必殺談義ふたたび
フレアさん達に立ったフラグは見事にへし折られたみたいだ。
呪われた大鎌を使った聖炎実験の後、その試運転にとディストピアに向かったフレアさん達だったが特に波乱もなく、お店に戻ってきた。
その後、毎日の買い物を済ませると、すぐに拠点へと帰っていった。
そうして訪れたまったりとした時間に元春が何気なく振ってきたのは、いつかどこかで聞いたような話題であった。
「そういえば虎助って戦いって地味な。必殺技的なもんとかねーん」
「……いきなり何を言い出すのさ」
「いや、フレアにはスラッシュがあるし、マリィっちとかマオっちにはスゲー魔法がある、玲っちですらそこそこの魔法があんじゃんか、けどよ、虎助ってそういうの無くなくね?」
「ちょっと、ですらってのはないんじゃない?」
元春の言葉の中にさりげなく紛れていた失礼に玲さんが反論。
「ビームはかっちょいいけど、通常必殺技って感じじゃん。超必って感じじゃないじゃん」
しかし、続く元春の切り返しに「むぅ」と声をつまらせ。
「で、俺の場合、ブラットデアがそんな感じじゃんか。
けど、虎助にはそういうのねーなって思ってよ」
まあ、ブラットデアは元春自身の力ではないけど。
「空切は?」
「あれは必殺とは別枠だろ」
うん、冷静に考えて空切の力は確かに必殺とは違うかな。
ただ、それならそれで、
「僕も精魔接続とかあるんだけどね」
「けど、お前それ、あんま使ってないじゃん」
たしかに、精魔接続を使う機会ってあんまりないんだよね。
ただ、これには理由があって、
地球などで戦う場合にはまた違うと思うが、
「アヴァロン=エラだと魔力の回復が早くて、あんまり意味がないんだよね」
「火力不足とかあんじゃん」
「そこは割り切ってるかな。アヴァロン=エラならモルドレッドがいるし」
他にも切り札になるようなディロックも持っているし。
「それに僕も手がないわけでもないんだけどね」
「それってどんな?」
「単純に精魔接続を使ったゴリ押しかな。
オニキスの影で足止めして、アクアと僕の大技で決めるって感じ」
「大技って?」
「水属性の飛剣の連打だね」
玲さんが戦ったカルキノスやタラチネのように一定の攻撃じゃないと、そういった相手が出た時の対策に、飛剣を魔法式の補助なしに使えるように練習をしていたのだ。
「詳しく」
「とはいっても、説明そのままなんだけど」
本当に説明の通り、飛剣を連打するだけなのだ。
しかし、言葉だけだといまいちイメージができないということで、場所を訓練場に場所を移し、廃棄処分される予定の鎧をターゲットに使ってみせたところ、以下のような反応が返ってきた。
「エグい」
「虎助、その技、私にも使えませんの」
「魔法式の補助があれば難しくはないと思うのですけど、マリィさんには〈聖炎の斬撃〉がありますよね」
〈聖炎の斬撃〉というのはマリィさんがエルブンナイツの守り神(?) ディタナンとの戦いで使った魔法による炎の斬撃だ。
これはカテゴリー的に魔法の領分になるらしいのだが、やっていることといえば加藤さんの飛剣とほぼ同じで、結果だけをみるなら、魔法だろうが剣技だろうがそれほど変わらないのだが、マリィさんとしては斬撃いっぱい飛んでいくところに興味を惹かれたみたいだ。
ということで、マリィさんに合わせた飛剣の魔法式をすぐに用意して、実際に使ってみてもらったところ。
「なんかフレアが使ってたヤツみたいだな」
また、この男は余計なことを――、
元春の感想に嫌そうな顔をするマリィさん。
そう、〈聖炎の斬撃〉があるのに、わざわざ別の魔法をマリィさんが求める理由は、そのイメージがフレアさんが使う魔法剣との類似性にあるのかもしれない。
そうなるとだ。
「斬撃じゃなくて刺突を飛ばすとか?
