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聖炎と聖水

「では、こちらをお願いします」


 放課後の万屋――、

 僕がフレアさんに渡すのはモグラ型ゴーレムのモグレムだ。


「これで本当に宝山龍は見つかるのかしら」


「どうでしょう。話を聞く限りでは宝山龍が見つかる可能性は低いとは思いますけど、遺跡に関わるなにかしらは見つかるんじゃないですか」


「なになに何の話してんだ」


 と、ここで会話に横入りするのは元春だ。

 そして説明するのは、先日ソニアが参加したフレアさんが普段から転移に使っている遺跡の探索で発覚したアレコレで、

 とはいっても、その大部分があくまで仮定の話であって、

 特に宝山龍によって遺跡が地面から押し上げられたなんて話は、状況証拠などから多分に都合のいい解釈を掬い取った空想の類に近いので、それが正しい可能性は相当低くなると思うのだが、

 元春はそのロマンある話に惹かれたみたいだ。


「ヴァースキっていうとヤマタノオロチだっけか」


「八大龍王の一角だね」


 ヴァースキに関する情報は、ソニアに今回のことの説明を受けるついでに教えてもらったので、ある程度は頭に入っている。

 それによると地球におけるヴァースキは、危うく世界を滅ぼしかけた蛇神だとかで、その理由が天地創造に絡めたブラック臭漂わせる役割の結果というのが、なんともまた哀愁を漂わせるのだが、神話や伝説の無茶な設定というのは往々にしてあることで。


「話だけ聞くと、その宝山龍ってのはヴァースキってよりファフニールって感じだよな」


「ファフニール?」


 頷く僕の横から、そう聞いてくるのはティマさんだ。


「『包容するもの』という意味を持ったドラゴンですね。

 元々はドヴェルグだった人が黄金を生み出す指輪を盗み、呪いを受けてその指輪が生み出す黄金を守るドラゴンになったんだったかな?」


「ふぅん、それだけ聞けば、たしかにそっちの方がしっくり来るわね」


 僕が元春の反応を確かめながら答えると、あちらの世界のヴァースキにも似たような逸話があるようだ。

 ティマさんが納得したような表情を浮かべ、それにフレアさんが、


「まあ、こちらの話では、ものが黄金の指輪ではなく、オリハルコンで作られた剣というのが定番なのだが」


 あれ、たしかファフニールの伝説の中にも、そういった逸話があったような。


「もしかして、その剣ってのがグラムって名前だったりして」


「グラムはファフニールを倒すために作ったんじゃなかったっけ?」


 ファフニールが持っていたのは、また別の剣だったって前に元春から聞いた気がすると、僕と元春が話していたところ、ここでまたフレアさんが、


「いや、手に入るのは、たしかノートゥングという剣だった筈だ」


「そっちか――」


「そっちかってどういうこと?」


 おしいと言わんばかり指を鳴らす元春に、聞き返すのはティマさんだ。


「僕も詳しくは知らないんですけど、ノートゥングはグラムの別名になるのかな」


「どっちかってーとモデルだけどな」


「なにか繋がりがあるのでしょうか」


 元春が腕を組んで唸る一方で、キリリとした視線を向けてくるのはポーリさん。


「翻訳の妙という可能性もありますけど、

 さて、どうなんでしょう」


「私達が考えたところで答えは出ないわね」


 こういった考察はパキートさんとか歴史や言語学者の領分である。


「しっかし、そんな剣ならフレアは欲しいんじゃね」


 たしかに、件のノートゥングが伝説に聞くグラムそのもののような剣ならば、エクスカリバーさんにも匹敵する剣なのかもしれないが、しかし、それにフレアさんは首を横に振り。


