●探索結果と宝山龍
◆気がつけば三百万文字を超えてました。
その後も遺跡の捜索は続いたが、今回の調査で見つかったのは、あの地脈に関連したエネルギー供給装置だけだった。
残念な結果ではあるのだが、思ったような成果が得られないというのは、こういう調査ではよくあることで、
むしろなにも見つからないことの方が多いことを考えると、少しでも新しい発見があったなら上々の成果だと、ソニアもパキートも気落ちすることなく。
遺跡の入り口で待つリーヒルから送られてきた『日暮れ間近』のメッセージに調査を打ち切り。
三十分ほどかけて入口まで戻ってきたところで、眼下の森を見下ろし、パキートがふと零したのは以下のような疑問だった。
「しかし、なんでこの施設はこんなところにあるんだろうね」
「こんなことというのはどういうことでしょう?」
パキートの呟きにそう返すのはレニである。
彼女としては純粋に疑問に思っているというよりも、主であるパキートの思考を先へと促す為に、あえて聞き返しているのだが、パキートはそんなこととは気にもとめず。
「この施設って、本来なら地上にあったんだと思うんだよね。
だけど、いまはこんな場所にある。
それがどうしてかわからないんだよ」
「これが地上にあった?
どうしてそう思うの」
次に訊ねたのはティマである。
このティマの態度にレニがさり気なく鋭い視線を向ける中、パキートは今日遺跡の中で集めた画像の数々を空中に浮かべ。
「あんなに広い施設にその作りからして、物資のなんかの運び込みを考えると平地に作るのが普通だと思うんだよ。
だけど実際はそうじゃない」
いまいるこの岩山が断崖絶壁とまではいわないも、周囲には平坦な土地があるのに、あえて岩山の中腹にこんな巨大施設を作るなんていうのは不自然極まりない。
改めて言われると確かにそうだとティマは頷き。
「昔は岩山がもっと大きかったとか?」
「周りの地形を見るに、それは無いと思うんだよ」
『周囲の森にそれらしき建物が見つかってもいないしね』
なにしろ、この遺跡は唐突に通路から始まる入り口からしておかしいのだ。
何らかの自然現象の結果、大きな崩落などがあり、岩山が今の形になったのだとしたら、岩山を登る途中、もしくは岩山の周囲に、なにか建物なりなんなりの形跡があったとしてもおかしくない筈なのにそれがない。
そうなると考えられるのは魔法などの影響による大規模な地形の変化であって、
「しかし、そんな威力の魔法など、人に使えるものでしょうか?」
あまり大きくないとはいえ、遺跡がある岩山は周囲はおよそ五百メートル、高さは一番高いところで百メートルにもおよぶ大きさになるのだ。
しかも、森にある岩山はこれ一つではないとなると、人間にはおよそ不可能な規模の魔法だとも思えると、そんなポーリの疑問符にソニアは心当たりがあるようで、
『その魔法を人間が使ったとは限らないよ』
何気なく放たれた言葉に不意を突かれる一同。
しかし、すぐに思い当たることがあったのか、まずはフレアが無意識にソルレイトの柄に手を置き。
「ヴリトラくらいの相手ならそれくらいはやってのけるか」
「そういえば君たちはかの有名な黒雲龍と戦ったんだったっけ」
「あまり役に立ったとはいえないのだがな」
「どういうことだい?」
公式には黒雲龍ヴリトラはフレア達が打ち倒したことになっている。
しかし、その情報は事実と異なっており。
『いろいろあって、アヴァロン=エラのほうで再召喚して、みんなで処理したんだよ』
それは元奴隷の少女であったメルを助ける為――、
いや、この件に多大な協力をしたソニアに限っては、ヴリトラの素材を手に入れたいという思惑もあったのだろう。
そんな幾つかの理由から、ヴリトラはアヴァロン=エラの大地に再召喚され。
当時、万屋の最高戦力を投入、予想外の参戦などもあって打倒されたのだ。
「再召喚とは興味深いね」
『資料はもちろん、映像データなんかも残ってるから、それで確認したらいいよ。
後で送っておくから』
そんな事実にキラリと目を輝かせたパキートにすかさずデータを送る用意があるとソニア。
