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綺麗な魔鎌の向かう先

 元春の嫉妬が爆発した後、

 フレアさん達は聖炎の力を試そうとスケルトンアデプトのディストピアにチャレンジすべく宿泊施設に向かった。

 そんなフレアさん達を見送ったところで、


「じゃあ、僕達もお店に戻ろっか」


「チクショー、世の中どうなってんだよ」


 いや、そんな本気で泣かれても――、


「ホットケーキでも作るから、お店に戻ろ」


「同情するなら愛をくれ」


 そこで女性と言わないのは、元春の良心なんだろうか。

 とにかく、このままここにいても仕方がないと、へたり込む元春に手を差し伸べて立ち上がらせるのだが、元春が僕の手を取ろうと顔をあげた瞬間――、


「って、物騒だな。オイッ」


 元春が物騒としたのは僕が肩に担ぐ大鎌のことだろう。

 物騒なのは否定しないけど――、


「置いてくわけにもいかないでしょ」


「エレインに運んでもらうとか、あったんじゃね」


「いや、エレイン君達もそれぞれ仕事があるから」


 こっちに運んでくれただけでもありがたいと思わないと。


「んで、それどうすんの?」


「どうしようか」


 浄化はしたものの、正直その先のことはまったく考えてなかった。

 そもそも、この大鎌は聖水の実験が失敗したとしても困らないものをと持ってきてもらったものなので、最終的に廃棄処分もあり得たことで、


「潰して魔法金属にして胸当てにするとか」


「勿体なくね」


 たしかに、それはそうなんだけど。


「大鎌って需要がないんだよね」


 大鎌という武器がその取り回しの難しさから人気が出ないだろうし、なにより万屋では魔法銃やディロックなどの例外を除いて、積極的に武器を売り出していない。


「デスサイズとかって強キャラってイメージがあんだけど」


 たしかに、漫画とかゲームとかのイメージだとそうかもしれないが、


「実際使うとなるとかなり扱い難い武器なんだよね」


「虎助でもかよ」


「さすがに母さんもこれの使い方は教えてくれなかったから」


「イズナさんなら普通に使えそうだけどな」


 それは否定すまい。

 長さや取り回しが似ている薙刀の応用で、ある程度は僕でも使えるかもしれないけど、装備が揃っている現状で、あえてこの鎌を使って戦うっていうのはどうなのか。

 たとえば、実績や権能の取得を考えるハンデとするなら使う意味もあるのかもしれないけど、それもあえてこの大鎌を使ってやる必要もなくて――、

 なんてお店に戻ろうとしていると、ゲートに光の柱が立ち上り、現れたのはマリィさん。

 マリィさんはすぐに僕と元春の姿を見つけると、その巻髪を跳ねるように揺らし走ってきて。


「虎助、そちらの大鎌はなんですの?」


 うん、平常運転だね。

 ウキウキを爆発させるマリィさんに僕は苦笑を噛み殺しつつも、ここまでの経緯を軽く話したところ、マリィさんは僕が担ぐ大鎌をねっとりと舐め回すな視線で見つめ。


「成程、そのようなことがありましたの。

 しかし、その大鎌の雰囲気からして鋳潰してしまうというのは勿体ないのでは」


 ん、この反応は――、


「どしたん?」


「いや、これが普通の武器ならマリィさんがここまでの反応をするかなって」


 マニアとして多くの武具を見てきたマリィさんの目利きはかなりのものである。

 そんなマリィさんがただの大鎌に興味を抱くだろうか。

 もしかして、この鎌には何かあるんじゃないかと僕が言うと、それに元春がキランと目端を輝かせ。


「実はすげー鎌だったり?」


 ただ、この鎌がそういった武器なら、呪いを解いた時点で僕にもわかるような変化があってもおかしくはないと思うんだけど、いまのところそうした感覚は特にない。


「でしたら、早く店に戻って鑑定をしてみますの」


「それしかありませんか」


 と、マリィさんに急かされる格好で万屋に戻り、〈金龍の眼〉を使って鑑定をしてみたところ。


「ああ、そういうことか」


「なに、やっぱなんかあったん?」


「ああ、んとね。実はこの大鎌、変形武器みたいなんだよ」


 ロマンあふれるその効果に、元春のみならずマリィさんからも「おお」という歓声が上がり。

 和室にいた魔王様も玲さんもこの漫画的な武器には興味があったのか、ゲームを中断して近付いてきて。


「どうやって使うんだ」


「それはね。この玉に魔力を流して、『ドゥーム』」


 キーワードを唱えると、鎌の刃部分が九十度回転。

 ハサミのように刃が交差したかと思いきや、ポールを伝うようにスライドして、中心に軸を持つ、変則的な大剣に変形する。


「なんかぬるっと動いたな」


「この変形は錬金術の範疇みたいだから、機械的なギミックっていうよりも形状記憶合金っていった方がしっくりくるかな」


 武器そのものに幾つかの形状パターンを記憶して変化させる。

 この大鎌はそういう武器のようだ。


 ということで、二つ目の形態――、

 さっきと同じように変形の要となっているらしい魔石に魔力を流して続くキーワードを唱えると、大剣の両刃が二つにわかれ、薙刀のような刃が前後に取り付けられたような槍になる。