「俺にはコイツがいるからな」


 掲げて見せるのは陽だまりの剣ことソルレイト。


「なにより、ノートゥングは魔剣だからな」


 それがどんな力を持つ魔剣なのかはしらないが、ドラゴンが守っている(?)ほどの魔剣となれば、使いようによっては碌なことにはならないだろう。

 ただ、呪われた魔剣と言えば――、


「そういえば目覚めた新しい力は、その後どうなりましたか」


 何がきっかけかでそうなったのかはわからないが、先日、陽だまりの剣は新たに聖なる炎を宿す力を手に入れていた。

 あの時は、フレアさんがもともと所持していた水の精霊由来のマントが影響して、安定的に聖炎を扱うことが出来なかったが、その後、フレアさんが聖炎の制御に成功していたとしたら、そのノートゥングも清浄化もできるのではないかと訊ねてみると。


「残念ながら進展はないな」


「意外ですね」


 修行に熱心なフレアさんなら、すでにある程度は使えるようになっているのではと思っていたのだが、


「反対の属性なんだから仕方ないじゃない」


 たとえ、それが自分に適正がある力だとしても、他の要因も合わせた相性いかんではコントロールが難しくなるのが属性というものである。


「でもよ、聖水とかぶっかけると燃えたりするし、その水のマントってのともそこまで相性悪くねーんじゃね」


 たしかに、ゲームの演出なんかだと、聖水をかけたアンデッドが燃えるなんて演出はありがちだ。

 しかし、現実でそれがおこるのかというとどうなんだろう?

 僕が元春のゲーム脳に首を捻っていると、これを聞いたポーリさんが身を乗り出し。


「そうです。聖地リヒャンネの燃える水。

 聖なる炎と水は決して反することではありません」


 実際にそういった聖水はあるようだ。


「ただ、普通に浄化の力を持った水をアンデッドにふりかけても、そういう現象はおきませんよね」


 例えば、アンデッドに浄化の力を持つ水をふりかけたとして、燃えるなんて現象は発生しない。

 と、僕が以前に使ったことのある浄化作用のある水の効果を思い出し、質問を返すと、それに専門家であるポーリさんは頷きながらも口にしたのは、


「たしかに店長の仰る通り、通常の聖水にはそういった力はありません。

 しかし、特別な場所で取れる聖なる水には、極稀に普通ではありえない効果を持ったものが存在するんです」


「燃える水っていうとロマリ山の湧き水が強力って言われてるわよね。

 ヴリトラとの戦いであったら助かったんだけど」


「えっと、聖水って温泉みたいな感じなん?」


 僕のイメージだと、それは滾々と湧き出る清らかな泉って感じになるかな。


「そちらも様々ですね。

 主に聖地と呼ばれる場所にあるものですが、自然と湧き出るものから、精霊が住まう泉から取れるもの、神官などが作るものなどと、いろいろあるのです」


「えっ、聖水って作れんの?」


「作れるよ。錬金術のレシピにもあるから」


 それがポーリさんの考える聖水と同じものかはわからないけど、万屋のデータベースには、瘴気と呼ばれる淀んだ魔素やアンデッドなどに効果がある魔法薬(せいすい)のレシピが幾つか存在している。

 ただ、そういった聖水があるのなら――、


「手に入れてフレアさんが聖炎を操るヒントにすればいいんじゃないでしょうか」


 魔法を操ることにいちばん重要なのはイメージである。

 聖水から炎が作れることをフレアさんが知れば、聖炎の持続的な仕様のヒントになるのかもしれないと、そう提案してみたのだが、それにポーリさんは苦々しげな表情を浮かべ。


「それはちょっと難しいですね」


「どして」


 少し訳ありな様子が見て取れることに対しても、自然と聞けるのが元春の得なところだね。


「聖水の扱いは基本的に教会が取り仕切ってんのよ。

 で、話にあった聖水ってのが聖地で採れる希少な水でね」


 そういえば、ポーリさんはいま絶賛教会から逃げているところだったっけ。

 だとするならフレアさん達が入手するのは難しいことになる。

 ただ、フレア達さんが動けなくても手がないわけではなく。


「白盾の乙女の皆さんに声をかけてみましょうか」


「ん、いま彼女達は重要な仕事をしているのではなかったか」


「えと、それはですね――」


 そう、フレアさんの言う通り、白盾の乙女のみなさんは、現在、魔王城(パキートさんのお宅)周辺の警戒とか、現地冒険者ギルドを介し、オールード公爵家からの手紙を各地の信頼おける人物に届る仕事をしていたりする。

