分の立場わかってるの?」


 すると、それにホリルがドスを効かせようとして効いていない声で脅しをかけるのだが、これにまた例の騎士が、


「貴様らこそわかっているのか、神秘教会の聖戦士である我々を無断で拘束、教皇様より賜った聖鎧を奪い去ろうなどと、これはれっきとした犯罪であるぞ」


「アンタ達こそ、私達の家に押しかけてレイを攫おうとしてたのよ。

 それはどうなのよ」


 居丈高に語られた理解不能な屁理屈にそう切り返すホリル。

 しかし、騎士はそんなホリルを鼻で笑うように、


「馬鹿なことを――、

 我々は聖女様をお迎えにあがっただけだ」


「いや、だから――って、これ以上はなにを言っても無駄ね。

 ホント、話が通じない連中はこれだから困るわ」


「この人達はいつもこんなでしょ」


 呆れるようなホリルに同調するナタリア。

 そんな二人の態度にまた騎士達からまた怒声が上がるも、これ以上まともに取り合っても無駄にしかならないとロベルトは一枚の魔法窓(ウィンドウ)を展開。


「とりあえず、これを見てもらうか、

 ……無駄だと思うけど」


 映し出されるのはいかにもな白い修道服を着飾った玲の姿。

 それは、こんなこともあろうかと撮っておいた玲から神秘教会に向けたビデオメッセージ。

 いかにも聖女然とした玲の口から語られるのは、異世界に召喚されてからの処遇とそれに対する文句であって、

 さて、この絶縁状じみた映像を見て、彼等が大人しくなってもらえればいいのだが――、

 と、そんな淡い期待はもちろん成就する筈もなく。

 映像を見た聖騎士達の反応は一部例外を除き、ほぼ横並びであり。


「お前達が聖女様に無理やり言わせているのだろう」


「「「そうだ、そうだ」」」


「我々の話を聞けば、きっと聖女様もわかってくれる筈」


「あのね。そんなお馬鹿さんを誰が玲に会わせるっていうの」


「それは貴様らが聖女様を――」


 どうあっても自分達の主張以外は認めないという騎士団の面々に、ロベルト達は『やはり処置なしか』と顔を見合わせ。


「まあ、この映像は開放する時に渡すから、後はそっちでどうにかしてくれ、

 じゃ、プル。後の見張りは任せたぞ」


『了解しました』


 結局、ロベルトは喚く一団を置き去りに大量の鎧を運ぶ準備に取り掛かるのであった。



 ◆万屋side


 そんなこんなで大量の鎧と――、一部、無事に回収できたワームの素材を万屋に運び込んだロベルト一行は、ワームとの戦いよりも神秘教会の聖騎士団との会話に疲れたと、この話を聞いて駆けつけた玲の奢りで甘いものを食べながら。


「しかし、どうなるのかねアイツ等は」


 カウンター横の応対スペースでアイスに齧りつくのはロベルトだ。


「情報をくれた人達に期待するしかないでしょ」


 と、クレープ片手に肩をしゃくるのはホリル。

 そして、玲が申し訳無さそうにする中、あえてそれを無視してロベルトが声をかけたのは、カウンターで鎧の鑑定を行っていた虎助で、


「それで、そっちはどうなんだ?」


「そうですね。装飾はかなり凝っているようですが、特になにかあるということはないみたいです。魔法式はもとよりシェルみたいなギミックが付けられている形跡もありませんし、至って普通の鎧だと思います。要所要所にうっすらと魔法金属化しているプラチナが使われているみたいですが、それもこれといった効果があるものでもないようですし」


 ちなみに、プラチナというのは本来やわらかい金属で、腐食しにくく、触媒などとして優秀な金属なのだが、そんなプラチナを魔法金属化させると、魔素との親和性が高まり、硬度も上がるが、それもなんらかの魔法的なギミックが組み込んでいなければあまり意味がなく。


