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●聖騎士団の受難01

◆今回登場の騎士達は、ロベルトが暮らす世界の文化水準から、最後のファンタジーに出てくるような近未来でスタイリッシュな騎士をイメージしています。

◆聖騎士side


 それは情報部からの報告だった。

 以前より追いかけていた北限の魔女姫の足跡を発見、その足取りを辿ったところ、神敵として名指しされていたロベルト=グランツェの拠点に行き着いたのだという。

 教会の次代の旗となりうる聖女が北限の魔女姫に攫われたことは、すでに教会内部で周知の事実であったが、これに憎き賢者までもが関わっているとなれば最悪の事態もありうると、判断を仰がれた教皇庁は会議のすぐに聖女奪還の命を降し、これを受けた聖騎士団は百名を超える人員を招集、教会本部を出発。

 道中、魔獣の群れに遭遇するなどといった不運に見舞われ、少しばかりその数を減らしながらも、数日ほどで賢者ロベルトの拠点があるサバンナに面する森林地帯に到達する。


「この先にいやしくも賢者を名乗る神敵のアジトがあるのか」


「そのようです」


「ならば手筈通りに斥候を出せ」


「ハッ――」


 森の前に陣を張った神秘教会聖騎士団団長のバリモントは、以前よりロベルト=グランツェへの対応を担っていたアンドロイド軍団を森に放つ。


 目的地は未開地域の奥深く。

 人的消耗を避ける為にも先行して先の状況を確認するというのは重要なことで、なにより森の中を重装備で歩くには相応の準備が必要になるのだ。

 ゆえに、余計な消耗を避けるべく、アンドロイドを先に進ませ、それを騎士団が追いかけるという形にしたのである。


 そうして二日ほど森を進んだところで、彼等は大幅な足止めをさせられることになる。

 その原因は賢者が施したと思われる迷いの結界。


「これが以前より報告に上がっていた悪しき呪法か」


「古代の魔法技術が使われているのか、こちらの調査機器にも反応しないので、確実にそうだとは言えませんが」


「腐っても大賢者ということか」


「それもあるかもしれませんがこの結界の特徴と確認されたその時期から、グリーンモンスターの仕業と考えるのが自然かと、

 エルフの自治区にはこのような技術が使われているといった話を聞き及んでおりますので」


「……ゲルグ枢機卿も馬鹿なことをしたものだ」


 それは一年前のこと、

 一部の司祭が神敵であるロベルト=グランツェを確保する為にと、それ(ロベルト)と関わりを持つエルフ・グリーンモンスターに助力を願ったのだ。

 その結果、本部ビルが強襲され、枢機卿の醜態が外部に漏れるという最悪の事態に陥ってしまったのだ。


「我らが信仰を貶める醜聞はもとより、敵のスパイを受け入れるとは頭でっかちな連中にも困ったものである」


 バリモントは当時――、

 いや、いまも残る問題を思い出し、憮然とした表情を浮かべつつも。


「それで突破は可能なのか」


「多少時間をいただくことになるかと思いますが、今回は聖器の持ち出し許可が出ていますので」


 部下が視線を向ける先にあるのは、頭に小さなアンテナが二つついた魔導器(・・・)を装着する団員の姿。

 それは特殊な魔力はを周囲に放ち、その反応を観測、周囲に展開される魔法の構造を解析するという得意な機能を持った古い魔導器で、

 これを使えばこの障害をも排除できるのではないかと、そんな説明をバリモントが受けていると、にわかに周囲が騒がしくなってくる。

 その原因は――、


「何事だ?」


「先行するアンドロイドからの報告です。どうも強力な魔獣がこちらに近づいているそうなのですが」


 訊ねる団長に部下の一人が携帯型の魔導パソコンを操作、情報を確認すると――、


「映像を出せるか」


「いま出します」


 そこに映し出されたのは岩すら飲み込まんと巨大な蛇の姿――、

 すると、それを目にしたバリモントはぽかんと口を開け、思わずこんな言葉を零してしまう。


「なんだこれは――」



◆研究所side


 聖騎士達が混乱に陥ったのとほぼ同時刻、

 ロベルトの研究所内にも唖然とした空気が広がっていた。


「なんだこりゃ、ドラゴンか?」


『下位竜種になりますかね。

 ワームの一種じゃないでしょうか』


「どうしてそんなのがここにいるのか――っていうのは聞いてわかるもの?」


『考えられる原因としてはこちらでしょうか』


 虎助がナタリアからの疑問に応える代わりにリスレムを遠隔操作。

 その視界に捉えるのは、夢の国でおなじみのネズミ耳カチューシャのようなものを付け逃げ惑う鎧姿の男の姿があって、それにロベルトやホリルがブッと吹き出す中、


『この頭に装備している魔導器が、どうも魔力の波を音に変換して対象物を探すものみたいで』


 その魔導器から放たれた魔力波がこのワームを目覚めさせる原因になったのではないか?