 しかし、その仕事の殆どが魔法窓(ウィンドウ)と映像記録用のメモリーダスト(マジックアイテム)を使ったものであるので、まっとうな冒険者ギルドが近くにあるなら、どこでもできる仕事であって、しばらく拠点を離れても、実はそれほど問題にはならないのだが――、


「つか、ここにはそういうのはないん?」


「聖水はあるけど、燃えるものはね。

 そもそもそういうのが欲しいならディーネさんの水があれば事足りるから」


「そういえば、ここの水ってナチュラルに神聖な水だったわね」


 先に触れた通り、精霊の力がこもった水も聖水の一種である。

 なので、万屋で聖水が必要になった場合、キッチンの蛇口をひねれば済む話であり。


「だったら、錬金術で改造したりとかできないん。

 前に加藤さんの飛剣をいじったみたいに」


 ふむ、魔法とアイテムの違いはあるけれど、元春のアイデアは一考に値する価値があるか。


「とりあえず、データベースにそういうレシピがあるかもしれないから、ちょっと調べてみるよ」


「手伝うわ」「手伝います」


 ということで、僕にティマさん、ポーリさんにメルさんで万屋のデータベースにアクセスして、その膨大なデータの海から、聖水のレシピをサルベージ。

 すると、一つ、それらしきレシピに行き当たり。


「これがそうかしら」


「作ってみないとわかりませんね」


「材料は何を使うの?」


「浄化水に白い軽石、火鼠の血にジャーマンカモミールとネトルですね」


 前の二つは普通の聖水を作るのに必要な素材なので、こちらはミネラルウォーターで代用するとして、


「火鼠の血の代わりはサラマンダーの火血で代用できませんかね。

 ただ、そうすると残る二つの薬草は使わない方がいいのかもしれません」


 火鼠の血に続く、ジャーマンカモミールとネトルは地球にも存在する造血作用を生み出すハーブである。

 これで火鼠の血の力を高めているとレシピにはあるので、それよりも上位の素材であるサラマンダーの火血を使うのなら、あえて血の力を増幅させなくてはいいのではないかと、そんな僕の意見にティマさんは、


「オリジナルの素材はないのよね」


「二つの薬草はともかく、火鼠の血はありませんね」


 火鼠というのは溶岩地帯に暮らす鼠で、下手に倒すと爆発四散してしまう特徴がある厄介な魔獣らしく、同じような特性を持つサラマンダーの火血なら代用できるのではと考えたのだ。


「そういうことなら試してみるのもありかも。

 けど、本当に薬草は入れなくてもいいの?」


「もとになる魔獣の格を考えますと、ここに薬草を入れると過剰になりそうじゃないですか」


「そうですね。安全を考えるなら除くのが無難かと」


 と、取り扱いが難しいサラマンダーの火血の量を少なめに錬金。


「できてる?」


「鑑定結果では炎上効果もあるようですので、使ってみましょう」


 その鑑定結果は〈金龍の眼〉によるものだけに、まず間違いないと思われるのだが、

 素になった素材を考えるるのなら安易に使うのは危険だと、お店の外へ出ようとしたところ。

 ここで元春がカウンター横の扉を指差して、


「実験つったら訓練場じゃねーのか」


「聖水っていっても、その効果は火炎瓶みたいなものになるから、周りに建物がある場所だと心配じゃない」


 これが魔弾や飛剣のようなものだったなら、お店から繋がる訓練場でも、結界などがあるから問題はないのだが、さすがに延焼系アイテムは、それがたとえ聖なる炎を発するものだとしても、屋根がある場所での実験は危険であるということで、店からそう離れていない荒野にみんなを引き連れ向かい。