「つまりどういうことだ?」


「これは想像になりますが、希少な素材を使って作ることで特別な効果が宿ると思われているだけではないでしょうか」


「信じるものは救われるってか」


 と、 翻訳魔導器(バベル)の調整によって紡がれた言葉に虎助は苦笑い。


「そういうことなら潰しちゃってもいいわね」


「ですね。ただ魔法金属化しているプラチナの部分は研究機材の精密部品にも使えますから、別に取り分けておきましょうか」


「そうだな。そうしてくれ」


「じゃあベル君、そういうことでエレイン君達の取りまとめをお願い」


 虎助はベルを通して工房のエレイン達に鎧の加工を注文。

  魔法窓(フキダシ)で返されたその見積もりに一通り目を通し。


「人数が人数だけに結構時間がかかるみたいですけど、どうします?

 一部の人だけものを作って、後はスタンプにするという方法も考えられますけど」


 相手は二十名を超える一団だ。

 シンプルに作るにしても、全員分のそれを作るとなるとそれなりの時間が必要となる。

 その上で相手の素性を考えると、『あえて貞操帯のようなアイテムでなくてもいいのでは?』と訊ねる虎助にロベルトはワイルドな顎髭をいじりながら。


「しかし、スタンプの方だと解除される可能性もあるだろ」


「たしかに、相手のことを考えるとそうかもしれませんね」


 虎助達が使う息子殺しの魔法式はシステマティックな魔法であって、呪いの類ではないが、教会というと解呪に長けた集団というイメージが二人の中にはある。


「だったら時間がかかっても作ってもらった方がいいだろ。

 実際にものがあった方がわかりやすいだろうし」


「そうですね」


 多少時間がかかっても全員分の貞操帯を作ることに決定し。


「なら、その時間でディストピアに入りましょ。

 新しいのが入ったのよね」


「タラチネですね」


「行くわよ」


 空いた時間に修行だと、ホリルは残ったクレープを口の中に放り込み、ロベルトの手を取り店の外へ連れ出そうとするのだが、


「行くわよって俺もかよ。

 俺が行っても役に立たねぇと思うんだが、

 ちなみに、その新しいヤツってのはどんな相手なんだ」


「空中に浮かぶ女性の胸のような形をしたスライムですね」


「なんじゃそりゃ」


「実はそのタラチネっていうのは神の供物でして、極上のミルクが取れるんですよ」


 巫山戯ているようにしか思えないその巨獣――正確には巨大魔法生物であるが――の解説にロベルトが困惑する一方、ナタリアが唸るような声で、


「神の供物――、実在したのね」


「あくまでデータ上、それだろうって話ですけどね」


 データベースを使った鑑定で判断され、さらに極上のミルクが取れたとあらば、まず間違いないというのが虎助達の判断なのだが、神の供物に関しては世界によってもその位置付けは曖昧で、その概念が存在しない世界だってあるのである。


「それで強さはどんなもんなんだ?」


「巨獣の中では戦いやすい相手だとは思いますよ」


「わたしでも戦えるしね」


 基本攻撃が上空からのボディプレスで、危険な攻撃なウォーターカッターのようにミルクを噴射する乳閃くらいなものというのが、タラチネという魔法生物だ。


「ってことは、実績の方には期待できねぇのか、

 いや、レイを馬鹿にする訳じゃないんだが」


「それは人によりますね。戦う力となると微妙ですけど、肌とか胸に関連する権能が取れますから」


「ちょっと、それ、どういうことよ」


 と、話が実績関連のものに移ったところで、聞き捨てならないと身を乗り出すのはホリルである。

 そして、いつになく真剣なホリルの様子に、さり気に玲のフォローをしていたナタリアが、


「ホリルがそういうのを気にするのって意外だね。

 君は私と一緒でそういうの気にしないタイプだと思ってたよ」


「それなりにある人にはわからないわよ」


 こうなってしまっては仕方がない。


「仕方ねぇな。連絡取ったらアニマも戦いたいらしいし、みんなで行くか」


 あるお馬鹿な少年と違って空気の読めるロベルトは、あからさまにドヨンとした空気を醸し出す彫りるの様子に、さりげなく最愛のパートナーを誘いつつも付き合う覚悟を決めるのだった。

◆次回投稿は水曜日の予定です。

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