 というのが虎助の分析だった。


「教会の魔導器ってのも気になるが、

 あんなレベルの魔獣がこの森にもいたんだな」


「場所が場所だけにありえないとも言えないけど」


 ロベルトの研究所がある森は、魔の森と呼ぶには届かないものの、それなりに強い魔獣が生息する地域である。


「長いことここにいるのにまったく気づかなかったぜ」


『可能性としましては、このワームがずっと休眠状態で、

 世界樹によって高められた魔素によって力を取り戻し、あの魔導器の刺激で目覚めたとか――』


「ありえるわね」


 長い間、地中で眠っていた個体が環境の変化によって活性化。

 なんらかのきっかけにより活動を再開させるというのは、場所や状況を考えるとあり得ない話ではなく。


『教会の兵達が撤退を始めたようですね』


「撤退っていうよりも尻尾巻いて逃げたって感じだがな」


 実際これはロベルトの言う通りで、魔法窓(ウィンドウ)に映る神秘教会の一団はすでに敗走状態の様相を呈しており。


「どうする?」


「よければ私が行くけど」


 あからさまにやる(・・)気満々な様子のホリルとナタリアに、ロベルトは「ハァ――」と面倒そうに項垂れながらも。


「俺も出るわ。

 お前らだけだと心配だからな」



◆現場side


 ガシャンガシャンと森を進むのは、パワードスーツのような鎧で全身を固めたロベルトだ。

 その両隣にはエルフとしては小柄なホリルと、風のマントをはためかせるナタリアが付き従っており。


「はぁ、なんでこんな面倒なことになんだろうな」


「いいじゃない。

 例の女の話を信じるなら、ここで叩けばしばらくはちょっかいなんてかけてこないでしょ」


「そうだといいな」


 ロベルトとホリルが話すのは、先日プルが都市部で遭遇した女司教のこと。

 あの時、プルが渡された情報はこうして真実だったことが証明された訳であるが、それ以上の期待はしない方がいいというのがロベルトの考えのようで、


「私がそれを着て、戦ってもいいけど」


「駄目だ。お前がやると滅茶苦茶になる」


 なんの脈絡もなく、自分の鎧を奪おうとするナタリアから、ロベルトはさりげなく距離をとりながらも。


「しかし、わかっちゃいたが、この鎧は移動に難ありだな」


「それだけの重装備だと、そうなっちゃうのは仕方ないでしょ」


「まあな」


「それで現場の方はどうなってるの?」


 と、ホリルが話しかけるのは、今回の戦いにサポート役として万屋から参加してくれている虎助。


『大混乱になっているみたいです』


「大混乱ねぇ。

 図体のわりにそこまで難しい相手には見えなかったけど」


 ここで研究所に残ったアニマとプルの気遣いで、ロベルト達の視界の端に魔法窓(ウィンドウ)がポップアップ。

 映し出されるのはミミズと蛇が合体したような規格外の大蛇から逃げ惑う神秘教会聖騎士団。

 相手が下位竜種の中でも特に強力な個体であったとしても、善戦できるのではないかというのがホリルの評価であったのだが、現実はそう上手くいかないようだ。


「今時あれだけの魔獣と戦う経験はないから仕方ないんじゃないか」


『地上に出ている部分だけでも二重メートル強、

 かなり大きな個体ですし、疑似ブレスも撃てるようなので』


「「「疑似ブレス?」」」


『飲み込んだものを吐き出すといった感じの攻撃ですね。その方法から連発できる類ものじゃないようですが』


 などと話している間にも現場が見えてくる。


「本当に大混乱。大半がもう逃げたにしても、こっちの接近に気付かないなんて」


「やりやすい分にはいいだろ。

 とりあえずこっちに注意を引くか」


「だったら先に私が出るわ」


 と、ロベルト達は、怒号よりも悲鳴が大きいか、切り開かれた森の一角で、一匹の大蛇に蹂躙される大勢の騎士達に憐れみを帯びた視線を向けつつも、ロベルトの考えにナタリアが応えるが早いか、ホリルが森を切り裂き戦場に躍り出る。