「なんだっけ、それ」


「そうした形状の見たことはありますが個別の名前となりますと――」


「……双刃槍」


「ああ、なにかの漫画でそんな風に呼んでましたね」


 この形状の武器はアニメやゲームなんかでたまに見かける武器だけど、その正確な名前は僕にも元春にもマリィさんにもわからない。


「こうなると、二刀流とかもありそうだな」


「あるよ」


 元春の何気ない思いつきを受け、また核石に魔力を流してキーワードを唱えれば、双刃の槍が半ばから大小二本の曲刀に分裂。


「こいつ、どんだけ変形すんだよ」


「後は弓だけだよ」


 と、僕が二つの曲刀を合体させるように弓を作り出すと、


「鎌より二刀流の方が持ち運びとかに便利じゃね」


「それなんだけど、コアでいいのかな。ここについてる魔石が一つだから、武器を二つにわけて時間が経つと戻らなくなっちゃうみたいなんだよ」


 それでも数日程度は大丈夫なようになっているみたいだが、長く武器を二つにわけていると、核石からの魔力供給が途絶え、元に戻すのが大変になってしまうようなのだ。


「だから持ち運びに便利な大鎌が基本になってるみたい」


「両刃だもんな」


 錬金術を使っているとはいえ、刃そのものの変化がないことから、大鎌と大剣を両立する為、この武器の刃は両刃となっているのだ。

 まあ、大剣形態の鞘を作っても、その問題を解決することができると思うのだが、その大剣がかなり大きなものだから、鞘の重量もばかにならないと大鎌形態が基本になっているようだ。


「けど、これなら売れそうじゃね」


「それは難しいんじゃないかな」


「なんで?」


「変形しても使いこなせないと意味がないから」


 武器の扱いなんて、特別な事情でもなければでもなければ一種類か二種類に絞るもので、

 これを使っていた人物はかなり器用な人だったんじゃないだろうか。

 まあ、仲間内で使い分けるなんて利用法も無いわけじゃないけど、それも武器種を考えると、そういう武器として向いているのは弓と双剣の二つ。

 しかも、一方は矢の補充が必要となると。


「じゃあ、そいつはマリィっち行きか~」


「まだそうと決まったわけじゃ」


 と、僕がマリィさんを見ると既に準備万端、マジックバッグの中から金貨の詰まった革袋を取り出していて、

 これはもう買うことが決まってるみたいだね。

 ただ、マリィさんなら変なことにはならないだろうから。


「虎助、そちらはおいくらですの」


「変わった機能があるとはいっても、素材としては微妙ですし、金貨一枚でどうでしょう」


「それだけでよろしいんですの」


「中古ですし、ものがものですから」


 そもそもこの大鎌はディストピアのヴァージョンアップに利用した後で、その役目をすでに果たしているのだ。

 それを加味すると、金貨一枚でももらい過ぎなくらいで、


「ただ、引き渡しの前に一度調べさせてもらってもいいですか」


 使っている技術はそこまで凄いわけではないのだが、ソニアが興味を持つかもしれないし、後でその技術がなにかの役に立つかもしれないと、マリィさんに頼んだところ。


「もちろん構いませんの」


 マリィさんは快諾。

 だったら、すぐにソニアのところに届けてあげようと立ち上がるのだが、ここでふと一つの可能性に思い至る。


「なんだよ。難しい顔なんかして」


「いや、この大鎌ってディストピアのアップデートに使ったんだよね。だったら変形武器を使う達人とか出てくるのかなって」


「「あっ」」


 そう、この武器はすでスケルトンアデプトのディストピアとして組み込まれているのだ。

 そのアップデートが成功したことを考えると、今後この武器を扱うスケルトンの達人がそのディストピア内に現れることはほぼ確実だと思われ。


「ってゆうか、この流れ、フレアやティマっち達は大丈夫なん」


「さすがにそれはご都合主義が過ぎるでしょ」


 ふとした思いつきがそのままフラグになることは、漫画などではよく見かける光景だが、スケルトンアデプトの武器種の多さを考えると、確率としてはそれほど高くない。

 僕は改めてさすがにこれはフラグにならないだろうと、ソニアの研究室に向かうべくカウンターから立ち上がるのだった。

◆今回登場の装備


可変式大鎌……錬金機構により、大剣・双刃槍・双剣・ロングボウに変形する両刃の大鎌。

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