 万が一、燃え広がった場合でも、すぐに消火が出来るようにと水のディロックをスタンバイ。

 そして、もう一つ用意するのは――、


「なんかかっちょえーのが来たな」


「魔鎌でいいのかな。聖なる炎の浄化効果をたしかめる為に用意したんだよ」


 これはスケルトンアデプトに失敗した装備の一つ。

 鎌というその特殊性から美術品としてもなかなか売りに出せず、バックヤードの肥やしになっていた装備品だ。

 今回、その残り(カス)のように残っている呪いを、聖炎の効果を見るために使おうと、エレイン君に持ってきてもらったのだ。


 と、そんなこんなで準備が整い、僕は聖水が入っているポーション瓶の蓋を開ける。

 そして、問題の魔鎌に投げつけてみたところ――、

 瞬間、魔鎌を純白の炎が包み込み。


「おお、マジで火炎瓶じゃん」


「綺麗」


 しっかり聖なる炎が発生しているようだが、問題はその効果である。


「効いてますね」


「ええ」


 僕とポーリさんが話している間にも、魔鎌にまとわりついていた淀んだ魔素が炎によって焼かれていく。

 しかし、聖水一本分の聖炎だけでは、この鎌を完全に浄化するのは難しいようだ。


「効果が微妙ってことか」


「いや、どちらかっていうと、この魔鎌のついていた呪いがしつこいってのがあるかな」


 あと、対象が物体であることも大きいのかもしれない。

 これがゴーストやらスケルトンなら、もっと効果が高かったんじゃないかと、そんな予想を話しながらも、ここで三本ほど聖水の瓶を追加。

 魔鎌から滲み出す淀んだ魔素もほぼ消えたところで、


「では、フレアさん。試してみましょうか」


「そうだな」


 フレアさんを促しつつも『まずは製作者である僕が――』と、魔鎌を浄化する白い炎に手をかざしてみると。


「熱くねーのか」


「うん、なんだろう。暖かくない湯気って感じかな」


「俺もやってもいいか」


 多少不安もあったが、その炎自体に物理的な効果はないようで、

 僕がやっているのを見て、元春も興味を持ったのか、フレアさんに先んじて手を突っ込み。


「なんだこりゃ、キモッ」


 一頻り楽しそうにした後、フレアさんにも燃え残った聖なる炎に触れてもらう。


「どうです」


「これはまた――、

 直接触ってみると、聖炎がどういうものなのかがよくわかるな」


 と、フレアさんは一頻り、聖炎の感触を確かめると「いけそうだ」と一言。

 白い炎を灯す魔鎌から離れてソルレイトを構え。


「ホワイトフレイム」


 それは技名だろうか。

 フレアさんが高らかに叫んだその直後、陽だまりの剣から白い炎が吹き上がり。


「出た」


「問題はここからです」


 聖炎を出すだけなら、最初から出来ていた。

 重要なのはその持続力。


 フレアさんがおもむろに動き出して剣を振る。

 すると、その軌跡を白い炎が追いかけて、

 五つ、六つと剣閃が作られ、その扱いに問題ないようだと見るやフレアさんの動きが止まり。


「スラッシュ」


 必殺技が放たれたその瞬間、真っ白な斬撃エフェクトを残してフレアさんの体が数メートル移動。

 そして、フレアさんは剣を振り切ったポーズから自然体に姿勢を戻すと、剣を覆う白い炎を振り消し、乱れた茶髪を掻き上げるようにして、


「普通に使う分には問題ないが、他の魔法と併用するのは難しいか」


「そこは練習じゃありません」


「そうだな」


 と、ここで女性陣三人がキャイキャイとフレアさんを取り囲み、喜びを爆発させると、置いてけぼりを食らった僕の友人が思わずこう叫んでしまうのも、またお約束か。


「リア充爆発しろ」


◆はい、陽だまりの剣はソルレイトです。

 重要ではありませんが、忘れがちなので繰り返してみました。

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