 と、そんなホリルの登場にワームと対峙する騎士達がフリーズ。

 しかし、すぐに数人の騎士が平静を取り戻したかのように、


「グリーンモンスター?」


「魔女もいるぞ」


「聖女様はどこだ」


 まず聖女である玲の心配し、銃や剣(シェル)をホリルに向けたのは流石というべきか。

 しかし、ホリルはそんな騎士達の反応にも構わずに――、

 いや、むしろ邪魔だとばかりに蹴散らしながらワームに近付き。

 まずは挨拶代わりにワームの横腹に飛び蹴りを浴びせると、ここでナタリアが氷筍の魔法を発動。

 横方向に弾き飛ばされたワームの横っ面に丸太サイズの氷の槍を突き刺そうとするのだが、ワームは大口を開けて地面から斜めに生えた氷の槍を真正面から噛み砕き。

 半分地面に埋まったその体を振り回すように体制を立て直すと、そのまま少し遅れて現場に飛び出したロベルトを含めた三人に先ほど話題に上がった疑似ブレスを吹き付ける。


 と、これにロベルトが「水膜」と、鎧の一機能である水の防御膜を展開。

 泥の濁流から自分達の身を守るのだが、


「ちょっとこれ、長くない?」


「横にも回ってきてる」


 いつまでも終わる気配のみられないワームのブレスに、ホリルとナタリアが水膜を展開するロベルトを引っ掴んで逃げようとしたそのタイミングで虎助からのアドバイス。


『賢者様。水膜を横に広げてください』


「他にも水を回すと前からの攻撃に弱くなるんじゃないのか」


『強度的には問題ないかと』


 それにロベルトが水膜を薄く広げ、ワームの口から溢れ続ける濁流を受け流すと、先ほどホリル達に襲いかかった十数名の騎士達がその濁流に流されていくのだが、三人はそんな騎士達を横目に捉えながらも冷静に――、


「で、コイツはどうやって仕留めたらいいんだ?」


「蹴った感触からして、ふつうに戦っても勝てるとは思うけど」


「それだと時間がかかるし、ブレスを吐かれ続けられるといろいろ面倒でしょ」


『だったらここは手っ取り早く、シードキャノンを使うのはどうでしょう』


 ロベルト達が駆けつけてから一発、その前にもすでに何発か、ワームの疑似ブレスは放たれている。

 それにより周囲の被害は甚大で、

 このままだと現場に残る騎士達もそうだが、この森を取り巻く迷いの結界にもなんらかの影響が出てしまうかもしれないと、虎助が提案したのはロベルトの装備する鎧――ウッディクラブの最大攻撃。

 両肩に付けられた砲塔から放つ、植物の種を弾代わりにした疑似的な植物魔法を使うことだった。


「でも、あれでワームを抑えても、被害はそんなに変わらないんじゃ」


 ただ、本来その砲撃は装填された植物の種を周囲に種をばら撒き、成長した蔓で相手を拘束するという性格のものである。

 しかし、ここではそんなシードキャノンを相手を――、


『いえ、種を口の中に撃ち込めば』


「内側から攻撃、

 悪くない手だと思う」


 そう、膨大な数の植物の成長による膨張を利用すれば、その内部から相手を倒せるのではないかというのが虎助の考えで、


「だけど、それだと吐き出されて終わりっていうのがオチじゃない」


 ホリルの指摘は、いくら体内から攻撃をしても、それが疑似ブレスのように吐き出されてしまえば、意味がないのではというものだったが、


『種を撃ち込んだ後、口を塞いでしまえばいいと思います』


「ああ、こっちもロベルトがいればできるのね」


 そう、吐き出されてしまうのなら、そうされる前に口を塞いでしまえばいい。

 そして、それはロベルトが装備する砲を使えば十分可能であり。


「だったら、私達はそのフォローね」


「いろいろ試したいことがあったんだけど、今回は仕方ないか」


 と、大体の流れが掴めれば、すぐに動き出すのがこの二人。


「じゃあ、私達がヤツの口を開けるから」


「わかった。砲門展開、標的合わせる」


 ちょうどワームの疑似ブレスが収まったと飛び出していくホリルとナタリアの一方、

 そんな二人の性格は心得ているロベルトは「しゃーねぇな」と二人の小さな背中を見送りながらも、研究所のアニマとプルに周囲の警戒を命じると共にウッディクラブの砲塔を展開。

 目の前に浮かび上がったサークル状の魔法窓(ウィンドウ)を使い、巨大なワームの口にその照準をセット。

 ワームがどんなに激しく動いても、右の砲がそれを追いかけるようにした上で、


「ホリル。ナタリア」


「私が口を開けるから」


「こっちは閉じる方を担当ね」


 ロベルトの声にホリルが鎌首をもたげるワームの顎下に潜り込む。

 すると、ナタリアが風のマントを使い上空に飛び上がり。

 ホリルが脚力を強化、飛び上がりながらのアッパーカット。

 槍衾のように伸びる上顎の歯を数本砕きながらも、すでに半分開いていた大口を無理やりこじ開けて、


「いくぜ――」


 そこにロベルトが右肩のシードキャノンを発射。

 種の塊がワームの口内に吸い込まれ、その直後、上空にいたナタリアが風を纏って急降下。

 大きく開いたワームの口を無理やり閉じさせると、


「もう一丁」


 ロベルトは残る左の砲から周囲に種をばら撒き、ワームの口を抑えにかかる。

 と、ここでナタリアが再びの大ジャンプ。ワームの口に周囲から伸びた蔓が絡まり。

 そうしてワームの口が完全に閉じられ数秒――、

 地面に半分埋まっていたワームの体が急激に膨張。

 風船のように大きく膨らんで、


「これ逃げた方がいいんじゃね」


「当然」


 なんとか泥流から脱出した騎士達が状況についていけずにオロオロする中、ホリルとナタリアが重装備のロベルトを引っ張る形で駆け出したところで破裂音。

 周囲に血と臓物の雨が降り注いだ。

◆感想、ありがとうございます。

 現在、投稿を優先しております。

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