それを聞いたパキートは「ありがとう」ととても嬉しそうにするも、すぐに難しそうな顔をして、
「しかし、ヴリトラかぁ。
もしもこの岩山がそれと同じ規模の龍種の仕業だとしたら――」
『なにか心当たりがあるのかい?』
「可能性があるとするなら宝山龍なんて呼ばれてるヴァースキかな」
それは、この世界で地龍最強の一角と数えられる龍種の一体であり、かつてヴリトラがそうであったように、その所在が不明とされている存在だ。
「大地を操り国を滅ぼしたと言われるかの龍種なら、人類にはおよそ無理な地の魔法をも使うことが可能なんじゃないかな」
パキートが眼下に望むその眺望から遠く点在する幾つかの岩山に視線を移し、謳うようにそう言うと、フレアが「たしかに宝山龍の伝説を考えるとな」と呟き、それにソニアが「ふぅん」と興味深げに。
『宝山龍ヴァースキねぇ。
その名前だけ聞くと、そっちの世界にはまだまだ強い龍種がいそうだね』
「名前ってどういうことだい?」
ソニアの意味深なその言い回しに疑問を抱くパキート。
すると、遺跡から出たところでパキートが愛妻への『帰るよ』コールを飛ばすべく、開いた魔法窓の横にもう一枚の窓がポップアップ。
『ウチの虎助のところの神話に同じ名前の龍種がいるんだよ。
ちなみに、その神話にはヴリトラの名前もあってだね。単純に翻訳魔法の妙かとも思えるんだけど、こういうシンクロは無視できないから』
ヴァースキが直接的にヴリトラと関わりがあるという記述は少ないが、地球においてヴァースキはヴリトラと同じ神話体系で語られる存在だ。
しかもヴァースキが八大龍王という括りの一角として数えられているとなれば、この世界でも似たような龍種がまだまだ存在するのではないかというのがソニアの考えで、
「たしかに、それは気になる情報だね」
送られてきた情報にパキートが前のめりになる中、
ポーリがその主張の激しい胸の前で手を合わせ、口にするのは地球における常識の話だった。
「しかし、店長さんが住まう世界には魔獣がいない場所だと聞いたことがあった気がするのですが」
『正確には少ない――、
いや、稀有ともいってもいいくらいに珍しい存在であることは間違いないね。
けど、まったくいないことはないんだよ』
実際、地球においてもパワースポット近辺では魔獣の発生があり、その中には龍種の存在も確認されており。
『ただ、魔素濃度の関係上、ヴリトラみたいな龍種が生きていけるような環境じゃないから、そこのところは謎なんだけど』
「かつては十分な魔素濃度があったとか?」
『それなら地脈やその近辺にそれらしき痕跡が残ってそうなものなんだけど、僕が知る限り、それもないんだよ』
と、ソニアとパキートの思考が逸れた横道の深みにハマっていきそうになったタイミングで、ティマが話の軌道修正をするように訊ねるのは、
「結局、原因はその宝山龍で決まりなの?」
「調べてみないとわからないっていうのが本音かな。そもそもヴァースキが神出鬼没の存在だから」
「幻の黄金郷とその守護竜でしたか」
宝を求めてさまよう伝説の龍種。
それがこの世界で知られるヴァースキという龍種である。
『もう現存してないって可能性が高いってこと?』
「それもわからないのが現状だね。
一説にはとある若者がヴァースキを討伐して国を興したなんて伝説もあるし、
実はとある大陸の地下でお宝に囲まれ眠っていて、次なる獲物が生まれるのを待っているなんて話もあったりするんだ」
しかし、その目撃情報は、最低でもここ二百年以上ないようで。
『いるかいないかわからないけど、森の地下を探すついでにその痕跡があればラッキーって感じで、モグレムでも放っておこうか』
「いいのかい?」
『どっちにしても、あの装置の先がどうなっているのか調べておきたいからね』
「じゃあ頼むよ」
◆最近忙しく感想が返せていません。申し訳ありません。
定期投稿することでお返ししていきたいと思っています。
ちなみに、次回投稿は水曜日の予定です。
誤字を直したり、キャラや魔法のまとめなんかもやりたいんですけど……。