あと、魔法使いならではの付加価値をつけるとかはどうしょう」
「付加価値ですの」
フレアさんは魔法も使えるとはいえ、あくまで剣士。
だから、フレアさんが使う属性剣も単純に属性を乗せるだけのものであって、
一方、マリィさんは趣味と実益を兼ねて剣をかじっているとはいえ、その強みはあくまで魔法使いとしての力。
だとするなら、剣士としてではなく魔法使いからのアプローチで、
「傷が燃える斬撃はよくある技なので、
精魔接続を使って、アーサーの〈魔剣創造〉を上手く組み合わせるのはどうでしょう」
「それはいい考えですの」
ということで、さっそく実験。
まずはアーサーと精魔接続をして、〈魔剣創造〉を試してみると、
「普通に作りますとやはりこうなってしまいますか」
これは以前にもあった問題なのだが、マリィさんが精魔接続でアーサーの〈魔剣創造〉を使うと、アーサーの精霊としての格の関係で、通常サイズの剣を作るのが難しいようだ。
しかし、その対策にアイデアがないわけではなく。
「マリィさんの戦闘スタイルに合わせて、剣そのものを細く、刀身を炎そのものにしてみてはどうでしょう」
「待ってください。アーサー……」
僕のアドバイスに、マリィさんはアーサーと心を合わせるように静かに目を瞑り。
さて、後はこれに飛剣を組み合わせればある程度は形になるだろうと、僕が使っている無属性の飛剣をマリィさんに合わせて突き技に改変。
使ってもらうと、
「ふむ、これは素晴らしいものですの」
喜んでくれたようでなによりなのだ。
ただ――、
「マリィさん。その技は結構消費が激しいので気をつけてくださいね」
基本的な飛剣一発一発の消費量は大したことないが、それでも魔弾などと比べるとそこそこ消費する魔法で、それを連発するのだから、その消費合計はそれなりのものになると思う。
しかも、マリィさんの場合、その武器も魔力を生み出しているから、その消費は更に増え。
ただ、これに関してはアーサーの能力で補助がされていると思われるからと、僕がそんなアドバイスをしていると、それを横から見ていた元春と魔王様と玲さんが、
「いいなあ、あの技」
「……ん」
「俺も玲っちのレーザーを使ったりしてビームソードとか」
「あんたには無理でしょ」
「なんですと」
「だって、あんた攻撃系の魔法はさっぱりじゃない」
元春は玲さんと同じく光属性を持っている。
ただ、その中でも得意な魔法と不得意な魔法の系統があって、
「あれは相性の問題だし、こっちは大丈夫っしょ」
なんの根拠もない自信をありがとう。
「こっちのが難易度高そうだけど」
「いいから、いいから」
そこまで言うならと、マリィさんにお願いして炎の剣のデータを取らせてもらうのだが、
「うーん、これは僕達が使えるような魔法じゃないね」
アーサー由来の炎の剣の魔法式そのものは解析することは出来たのだが、このままだと魔力消費が大き過ぎて、元春程度の魔力だと発動はなんとかできたとしても維持をすることが難しく。
「どうにかなんねーの」
「機能を絞って軽量化すればなんとかなるかな」
いまはとにかく余計なものがたくさんついてる状態だ。
だから、剣の属性を元春が得意な光に転換。
そして、剣そのものに付与されている属性効果をすべて取っ払ってやれば、その消費量はかなり抑えられるのだが、それでも元春が使うにはまだまだ大き過ぎるものなので剣そのものをダウンサイジング。
形をシンプルな棒状に変え、なんとか元春でも使えるものとしてリメイクすると。
「おお出来た。なんかゴリッと魔力が減った気がすっけど」
「飛剣――って、あれ、出ねーぞ」
「それは当たり前だよ」
元春が使ったその魔法は単純な物理攻撃性能を持つ光の剣を作るだけの魔法であって、それそのものに斬撃を飛ばすような機能もつけらていないのだ。
「じゃあ、どうすんだよ」
そこは自力でなんとかして下さい――と言いたいところなんだけど。
「これがさっきマリィさんにも渡した飛剣の基本的な魔法式ね。
これを使えば斬撃を飛ばせるから」
それはさっきマリィさんにも渡した無属性の飛剣の魔法式。
「で、こっからどうすりゃいいん?」
僕は『ちょっとは自分で考えようよ――』と軽く肩を竦めつつもアドバイス。
「その剣で浮かんだ魔法式を斬るようにしてやっても、魔法は発動するから」
すると、それを受けて元春が光の剣を目の前の魔法式めがけて振り下ろし、光の斬撃が飛んでいく。
「最初からこれで良かったんじゃね」
「いや、そのままだとまっすぐにしか飛ばせないし」
「ありゃ、剣が消えた?」
「その魔法式は剣の魔力を消費して飛剣を撃ってるから」
それに消費した分だけ光の剣の魔力も薄くなって、魔法を構成する魔力が尽きたところで消えてしまうのだ。
「でも、まさか二発で消えるなんて」
「あんた、やっぱり向いてないんじゃない」
「そんな」
こればっかりは相性というものである。
結局、そのあと何度か光の剣を試してみると、魔力を多めに込めてやれば五発まで飛剣を発動させることがわかり、それで手を打つ元春だった。
◆次回投稿は水曜日の予定です。




